Eighty Six Platinum   作:御代川辰

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02 どうせ生かして帰さぬつもり

 サンマグノリア政府主導の非白系種(コロラータ)隔離政策が実施され、早くも三日(みっか)が経過した頃の昼間。自らの意思で86区に移住することを決めた軍民合わせおよそ11万人もの白金種(プラティーン)たち。

 彼らはサンマグノリアの政策に対する抗議も兼ねて、足腰の立たない老人から生まれたばかりの赤ん坊までもが真っ黒な服に身を包み、四方八方に向かい長蛇の列を成して行進していた。

 その異様な光景はまさしく喪服に身を包んだ音楽隊の行進。彼らにとっては最初で最後の、横断幕を掲げてのデモ行進である。ちなみに横断幕には「滅びよ悪魔の国」、「白い肉塊に死を」、「魂なき脱け殻は地獄へ向かえ」、「我ら人なり。されど肉塊にあらず」などと書かれている。

 

「いくら彼ら(白金種)の意思とはいえ……7万9000人以上もの将兵が一斉に退役するのは痛手だな」

 

 サンマグノリア共和国大統領は、86区に繋がる大通りを進む白金種(プラティーン)たちの姿を見てため息を吐いた。白金種(プラティーン)はその人口として見れば共和国総人口の1%より少ない少数派だが、その従軍率は異常と言える程に高く共和国軍の総兵力のおよそ12%、実に8万人という数を占めていた。

 その軍隊の一割強を独占する民族である将兵たちの更に95%以上が一斉に辞表を叩きつけて、そして家族や非戦闘員を引き連れて自ら国外に逃げ出すのだから、共和国民にとっても政府の上層部にとっても頭が痛い案件である。

 

「有史以前…………十万年以上に渡って住み続けた土地から、自ら離れるという形で追い出されるか…………」

 

 迫害された有色種(コロラータ)の名誉を守るために86区民(エイティシックス)となるべく────あるいは真の自由を勝ち取るべくサンマグノリアを後にしてレギオンの支配領域に旅立つため────巨大包囲防衛要塞群(グラン・ミュール)建設予定地を目指して行進する同胞たちを眺めながら、コーヒーを片手に静かに呟いた青年がいる。

 彼は共和国に残ることを選んだ1927人という決して少なくない人数の白金種(プラティーン)の一人である、共和国軍将校【クガンド(陸人)ウィザリア(Wizaria)】大佐だ。

 

「今後、()()()とも()()()ともつかない群れ成す亡霊(レギオン)の大軍を……たった一人で相手にしなければならないかもしれないのに」

 

 クガンドの、(はかな)くも(つたな)い一言は、誰に聞こえるでもなく、誰に語るでもない静かな独り言として消えていった。

 

 

 

 同じ頃の86区北方。雪が降りしきる寒空の中、グラン・ミュールに程近い地域にある第109強制収容所。ここはさすがの当局も扱いに困ったらしい白銀種(セレナ)深雪種(ディープスノウ)純白種(ヴァイゼン)真珠種(パール)など、多数派(マジョリティ)少数派(マイノリティ)を問わない白系種(アルバ)86区民(エイティシックス)を収用する特別施設。

 そこにいるのは被差別民の中でも()()()素行(そこう)や態度のいい人々が多く収容されている。

 

「バルさん、フェルさん。あんたたち箸の持ち方間違えてるよ」

 

 収容所の食堂で昼食を取るフェルベールとフェルディナンドは、白系種の最大多数派純白種(ヴァイゼン)の少女【ネイリス(Neyllis)シューディット(Shueditte)】に箸の持ち方を注意されていた。

 

「いや……俺たち和食食べるの初めてだし」

「ペンを持つ要領って言われてもなぁ」

 

 皿に盛り付けられた鮭の塩焼きや卵焼きを、箸で器用に切るネイリスとは対象的に茶碗に盛られた麦飯さえも掬えないフェルベールとフェルディナンド。

 外交官夫妻の娘として両親に連れられて様々な国に(おもむ)くことが多かったネイリスは、異国の文化に触れる機会も当然ながら多くあった。食事に限ったことではなく、言語から文学と言った伝承も含めて。

 

「まあ、ゆっくり慣れるのが先決だから」

 

 二人にそう言って、ネイリスは梅干しを一つ箸で麦飯とともに口いっぱいに頬張る。

 

今後のこと(強制徴兵)を考えれば、今の収容所暮らしが一番幸せかもな)

 

 少食であったこともあり一足先に食事を終えたフェルベールは、ふと思い出した雪中行軍をテーマとした軍歌を歌いながら食器を洗い場に戻しに向かった。

 

(ゆき)ぃの進軍(しぃんぐん)氷を踏んで、どぉこが川やら道さえ知れず~う……」

 

 そして、彼が気紛れで唄った歌はその場にいた全ての白系種(アルバ)86区民(エイティシックス)に聞こえていた。

 

 

 

 

 その日よりフェルベールには“軍歌のお兄さん”という愛称が着き、フェルベールが歌った軍歌が瞬く間に86区の住民たちに広まったことで、全国のプロセッサーたちは出撃前、起床直後、就寝前に必ず軍歌を歌う習わしができたという。

 どうせ、白豚(白系種)たちは自分たち(86区民)を生かして故郷に帰すはずなどないのだから。




登場曲名:雪の進軍
作詞・作曲:永井建子
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