Eighty Six Platinum   作:御代川辰

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09-4 兄弟への伝言

「シンは……兄弟に生き残りがいる僕らを……その(うらや)ましいとか思わないの?」

 

 ロングランス戦隊員【アルフォンス(Alphonse)エルリック(Elric)】が開口一番にシンエイに向けた言葉は、自分たちの兄弟を(うらや)む心の有無を問う疑問だった。シンエイは彼の問いに少し悩みながら答える。

 

「…………(うらや)ましくない、と言ったら嘘になる」

 

 表情を変えることがとても少ないシンエイが珍しく物悲(ものがな)しげな表情を浮かべているのを()の当たりにしたエドワードとアルフォンス。

 当然というべきか、二人はシンエイの表情の変化に驚きを隠せない。

 

「引き摺ってんだな……レイ(Rei)さんのこと」

「ああ……後悔してる」

 

 今シンエイが思い浮かべているのは他でもない、たった一人の兄であるショーレイ(Shorei)ノウゼン(Nouzen)面影(おもかげ)だ。

 幼い頃に見た笑顔は16歳となった今もなおしっかりと記憶に残っているが、何より忘れられないのは……

 

(最後の最後で、仲違(なかたが)いをしたまま兄さんは()ってしまった…………)

 

 激化するレギオンとの戦いで両親を失ったことで精神的に追い詰められ、その怒りの矛先を自分に向け殺しにかかった兄の憎悪に満ちた表情。幼い頃から見て来た穏やかな表情からは想像できないほどに歪んでいた顔であったことを、シンエイは鮮明に記憶している。

 

「…………一番の大事(おおごと)は、何もできないまま終わったと思ってたらまだ続いてたってこと、そしてシンとレイさんの身に起きたことがまた起きそうだってことだ」

 

 エドワードはこう続けると、窓の方に親指を向ける。

 罅割(ひびわ)れたガラスた窓の外には、傾いてはいるもののまだ高い位置で輝いている太陽が見え、その下にはドッジボールをして遊んでいる戦隊員たち。

 しかしその直ぐ近くには、怒り心頭だと分かる不機嫌な表情をしている白系種(アルバ)の男が困り顔の黒系種(アクィラ)の少年から逃げるように兵舎へと向かって行く姿があり、だがどこか悲しい気配を纏っているような印象が垣間見える。

 

シュン(Shun)ネイト(Nate)か……」

 

 外見の特徴こそ決定的に違うが、実はこの二人は血の繋がった兄弟である。顔中傷だらけで常に怒っているような顔の白系種(アルバ)が兄の【ネイト(Nate)シナトラ(Sinatra)】。

 顔に傷があるもののどこか優しげな印象を感じさせる黒系種(アクィラ)が弟の【シュンカー(Shuncer)シナトラ(Sinatra)】だ。

 この二人は幼少期の経験から確執が生まれており、今もなお仲違いのほとぼりは冷めていない。

 

「なんとかしてあげたいけど…………僕たちが迂闊(うかつ)に干渉すれば一生涯続く因縁になりかねないから」

「…………ああ、そうだな」

 

 アルフォンスの言葉にシンエイが答え、もう一度窓の外を見やった時には、もうネイトとシュンカーの二人の姿はなかった。見えるのはいまだにドッジボールをして遊ぶ戦隊員たちの姿だけ。

 その様子を見届けた三人が(しばら)く会話をせず、各々(おのおの)銃の調整や弾薬の確認をして過ごしていたところに、イズミが入って来た。

 

「エド、アル、ちょっといいかい?」

 

 扉が開く音とイズミの声に、エドワードとアルフォンスは振り向いた。

 

「「師匠(せんせい)!」」

 

 エドワードとアルフォンスは同時に返事をし、シンエイも作業を止めて顔を上げる。一方彼女の方は深刻でも急を要するというわけでもないようだが、どこか不安げだ。

 

「悪いねシン、二人を借りてくよ」

「どうぞ。作業に差し支えはないので」

 

 短く答えて部屋を後にする三人を見送った後、シンエイは再び手元に視線を落とし拳銃の調整を続けていた。

 

 

 

 

 

 一方イズミに呼び出されたエドワードとアルフォンスの二人は、人気(ひとけ)のない兵舎の裏まで移動していた。イズミの晴れない表情から、決して良い内容ではなかろうということは読み取れる。

 

師匠(せんせい)、話ってなんですか?」

 

 アルフォンスの問いに、力なく静かに答えた。

 

「前々からお前たち二人に伝えようと思って、忘れてたことなんだけどね…………」

 

 イズミは諦めにも似た、どこか曇った声色(こわいろ)で続けた。

 

「…………先週、ニーナ(Nina)が亡くなったって…………」

「えっ……?」

「そんなっ……」

 

 強制収容所に(とど)まっている医師、【ティム(Tim)マルコー(Marcoh)】からイズミ宛てに届いた手紙によると、ニーナ(Nina)タッカー(Tucker)の死因は栄養失調による餓死。それも十日以上に渡って必要分の栄養を得られなかった上、その日収容所内の視察のため訪れていた白系種(アルバ)の若い将校数人に殴る蹴るなどの暴行を受けたという。

 

 止めに入った有色種(コロラータ)も十人近くが殺され、医師であるマルコー自身も左足を骨折する重傷を負った。

 だがニーナを治療をしようにも薬剤や道具などがほとんどなく、骨折した胸骨が心臓に刺さっていたこともあり一時間と待たずこの世を去ったらしい。

 

「クソッ!こんなことがあるかよ!」

「…………酷すぎるよ…………同じ人間なのに……っ!」

 

 人ができるとは思えない非道な行いに、少年二人は怒りを(あらわ)にする。半年間だけとはいえニーナとは本当の兄妹のように過ごした仲であるエドワードとアルフォンスは、改めて人間という生き物の醜悪な一面を痛感していた。

 

「…………だけど」

 

 アルフォンスが顔を上げた。

 

「悔しいけど……この手紙に書かれてるような(みにく)い側面があるからこそ、僕たちは人間なんだよね」

 

 肯定するようにエドワードも呟く。

 

「…………認めたくはないけどな…………」

 

 一方のイズミは二人に背を向けていた。

 

「ごめんね、こんな形で悲しいことを思い出させてしまって……」

「いいんだよ師匠(せんせい)。辛いのはお互いさまだから」

 

 見上げれば、傾いた日の色は(だいだい)色に染まっていた。




アルフォンス・エルリック(Alphonse Elric)
出展:鋼の錬金術師
長い金髪、くすんだ金の瞳の少年。
人種は古代金種(カーサフィニオ)茶麦種(ティーブラウン)の混血だが、父親の血が濃く出た。
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