八竜を継ぐもの   作:規律式足

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2話

 

 切り刻まれた男から香る血の匂い。

 焼かれた女から漂う肉の匂い。

 向けられる恐れの感情すら心地よく。

 彼はただ歓喜した。

 興奮しながら腕に巻きつけた刃を振るい、炎を撒き散らした。

 見えぬ眼を布で覆い、眼球でこさえたネックレスを首に巻き、興奮のまま叫びをあげた。

 あまりにリアルな感覚に、断ち切る肉の感触、香る匂いにこれが夢だと思うことができず。

 それが自分だと思い恐怖した。

 これが自分の内面なのだと嫌悪した。

 

 苦しむ幼い僕を単眼を閉じた炎竜が包みこんでいた。

 

 

「個性把握テスト!」

 入学式やらガイダンスやらより授業優先。

 個人的にはタルい行事をやるよりありがたいが、後に必要なことを言ってたりしないだろうか。

 教室に入って、関わりたくない連中の存在を把握したが、既にそれぞれ話をしていたことと気配を絶っていたため存在を悟られることはなかった。まあ出久に関しては顔見ても分からんかったが会話から素性を把握した、数年ぶりの再会にはあまりにも無味乾燥としているな。

母には書類の関係で雄英高校入学は伝えてあるが、出久が嫌で全寮制の学校に小学生の頃から半ば家出同然の形で通っていたため、母から出久に伝えてないのだろう。

 物心がつく以前から八竜が一匹刹那の生涯を追体験させられてきたため、年相応とは程遠い精神年齢の不気味な存在ではあったのだし。

 担任である相澤消太の指示に従い、グラウンドにでて八種目をこなす。

 名前の読み上げで初めて俺の存在に気づいた連中を尻目に全種目を高水準でこなす。

 たかが身体能力といえど、八竜全ての戦国時代の異能持つ忍び集団の記憶を追体験した俺は人体の構造を把握し最適な動きを経験として熟知している。さらにエンデヴァー事務所での訓練と実務、耐熱演習場での八竜の屈服などから、増強系にも劣らない地力がある。

 たかが学生に遅れを取るか。

「テメェなんのつもりだ」

 胸ぐら掴みかかる少年の名は爆豪勝己。

 爆発したかのような髪と鋭い眼が特徴の幼馴染。元よりガキ大将気質な乱暴者であったが、個性診断からより増して無個性だった出久に横暴に当たるようになった。反面当時はただ炎をだす程度だった自分を相棒の如く扱い、共にヒーローになろうと友人のように接してきていた。それがまた出久との間に溝をこさえた要因なのだが個性診断とその後の自分の発言でマリアナ海溝レベルの溝があったため誤差の範囲か。

 精神年齢がトチ狂っていた自分を友人と呼ぶ希少な存在ではあったが、個性という暴力を振るうことに躊躇いがない点で嫌悪感を抱き、家をでることそのものを伝えていなかった。

「久しぶりといえばよいのか?」

「んなこと聞いてねえんだよ!」

 怒鳴る爆豪に平然とする俺、止めようと近づいてくるのは入試で同じ組み合わせだった連中、憎悪に等しい眼差しのぼっちゃん、愕然とした兄。担任に至っては俺が既にプロヒーローだと知っているからか呆れた表情だ。

「なんで突然姿を消した!なんで何も言わなかった!」

 悲鳴のような叫びに返す言葉はない。

 家をでたのは出久が嫌だからで、何も言わなかったのは伝える発想がなかったから。

 当時の俺はまだ刹那の記憶の追体験を正確に理解しておらず、ただ暴力への怯えしかなかった。その暴力である個性を使えと言う出久とその暴力である個性を使う勝己の存在が苦しくて仕方なかった。

「除籍されたいのか、早く戻れ」

 友人でいてくれた感謝はある、だが向き合う余裕はない。それが本音だ。

「チッ」

 担任の視線に気付いたのか乱暴に手を離し種目へと戻る。俺の存在だけではなく無個性の出久がこの場にいることも癇に障っているのだろう、イライラしているのが見て取れた。

「大丈夫?」

 耳たぶが長い、確か入試で助けた時耳郎と名乗った少女に声をかけられる。

「問題ない」

 チワワに噛まれた程度のものと続ければ「あんなチワワありえないっしょ」と笑い出す。

「知り合いなの?随分喧嘩腰だったけど」

「何も告げないで消えた友人と再会したら怒りもするだろう」

 うわー、とあきれた様子の彼女だがそれ以上は聞いてこない、事情があると察したのか追求してこないのはありがたい。まあ素の身体能力で高記録を多発している俺と違い個性と種目を噛み合わせられない彼女はあまり余裕はないからでもありそうだが。

「おい、緑谷弟」

「なんですか先生」

 あっちが弟!!

 とにわかに周囲が騒がしくなるが失礼な、見た目からして血縁を疑うべきだ。

「次の種目では個性を使え」

 第5種目ボール投げ。

 使わずとも高記録はだせる、火影はリアル忍び手裏剣術はお手の物だ。

「お前の個性は通達されてる、プロヒーローならそれ相応の記録をだすんだな『火影』」 

 でなければ除籍だと言外に告げる担任。

 現時点でもトップであるのにこの扱い、プロヒーロー在籍に不快感でも抱いているのか。

 そして現最年少ヒーロー、エンデヴァー事務所の特例資格保持者であるヒーロー名をバラされより周囲は騒がしくなる。囲い込みと息子への煽り、ただそれだけのエンデヴァーの事情のためだけにサイドキックにされた身としては気分はよくないのだが。

 ボールを構え投げる。それだけでラクラクと大半の生徒の記録を超える、だがそれだけでは除籍だ。

「竜之炎参式、崩」

 人差し指で崩の字を描き名を呼ぶ。

 そういえば、精神世界で手裏剣術の手解きはこいつがしてくれたっけ。

 一瞬見えた竜の姿とおびただしい数の火球、それらは精密に操作され投げられたボールに当たり続ける。流石に∞のような無茶な記録にはならないが最高記録を叩きだした。

「これで良いですか先生?」

 ∞でなければ除籍とは言われてないが、個性を用いた高水準な記録であるのは確かだ。

「ああ問題ない」

 2回目は不要だと告げられたためその場から離れた。

 次は出久の番か、無個性なのに入学できたのは凄いけど除籍だろう。厳しいが現場はこんなものではない、取り返しのつかない状況というプレッシャーを与える相澤先生のやり方は厳しくもやさしく合理的だ。

 

 

 なんだアレは、なんだアレは!!

 なぜアイツが個性を使える、なぜアイツが個性を持っている。アイツはないから責め立てたのだろう、アイツはないのだからヒーローに成れと迫ったのだろう、アイツはないから、アイツは個性を持っていないから、俺を苦しめ続けたのだろうが!!

「おい、どうしたんだよ」

「ちょっと大丈夫」

 尋常ではない様子の俺に心配してくるクラスメート、出久の方へ飛びかがる爆豪を見ている者もいる。

 アイツへの追求は爆豪がしてくれている、有り難い俺も行く所だった。問いただしたいのはこちらも同じ。しかしなんで個性が、見た所増強系、糖分摂取や服を脱ぐことが発動条件になる場合もある以上発動キーが分からなければ無個性扱いな事例はないわけではない(それでもレントゲンによる確認で無個性かは判明するが)

 だがそれでも増強系で自傷などそうありえないのだがまるで体に合っていないような。まるで後天的に植え付けられたような?もしや、

「オールフォーワン?」

 その都市伝説を知った時から探し続ける存在、個性を奪い与えると言われたヴィラン、そして俺にとっての唯一の希望。エンデヴァー事務所にですら碌な情報のないソレが出久に個性を与えた?ありえる話だ、あれだけ個性を渇望するヤツが欲しがらぬ訳がない。ならばオールフォーワンは都市伝説ではなく実在し、今もまだ生きている。

「ははははははは」

 希望が見えた、その手がかりがある。

 抑えきれない思いが笑い声を止められない。

 伝説のヴィランとも魔王とも言われる存在が全うな理由で手駒をヒーロー育成機関に放つ筈がない、だからこそ時期を見る。出久がオールフォーワンの命令で、ことを起こす日を見定め捕らえ、なんとしてもオールフォーワンとの接触を果たす。そのためなら手段を選ばない。

 ただその時、オールフォーワンの名前に反応した少年の存在に俺は気付くことがなかった。

 

 

 

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