Eighty Six Platinum   作:御代川辰

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06-2 かえり見はせじ

「俺の総指揮の(もと)、国外脱出を謀る白金種(どうほう)の皆様。どうか本作戦決行前に、せめて忠告(弱音)を聞いてくれませんか?」

 

 クガンドの丁寧な言葉遣いは、とても悲痛な思いを含んでいることが嫌でも理解できた。理由は罪悪感や自責の念、義憤や悲哀と様々だが…………特に心動かされるきっかけとなったのは、先日出会ったノーマンという少年の友人たちの行く先だ。

 そして「有色種(コロラータ)である」というあまりにも手前勝手な理由で86区民(エイティシックス)として侮蔑され、あまつさえ憧れを押し通すことさえ許されず終わらない戦争の末に命を散らすことを強いられる運命にある彼らの未来を考えれば、心を痛めずにはいられないのは必定(ひつじょう)

 

『…………ああ。時間が押しとるから、重要なとこを手短に頼むで』

 

 お互い二度と顔を合わせることがない身ゆえ、もはや表情や態度を気にする必要はない。そして、今や立場は再び平等なものとなっている。

 

「ありがとうございます」

 

 クガンドは自らの言葉に耳を傾けようとしてくれている人々がいることに改めて感謝の念を抱き、愚痴と冠した(はなむけ)の言葉を一言一言紡ぎ始めた。

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

『同胞10万への激励として、俺から伝えなければならない忠告があります』

 

 クガンドは普段使わない敬語口調のまま、知覚同調(パラレイド)を繋いでいる白金種(プラティーン)たちに告げる。

 

『一つ。万一ギアーデ帝国の侵攻を受けながらも国家を維持している国と接触できた場合、(すみ)やかに亡命を求め、可能な限りその国に留まって欲しい』

 

 これはサンマグノリア共和国の惨状をより広く伝えるとともに、ほんのわずかでもレギオンの侵攻に抵抗するための能力を高めさせるためである。

 

「二つ。東方面に脱出予定の部隊は、ギアーデ帝国正規軍に対しては細心の注意を払ってもらいたい。極力交戦は避け、投降が可能な際もギアーデの情勢を良く考えて検討して欲しい」

 

 これはギアーデ帝国との戦闘で体力を磨り減らすことを避けるとともに、()()()()()()()()、かつ()()()()()()()()()()()()()であろうレギオンへの対処に集中させることで練度を高めることが目的だ。

 

「最後に三つ目。これは最も優先して守るべき重要な忠告です」

 

 クガンドは同調装置(レイドデバイス)越しに拍動する白金種(プラティーン)たちの静かな心音に耳を傾けながら、三つ目の忠告を発した。

 

『必ず生き抜いて(くだ)さい。死ぬその時まで』

 

 言い終わった直後、ハンドラーの一人が知覚同調(パラレイド)を通じて音楽を流し始めた。北方方面の強制収容所に収容されている白系種(アルバ)86区民(エイティシックス)が歌っていた、死に行く兵たちが死してなお忠義を尽くし、決断や行為を後悔しないという覚悟を唄った軍歌だ。

 

「…………海行かば、か。俺たちにはとても合わないな」

 

 一人のプロセッサーの呟きは、誰にも聞こえない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海行かば 水漬(みづ)(かばね)

山行かば 草生(くさむ)(かばね)

大君(おおきみ)の ()にこそ死なめ

かえり見はせじ




登場曲名:海行かば
作詞:大伴家持
作曲:信時潔
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