Eighty Six Platinum   作:御代川辰

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09-2 その日

 現在各方面防衛戦線には18戦区、各戦区に36個戦隊、一個戦隊の定員24名、計1万5552人のプロセッサーが在籍している。特に第一戦区には精鋭中の精鋭と呼ばれるプロセッサーたちが300人程度は集まっている。

 

 そして、彼らは激戦を極める戦場を生き延びた精兵であり、(よびな)と呼ばれる通称を与えられた戦士。その中でも特別統合戦闘部隊はレギオンとの戦争が激化する中、特に多くの戦死者が出る第一戦区の第一から第四の戦隊を再編成した混成部隊だ。

 

 その戦果たるや一人あたりのレギオン撃破数の平均が3桁にもなる実力者揃い。退役前の特別任務と称した死刑執行が間近に迫りながら、経験豊富で戦闘能力にも優れる彼らが徒党を組んで戦うのだからレギオンにとっては脅威と言えるだろう。

 

 だが、そんな怖いものなしとま で呼ばれるゲイ・ボルグ戦隊の少年兵たちにも、頭が上がらない人間は少なからずいる。

 それが────────

 

「おらシン(Shin)!【シンエイ(Shinei)ノウゼン(Nouzen)】!」

「こらエド(Ed)!また無茶したでしょ!」

アーサー(Aether)少尉、クァランコーザ(Qualuncosa)少尉、アニーロ(Anillo)少尉、説教をするからこっちに来い!」

「よくもっ……よくもまた機体を壊したなぁっ!チャコール・ストーヴウゥゥゥゥ!」

 

 歩行戦車、ジャガーノートの搭乗員である以上搭乗者を支える人物がいる。その支える人物たちと言うのが整備士、彼らにとって最も恐ろしく最も尊い人物なのだ。

 

「脚回り(よえ)ぇんだから無茶すんなってあれほど言ったのにまたこれか!今月に入って三度目だぞ!」

 

 スピアヘッド戦隊の整備士長、【レフ(Leff)アルドレヒト(Aldrecht)】が僚機の脚を壊したシンを怒鳴りつけ、

 

「また関節とフックワイヤーをダメにしたわね!直すの大変なのに何度言ったら分かるの!」

(わり)い……アル(Al)を庇って、つい……」

 

 ロングランス戦隊の整備士、【ウィンリィ(Winry)ロックベル(Rockbell)】がスパナを片手に【エドワード(Edward)エルリック(Elric)】に詰め寄り、

 

「お前たち三人は何をどうしたらキャノピーの蓋があんなにボロボロになるんだ!」

「いや……なあ?」

「うん……まあ……」

「突撃して攻撃が直撃したからとしか言い様がないが」

「お前らホントそういうとこだぞ!マッチロック(Matchlock)さんに申し訳ねぇだろ!」

 

 スロウジャベリン戦隊の整備士長、【ヴァルカン(Vulcan)ジョゼフ(Joseph)】が【クァランコーザ(Qualuncosa)アントディソン(Untedesonn)】、【アーサー(Arthur)ボイル(Boil)】、【アニーロ(Anillo)ホットテーブル(Hot'table)】の三人を諌め、

 

「忠告を破って高周波ブレードを壊すとはどういう料簡だ貴様あァァァァ!万死に値するうウゥゥゥゥ!死ねええええチャコール・ストーヴウゥゥゥゥ!」

「すみません!すみません!すみません!」

 

 そしてチャコール・ストーヴは怒髪天を衝くを体現した状態のパイクブレード戦隊整備士、【フィアルマ(Fierlma)スティレイダー(Steelaygdur)】に追いかけ回されている。

 

「相変わらず怖ぇな、フィアルマ()()…………」

 

 戦隊基地を縦横無尽に走り回り文字通り必死になって追いかけっこを行うチャコールとフィアルマの二人の様子を見て、浅黒い肌が特徴のスピアヘッド戦隊員【クジョー(Kujo)ニコ(Nico)】は顔を蒼くして呟く。

 

「あんな状態のフィアルマさんに追いかけ回されたらと思うと…………私なら確実に失禁する。間違いない」

「生理現象とはいえ女の子が言っていいことじゃないわよ」

 

 【カイエ(Kaie)タニヤ(Taniya)】も蒼白になった顔で呟くが、【リザ(Liza)ホークアイ(Hawkeye)】が静かに突っ込みを入れて落ち着かせた。こうしてしばらくの(あいだ)風にあたりながらシンエイたちエース組と整備士たちの様子を眺めていると、不意にクジョーがリザに尋ねた。

 

「……リザさん」

「何?ニコくん」

 

 リザは振り向くことなく少年に答え、一方のクジョーも少し躊躇(ためら)いを含んだ口調でリザに問う。

 

「関係ない俺が聞くのもおかしいけど……南方黒種(アウストラ)ってやっぱり怖いイメージですか?」

 

 クジョーの問いに、リザは少し身震いした。クジョーの言う南方黒種(アウストラ)とは、ギアーデとの戦争が始まる一年前の出来事に関わる国の住人たちのことだ。

 ギアーデ脅威論が広まりつつあったサンマグノリア共和国が、自国のちょうど南に位置するイシュヴァール国侵攻に際し多くの士官候補生を動員したことで、リザは戦場の非情な現実を見せ付けられることになった。

 

「ええ……何度も殺されかけて何人も殺したから……今でもニコくんや傷の男(スカー)とは目を合わせるのが怖いわ……」

 

 教育課程の修了まで半年もあった士官学校を強引に卒業させられ、訳もわからず戦場を駆けずり回らされたことを鮮明に記憶している。

 血肉と火薬の(にお)い、地雷や防弾の爆発音、あちこちで立ち上る火柱と煙、何より銃の引き金を引く瞬間の衝撃。

 全てが恐怖を刺激するものだった。サンマグノリア共和国という国の現在まで続く狂気は、あの戦争から始まったのかも知れないとリザは一人(うなず)く。

 

「人間を相手にして殺し合う機会がが少なくなった分、今の戦争のほうが幸せかも知れないわね」

 

 リザが呟いた直後、足音が響く。

 

「何をしているのかね?」

 

 クジョー、リザ、カイエの背後から眼帯を着けた初老の男、ロングランス戦隊の戦隊長を務める【キング(King)ブラッドレイ(Bladray)】が姿を現した。

 

「タニヤくんとホークアイはともかく、ニコくんはこんなところでぼんやりとしていられる性質(たち)ではなかろうに」

 

 ブラッドレイはこう続け、そして右の方向に人差し指を向ける。三人の男女がブラッドレイの指差す方向に視線を移すと、所属部隊の垣根を越え、老若男女入り乱れてドッジボールを楽しむ同僚たちの姿が目に映った。

 

「そしてホークアイくん、君は少しばかり暗く考え過ぎる。平和を楽しむことを考えて心労を(やわ)らげておきたまえ。過去の恐怖に囚われ続けていては、マスタング(Mustang)くんが心配するぞ」

 

 (いか)つく威圧感の強い強面(こわもて)に似合わない、明るく穏やかな笑い声が黙ったままの三人の鼓膜を刺激する。

 

「さて。私は報告書を纏めておかねばならんのでな、夕餉(ゆうげ)の時間になったら私を呼ぶように伝えてくれたまえ」

 

 そして、ブラッドレイはかっかと笑ったままその場を後にした。




エドワード・エルリック(Edward Elric)
出展:鋼の錬金術師\エドワード・エルリック
金髪・金眼で肩より長い髪を三つ編みにした少年。
人種は古代金種(カーサフィニオ)茶麦種(ティーブラウン)の混血で、父の血が色濃く出た。

ウィンリィ・ロックベル(Winry Rockbell)
出展:鋼の錬金術師\ウィンリィ・ロックベル
金髪・青目で長髪をポニーテールにしている少女。
人種は真金種(ゴールデン)青玉種(サフィール)の混血。

クァランコーザ・アントディソン(Qualuncosa Untedesonne)
黒髪、赤目の青年。
容姿は[炎炎ノ消防隊]の森羅日下部。
人種は極東黒種(オリエンタ)極東紅種(クリムソン)の混血。

アーサー・ボイル(Arthur Boil)
出展:炎炎ノ消防隊\アーサー・ボイル
金髪と空色の目の青年。
人種は真金種(ゴールデン)濃蒼種(デンスブルー)の混血。

アニーロ・ホットテーブル(Anillo Hot'table)
黒髪をツインテールにした赤目の少女。
容姿は[炎炎ノ消防隊]の環古達。
人種は黒鉄種(アイゼン)紅焔種(パイロープ)の混血。

リザ・ホークアイ(Liza Hawkeye)
出展:鋼の錬金術師\リザ・ホークアイ
長い金髪、黒目の女性。
人種は真金種(ゴールデン)

キング・ブラッドレイ(King Bladray)
出展:鋼の錬金術師\キング・ブラッドレイ
短く切り揃えた黒髪、右目が黒目、眼帯で隠す左目が赤目の初老の男。
人種は墨炭種(アトラーメント)だが中途半端な形で先祖返りを起こしており、左目だけが赤目。
先祖の人種は不明。
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