「ズルいよそんなヒーローにならないなんて!」
多分この時だ。
「僕はなりなくても無理なのに!」
こいつのこの一言が原因だ。
「なんで双子なのに」
ヒーローなんてこの世にいないと確信したのは。
「お前だけ個性があるのさ!」
こんな世界ぶっ壊れてしまえと思ったのは。
「ズルいよ入久」
コイツラが化け物にしか見えなくなったの。
「ズルいよ!」
ああこんな世界、ぶっ壊れてしまえ。
個性という暴力を肯定する世界に馴染めない少年は世界を呪う。
個性を妬む双子の片割れを冷めた眼差しを向け、自身の末路と救いのない人生に諦観する。
ヒーローの存在を間違いだと思わない、誰かを救うことが素晴らしくない筈がない。
けれど自身に救いはない。
けれど彼は救われない。
けれど彼は受け入れられない。
ただ、ただ人を傷付けたくないだけなのに、
暴力を個性を振るいたくないだけなのに、
彼の旅路を取り憑いた八ツ頭の炎竜が見つめる。
その生涯を見届けるかのように。
「雄英高校ですか?」
中学三年の進路相談、それを親でも教師でもなくヒーローに、しかも万年ナンバー2ヒーローエンデヴァーにするとは自分の特殊極まる状況に笑いすらこみ上げてくる。まあ実際は相談ではなく命令だが。
「そうだ火影、貴様は焦凍と共に雄英高校に進学しろ」
仕事中じゃないからヒーローネームはやめろと思うがこの人に緑谷入久という本名で呼ばれることは極稀。
そのうえこの上昇思考以外はポイ捨てしてる燃え親父の発言は絶対、ましてや契約で従っている自分にはなおのことだ。
「よろしいので?同じ学校ではご子息と戦うことになりますが」
色々な意味で最悪な関係であるご自慢の最高傑作。
同じ学校なら顔を合わすし、その度に喧嘩売られても気分が悪い。
その境遇にこそ同情するが、敵意向け続ける輩に好意を持つなんて無理な話だった。
「構わん、その際は叩き潰せ。貴様は焦凍の壁となり成長させる糧となれ」
息子の護衛じゃなく当馬ね、本当に目的以外はどうでもよいんだなこの人。
「承知しました、エンデヴァー。ご子息が再起不能にならぬようケアはよろしくおねがいします」
精神面は知らん。
彼の成長とかもどうでも良い。
俺に必要なのは、この事務所の耐熱演習場だけなのだから。その使用権がある限り、エンデヴァーの権力で特例で取得したヒーロー資格でサイドキックをやるし。
倍率の高い雄英高校にも入学してやる。
関わりたくないヤツの壁となって戦ってやる。
全ては自分に取り憑いた炎の亡霊、八竜を従えるために。
そして俺は二度と会いたくなかった、無個性だったはずの兄と再会するハメになる。
そもそも会うと想定してなかった相手。
年に数回帰る実家でも避け倒し顔を合わすことのなかった少年、緑谷出久と。
(引き受けんじゃなかった、拒否権ないけど)
さらにはうっとおしく絡んできていた幼馴染に、雇い主のご子息、仕事で面識もっちまった御令嬢とやたらと話しかけてきたヒーローの弟。
(全員同じクラスとかマジかよ)
せめて双子は別クラスにするのが普通だろうに。
20名のクラスメートに知り合いが多いわ。
これからの学校生活は不安しかなかった。