一瞬の油断が死に繋がる、緊迫した空間。
インデックスに取り憑いたダークリムロを追い出すためには、当麻の右手が彼女の体に触れる必要がある。
しかし、この情報はダークリムロにも筒抜けであり、触れられないように、黒い羽をばら撒かれ、死角に罠まで張られている。
少しでも触れれば、死は免れない猛攻。その攻撃の矛先は、完全にカービィから当麻へと狙いを変えていた。
「ッソ、近づけねぇ…!!」
「『炎よ、巨人に苦痛の贈り物を』!!」
ステイルが炎を放つと共に、当麻の死角を舞っていた羽を打ち消す。
しかし、自身にも小さな脅威が迫っていることを悟り、身を翻した。
「キミに叱責でもしようかと思ったが…、そんな暇もないね」
「でも、こんだけ必死になって俺を殺しにくるんだ…!俺が触れれば、全部終わるってこったろ…!!」
「成る程。それまでの道を作るのが、我々の戦い、というわけですね」
「わにゃ、わにゃわにゃ!」
獲物が無く、物干し竿を握る神裂に、ワドルディの声が、とたとたという音と共に近づいてくる。
一体なんだ、とそちらを見ると。何処から持ってきたのか、よく手入れされた短剣を掲げるワドルディが居た。
「これを、私に?」
「わにゃっ!」
「…ありがとうございます」
本当は刀が望ましいのだが、ない物ねだりをしていても仕方がない。
神裂はワドルディから剣を受け取ると、生まれ持った膂力で迫り来る羽を打ち払う。
魔術の通りは悪くない。流石に愛用の刀とまではいかないが、代替品にしては破格の性能と言えるだろう。
しかし、ワドルディたちは武器もなければ、力もないはず。そのことを知っていた当麻が、果敢にも戦場に立つワドルディらを見やると。
馬鹿みたいに巨大な傘を開き、攻撃を受け止めながら行進するワドルディらが見えた。
実のところ、ワドルディたちはもしも襲撃者がきても、相打ち覚悟でインデックスを守るために、どこにあるのかよくわからない懐に傘を仕込んでいた。
しかし、インデックスに取り憑いたダークリムロ相手では相打ちどころか、即座にやられてしまうのは目に見えている。
そこでワドルディたちは考えた。自らが今すぐに強くなるには、どうしたらいいかと。その答えは、案外すぐそばにあった。
カービィの持つ能力の一つ、「フレンズハート」である。
フレンズハートは、カービィのココロにある「優しさ」と「究極の楽観的思考」、更には彼の「無限のチカラ」を一部分け与え、仲間意識を芽生えさせるという機能を持っている。
わかりやすく言えば、フレンズハートに触れると、「カービィのともだちになる」という条件と引き換えに、「カービィに近い存在になる」のだ。
結論を言えば、ワドルディたちはカービィの「フレンズ」となり、その能力の一つである「アイアイパラソル」を多重に発動させ、魔術を受け止めていた。
そのことを知らなかった当麻は、その光景に目を白黒させるも、そんな場合ではないと首を振る。
「……いや、驚いてる場合じゃねぇ…!ワドルディ、ソレで俺を守りながら進めるか!?」
「わにゃっ!」
もちろん、と言わんばかりに、力強く頷くワドルディ。
当麻の周囲を、アイアイパラソルを構えた5人のワドルディたちが全方位を固め、防御に徹する。
視界が機能しなくなるのが欠点だが、幸い、こちらには仲間があと数人いる。移動については、誘導して貰えばどうとでもなる。
が。ソレを視認したダークリムロもソレを悟ったのか、修道服を棘のように変形させ、アイアイパラソルを貫こうと迫った。
「くそッ、宇宙人ってのは僕たちよりも遥かにデタラメだな…!!」
ステイルが吐き捨てるように言うや否や、傘と棘が金属と金属がかち合うような、甲高い音を立てて激突する。
拮抗する力。激しく火花散るソレに、神裂が魔術を切り裂きながら間合いを詰め、伸びた修道服を掴んだ。
ダークリムロがソレに対応する暇もなく、神裂は肩に力を入れ、その華奢な体を放り投げる。
「インデックス、すみません!」
『くそッ!』
投げられたダークリムロは、咄嗟に黒のレーザーを当麻と神裂に放つ。
神裂は軽く飛ぶことでソレを避け、当麻はアイアイパラソルで受け止めたワドルディを左手で支えることで、なんとか防御する。
と、そこに浮かんでいたワドルディの一人が、ダークリムロを傘ではたき落とした。
「わにゃっ!」
「わにゃわにゃっ!」
今のうちだ、とワドルディが仲間に告げると、当麻の周りを囲んでいたワドルディたちがダークリムロを取り押さえにかかる。
しかし、悲しきかな。ワドルディのあまりに非力なまんまるの手では、ダークリムロが取り憑いたインデックスを抑えられるわけもなく。
あっさりと吹き飛ばされ、続け様に光弾が彼らに迫る。
「わ、ワドルディ!?」
「ぽよっ!」
カービィが咄嗟に竜を放ち、光弾を全てかき消すことでことなきを得たが、当麻を守る布陣が崩れてしまった。
当麻は反射的に右手を前に掲げ、ダークリムロが放ったレーザーを受け止める。
油断すれば、肩ごと持っていかれそうなほどの闇の奔流。骨が軋むような感覚に顔を顰めながらも、当麻は押されないように堪える。
と、その時。ステイルの逼迫した声が響いた。
「上条当麻、動くな!!」
ステイルが炎を放つことで、当麻の周囲を漂っていた黒の羽を打ち消す。
同時に、当麻のトレードマークたるツンツン頭を炎が掠めたのか、毛先が焦げたような音が響いた。
「うぉあっち…!?もうちょっとスマートに助けてくれません!?上条さん自慢のツンツンが『チリッ』つったんだけど!?」
「助けてもらっておいて文句を垂れるな!贅沢なヤツめ!!」
二人が言い合う間にも攻撃は止まず、カービィが操る炎の竜がそれを打ち払う。
その隙にワドルディたちも持ち直し、立ち上がったダークリムロを睨め付けた。
「ふりだし、ですね…」
「インデックスにある10万3000冊の魔術をフル活用してない…いや、『出来ていない』のか…?どっちにせよ、僕たちはナメられてるのかもね」
『違うな、小僧』
ステイルの意見に口を出したのは、他ならぬダークリムロ。
攻撃の手を一切緩めず、ダークリムロは淡々と語り始める。
『私はコイツの頭にある魔術を使えないのではない。「使っても無駄だとわかってるから使わない」んだよ』
「なに…?」
世界の理すら捻じ曲げるほどの危険性を有する、10万3000冊の魔導書。
ソレを使っても無意味な事象が、果たして存在するのか。ステイルらが疑問を抱いたのを察したのか、ダークリムロは嘲るように笑いながら、カービィを指した。
『お前らのような程度の低い魔術師どもは、カービィのことを「やたらと強いピンク玉」程度にしか思っていないだろう。
しかし、その実は違う。カービィは世界の理を捻じ曲げようが、あらゆる概念を破壊しようが、絶対に揺らがない…、「理不尽」という概念そのもの。まさに「あらゆる宇宙の絶対的英雄」とでも呼ぶべき存在。
私たちがコイツを「星のカービィ」と呼ぶのは、その畏怖を込めてのものなのだ』
ダークリムロの言葉に、魔術師二人は怪訝な表情を浮かべる。
いくらカービィに高度な魔術が効かぬとて、自分たちの排除くらいならば訳ないはず。
そのことを問おうとするも、ダークリムロはそれさえも察知したのか、言葉を続けた。
『もし、私が世界の理を書き換えるようなマネをすれば、「星のカービィ」は必ず奇跡を起こす。それこそ、私がしたことなど一瞬で覆すほどに大きな奇跡をな。
だからこそ、カービィを過度に刺激せず、且つ排除するために、最善の選択を取っているにすぎない』
ダークリムロはそれだけ語ると、『終わりにしようか』と告げ、魔法陣を多重に展開する。
「竜の息吹」。先ほどから何度も放たれているソレが、不可避の一束となって襲いかかる未来の見えたステイルと神裂は、思わず冷や汗を流す。
そんな中で、当麻は不適な笑みを浮かべた。
「…なぁ、ダークリムロ。アンタ、後ろに気をつけた方がいいぜ?
なにせ、なによりも怖がってる『ヒーロー』がいるからよ!!」
ダークリムロの背後には、いつまにかコピーを切り替え、青の鉢巻を巻いたカービィが、星形の穴から飛び出た姿があった。
星型の穴の奥には異空間が広がっており、そこに台座に乗った青い鉢巻が鎮座しているのが見える。
台座の名は「コピーのもと」。カービィが触れるだけで、そのコピーに切り替えることが出来る優れものである。
「ぽー…よぉっ!!」
カービィが「コピーのもと」からコピーしたのは、スーパー能力ほど強大ではない。しかし、「ダークリムロと当麻の距離を詰める」という点においては、最適なものだった。
燃える闘魂で、敵を掴んで投げ飛ばす。その名も「スープレックス」。
カービィはダークリムロを掴むと、彼が反応しきれないほどの速度で、その華奢な体を投げる。
その先にいるのは、当麻。その事実を視認したダークリムロは、困惑を吐き出す。
『ど、どういうことだ!?なぜ、スープレックスをコピーしている!?
なぜ、私の背後に回っている!?キサマから目を離した一瞬で何が起きたのだ!?キサマは異空間を繋げるほど高位な空間転移能力など持ち合わせていないはず!!何故、何故、何故ぇぇええっ!?』
「なぁ、お前。俺の『ともだち』を始末するとか言ってたな」
当麻がインデックスの体を右手で受け止めると、何かが壊れる音と共に、黒い球体が飛び出す。
ぽん、ぽん、と跳ねた球体…ダークリムロの本体を、カービィが掴んだ。
「ともだちの体でともだちを排除する…。
そんな外道極まりねぇテメェの筋書きで、全部が思い通りに行くとか思ってたから、ベラベラと俺らに情報渡したんだろ?」
カービィがダークリムロにスープレックスを決め、投げ飛ばす。
飛んできたそれを前に、インデックスを床に寝かせた当麻は、右拳を構えた。
「そんな手で、俺のともだちを殺す…なんて幻想がまかり通ると本気で思ってんなら…」
『や、やめろ!!やめろぉおおおっ!!』
幻想を否定する右拳が、ダークリムロに突き刺さる。
ダークリムロがソレに苦悶の叫び声を上げ、火花を散らしながら萎みゆく中。
当麻はダークリムロを見上げ、告げた。
「まずは、その幻想をぶち殺す」
『この、ナマイキなゲンシジンめがぁあああああっ!!!!』
それが、ダークリムロの最後の言葉だった。
花火のように弾け飛び、部屋中を舞っていた嫌な空気が霧散する。
部屋に朝日が差し込む中、インデックスが目を開けた。
「んっ…?もう朝なんだよ…?」
「っはぁああ…。お前なぁ…」
そんな能天気な言葉に、当麻が呆れたため息を吐き、薄く笑った。
当の本人は何が起きていたのか知る由もなく、キョロキョロと散らかった部屋を見渡し、目をひん剥いた。
「わわっ!?な、なんでこんな散らかってるんだよ!?も、もしかして…、私すっごく寝相悪いかも!?」
「ね、ね!ボクの『後ろからスープレックス作戦』、上手くいったよね、トーマ!」
「上条さんは聖徳太子じゃないから、二人いっぺんに迫ってこないでほしいなー…」
ダークリムロの不意を突くために、隙を窺っていたエフィリンも当麻の元に駆けつけ、勝利を喜ぶ。
一方で、何が何だかよくわかっていないインデックスは、怪訝そうに当麻を問い詰めていた。
当麻がそれに応対しつつ、カービィの方を見ると。カービィらがステイルの時と同じように、等間隔に並んでいるのが見えた。
「わにゃ、わにゃっ!」
「ぽよ、ぽよっ!」
「ほら、トーマたちも!あ、トーマはカービィの隣だよ!」
「は、はぁ…?え、俺らも踊るの?」
「踊る?一体、何の話です?」
「僕たちに何をさせようって言うんだい?」
「私もカービィの隣に行きたいんだよ!」
ワドルディやエフィリンに案内されるがままに、同じように並ぶ当麻たち。
神裂とステイル以外のそれぞれがポーズを取ると、軽快な音楽がどこからともなく流れてくる。
カービィが激しい挙動で踊る中で、ダンスの心得など微塵もない当麻たちは、なんとも心もとない挙動で音楽に合わせるのが手一杯だった。
数秒ほどのソレが決めポーズと共に終わると、暫しの沈黙が訪れる。
その後、彼らを包み込んだのは、インデックスの笑い声だった。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「……ん?」
「どうしたの、デデさん?そうめんなくなっちゃうよ?」
その頃、とある学生寮にて。
実家から山ほど送られてきた素麺を突く少女…「佐天涙子」が、季節外れのガウンを羽織るペンギンのような存在に声をかける。
ペンギンもどき…否、プププランドの自称大王『デデデ大王』は、窓から視線を外した。
「ああ、いや。ちょっと、ヘンなカンジがしてな」
「ガウン羽織ってるからじゃない?脱ぎなよ、見てて暑いし」
「サテンお前、なんてこと言うんだ!?
コイツはプププランドの大王さまたるオレさまの大事な大事なトレードマークなんだぞ!!」
「そーだそーだ!大王さまが勢い余って袖を破いて、その晩泣きながら補修した、大事な大事なガウンなんだぞ!!」
「クラッコォ!?」
学生寮の一室に、ペンギンと雲と女子中学生が三人。
一人の少女を救う奮闘の傍らで、具材どころか、薬味すらも全くないそうめんを三人は啜っていた。
デデデ大王の冒険は、バンワド、メタナイト同様、気が向いたら番外編として書きます。
デデデ大王…カービィと同じくらいに、佐天涙子の学生寮に墜落していた。彼女の奮闘によって、現代日本語をマスターしている。大王様は意外と天才肌らしい。
往来のいたずら気質からか、勝手に佐天の学生寮を拠点に認定し、「デデデ城2」という看板を扉に打ち付けた。同じような劣等感を抱えているからか、よく佐天の相談役として話を聞いている。
毎日学園都市を駆け回り、部下や仲間を探している。今のところ見つかったのはクラッコと数名の部下だけ。
クラッコ…アテもなく学園都市の空を漂っていたところ、デデデ大王を発見。めちゃくちゃ泣きながら再会を喜んだ。その際、佐天が下着に至るまでずぶ濡れになり、今度は別の意味で泣かされた。
中には、バカンスの途中で、布団がわりにしようと潜り込んだデデデ大王の部下たちが数名入っている。
現職は佐天のベッド。普通のベッドに戻れなくなるほどには、かなり寝心地が良いらしい。
エフィリン…ダークリムロの不意を突くために、いろいろと試していたら狭い異空間には繋げられた。
そこでスープレックスのコピーのもとを見つけ、頑張ってダークリムロの背後とカービィの立っている床を繋げ、その中間点にコピーのもとを置くことで、コピー能力の切り替えを行った。
次回からは「LEVEL:2 アブノーマル・セレモニー」となります。