Eighty Six Platinum   作:御代川辰

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06-3 機械たちの悲鳴

 東西南北全方位に布陣し、戦列に並ぶ総計52万9707機ものジャガーノート。その最前線に立つのは迫害者(圧倒的多数派)であるはずの白系種(アルバ)

 だが彼ら(白金種)が戦場にいるのは戦うためでも守るためでも、ましてや生き残るためでもない。

 

南部方面軍前線指揮官(サウスフロント・コマンダー)よりマーシャル・スリーへ。敵侵攻軍の最前列を確認。推定部隊規模約5個師団』

 

 共和国市民の命など、どうでもいい。

 

『マーシャル・スリー了解。前線制圧隊は随時前進せよ』

 

 道に外れた迫害者など、地獄に落ちて然るべきだから。

 

西部方面軍前線指揮官(ウェストフロント・コマンダー)よりインペラートル・ツーへ。こちらも敵の最前列を確認した。推定部隊規模は約5個師団』

 

 白金種(プラティーン)としての誇りも、捨て置いてしまおう。

 

『インペラートル・ツー了解。前線進行を開始、国境より脱出せよ』

 

 この死者のいない戦場(新たな命さえも生まれない)には、名誉も勲功も役に立はしないゆえ。

 

北部方面軍前線指揮官(ノースフロント・コマンダー)よりアルゲマイン・ワンへ。レギオンを多数確認。陸地の半分以上が銀色の鏡で埋め尽くされてる。推定部隊規模は5個師団』

 

 いっそのこと、86区民(エイティシックス)の存在を忘れるのもいいだろう。

 

『アルゲマイン・ワン了解。両翼部隊は敵部隊を迂回し包囲。殲滅次第、順次離脱せよ』

 

 彼らを忘れるのは、重荷を放棄するのと同時に。

 

東部方面軍前線指揮官(イーストフロント・コマンダー)よりコマンダー・ゼロ。遠方のレギオン5個師団が散開中』

 

 この戦場から、確実に逃げ切るためだ。

 

「コマンダー・ゼロより全部隊に通達」

 

 そして共和国領域内のレギオン掃討と、現在ジャガーノートに搭乗している白金種(プラティーン)の国外脱出という二つの作戦の全指揮権は、一人の若き大佐の手に託され、時は来る。

 

「状況を開始せよ」

 

 

 

 

──────────

 

 その数実に20個師団。計20万機もの大軍が共和国の四方を囲い、一斉に進軍を開始した。

 レギオン側の最前線に立ち86区を目指して突撃するのは斥候型(アーマイゼ)と呼ばれる機銃二挺を正面に備え付けた小型レギオン。

 相対(あいたい)するは白金種(プラティーン)のプロセッサーが搭乗する10万数千台のジャガーノート。

 しかし四本脚の関節部の異音と機内の座席を通して直接全身に伝わる衝撃音は、ハンドラーたちの耳にも痛いほどに聞こえる。

 

『おい!この機体はホンマに大丈夫なんか!?接敵まで2分を切ったで!』

「この日のために警備兵(バカ)輸送兵(アホ)の目を盗んで今期プロセッサー全員分のジャガーノートを改造させたの。収容所の訓練施設で乗せられてた機体よりは遥かにマシなはずよ」

 

 西方戦線の副司令官、ナンバがジャガーノートの振動に耐えながらインペラートル・ツーことメナーツェに叫ぶが、彼女は涼しい表情と落ち着いた口調で答えた。この余裕な態度が余計に不安を煽るが、恐らく彼女自身が狙っていてのことだろう。

 

「接敵まで1分!絶対に()()()()()()()には一切耳を貸すな!」

 

 南部戦線。先頭を走るプロセッサーの一人が意味深な言葉を両翼ならびに後続のプロセッサーたちに叫び、さらに移動速度を上げる。

 

「…………進軍速度維持、そのまま突撃!」

 

 そして、(つい)に両雄の先鋒同士が激突した。

 同時に、知覚同調装置(パラレイドデバイス)を通じて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に至るまでが全ての白金種(プラティーン)のプロセッサーとハンドラーたちの頭の中に()()()()()()来た。

 

『助けて……助けて……』

『誰か……誰か俺たちを止めてくれ!』

『殺したくない!殺したくないよ!』

『許して!もうやめさせて!』

『殺してくれぇ!』

『お願い!来ないで!こっちに来ないで!』

『やめろ!壊さないでくれぇ!』

『誰か俺たちを』

『止めて……』

『止まれぇ!』

『これ以上はやめて……』

『助けてよ』

『待ってくれ!』

『来るな』

『殺さないでくれ!』

『近寄るな!殺すぞ!』

『見ないでくれ!』

『頼む!』

『お願い!』

『待て!止まれ!』

『死にたくないんだ!』

『誰でもいい!』

『苦しいよお!』

『誰か僕らを…………』

 

 

 

 

 

─────止めてくれ!─────

 

 

 

 

 

──────────

 

 機械ではあり得ない、人間が発しているとしか思えない余りにも悲痛な叫びとともに、レギオンの群れは白金種(プラティーン)のプロセッサーたちが駆るジャガーノートに容赦なく、かつ瞬く間に()()されて行く。

 高周波ブレードで脚を切り刻まれ、『痛い』と叫びながら破壊された斥候型(アーマイゼ)

 砲筒の発射口に滑腔砲を撃ち込まれ、『助けて』と繰り返しながら内側から爆散した戦車型(レーヴェ)

 数機のジャガーノートに取り囲まれ、『待ってくれ』と命乞いをしながら機銃で穴だらけにされた近接猟兵型(グラウヴォルフ)

 いずれのレギオンも目も当てられないほどに悲惨な形で、見るも無残に破壊されつつある。

 

「しかし、戦域一ヶ所あたり5個師団をぽんと投入できるとは……しかも初戦だろ!?恐れ入ったね!」

 

 潤沢な資源と強固な兵站が揃っているからこそできるこの物量作戦。毛が生えた程度の訓練しか受けさせられていない操縦者、申し訳程度の安全設備がまともに機能していないお粗末な性能のジャガーノートは、数だけならレギオンを二倍以上も上回っている。

 

こっち(共和国)も大概だろ?フェルドレスの利権を手に入れてすぐに開発を始めて、やっとこさ(こしら)えたこの兵器がこんな有り様だ。つーかうるさいなレギオンの奴ら!』

 

 ちなみにインペラートル・ツーが発言した()()は今期プロセッサー全員分のジャガーノートに施されているという情報はハッタリだ。実際に改造されているのは白金種(プラティーン)たちが搭乗している機体のみ。しかも無茶な軽量化を実行したことで他のプロセッサーたちが乗るジャガーノートよりも目に見えて装甲が脆くなってしまっている。

 

「まあ数だけは豊富なんだから、文句は言えないわな」

 

 そして白金種(プラティーン)のプロセッサーたちの戦死者は、戦闘開始からすでに1時間近くが計経過しているにも関わらず未だにゼロだ。

 

あいつら(白金種)今頃、知覚同調(パラレイド)を使って何話してんだろうな」

俺たち(エイティシックス)は付いて行きながら撃ち漏らしを迎撃するのが精一杯なのに……」

「どんな訓練をしたらあんな変態機動ができるの!?」

「5歳(ぐらい)の子供とか、赤ん坊抱えたじいちゃんばあちゃんとか、妊婦までいるってどういうことだよ!」

「うわっ!また隣のやつが()られた!」

 

 一方、白金種(プラティーン)以外の白系種(アルバ)有色種(コロラータ)のプロセッサーたちは、時間が進む(ごと)に一人、また一人とわずかずつだが、確実に戦死者を増やしつつあった。

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