幻想郷に春が来なくなってから暫くして、肌寒い冬が続くことに春への恋しさ、おせっかい、腐れ縁、様々な動機を“好奇心”という一文字に込めて、とある少女が飛び回っていた。
その少女は“魔法使い”霧雨魔理沙。
彼女は色々調べている内に紆余曲折を経て事態の元凶である“亡霊”西行寺幽々子に辿り着いた。
果たして程なくして“亡霊”と“ただの人間”の弾幕ごっこが始まったのであった。
第1話 台無し
『身のうさを思ひしらでややみなましそむくならひのなき世なりせば』
幽々子は最大力を出すときこの歌を詠む事を好んでいた。
死を操るという生者の理に反するこの力を持つ事への業と妖しい魅力。
身を引き締め、戯れをより楽しむ為の意気込みという意味でも、この歌は幽々子にとってお気に入りであった。
目の前には白と黒の衣装に目に眩しい黄金の髪を靡かせる少女がいた。
人間の身でありながら魔法を行使する努力の人だ。
魔法という大それた力を使うのだから魔法使いに違いないが、それが人間となると幽々子にとってそれは、堪らなく愛い存在であった。
「何と儚くも魅力的な子であることか」
異変の原因を突き止め、真相である我が身に単身で挑んできた事だけでも大したものなのに、まさか相対する自分に対して使う力が魔法とは。
これを努力と言わずして何と言おうか。
自身が疎む人の徳の一つが、まさかかくも愛らしいものだったとは。
なれば我も全力で迎えねばならない。
弾幕遊戯という決定された則なれど、その中で可能な限りの趣向を凝らさなければ。
「反魂蝶……八分咲き……」
カッ
幽々子の背後背後に開いていた紫色に輝く扇の紋が消え、代わりに彼女を中心に鮮でありながら仄暗い輝きを放つ紫の光が世界を包んだ。
「な……」
人間の魔法使いの霧雨魔理沙は目の前の光景に呆然とした。
ここまで攻めておきながらまだ全力じゃなかったのか……!
いや、予想くらいはしていた。
何しろ攻撃をしている最中もそれを受けていた西行寺幽々子の表情は楽しげで、始終余裕の雰囲気が崩れる様子は見受けられなかったからだ。
でも、でもだからと言って……。
「こうも全力で迎えてくれなくてもいいんじゃないかなぁ……」
疲れ切った顔に苦笑を浮かべて、魔理沙は自身を包もうとしている幽々子の濃密にして美しい弾幕を眺めながら一人呟いた。
これを乗り切るのはちっと骨だな。
珍しく心の中で弱音を吐いた。
が、心は折れる事は無かった。
力の差を見せつけられる事には慣れている。
情けない話、自分は今までこういう逆境に打ちひしがれ、羨ましく思いながら研鑽を積み重ねて逞しくなってきたのだ。
これが例え自身の最期だとしても、最後まで自分らしく在る事ができるのならきっと悔いも残るまい。
「やってやろうじゃねーか」
魔理沙は口の端を僅かに釣り上げて好戦的な笑みを浮かべると、挑戦的な瞳で幽々子の最大の賞賛を承る事にした。
マスパ(最大火力)はもう撃てない。
魔力がない。
なら話は簡単だ。
あの綺麗でめちゃくちゃ怖い弾幕をあいつが疲れるまで躱しきってやる!
魔理沙は跨る箒を握り締める手に力を込めて、残りの魔力を全て弾幕避ける運動の為の起動力に注いだ。
「さぁ、これで本当に仕舞いにしてくれよ? あたしもカッコ悪く足掻くからさ!」
最早抵抗する力も無い筈にも拘らず、果敢にも生き生きとした顔で挑んでくる魔理沙を幽々は感銘に満ちた顔で見つめた。
「可愛い……。なんて可愛いのかしら……。おいで、最後の戯れを楽しみましょう。ここまで楽しめたのなら、きっと私はその果てに自分の企みが叶わなかったとしても、満足して笑っているわ」
そうして幽々子が手に持つ扇で、魔理沙が跨る箒で、それぞれ最後の力を披露しようとした時だった……。
パンッッ!!
「「!?」」
突如何の前触れもなく、幽々子が放っていた弾幕が跡形もなく霧散し、魔理沙を包んでいた美しい世界も元の晴れ空に戻った。
「……なに?」
「は……?」
それぞれが事態を把握できずに周りを見ていると、彼女たちの頭上から緊張感のない如何にも自分勝手そうな声と落ち着いた柔らかい声が聞こえた。
「はぁー、きれいだったなー!」
「そうですね。ビルス様がくしゃみをするまでは」
「なんだあれ……?」
「妖怪……?」
二人の唖然とした視線を気にする事もなく、ビルスはいつもの不遜な態度で目を細めて少女たちを眺めていた。
破壊神ビルスと付き人ウイス、幻想郷に珍入。
短くも新たな閑話、ここに始れり。
結構お久しぶりです。
最早読んでいる人は殆どいないでしょうが、自分はこの話が好きなのでこれからもできるときに続けていくつもりです。
拙文でお目を汚してしまう事をどうかお許しご容赦ください。
さて、今回は前から舞台にしてみたかった東方プロジェクトの世界にビルス様を入れる事にしました。
しかし、実は筆者この東方プロジェクト、登場人物から世界観の設定に至るまで殆ど把握していませんw
でも好きなゲームではあるので、重度の矛盾が生じない程度に短い話だけでも、と思い着想に至った次第です。
あと色々お詫びやら何やら述べたい事がありますが、後書きを長く書くのもアレなので、この辺にしようと思います。
それではまた、ご感想やご意見などがあればお気軽にどうぞ。