破壊神のフラグ破壊   作:sognathus

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紫が藍にあやされ霊夢がその様子に呆気に取れているなかついにビルスと勇儀による第三戦目が始まった。
あくまで“相撲様な”対戦なので当然相撲ルールにあるような仕切り線に手を着けてから始めるという事もせずに、射命丸の試合開始の掛け声を合図としたのだった。


第9話 爽快な闘い

ドンッ

 

射命丸の試合開始の合図に合わせて勇儀は力を込めていた足で地面を蹴った。

その踏みしめていた個所は柔らかい土の上と言うわけでもないのにどういうわけか深く窪んだ彼女の足跡が残っており、何らかの方法で勇儀が突進の威力を上げる為に質量を増していた事を物語っていた。

 

勇儀の突進は一本角のお蔭でまるでサイのように見えた。

その速さ、風を切る音も合ってその表現はあながち間違いではなく、普通の人間は勿論、生半可な妖怪ではそれを受け止めただけで四肢が四散してしまうのではないかと思うほどの迫力があった。

現にその光景を眺めていた射命丸はそのような直線的な突進なら自慢の素早さで容易に避けられるものだったにも拘らず、先天的な鬼に対する恐怖心からその破壊力を想像して冷汗をかき青ざめていた。

 

「っし、取った!」

 

「ん?」

 

ビルスの懐に瞬時に入ったと確信した勇儀はそのまま彼に組み付こうとした。

その一度掴んでしまえば後は投げ飛ばすだけ。

内心あっけない幕切れだと思わなくもなかったが、弾幕戦で見せたあの圧倒的な力を見る限りその分野においては相当な実力者のようだし、これで勝ってしまっても一応格好は付くだろうと勇儀は考えていた。

だが……。

 

ガシッ

 

「え」

 

勇儀が取り付く前に彼女の両腕をビルスがしっかりと掴んで止めた。

例え防御に回ってもその突進力で吹き飛ぶと思っていたが、彼は微動だにせず余裕がある様子であっさりと止めたのだった。

 

「……」

 

ポカンとビルスの顔を見上げる勇儀だったが、それはビルスも同じだった。

馬鹿正直に正面から勇儀が突っ込んできたのでそれを単に止めただけの感覚のビルスは、事の展開が簡単すぎて逆に戸惑っていたのである。

 

(さて、止めたはいいけど、次はどうしたら……ああ、確か両足を浮かせ……。いや、それは自分からじゃないと駄目な気がする。やっぱり突き飛ばして円の外に……いや、力加減がまだちょっと自信がないな。なら……)

 

ヒョイッ

 

「え……ひゃっ」

 

ビルスは勇儀の突進を止めて一瞬で後ろに回り込むと何を思ったのか彼女を両腕で抱えてそのまま土俵の外まで運んで放り投げた

 

ポイッ

 

「わっ」

 

放り出されて尻から落着した勇儀はワケが解らず、呆然としていた。

 

「……」

 

「これで僕の勝ちって事かな?」

 

「え」

 

「うん? 一応ルールは破らなかったつもりだけど違うかな?」

 

声を掛けられて勇儀はやっとビルスの顔を座ったままの状態で見上げる。

その顔はまだ現実を理解し切れずに半ば放心した目をしていたが、ビルスを見る目の焦点が合ってくると途端に言いようのない恥ずかしさが込み上げ勇儀はその場で真っ赤になって俯いた。

ビルスは彼女が急に顔を背けて俯いたので首を捻った。

 

「ん?」(なんだ? 負けて悔しくなったのか?)

 

 

「あ~、勇儀の奴あれはぁ……。へぇ」

 

勇儀と一緒に祭に遊びに来ていた鬼の四天王の一人の伊吹萃香が酒で火照って赤くなった顔でニマニマとした笑みを浮かべていた。

 

(まさか勇儀のあんな顔見る事ができるなんてなぁ)

 

 

「おい、どうした? これで終わりでいいの……」

 

ビルスが俯いた勇儀に声を掛けて勝敗を確認しようとした時、バッと顔を上げた勇儀が手を突き出してきた。

 

「ま、待った! なんつうか今のはさ……えっと、だな……」

 

「?」

 

ビルスはその行為を不思議そうに見ていた。

顔にさした赤みは大分取れていたが、それでもまだほんのりと赤く、瞳は何故か彼をちゃんと捉えずにまるで何かを恥じるように逸らしがちに揺れていた。

 

「そ、その悪い! こんな事言ってカッコ悪いと思うけどさ、もう一回。もう一回闘ってくれないかな?」

 

「へ?」

 

「いや、さっきのはまぁ手加減したつもりはなかったんだけどえっと……な、なんか気が抜けちゃってさ。だから悪い、本当にもう一回。今度は本気でやらせてくれないか」

 

「ん……?」

 

大袈裟な素振りで手を合わせてお願いする勇儀をビルスは勿論、観衆も含めたその場にいた全員が不思議そうに見ていた。

確かにさっきの対戦はあまりにもあっさりし過ぎていて勇儀側に何かの事情があったとも思えなくもない。

しかしそれ以上にあんなに周りが目に入らないくらいに慌てふためく勇儀の様子が意外でならなかった。

 

「ごく……」

 

射命丸はその様子を新聞にしたら、と強い欲求を感じたが彼女のスカートを引く感触を感じて下を見ると、早々にそんな考えは彼方へと消えた。

そこには笑っているのに笑っていない笑顔をした萃香が、友の矜持の為に無言の脅迫をしていた。

 

 

「まぁいいよ別に。僕もさっきのはなんかあっさりし過ぎていてよく分らなかったし」

 

「あ、ありがとう! 恩に切るよ!」

 

程なくしてビルスの同意によって対戦の仕切り直しが決定した。

 

 

「……」

 

「……」

 

対峙する二人。

ビルスはいつもと同じ様子だったが、今度の勇儀は違った。

精神を統一するように目を瞑って自然体で立ち、何かの力を集める様に深く呼吸をした。

 

「……っ」

 

ビリビリと感じる空気の振動とその原因となっている勇儀の迫力に、射命丸はまだ試合開始の合図は早いと無意識に確信していた。

 

「ふぅ……」

 

深く息を吐く勇儀に、ビルスは一部を除いてその場にいる者には見えない力が彼女に集まっているのを感じた。

力を籠める勇儀の気は彼の耳にパリパリと電気が走るような音を伝えた。

しなやかな全身の筋肉が盛り上がり、全身が一回り大きくなったように見えた。

 

「……いいよ」

 

やがて眼を開いた勇儀の顔は、最早最初に対戦した時のものとは別物だった。

ビルスを見るその視線はまるで彼を射抜くように鋭く、立ち込める彼女の気は幽香や紫、幽々子に緊張感を与える程に研ぎ澄まされていた。

だが一方でビルスの方は全く違った。

その場居る者の殆どが彼女の張りつめた気を痛い程感じていたのに彼は気持ちよさそうに目を細めていたのだ。

 

「……?」

 

勇儀はそれを不審げに見る。

自分の気に真面目な顔をするのなら解るが、何故そんな柔らかい表情をするのかが理解できなかった。

ビルスはそんな彼女の疑問に答えるかのように自ずから口を開いた。

 

「ん……こんなに研ぎ澄まされて綺麗な気は久しぶりだ。凄く気持ちが良いね。君が本気を出し切れなかったというのも納得だ」

 

「え?」

 

意外な言葉を掛けられて勇儀は目をパチクリさせる。

健闘を誓ったり、己も気合を入れ直したりじゃなくてまさか自分を褒めてくるとは。

だがビルスは彼女のそんな密かな驚きなど露知らず最後にこう言ってきた。

 

「これだけでも再戦を承諾した価値はあったね。うん、ありがとう。じゃぁやろうか」

 

「……ふ」

 

ビルスの言葉が素直な称賛の言葉だと理解できただけで何故か勇儀の心は晴れやかな気分になった。

久しぶりの本気で気合を入れていたのに、おかげで身体に込めた力はそのままに緊張感はなくなり、良い意味で力が抜けた気がした。

にっと笑みを浮かべた勇儀の顔にはもう怖い程の真剣さを感じさせる険は抜けていた。

その目はただビルスを見つめ、悔いのない試合だけを切望していた。

 

「そ、それでは始め!」

 

空気を呼んでタイミングを計っていた射命丸が満点の頃合いで試合開始の合図をした。

 

 

ゴッ!!

 

やはり突進は一直線だったが、その様は最初のものとは明らかに違った。

今度は空気の音も、威圧感も感じる暇さえない程の瞬速で、その時の速さなら優に射命丸を確実に超えていた。

 

「ふ……」

 

ビルスも今度は寸前で止めたりはしなかった。

掴みかかろうとした勇儀の手をしっかりと握り返し、そのまま二人は睨み合う体勢となった。

 

「……」

 

「……」

 

ビルスに変化はないが、組み合っている勇儀の腕の筋肉が更に盛り上がる。

血管が浮き出て、やはり質量が増えているのか彼女を支える地面に亀裂が入った。

 

ビキビキッ

 

これだけ満身の力を入れているのにビルスは涼しい顔をしてびくともしない。

勇儀にはそれだけ驚嘆だったが、それでも何故かその時は悔しさより楽しい気持ちが勝った。

力を込めながらも緊張感を感じながらも自然と彼女の顔には笑みが浮かんでいた。

 

「ふっ……!」

 

膠着状態を破る為に彼女は頭突きをしてきた。

角があるその額での頭突きなので当たれば致命傷だ。

ビルスはそれを危なげなく避け、それと同時に片足はしっかり地面に置いた状態で勇儀の懐に蹴りを放った。

 

ドッ

 

直感でそれを感じた勇儀は掴み合っていた指を離して押し返す動きに転じ、その反発力でなんとか攻撃が当たる前にズザザ、と土俵に足跡の線を引いて回避に成功した。

だが……。

 

「……っ」

 

回避には確かに成功したのに蹴りの“衝撃”だけで内臓にダメージを感じた。

体全体に不快な痺れを感じ、気合を入れ直すことでようやく立ち直る事が出来た。

 

「……なぁ」

 

「うん?」

 

「なんで追撃してこないんだい?」

 

さっきの隙は致命的だっただろう。

そこを突けば更に有利な展開になっていただろうにビルスはそうせずに黙って様子を見ていたのである。

勇儀の疑問は当然と言えた。

 

「またそれか。幽香って子の時も言ったけどさ、楽しいんだよ。だからそれを少しでも僕は感じていたいんだ」

 

「……は、そう……かい!」

 

ビルスのそんな言葉を聞いて勇儀もまた言いようのない楽しさが込み上げてくるのを感じた。

地面を揺るがし、土俵全体に亀裂が入る程の瞬発力で走りよると、渾身の一撃をビルスへと放った。

本当はビルスがしたような蹴りの方が威力は高かったのだが、拳を使う方が彼女の好みだし、何より自分なりの流儀な気がした。

ビルスはその一撃を目を細めて受け止める、かと思いきやなんと目の前で彼女に背を向けた。

 

「!?」

 

あまりに意外な動きに虚を突かれ、勇儀は突進をやめる考えも浮かばなかった。

そして彼女の拳がビルスの背中を殴打せんとした時……。

くるっとビルスがこちらを向いたかと思うと回り込むようにそのまま反転して逆に彼女の背に回った。

 

「……くっ」

 

勇儀も直ぐに体勢を変えようとしたが、何故か身体が動かなかった。

 

「……?」

 

身体に感じた違和感に彼女が下を見ると、なんとビルスの尻尾が彼女の腰に絡みついてしっかりと捕らえていたのである。

 

「!」

 

「お疲れさん」

 

勇儀が驚愕したの束の間、その刹那に完全に彼女の後ろに回り込んだビルスは、そう言うと共に彼女のうなじ辺りに軽く首刀を見舞った。

 

トッ

 

本当に触れただけのような音だったが、勇儀はその一撃でついに何の対応もする余裕も持てずにその場にズシリと昏倒した。

 




最近連日で更新できてますね。
が、それも今日くらいになりそうです。
何故ならネタが尽きたので……w

しかしペースが良いと本当にポンポンと書けますねぇ。
しかしあまり長くこの話を書くわけにもいかないので、そろそろ締めの展開も考えないとな……。

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