まんまるピンクとウニ頭   作:鳩胸な鴨

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カービィだもんね。仕方ないね。


STAGE:4 くちうつし

「……なんだったんだ、あの卵モドキ」

 

倒れたステイルを横に、卵のシルエットが消えた空を見上げる。

たしかに声は聞こえた。では、肝心のヤツはどこに行ったのだろうか。そもそも、アレは味方だったのだろうか。

そんな考えが脳を駆け巡るも、当麻は「上条さんの残念頭じゃわかんねぇか」と自嘲気味に切り捨てた。

考えなくても、答えを知っていそうな人物が、この場にいるのだから。

 

「なぁ、エフィリン。さっきの卵モドキはなんなんだ?」

「マホロアのこと?うーん…。一言で言えば、『オオカミ魔術師』…かな?」

「なんじゃそりゃ…」

「ホラ、オオカミ少年って、トーマが読んでくれた絵本にあったじゃん。

アレみたいに、彼の言ってることはドレが本当でドレが嘘なのか、マホロア以外は誰も見分けがつかないんだよ」

 

要するに、信用ならない相手らしい。

マホロアの前科を知らないエフィリンは、咄嗟に「カービィのともだちだから、悪い人ではないんだけどね」と付け足す。

とりあえず、魔術師をどうしようか、と思い、視線をそちらに向けると。

カービィがステイルの頬をペチペチと叩き、なんとか起こそうと奮闘しているのが見えた。

 

「…カービィさん、何やってるんです?」

「ぽよ!ぽよぽよ、ぽーよっ!」

「えっと、『なんでインデックスを追いかけてるのか聞きたい』んだって」

「……インデックスに指示を仰ごうにも、扉がコレだもんなぁ…」

 

当麻は言って、ドロドロに溶けて固まったドアノブを見やる。この調子では、鍵も碌に機能しなくなっているだろう。

ガックリとうなだれ、「不幸だ…」と頭を抱える当麻。

ソレに気づいたカービィは、未だに起きないステイルから手を離し、開かなくなってしまった扉へと駆け寄った。

 

「なぁ、カービィ。この扉、なんとか出来ないか?」

「ぽよっ!」

「え?…えっと、これでいい?」

 

カービィがエフィリンに何事かを伝えると、彼は少し困惑した後、そこらにあった石ころを取り出す。

ソレを受け取ったカービィは、口を開けてソレを飲み込み、姿を変えた。

ステキにムテキな重量級。歩く落石、コピー能力「ストーン」である。

カービィが拳を構えると、その腕にまとわりつくように、巨大な拳型の岩が顕現した。

 

「いやいやいや!?カービィさんお願いだからちょっと待っ」

「ぽよぉっ!!」

「……あぁ…。遅かった…」

 

当麻の制止の声は一足遅く、放たれたアッパーカットは既に扉を捉えていた。

ガラガラと崩壊する自宅の扉を前に、当麻は蹲って「不幸だ…」と嘆く。

頼まれて扉を開けただけなのに、何故当麻は嘆いているのだろうか。そのことをよくわかっていないカービィは、とりあえず落ち込む当麻の背をさすった。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「フゥ、あんまりにもムカついたから、ツイ口を出しちゃったヨォ。

…チョット調べたケド、『無限のチカラをコンパクト化して世界に顕現できない』程度の魔術師が最高峰なら、この星の魔術師は随分と低レベルダネ。

ソレで宇宙がシハイできンなら、ハナッからマスタークラウンなんテ狙わないヨォ」

 

その頃、学園都市から少し離れた森林にて。

再び見るも無惨な姿になったローアを見上げながら、マホロアは呟く。

何を隠そう、彼があの場にいたのは、散らばった部品…即ち「エナジースフィア」を探していたからである。

ただの歯車にしか見えないソレは、その実、一つ一つに地球上では確認することの出来ないエネルギー…「夢のチカラ」が大量に宿っている。

 

「科学も魔術もゲンシジン並ミ。夢のチカラを扱った技術なんテ、コレっぽっちも発達してナイ。

マッタク、とんだド田舎に飛ばされたモンダヨォ」

 

ハルカンドラの文明をよく知るマホロアからすれば、どの星もド田舎のカテゴリに含まれることだろう。

マホロアはとりあえず、研究所を一つ潰して回収したエナジースフィアを組み込む。

システムは復旧したが、飛ぶことはまだできないらしい。

そのことに軽く舌打ちするも、「マァ、イイカ」と開き直る。

この星の魔術に科学。到底、利用価値があるとは思えない。

しかし、大きな収穫はあった。カービィのそばにいるという特大級の欠点は付き纏うが、うまく行けば、自身の望む、宇宙支配の礎となれる可能性を秘めた力が見つかったのだ。

マホロアはその事実に、ククク、と喉を鳴らし、ほくそ笑む。

 

「マ、タイクツせずに済みソーでヨカッタヨォ」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「……ふぅ。ま、こんなもんでいいだろ」

 

とりあえず、怪しそうな物は粗方排除できただろうか。

当麻はビニールテープで出来の悪いミノムシのようになるまでステイルを縛り上げ、額に流れる汗を拭う。

インデックスによれば、もう一人の仲間はカービィに刀を空の彼方までぶっ飛ばされたという。替えの利かないものらしく、今頃必死になって探し回っているだろうとのこと。

となれば、横槍が入らないウチに、ステイルを尋問した方がいい。

 

「……しっかし、起きねーなぁ」

「もう夜だからじゃないかな?」

「や、多分殴る力が強かったんだろ。

コイツ、魔術を使った殺し合いにはある程度慣れてそうだったが、明らかに喧嘩慣れしてなかった。

衝撃を殺さずにモロに受けたんだと思うぞ」

 

当麻はそれだけ言うと、「どうしたもんかな」と頭をかく。

と。そんな彼のズボンを、ワドルディの一人がくいっ、くいっ、と引っ張った。

 

「どうした、ワドルディ?」

「わにゃっ」

 

ワドルディがありもしない懐を弄ると。そこから大きめのトマトが姿を現した。

否。ただのトマトではない。中心部にペンで書いたように『M』と刻まれたトマトだ。

あまりに怪しい食物であるソレに、当麻は思わず渋い顔を見せる。

 

「…な、なんだ、それ?」

「マキシムトマトだ!この星にも来てたんだね!」

「ぽよ、ぽぉよぉ!!」

 

その名もマキシムトマト。

一口食べれば元気いっぱいになれる、夢のチカラをたっぷり含んだ奇跡の一品。カービィの大好物であり、ソウルフード。

オヤツにもゴハンにもなり、どんなケガも全快する、まさに万能食材である。

ワドルディはそのマキシムトマトを食べさせようと、ステイルの口に運ぶ。

しかし、気絶しているのに咀嚼できるはずもなく、マキシムトマトはころん、と地面を転がった。

 

「わにゃ…」

「ぽよっ!」

「……わにゃ、わにゃ!」

 

カービィは転がったソレを手に取り、ワドルディに何事かを伝える。

ワドルディは暫し悩んだ後、深く頷いて、ステイルの顎を、少し上に上げた。

 

「なにをするつもりなんだ?」

 

当麻が疑問に思っていると。

カービィはマキシムトマトを口に含んで咀嚼し、その口でステイルに接吻をかました。

 

「「はーーーーっ!?!?」」

 

あまりにショッキングな光景に、目を白黒させる二人。

ステイルの喉元をペースト状になったマキシムトマトが通り過ぎるや否や。気を失っていたはずのステイルはカッ、と目を見開き、あたりを見渡した。

縛られている状況を察した彼は、蔑んだ目を当麻へと向ける。

 

「……悪趣味な…!僕を薬だのなんだので尋問しようって腹積りか…!!」

「ンなつもり微塵もねーよ、ファーストキスが目の前の宇宙人のステイルさん」

「…………は?」

 

当麻の言葉に、唖然と口を開けるステイル。

カービィは「ぽよ!」とステイルが起きたことを喜ぶように、笑顔で手を振るだけ。

周りを見ると、インデックスと当麻が同情しているのか、なんとも言えない瞳で自身を見ていることに気づいた。

 

「……えっ、と…。ど、どう言うことだ?」

「カービィの『くちうつし』だね。

くちうつしで食べた物を分けて、それぞれのケガをすぐに治すんだ」

「………食事でケガが治るのか?」

「え?この星じゃ治らないの?」

 

そんな話、見たことも聞いたこともない。

長い目で見れば、治癒に助力しているのだろうが、少なくとも数日はかかる。

彼らは知らぬことだが。ポップスターのように、夢のチカラが充満していると、食べ物はどんな物であれ、自然発生する。

材料だったり、もしくは料理そのものだったりと種類は様々で、そのどれもが例外なく、夢のチカラを宿している。

ソレを摂取することによって、どんな傷でも、たちまち癒すことが出来るのだ。

 

「……その…、つまるところ、僕のファーストキスは…」

「今より前に誰もいなかったら、カービィになるんだよ」

「…………今ほどお前が恨めしいと思ったことはないよ、まんまるピンク」

「ぽよ?」

 

どうやら、本当にファーストキスだったようだ。熱い接吻を交わしたのが、まさかの人ですらないというショックに、遠い目をするステイル。

「文化の違いだから気にしなくていい」と当麻が慰めると、ステイルは「うるさいよ」とぶっきらぼうに返した。

 

「で、こんな状態で僕を叩き起こした理由はなんだい?まぁ、理由なんて分かりきってるけど、一応聞いておこうか」

「インデックスと所属が一緒なのに、なんで執拗に追いかけ回してるんだって聞きたかっただけだよ。

正直、怪しいもんは取り上げたから、このまま放逐してもいいんだけどな」

「自分を殺そうとした相手に、随分と慈悲深いことだね」

「性分だ。気にすんな」

 

上条当麻はカービィに負けず劣らずの善人であり、英雄気質である。口こそ粗野で適当だが、倫理観が破綻したこの都市においては、もはや稀有な程に善性に溢れている。

その優しさは、自分を殺そうとした相手にも向けられるほどには、懐の深いものだった。

ステイルは暫し考え込んだ後、口を開く。

 

「彼女を別の部屋に移してくれ。彼女に聞かれない場所なら、話してもいい」

「わかった。インデックス、いいか?」

「う、うん。…あっ!ワド太郎、ワド次郎、ワド三太、ワド四郎、ワド五郎、ワド六郎も連れてっていい?」

「3番目だけあからさまに落ち込んでる!!

仲間はずれなのはやめてさしあげろ!!せめてワド三郎にしてやれ!!」

 

「わにゃにゃ…」と泣き崩れるワドルディの一人に、インデックスは「ごめんなんだよ、ワド三郎」と彼を抱え、部屋を出ていく。

ソレに連れ添うように、五匹のワドルディたちがわらわらと出ていくと、残された当麻たちはステイルの拘束を解いた。

 

「…アレもデタラメに強いとかないよな?」

「いや、ワドルディたちはそんなに強くない。強いのは団結力と可愛さ、優しさくらいだ」

「………」

 

ステイルはなんとも言えない表情で、ワドルディらと戯れているだろうインデックスがいる部屋を見遣り、ため息をついた。




ステイル…ファーストキスがカービィになった人。しかもくちうつし。マキシムトマトが美味しかったのもまた、形容し難い感情に拍車をかけている。ちなみに、カービィたちの間では普通のことなので、特にそう言った恥ずかしさは微塵もないと聞き、いちいち気にしてる自分が情けなくなったらしい。嫌いな物にまんまるピンクが追加された。

カービィ…ステイルにマキシムトマトをくちうつしした。リボンのほっぺへのキスで照れていたあたり、くちうつしとキスは別物と分けて考えるべきというのが、宇宙共通の認識らしい。
大好物のマキシムトマトもこちらの世界にやってきたことを知り、食い意地が突き動かすままに後日、ワープスターで探し始める。その際、上条さんの奇跡的な不幸で連結してしまった上条パンツ群がワープスターに絡み、世界一恥ずかしい未確認飛行物体が完成した。尚、カービィは帰宅するまで全く気づかなかった。

マホロア…とある世界のヒーローに目をつけた。逃げて。ウニ頭超逃げて。
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