Eighty Six Platinum   作:御代川辰

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07 「我が方、損害僅か」

 どれほどの時間が経過したのか。ギアーデ帝国軍、ひいてはレギオンとの交戦が始まってから、戦場ではジャガーノートによるほぼ一方的な蹂躙劇が繰り広げられている。

 動力部目掛けて放たれる滑腔砲、脚を容赦なく切り刻む高周波ブレード、決して強度が低いわけではないはずの装甲を破壊する機銃、力なく倒れ伏しているレギオンを遠慮なく踏み潰す四本脚。

 恐怖と殺戮の権化であるはずの銀色の亡霊たちは、錆びて煤けた止まることを知らぬ力(ジャガーノート)に食われ、貪られ、刻まれ、破壊され尽くしている。

 それも、動員兵力の半分以上のレギオンが、たった10万強のプロセッサーが乗る機体によって。

 

「拍子抜けやなこりゃ!まさかこれで威力偵察とかやないやろな!?」

 

 東部戦線。中隊規模の戦車型(レーヴェ)を率いてこちらを砲撃していた重戦車型(ディノザウリア)(ほふ)ったばかりのナンバ・オスカーが、誰にも届かない悲鳴をあげながら面白いように殲滅されて行くレギオンたちを眺めて声を(あら)らげる。

 

『その威力偵察に10個師団とか20個師団とかの大軍を送り込んでるんだろ!しかしホントうるせぇな!』

 

 知覚同調(パラレイド)を通じて別のプロセッサーたちが答える。

 

『連中に経済なんて概念なんか存在しないわ!戦費を気にする必要もないし!ああもう!レギオンの声がうるさくて気が散る!』

 

 確かにそうだ。帝国のことだ、万一本土から遠く離れて補給が困難になっても、レギオンの維持のために必要な資源が豊富に得られる地域を自力で探し、兵力の増強ができるようなプログラムが仕込まれている可能性が高い。

 

『しっかしまあ、後ろの連中(エイティシックス)には悪いことしちまったなぁ!』

 

 ひたすらに突撃行動だけをとり、立ちはだかるレギオンたちを破壊するのみという単純かつ狂気的な戦法。

 通り過ぎるだけで次々とレギオンを討ち取る白金種(プラティーン)たちとは違い、自分たちが撃ち漏らした機体の相手がやっとな後続の86区民(エイティシックス)の方を振り返り、一人のプロセッサーが笑った。

 

『今回の攻撃の目的が、私たちの戦闘データを取るための囮作戦なら…………』

 

 赤子を胸に抱えるプロセッサーが駆るジャガーノートが、レギオンとレギオンの(あいま)を縫うように駆け抜けるとともに、一体の戦車型(レーヴェ)を破壊してそのまま走り抜ける。

 

「俺たちの戦法をそっくり真似て、レギオンは正真正銘の化け物に変わるかもっちゅうことや!ちゅうかちっと黙れや屑レギオンども!」

 

 ナンバが呟いた直後、横一列に陣を組む斥候型(アーマイゼ)が一斉に爆散した。

 

 

 

 

 

「…………凄まじいな」

 

 第1区、共和国軍本部の休憩室のモニターから戦場の様子を見ていた一人の将校が呟いた。

 驚くのも当然、白金種(プラティーン)が搭乗する機体が恐ろしい勢いでレギオンを破壊していく様は圧巻の一言である。

 

()()を指揮するのか、我々は」

 

 だが実態は?まさか最前線で戦う彼らが、自分たちも人間豚(エイティシックス)さえも見捨てて国外に逃げ出そうとしているなど、この勇壮な戦いぶりを見ているだけでは誰も気付きはしないだろう。

 自分たちが正しいと確信している行動に反対されて86区に逃げられ、自分(白系種)たちの下らない安全を守るために戦うことを嫌って更に遠くに逃げられるなど、誰が想像できるだろうか。

 

「どうでしょうね?()()からの評価次第ですから、なんとも言えませんよ」

 

 白金種(プラティーン)の将校の一人が、白銀種(セレナ)の将校の耳元で(ささや)く。

 

「まあ、希望をぶち壊される瞬間はもう迫っていますから」

 

 将校はその不気味な囁きに、この上ない悪寒を覚えた。

 

 

 

 

 

 東方戦線はギアーデ帝国と国境を接していることもあり戦闘能力の低い斥候型(アーマイゼ)は少なく、高い攻撃力と上空からの攻撃手段を有する近接猟兵型(グラウヴォルフ)、そして長い射程と防御力の高い装甲に(おお)われた巨体を誇る戦車型(レーヴェ)が多数を占めているために、他の如何なる戦域よりも多くの火花が散らされる激戦地となっていた。

 

『ちっ!また後方のプロセッサーが一人()られた!他方面の戦場でもじゃんじゃか死人が出てるんだよな!?そうだよな!?』

 

 近接猟兵型(グラウヴォルフ)が放った小型ミサイルを避けきれず、後方で一機のジャガーノートが爆破されたのを感じ取った白金種(プラティーン)の一人が思わず叫ぶが、マーシャル・スリーは気にしていないかのように答える。

 

『何、()()8()0()()()()()()()()()()じゃないか。後続に追い付かれるな、戦死者を増やすな、レギオンも黙らせろ』

 

 もっとも、数秒間に何万発とばらまかれる近距離ミサイルと自己鍛造型の戦車砲弾の弾幕を相手にして一方向突撃戦法、つまり敵中突破(島津の退き口)という無茶な戦い方を続けながら白金種(プラティーン)の戦死者をゼロ、他の86区出身のプロセッサーの戦死者を1()0()0()()()()に抑えている共和国側(白金種(プラティーン)限定)の方がある種の化け物と言えるが。

 

『まだ80人って……まさか』

『そう。全ての戦場の戦死者の総計だよ』

 

 要するにそれだけ自分たち(白金種)が撃ち漏らしたり壊し損なった敵機体が少なく、かつ(いま)後ろからついて来ているプロセッサーたちの運が良く、機体の操縦センスが優れている者が少なからず居るということだ。

 逆にレギオン側は完全に自動化されたプログラムと高度な敵味方の認識機能、そして人間を遥かに越えた正確無比な攻撃精度を有するにも関わらず、圧倒的に性能が劣っているはずのジャガーノートに絶望的な苦戦を強いられているわけだ。だが、ここまで圧倒的優勢な状況が続けば疑問を呈する者は現れるわけで、

 

『ねえ、アルゲマイン・ワン。あたしたちって……』

 

 実際に、北部方面で戦うプロセッサーの少女が呟いた。

 

 

 

 

 

プラティーン(あたしたち)って、本当に人間なの?

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