簡単な自己紹介を終え、まずは煤だらけだった少女…インデックスの事情を聞くことにした当麻たち。
というのも、「ボクたちの事情は、ゼッタイにインデックスよりフクザツだと思うよ?」というエフィリンの一言により、カービィたちの事情聴取は後回しになったのだ。
インデックスも薄々そのことを察していたのか、当麻らに最低限、自分の立場を伝えた。
曰く、インデックスは10万3000冊の魔導書を持っているという。それを狙っている「魔術結社」から逃げていたところ、隣のビルから足を踏み外し、ものの見事にカービィの自宅にある煙突にホールイン。
結果。煤だらけになって気を失っていたところを、掃除に来たワドルディに発見されたのだ。
当麻が「魔術などというものがあるのか」と半信半疑で問うたところ、インデックスは胸を張って「あるもん!」と反論。
科学で目覚めるような超能力は、自分の右手に宿ったソレで存分に思い知っているが、魔術に関しては信じようとしない当麻。
腹に据えかねたインデックスが、当麻に宿る異能を小馬鹿にしたことを皮切りに、そこで口論に発展した。
無論、喧嘩に慣れていないワドルディは大混乱。「わにゃわにゃ」と盛大に慌てふためきながら、カービィに仲裁するように懇願する彼ら。
カービィが仲裁しようとした時には既に遅く。当麻の右腕は、『歩く教会』と呼ばれる魔道具たる修道服を、バラバラに引き裂いていた。
結果、羞恥と共に怒り狂ったインデックスが、激しく当麻の頭に噛み付き、今に至る。
その後も、「幻想殺し」によって、神の加護やら諸々を打ち消しているから、どう足掻いても不幸だと言う事実を突きつけられはしたものの、当麻はいつものように「不幸だ」と軽く嘆くだけで済ませた。
「で、カービィはどんなひ……、…カービィって人なのかな…?
…と、とにかく!どんな存在なんだよ?」
「ぷぃ?…ぽよ?……ぽよぉ?」
インデックスの問いに、カービィは意図がわからないのか、はたまたどう答えればわからないのか、無い首を傾げるばかり。
エフィリンはカービィの言いたいことが何となくわかったのか、その旨をインデックスたちに伝える。
「よくわかんないみたい」
「とにかく食いしん坊でのんびり屋で、そのくせ幻想殺しが効かないデタラメ摩訶不思議能力がある謎生物ってことくらいしかわかってないんだよなぁ」
「ボクもそんな感じかなぁ」
エフィリンが当麻に同調すると、当麻はパチクリと目を丸くした。
「付き合い長そうなのに?」
「ボクたち、出会って…ひぃ、ふぅ…、うん。この星で言うと、まだ二ヶ月も経ってないよ?
1番長いデデデ大王で…んーっと、ごめん。ちょっと数えるね。
……うん。たぶん、30年近い、のかな?そのくらいの付き合いらしいけど」
「意外と歳食ってんのなコイツ!?」
この幼稚な精神で、とっくに三十路は超えているらしい。
当麻らがその事実に慄くも、エフィリンはさらに爆弾を投下する。
「宇宙だと年齢を気にするような種族の方が珍しいよ?
マホロアに聞いた話だけど、『夢のチカラ』が充満する空間に暮らしてると、まず死ぬとかって概念が曖昧になるから、誰も気にしなくなるみたい」
「……言いたいことはいろいろあるけど、一言だけ言わせてくれ。
お前ら、宇宙人なのな」
当麻らは知らぬことだが。カービィの今の故郷であるポップスター周辺の星々には、『夢の泉』という、温かな夢を循環させ、安らぎを与える泉が存在する。
その泉は『夢のチカラ』と呼ばれる力を周囲に広げ、恩恵を受けた命を循環させる。
極端な例だが、宇宙でも類を見ないほどに泉がフル稼働するポップスターでは、そこらに生える雑草のように、ポンポンと命が復活を遂げるのだ。
そもそもが温かな夢と徹底的に相入れない存在だったり、花と同化したり、完全に記憶とココロを破壊されたりなど、余程の特殊ケースでなければ、それに例外はない。
そのため、宇宙では年齢を気にする種族の方が圧倒的に少ないのである。
あまりに違い過ぎる常識に、当麻は月並み以下の感想しか捻り出せず、インデックスはこれでもかと目をひん剥いていた。
「まぁ、その中でもカービィは規格外なんじゃないかな?
なにせ、何度も宇宙を救った最強のヒーローだからね」
「ぽよ?」
「……うん。見えねーなぁ」
「なんとなくはわかるけど、そこまで壮大なスケールの強さなのかは、人間の枠組みにいる私じゃちょっとわかんないんだよ」
「本当のことなんだけどなぁ」
インデックスはカービィを膝に抱えながら、抱き枕のように強く抱きしめる。
少し苦しそうに見えるが、存外居心地がいいらしく、カービィはリラックスしていた。
「で、なんでカービィたちは地球に来たんだ?ないとは思うが、この惨状を見て『観光』とか『イタズラ』とかだったら怒るぞ」
当麻が部屋に突き刺さったカービィの自宅を指差し、エフィリンに問うと。
エフィリンは、小さなその首を横に振った。
「まさかぁ。ボクたちは『新世界』…ボクの故郷…でいいのかな?…えっと、もといた星の名前ね。
とにかく、そこにある『ワドルディの町』を拠点にして、カービィの故郷の星、『ポップスター』と新世界のみんなでバカンスしてたんだから」
「トモダチん家みたいに惑星間を行き来してんのな…」
「宇宙すげぇな」と文明の違いに驚きつかれたのか、吐くような感想をこぼす。
どうやら、傍迷惑な観光ではないらしい。
では一体何だ、と思っていると、エフィリンは難しい表情を浮かべた。
「一言で言えば、誰かがボクたちをここへ呼んだんだ。
それが距離の関係か、それとも犯人がボクの空間転移能力を警戒したせいなのか…。
テキトーな転移しかできなかったから、こんな大規模なことになったんだと思う。
ボクが帰ろうと思って異空間を広げようとしても、宇宙には繋がらなくて…。ボクたちをこの星に呼びたかった誰かのせいなのは間違いないよ」
あまりにスケールが違い過ぎる話に、二人は半ば放心したように、「はー」と息を吐く。
わかったことといえば、「空間転移能力を持つ誰かによって、地球に来てしまった。帰ろうにも妨害されていて帰れない」くらいだ。
「つまるところ、お前らも被害者ってわけか。…そりゃそっか。カービィなんて、俺の家に自分の家が突き刺さってんだもんな」
「ぽよぉ…」
当麻の言葉に、カービィは未だ突き刺さっている自宅を見遣り、申し訳なさそうに目を伏せる。
ワドルディたちと協力して、なんとか撤去しようとは思っているのだが、思うように進んでいないのが現状である。
当麻が同じように、カービィの自宅を見ようとして、ふと視界に入ったカレンダーに目を向ける。
瞬間、当麻は硬直し、ダラダラと冷や汗を流し始めた。
「…やっばい補習忘れてたぁあああっ!?」
そう。彼には補習という地獄が待ち受けていたのである。
壊滅的な成績を叩き出した当麻に、夏休みなどという一ヶ月近い長期休暇がタダで与えられるわけがない。
補習漬けの決まっていた夏休み初日。その憂鬱なスタートを飾る補習が、あと数分もしないうちに第一回目を迎えるのだ。
当麻は大慌てで準備すると、玄関の鍵をカービィたちに放り投げた。
「エフィリン!鍵渡しとくから、カービィたちと留守番頼む!
ワドルディを狙う怪しい奴が来たら遠慮なくぶっ飛ばしていいからな!」
「ぽよ?」
「わわっ。急に慌ててどうしたの?」
「お前らのインパクトが強すぎてすっかり忘れてたけど、俺、今日学校行かなきゃいけなかったんだ!」
「がっこう?」
「わにゃ?」
学校という概念自体が存在しない文明に暮らすワドルディたちは、揃って首を傾げる。
カービィは何度か当麻のリュックに詰め込まれてぬいぐるみのフリをしていたので、「なんだかたのしくない。トーマもいそがしそうで、かまってくれなくなるいやなところ」くらいの認識しかない。
当麻が懇切丁寧に、少ない語彙を全力で搾り出して説明したものの、そもそも勉強という概念すら知らない宇宙人には、その認識を変えることはできなかった。
「インデックスもアテがないんなら、しばらくここに居ていいからな!」
「別にいいよ。私も出てく」
当麻が靴のズレを直すべく、踵に指を突っ込んでる横を通り抜けようと、インデックスが早足で駆ける。
が。そこで彼女の肩が、当麻の地面についていた方の足にぶつかり、大きな音を立ててすっ転んだ。
「いったぁあっ!?」
「わわっ…、ぉうぅううっ!?」
更には履きかけだった靴が脱げ、そのつま先が急所へと直撃。
そこに追い討ちをかけるように、インデックスの肘が落下した。
「ふーっ、ふーっ…、ふっ…、ち、ちょっと、待ってくれ…。結構、勢いよく入ったから…、めっちゃ、痛いんだけど…」
「……むがぁぁああああっ!!」
「ふ、不幸だぁああああっ!!」
悶絶する当麻に、変な感触に顔を真っ赤にして怒り狂うインデックス。
その光景に、ワドルディたちは再び「わにゃわにゃ」と騒ぎ立て、カービィとエフィリンは当麻の頭に齧り付くインデックスを引き剥がそうと駆け寄った。
♦︎♦︎♦︎♦︎
結果から言おう。カービィと当麻は、インデックスを引き留めることが叶わなかった。
────じゃあ、私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?
自分が置かれている状況を「地獄」と称し、これ以上を干渉を遠ざけるように、急いで出て行ってしまった。
カービィたちが追いかけようとすると、やはりというかなんというか、待ち伏せしていた研究員が襲撃。
撃退には成功したものの、肝心のインデックスを見失ってしまった。
留守番をしているカービィは、心ここに在らずと言った様子で、今もインデックスが去っていった方向を見つめている。
「カービィ。そろそろ夕ゴハンだよ?」
「……ぽよ」
「イヤなヨカンがする」。
カービィが日が落ちかけた今も、インデックスの去った方向を見つめている理由。
それはひとえに、何度も自分を助けてきた、戦士の勘であった。
エフィリンはその言葉に何を思ったのか、「そっか」とだけ告げ、隣に座る。
「……ぽよっ!」
と。カービィが何かを感じ取ったのか、すくっ、と立ち上がり、渡り廊下を飛び降りる。
エフィリンはそれに面食らいながらも、「ちょっと待ってよー!」と、カービィを追いかけた。
ドアのそばで様子を伺っていたワドルディたちも、只事ではないと察したのか、それぞれが顔を見合わせ、「わにゃ!」と一致団結を示す。預けられた鍵を使ってきっちりと扉を閉め、彼らもまた、渡り廊下を飛び降りた。
「……アレ、マジでなんなのかにゃー?
正直、あり得ないほど意味不明すぎて怖いんだけど」
その様子を、なんとも愉快な格好の少年が見下ろすのに気付かず。
♦︎♦︎♦︎♦︎
カービィが襲ってくる研究員やら能力者やらを軒並みぶっ飛ばし、直感の赴くままに駆けていくと。
目的である少女が、路地裏を逃げ惑っている姿に直面した。
「ぽよぉっ!」
「わにゃわにゃ!」
「か、カービィに、ワドルディ!?今は来ちゃダメなんだよ!!」
インデックスの無事を喜ぶために駆け寄ろうとするも、彼女がそれを止める。
瞬間。インデックスに向けて、一閃の斬撃が襲い掛かった。
「カービィ!これを!」
それをいち早く察知したエフィリンが、剣の描かれた星型の物体を取り出し、カービィへと投げる。
カービィはそれを吸い込むと、刹那に顕現した剣でその一撃を迎え撃つ。
緑の帽子に、シンプルなデザインの剣。しかし、収める技は達人級。
これぞカービィのコピー能力が一つ、「ソード」である。
カービィと切り結んだのは、長い髪をまとめた少女。彼女は、カービィの剣に込められた力に目を剥き、冷や汗を流す。
「くっ…!?」
カービィから言わせれば、この程度、切り結んだうちには入らない。なぜなら、彼のともだちには、銀河最強の剣士すら下した、宇宙屈指の剣豪たる存在がいるのだから。
カービィは少女の持つ刀をあっさりと弾き飛ばし、臨戦体制に移る。
それを見ていたインデックスは、あまりのことに、目をパチクリと丸くしていた。
「えっ…と、カービィって、もしかしなくても、ものすごく強い?」
「あんまりにも強すぎるからって、悪者に十人に分けられたことがあったらしいけど…、まぁ、結果は見ての通りだね」
10分割でも足りないくらいには強いらしい。
弾き飛ばした刀を回収した少女は、あり得ないものを見るような目でカービィを見やった。
「な、なんて珍妙な…!?この都市では、このような生物も造られているのですか…?」
「普通に宇宙人なんだけど…」
「しかし、相手にとって不足なし…。邪魔立てするというのなら…!」
エフィリンのツッコミを完全にスルーして、刀を収める彼女。
インデックスはそこはかと無く頭の中に鳴り響く警鐘に、カービィに注意するように声を出そうとする。
しかし、カービィは既に、少女と同じように、腰に当たるだろう部位に剣を収めていた。
一瞬でもなにかしらの合図があれば、仕掛けてしまいそうな緊張感。
胸が張り裂けてしまいそうな、静謐に包まれた空気を、ワドルディのうち一人が小石を蹴って打ち破る。
瞬間、少女は動いた。
インデックスであれば、それを魔術による攻撃だと錯覚したことだろう。
しかし、その実は違う。凄まじい勢いで操作されたワイヤー群が、カービィへと迫っているのだ。
だが、忘れてはいけない。ここにいるのは、幾度も宇宙を救ってきたヒーローである。
カービィは見事、たった一太刀でワイヤー全てを切り裂いてみせた。
まさしく、『刹那の見切り』。
そう呼ぶほかない神業に、少女は唖然と口を開けたまま固まった。
「…え…?あ、えっ…、は……ぁ…!?
な、そんな…、で、デタラメな…」
あまりにデタラメ極まりない光景に、ほぼ戦意を失いかけた少女。
彼女は知らない。世の中には、これを超えた速度で必殺の一太刀を放つ、孤高の剣士がいることを。
「カービィ、今だ!」
「ぽよっ!」
カービィはコピーを解き、少女に向けて大口を開けて、「すぅうう…」と凄まじい音を立てながら、吸い込み始める。
少女が慌てて力を込めるものの、もう遅い。まるで重力がそのまま向きを変えて働いているかのような吸引力に負け、少女の刀はあっさりとカービィの口腔に収まる。
カービィはそれをほおばると、真上に向けて吐き出した。
「さ、逃げるよ!速く!」
「ぽよっ!」
「「わにゃっ!!」」
「わわっ…!?ワドルディたち、こ、これはちょっと怖いんだよ!?」
星になった刀に目もくれず、カービィたちは大慌てで逃げ出す。
ワドルディたちが六人がかりでインデックスを担ぎ上げ、エフィリンが先導し、カービィが迎撃を担当する布陣。
あまりの光景に、取り残された少女はつぶやいた。
「なんだったのでしょう、アレは…?」
メタナイト…「普通の聖人」よりも更にバケモノ染みていることが確定した剣士。銀河最強の「しいたけ」を単独で撃破した実績のあるバケモノだから仕方ないね。
同じく地球に飛ばされた。図体がデカすぎてあっさり捕まったゴルルムンバと、アホすぎて普通に捕まったアルマパラパなど、何人かのアニマルたちを助けて、一緒に行動している。同じく、バカンスに来ていたハルバードの搭乗員を探す旅に出た。
神裂火織…お馴染み堕天使メイドで、カービィの「ソード」と「刹那の見切り」に度肝抜かれた人。後者に至っては、カービィたちの間ではただの暇つぶしなので、それを知ったら、多分もっと度肝抜かす。
力比べなら勝てそうと思ったが、よくよく考えなくても、相手が野球バットで隕石を撃ち返したり、パンチで星にヒビを入れるようなバケモノだった。勝ち目なんてなかったんや。
この後、お星様になった刀を探すのに、十時間も学園都市を駆け回った。許すまじ、まんまるピンク。