破壊神のフラグ破壊   作:sognathus

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アズマリアはビルス達をロゼットとクロノに直接会わせる事にした。
少し波乱の予感はしたが、それでもお互いが敵でないことくらいは理解させておかなけれればならない。
その為に自分から仲介役を買って出たのだった。


第3話 二人の幸せ

「あ、悪魔!」

 

開口一番ロゼットはそう叫んだ。

予想通りの反応過ぎてそんなに慌てることはなかったが、この後の展開はちょっと予想外だった。

 

「落ち着いてロゼット。この人は悪魔じゃないよ」

 

興奮しているロゼットをいつものことのように慣れた様子でクロノが宥める。

 

「そうです! 多分、ですけど……」

 

「なんで連れてきた本人が半信半疑なのよ」

 

「それは僕も知りたい」

 

「悲しいですねぇ……よよよ」

 

「え、あの……その」ワタワタ

 

自分は何故こうも無意識とはいえ、変なところで余計な事言ってしまうんだろう。

アズマリアは自分の迂闊さを再び呪った。

 

「ま、まあアズマリアもわざと言ったわけじゃないみたいだし、いいじゃないか」

 

「そ、そうです。わざとではありません! ビルス様、本当に失礼しました!」ペコ

 

「ほう、悪魔とは思えない気の利いたフォローだね。君、本当に悪魔かい?」

 

「え、ええ。まあ……」

 

自分が話し掛けられるとは思ってなかったのか、ビルスから声を掛けられてクロノは少したじろいだ。

ロゼットはその光景を見て妙な違和感を感じた。

 

おかしい。

クロノは正真正銘の悪魔なのに目の前にいる悪魔に対しては、態度がどうもぎこちない。

クロノはやむ得ぬ事情だったとはいえ、同じ仲間である悪魔を裏切った咎人だ。

そんな彼が敵ではないかもしれないとはいえ、同じ悪魔に対してそんな態度をとっていることがロゼットにはどうも腑に落ちなかった。

 

「そういえばクロノ、あなたこの目つきの悪い猫みたいなのが悪魔じゃないとか言ってたわよね? どういうこと?」

 

「目つきが悪い……」ヒクッ

 

「ぷっ」

 

「ロ、ロゼットさん!」

 

ビルスがロゼットの口の悪さにひくつき、ウイスがそれにウケ、アズマリアが事態の悪化に涙目になる、という三者三様の反応を見せる中、クロノはロゼットの疑問に戸惑いがちに答えた。

 

「うん。そうだよ。この人は間違いなく悪魔じゃない」

 

「どうしてそう言い切れるわけ?」

 

「この人からは悪魔の気配どころか、生き物としての気配そのものを感じないんだ。目の前にいるのに何も感じないなんて、こんな事……初めてだよ」

 

ロゼットはクロノの言葉を聞いて、すぐにビルスを振り返った。

悪魔にしか見えないがそうじゃない。

だとしたら何?

 

「アズマリア、僕から自己紹介するとまた面倒な事になりそうだ。取り敢えず、この二人に何をしたらいいのか教えてくれるかな」

 

ビルスはロゼットに見つめられると面倒そうに顔をそらした。

どうもこういう話を聞かないタイプは好きじゃない。

 

「ロゼットさんをクロノさんとの契約から解放してあげてください」

 

「アズマリア!?」

 

「なんだって!?」

 

アズマリアの言葉に二人は驚愕の表情で彼女を見た。

 

「ほう。この子が首からぶら下げてるの、これが契約の証か」

 

「そうです。クロノさんはロゼットさんと一緒に戦い、力を解放するたびに彼女の寿命を消費してしまいます。このままでは、ロゼットさんは……」

 

「ちょ、ちょっと何勝手な事言ってるのよ! これはわたしの意思なの! 後悔なんかしていないわ!」

 

アズマリアが発言を言い切る前にロゼットが凄い剣幕で割り込んできた。

 

「それでも……例えそうだとしても! 私は貴女に、生きて欲しいんです! 生きて……クロノさんと一緒に幸せになって欲しいんです!」

 

対するアズマリアもロゼットの身をどれだけ案じているかを、ついに涙を滂沱の如く流しながら彼女に叫び、訴えた。

彼女には絶対生きてほしい、生きて、絶対にクロノと幸せになって欲しい。

この願いだけは譲るつもりはなかった。

 

「ア、アズマリア……。し、幸せってそんな……」カァ

 

「え? え? 僕とロゼットがそんな……」ワタワタ

 

アズマリアの二人で幸せになって欲しいという願いに、ロゼットとクロノは即座に言葉を失い、顔を赤くした。

そう、こんな顔を私はこれからもずっと見続けたい。

 

「ふーん。ま、確かに壊すのは簡単だけどさ、でもこれを壊したところで彼女の寿命は戻らないよ?」

 

ビルスはそんなやりとりを全く気にする風もなく、ロゼットの懐中時計を眺めながらそんな事を言った。

 

「……っ!」

 

「……っ」

 

クロノとロゼットは互いに一瞬辛そうな顔をした。

もう何度か使ってきただけに理解はしていたが、それでも失われた時間が二度と戻らないと改めて指摘されるのは心にくるものがあった。

 

「それは、知っています。でも、それでも……」

 

「まあ落ち着いてください。アズマリアさん、ビルス様が言いたいのはその奪われた寿命もあなたの力と同じ様に、この世界の神を破壊すれば戻ると言っているんです」

 

「なっ!?」

 

「神を……破壊……!?」

 

ウイスの言葉に、ロゼットとクロノは信じられないという表情で絶句した。

 

「ウイス」

 

「畏まりました」

 

もう説明するのは面倒になったのか、ビルスは自分からは特に何も言う事もなく先程アズマリアに見せた映像をクロノ達に見せながら要点を説明するようにをウイスに命じた。

 

そして――

 

 

 

「……なるほどね」

 

「……」

 

初めは半信半疑だった二人もウイスの説明を聞くうちに段々と静かになり、今では話に聞き入っていった。

そんな二人の様子にアズマリアは安堵のため息を漏らす。

 

「……ほっ」

 

アズマリアの予想に反して二人の反応は意外に冷静だった。

ロゼットは最初は激しく抵抗していたものの、ウイスに映像を見せられ説明を受けている内に次第に静かになっていき、クロノに至っては少し前のアズマリアと同じくこの世の終わりの様な絶望的な表情をしている。

 

「それでアズマリアは、ビルス……様に神様を破壊してもらおうとしてるわけね」

 

「そうです」

 

「んん? 意外に理解が早いね。正直、君はもっと抵抗すると思ってたよ」

 

「そりゃ、あんなものを見せられたらね。ある程度は信用もするわよ。それに」

 

「?」

 

「あなた怖いもの。話してて、その言葉の全てが純粋というか、邪気がなくて……。何に対しても遠慮がない感じがした」

 

「ほう。君は見た目よりずっと勘も冴えてるね。こんなに早く事実を受け入れるなんて思ってなかったよ」

 

ビルスはロゼットの言葉に気を良くしたのか彼女の聡明さを褒めた。

 

「ふんっ。褒めてるのか貶してるんだか」

 

対するロゼットもこの子供の様な神との接し方を心得てきたようで、ビルスのその皮肉の様な褒め言葉にも言い返すことなく、自然体で応じた。

 

「あの……ビルス様……」

 

「ん?」

 

「これは……本当なんです、よね? だとしたらアイオーンがやろうとしている事も……。はは、間違っていたのは僕らだったのか……?」

 

クロノはそんなロゼットとは対照的に、最初からこんな調子だった。

しかしそれは、彼が今まで経験し、行ってきたことを鑑みれば無理もない反応だった。

 

「君は本当に悪魔なのかい? こんなに打たれ弱い悪魔は初めて見るよ」

 

「クロノ......」

 

その様子を見て今はクロノの事はそっとしておいた方がいい、と判断したロゼットは二人の間に割って入りこう切り出してきた。

 

「率直に訊くわ。結論から言って、神を破壊するとどうなるの?」

 

当然の疑問だった。

今まで信じてきたものがなくなったら世界がどうなるのか、先ずそれを確認しなければならなかった。

 

「神の存在がなくなると、あなた達が言うところの神の干渉による加護が全てなくなります。同時に悪魔も神との繋がりが消滅し、人間と同じくらい弱い生き物になるでしょう」

 

「僕とアイオーンが見た『世界の心理』は……?」

 

「当然消滅します。その意味であなた達は本当の意味で真の自由の身になるわけですが、同時にそれからはあなた達自身の力で生き、世界を支えて行かなくてはならなくなります」

 

 

「その話、本当だろうな」

 

不意に頭上から声がした。

ロゼット達が空を見ると、なんとそこにアイオーンがいた。

 

「アイオーン……」

 

驚きの目で彼を見るクロノ。

だが、アイオーンはそんな彼の事は今は眼中にない様で、ビルスに目を向けると彼にまた口を開いた。

 

「破壊神ビルス、今一度尋ねる。その話は本当か?」

 

「偉そうな奴だな。それが人にものを尋ねる態度かい?」

 

そんな彼に対してビルスは質問には答えず、降りて来て直接訊きに来いと言葉の裏で伝えてきた。

 

「……」

 

アイオーンはビルスにそう言われると、無言で地上に降り立ちゆっくりとビルスに近づいてきた。

 

「……」

 

怒りの感情こそ見せてはいないが、無言でアイオーンを見つめるロゼットの目は険しかった。

そんな彼女をクロノはなんとか宥めようする。

 

「ロゼット、駄目だよ」

 

「分かってるわ」

 

クロノの焦りに対して、ロゼットは意外にも柔軟に応じた。

彼女も判っているのかもしれない、今この時が重要な局面であるという事を。

 

「……俺たちは自由になれるのか?」

 

「その代わりに弱くなるけどね」

 

ビルスは答の代わりに結果を伝える事でアイオーンの質問に応じた。

 

「そんな事は構わん。自由になれるのならな。だが、本当にそんな事ができるのか?」

 

「君は僕の力が信じられないみたいだね」

 

「生憎、俺は話だけでは貴様の力を信じる事ができないのでな」

 

「僕は破壊する事しかできないわけなんだけど。それを解った意味で言ってるんだろうな?」

 

ビルスの声がアズマリの時と同じ様に変わった。

その雰囲気に誰もがこの瞬間、この人物は危険だと感じた。

 

「大した威圧感だ……だがな」

 

アイオーンが目を見開いて攻撃をしようとした。

 

だが、その瞬間。

いつの間にか彼の額にビルスの指が当たっており、彼はそれを認知する間もなくその場で崩れ落ちて気を失った。

 

「……」

 

ウイスを除く、その場に居た全員が何が起きたのか理解できずに絶句した。

そして次第に時間が経つにつれて、この破壊神がどれだけ恐ろしい力を持つ存在か初めて認識するのだった。




最初はここで壊して、ビルスがついに! という流れにしようとしてたんですが、それだと寿命が戻りそうもないですからね。
なんとか強引に戻る理由を付ける事にしました。

ビルス様の活躍に期待してた方、申し訳ありません。

そしてビルス様、なんとアイオーンを一発KOです。
次は神様かな?

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