破壊神のフラグ破壊   作:sognathus

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ビルス達は紫に自らの素性をあっさりと隠すこともなく話した。
紫はそれを黙って聞いていたが、落ち着いた表情の裏では様々な考えが浮かんでは消えていた。


第3話 あんまりな事実

『破壊神』正直、八雲紫はビルス本人からその正体を聞いた時他の者の例に漏れずその話を鵜呑みにしなかった。

かと言って彼女自身が人の話を頭から疑う程狭量というわけではない。

彼女は幻想郷の創設以前から生きている力のある妖怪だ。

その力は“境界を操る程度”という能力の名が表す通り大凡個人が扱う能力としては神の如くと表現しても遜色がない程強大だ。

そんな力を持つのに相応しく、彼女自身の頭脳もまた大凡人の想像が及ばない程明晰であり博識であった。

長き時を生きてきただけあって、紫も神に関する知識と造詣はある程度あった。

それは自分が住まう世界の神の事だけではない。

自分が預かり知らない外の世界に存在するであろう神に対しても、当然その可能性に対して理解を持っていた。

 

そんな彼女だからこそビルスの話を聞いても直ぐには信じなかったのである。

ビルスが『ただの破壊の神』なら別に良かった。

見た目が妖怪のようであってもそう見えるのは見る者の主観によるし、幻想郷にいる神の様に神格を持ち、何処かの館に住んでいる吸血鬼の妹のような破壊の力を持っていればそう認識されていてもおかしくはない。

だが彼の話通りだとその『破壊の神』とやらは幻想郷どころではない、そのスケールは自分が知っている世界(宇宙)すら含む全ての界の頂点に立つ創造神と対をなす二極の神の一つだ。

紫の認識では世に存在する全ての神と超常的な能力を持つ力ある者は、この二つの神の力から派生している。

その力の殆どは無から有を成す創造神から派生しているのだが、先に例に挙げた吸血鬼もとい、紅魔館の主であレミリア・スカーレットの妹のフランドールが操る“全ての物質を破壊する程度”などは破壊神の力から派生したものだ。

(幽々子の“死を操る程度”の能力は破壊神の力のようで、生物を死なせることを“成している”為創造神の力)

このように単純な神としての影響力から神格的には創造神側の方が上なのだが、ただ破壊するだけという単純さから個人の強さとしては破壊神の方が上である事が多い。

そんな単に強い神の頂点が自分だというのだから、そう言った知識を予め持っていた紫がビルスを信じなかったのも無理はなかった。

 

だがどうもビルス本人は嘘を言っている様子はないし、付き人であるウイスと呼ばれている人物も纏っている雰囲気からただ者でない感じはする。

紫はちょっとビルスの事を調べてみる事にした。

 

 

「……」

 

境界線操作で未知と既知を操る。

 

何も分らなかった。

操る範囲が狭かったのかもしれない。

紫は今度は調べる範囲を幻想郷だけから、念の為地球丸ごとにに広げてみた。

 

「……?」

 

また分らなかった。

神であるにしろ無いにしろ、調べる範囲をここまで広げたにも関わらず、ビルスの名前すら見つからなかったのは意外だった。

もしかしたら、と紫は思った。

 

(この人は本当に……?)

 

 

紫が浮かない顔で宴会場に戻ってきたのを見て幽々子が不思議そうな顔をして訊いた。

 

「あら、貴女がそんな顔をするなんて珍しいわね。どうかしたの?」

 

「ん? 何か調べ物でもしてたのか?」

 

真理沙も手近にあった天麩羅を頬張りながら同じ質問をする。

 

「あ、ええ、ちょっとね……。あの、ビルス様?」

 

「もぐもぐ……あにゃ?」

 

「私、貴方様が破壊神だという事の少々興味を持っておりまして、よろしければ貴方様の事を知っている方の事など教えて頂けないでしょうか?」

 

「んぅ? 僕の事を? それは君が理解できる範囲で僕の事を知っている奴って事?」

 

「え、ええ、できれば」

 

意外に理解のある返答に紫は一瞬言葉を詰まらせる。

何となく彼の性格が大雑把なに思えたので、単純に彼の事を知っている者がいる世界さえ教えて貰えたら後は何とか自力で探すつもりだったのだ。

 

「んー……となると界王神は……ダメだろうな、知らないっぽいし。となると……。あ、君が知っている神なら分るか」

 

「え?」

 

「ウイス、この星を管理している神分る?」

 

「ええ、分りますよ。ちょっとお待ちください……。ん? ああ、これは……なかなかそれなりに影響力を持つ神ですね」

 

自分が知っている神と言う言葉に意表を突かれた顔をしている紫を尻目に、ウイスが毎度おなじみの便利な杖についている水晶球のようなものを覗くようして程なく発見したようだ。

 

「ん? そうなの?」

 

影響力を持つ神という言葉に興味を持ったビルスが一緒になって球体を覗く。

 

「え?」

 

紫は再び疑問の声を上げた。

最初、ビルスの口から自分が知っている神だと聞いててっきり幻想郷に住まう神の事だと思った。

しかしそれでは幻想郷を管理する者として自分が最初から知っていて当然だから違うと言えた。

それにいくら力がある幻想郷の神と言っても、幻想郷を含めた地球自体に強く影響を及ぼす力まであるとは思えなかった。

とすると彼らが言っている神とは誰の事だろう?

紫は訊いてみる事にした。

 

「あの」

 

「ん?」

 

「はい?」

 

「恐れ入りますが、私が認知している限りで幻想郷ならまだしも、この世界が在る星、地球そのものに力を及ぼす神は私、心当たりがないのですが」

 

「え? そうなの? ウイス?」

 

「んー……ちょっと待ってくださいね。ああ、まぁこの方、この星だけでもいろいろ呼び名があるみたいですからね」

 

「へぇ? 呼び名が複数あるって事は、前のあの悪魔がいた世界にいた奴みたいな感じか」

 

「そうですね、それに近いのですが……。でもこの方は少なくともその世界の神よりかはもっと力があって、複数の銀河にまで影響力を持っていますね」

 

「え……」

 

紫はまた声を漏らした。

だが今度の声は疑問ではなく戸惑いの声だった。

 

(何それ……? そんな強大な力を持つ神なんて私は知らない……。銀河系というだけでも気が遠くなりそうなのにそれも複数って……)

 

引きつった笑いを浮かべていよいよビルス達に対する詮索はやめて、紫本人も彼らの事を狂言者と断定しようとした時だった。

ウイスが言ったある一言が彼女を再び沈黙させたのだ。

そして、同じ様に沈黙したのは者がもう一人いた。

その場にいた幽々子もまた、その言葉を聞いた時、際限なく口にご馳走を運んでいた手を止めだのだった。

 

「八雲さん達の名前の雰囲気から察するに……。この世界にいる人達に通じる神の名前を挙げるとしたら……そうですね、アメノミ……ナカノという名前ですかね」

 

『天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)』

 

それは日本神話における天地開闢に関わった五柱の一柱、別天津神(ことあまつのかみ)の一人。

その中でも造化三神と言われる世界の始まりの独神の主神だ。

単純に日本と言う国そのものの始まりに携わる神なら国之常立神(クニトコタチノカミ)が最初に現れた神とも言われているが、こと世界そのものという括りにおいては一般的にはこの天之御中主神が最初期であるという認識が主になっている。

確かにその神が影響力を持つ神というのなら納得もいく。

何しろ世界、宇宙の元始ともいえる神なのだから。

 

だがしかし、そしてだからこそ、紫はまたその言葉をにわかには信じられなかった。

名前こそ知っているものの、その神は少々スケールが大き過ぎる。

地球と、それに住まう生命に関わった神世七代ですらその殆どの存在が不確かで、神話においても名前が少々出る程度の謎めいた神なのにそれ以上の存在となると、失笑を漏らすと共に信じられないのも仕方ないと言えた。

 

ウイスによると、そういった神は幻想郷も含めた地球の各地で信仰されている神といくつか存在が被るのだと言う。

その影響力故にそれらの神はあるいはキリスト、あるいはアッラー、あるいは梵天として名を変え、姿を変え勝手に信仰されているのだとか。

ビルス達が以前いた世界の神とその神々との決定的な違いは二つ。

まず一つは比較する事すら愚かな圧倒的な神としての力の差。

紫達がいる地球は格の高い大伸が担当している星の一つで、そこにはその神によって遣わされた、やはり強力な神々が委託管理をしているのだという。

そして二つ目の違いは、自身の影響力によって星に加護は与えているものの、それ以外に関しては基本的に干渉せず、むしろ無関心で非常にだらけているという信じられない事実だった。

 

これは大伸の性格が主に影響しているらしく、遺物や経典などで具体的な記述が多い神はそれら上級の神に呆れて返って真面目に働いている下々の神なのだとか。

紫は自分が知る幻想郷にいる神や、天地にいるであろう徳の高い者たちの姿を思い返してして一筋の涙を流した。

あの一部俗物のように思える趣向を持つ者たちでさえ、しっかり現界してあれこれ騒動を起こして世界に影響を与えているだけで何故かそれらの神より仕事をしているような気がした。

 

 

「紫、大丈夫?」

 

ウイスの話を聞いてショックのあまり放心していたらしい。

元々の大らかな性格もあって紫程ショックを受けていなかった幽々子の気遣いの言葉で彼女は我に返った。

 

「ん……こほん、失礼しました。なるほど、それは大変興味深いお話ですね」

 

「ああ、えっと、何か申し訳ございませんでした?」

 

ショックを受けて放心していたとは言え、ウイスの話を信じられていない紫は、その意図を伝える為に敢えて“興味深い”という言葉を選び、その部分だけ若干声調を強くして言った。

それに対してウイスは逆に微笑んで気遣いの言葉をかけるだけだった。

だがビルスは違った。

と言っても気を悪くした感じではなく、何かを思い付いた様子でまた口にご馳走を運びながらウイスにある指示を出したのだ。

 

「ま、信じられないのも分からないでもないよ。じゃぁさウイス、そのナントカのナントカって神、ここに連れてきてやってよ」

 

「ビルス様、いくら自分より下の神と言ってもその言い方は流石に失礼過ぎですよ」

 

「「えっ」」

 

「ん?」

 

「幽々子様?」

 

ウイスが呆れた顔でビルスにそう注意するなか、今度は紫と幽々子が揃ってポカンとした顔で声を漏らす。

ある程度満腹になってウイスに代わって妖夢と庭で雑談していた魔理沙が何となく空気の異変に気付いて紫達の方を向いた。

一緒に話していた妖夢もそれに気付いて同じ方を向く。

 

「まぁご用件は承りました。少々お待ちください」

 

ビュンッ

 

 

ウイスはそう言って一瞬で天空へと消えた。

 

「えっ」

 

彼が消えた後にはウイスが消えた天空を眺めて再びポカンとした顔をしていた紫と幽々子がいた。

 

 

 

それから程なくして、未だに少々ぎこちない様子で固まっている紫と幽々子達のもとにウイスが消えた時と同じように一瞬で戻って来た。

その後ろに誰かを連れて。

 

「お待たせしました。お連れしましたよ」

 

「……」

 

その人物は何やら疲れた様子でウイスの後ろから現れた。

 

「……」

 

その人物を見て、ビルスとウイス以外の全員が唖然とした顔で言葉を失った。

 

「はいはい……。ご要望に応じ参じました天之御中主神っぽい人ですよ。まぁ好きに呼んでよ」

 

くたびれたスーツ姿の覇気のない無精髭を生やした男性はそう言って一同に挨拶をした。




自分でも思うほど説明文だらけのつまらない回だと思います。
その所為で投稿に時間がかかったのかと言えば、まぁ私事でもいろいろあったわけですが、何にしろ遅々としたペース申し訳なく思います。
つまらない話とは言え、自分でこの部分は欲しいなと思って作った話なので後悔はしていませんが、次くらいは投稿の感覚は短く、そして少なくともこの話よりかはテンポが良い楽しい話にしたいですね。

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