Eighty Six Platinum   作:御代川辰

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壱之章 Ferewell,White meat chunks
00 No Title or Title Los


 星暦2139年の1月。サンマグノリア(St.Magnolia)共和国の中央に位置する第一区。共和国軍の司令部の一室で、一人の男が叫んでいた。

 

(なん)で!」

 

 毛先から爪先、瞳孔、虹彩、肌に至るまで身体の隅々が美しい白金色に輝く美麗な男が、軍将校たちに怒気を込めた声を発している。

 

(なん)有色種(Colorata)の血が絶やされなければならんのや!」

 

 地方の出身なのか、独特な方言を使って将校らに問いかける男。彼は白系種(Alba)と呼ばれる人種の中でも指折りの少数派(Minority)、〈白金種(プラティーン)〉のサンマグノリア共和国軍の将官【ナンバ(Namba)オスカー(Oscar)】である。

 

(なん)怨恨(えんこん)が!(なん)理由(わけ)()って彼らを危険地帯に放り込むのを正当化せにゃいかんのや!」

 

 鬼のような形相(ぎょうそう)で吠える若い将官に、軍部将校の一人が答える。

 

「…………口減らしだよ」

 

 幕僚でもある将校が放った非情な言葉は、オスカーの怒れる炎に注がれる油となった。口減らし?理由にしては甘い。白系種(罪深き同胞)だけが参加を許された国民投票で追放されることが決まった。理由など一つ。

 

「…………何を都合の良い理由(こと)を抜かしよりますか…………」

 

 オスカーの怒りが頂点に達した時、彼は全てを理解した。

 

(おれ)白金種(プラティーン)の反対意見は、あんたはん方(政府関係者)の方でなかったことにしたんと(ちゃ)いますか?」

 

 

 将校たちはご名答とばかりに拍手(かしわで)を打つ。その顔には笑みを浮かべている。

 

「そういうことだ」

 

 と、大将の階級証を胸ポケットに掲げる老いた男が立ち上がって答えた。大将はその足でオスカーのもとへと歩み寄り、更に続ける。

 

「君も自覚している通り、白系種(アルバ)という人種の中で最も希少な白金種(プラティーン)なのだよ」

 

 「なぜ今さら当たり前のことを……」、とオスカーは思った。むしろ白系種(アルバ)でなければ国籍はおろか人権さえも奪われる現状では、「白系種(アルバ)だから」という理由だけで有色種(コロラータ)に殺されるかも知れないほどに追い込まれるという未来は見えているというのに。

 戸惑う将官に、大将は続ける。

 

白金種(プラティーン)白系種(アルバ)である以上、支配者になり得る人種なのだよ」

「なっ?!」

 

 オスカーは絶句した。白金種(じぶんたち)が支配者になり得る種族とはどういうことなのか。彼らは長い歴史の中で、己と己の先祖の散々たる行いを忘れたかの如く遂に狂ったらしい。

 

「この国が王政から共和制に変わるより更に大昔の話だが……」

 

 大将は更に続けようとしたが、オスカーは手を広げて制止した。聞きたくない。恥さらしの同胞の言葉など全てどうでもいい。

 

「ちっと(だま)れや侵略者(クズ)の子孫どもが」

 

 若き少将であるオスカーは一度は治まった怒気を再び強めて将校たちに声をかける。眼球はすでに充血を始めているようだ。

 

「あんたらの先祖は、もともとあんたらの住む土地のすぐ隣の地域に国を持っとった俺たちの御先祖様を“白鼠(Least Weasel)”言うて奴隷に堕としたんやろ!?」

 

 オスカーは大将の胸ぐらを掴み、充血による内出血で赤く染まった白目に囲まれた白金色の瞳で睨み付ける。先住民であった先祖の土地を侵略し、その後永きに渡って迫害し、旧王政が倒れた後も少数派(マイノリティ)として冷遇し、二世紀半が経ってやっと()()()()として扱い始めたというのに。

 

「え!?今さら先祖の行いの隠蔽のつもりなんか!?あんたらはギアーデ(Giade)との戦争を赤の他人に押し付けるつもりか!?」

 

 と、ここまで言い切ったところで、将校の一人がぽんっとオスカーの肩に手を置いた。振り返ると、かなり長い期間に渡って従軍しているのか髪も髭も真っ白な老爺(ろうや)が立っている。

 

「オスカー君。頭に血が(のぼ)り過ぎだ。すぐに医務室に行って診断を受けたまえ」

「てめぇっ!」

 

 オスカーは老爺(ろうや)からの言葉に遂に我慢できなくなり、手足に渾身(こんしん)の力を込めて殴りかかろうとした。しかし……

 

「ぐぅっ…………っ!」

 

 怒りと興奮が引き起こした内出血の激痛、さらに大量の血液が脳に集まり負荷がかかったことによって脳貧血になるという矛盾した現象に(おちい)り、更に涙腺にまで血液が届き、オスカーは血涙(けつるい)で床と軍服を汚しながらその場に倒れ伏す。

 将校たちは呆れたようにため息を()き、老爺(ろうや)は息を荒くしたままのオスカーを抱き起こし、その足で医務室へと運んだ。




白金種(プラティーン\Platiene)
サンマグノリア共和国、及びサンマグノリア共和国建国以前の王国時代よりさらに前、有史以前にはすでに現在のサンマグノリア地域の北東部に居住していた白系種(アルバ)
限りなく白く透き通った肌色と体毛を持ち、異なる人種との混血児は必ず白金種の特徴を持って産まれる。
有史初頭の時点で高度な医療技術を有していたが、白銀種(セレナ)の国による侵略を受けて貴重な技術や知識の多くが失われた。
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