破壊神のフラグ破壊   作:sognathus

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弾幕は正に吹雪の如しだった。
高速で飛来して来る光の玉は動きこそ単調だったが、数が多く、またいつどの方向から新手が来るのかも予測が難しかった。


第13話 後夜祭に向けて無敵に挑む

「あなた達! まず弾幕を避けるという考えを常に頭に置きなさい! そうすれば運命はより応えてくれるわ!」

 

「お嬢様!」

 

「咲夜! 私の事はいいからあなたは独自に動きなさい! ただし弾幕はなるべく止めないように! 下手に止めたら能力を解除した時に圧縮された時間の分加速してより脅威になるわよ!」

 

レミリアは凄まじい弾幕の嵐を全て紙一重で避けながら、最小限の動きによって出来た余裕の合間に咲夜たちに指示を飛ばしていた。

 

騒霊達も何とか頑張っていたが、慣れた弾幕遊戯とはいえ、“これ”は規模が違った。

レミリアや霊夢、萃香といった猛者はまだこの状況でも全力で臨むことによって何とか回避だけなら行えていたが、騒零達に関しては文字通り必死にならなければいつ弾幕に当たってもおかしくは無かった。

 

「わわっ、る、ルナサ姉! こ、これヤバイよ!」

 

「っ……メルラン落ち着いて! この弾幕のリズムに乗るの!」

 

「ルナサ姉さん簡単にっ…… 言うけど、それ、かなり難しい……よ!」

 

リリカはこの状況でも冷静でいようとする姉の優秀さに感心しつつも、防戦一方のこの状態に歯噛みしていた。

姉妹の中でも一際計算高く、常に余裕があると自覚しているだけに成す術を導き出せないこの余裕の無さに。

 

 

「魔理沙! まだ当たってないっ……わよね?!」

 

「当然だろ! ……でも正直避け続けるだけでもキツイな!」

 

霊夢と魔理沙も健在だった。

だがそれは避ける事に集中していたからであって、これを二の次にしてビルスへの攻撃を優先しても大丈夫かまでは確信が持てないでいた。

 

(レミリアの援護がなければ今頃どうなっていたか……!)

 

霊夢がそう心中で冷汗をかく程に今までの中で結構際どい時があった。

それもレミリアの能力が展開されていなければ当たっていただろうと今では彼女は確信していた。

 

 

ドッ……カァァァァン!!

 

突如空中で凄まじい爆発音が起こる。

皆が驚いて空を見上げあるとフランドールがパチュリーの援護を受けながら地上からビルスを攻撃していた。

 

「……ちょっと、フラン! ちゃんと狙ってね! こうやって……ぜぇ、ぜぇ……。あなたを抱えながら避けるのって本当にキツイんだから……!」

 

「ごめんねパチュリー! でもなかなか当たらないの! やっぱり弾幕が大き過ぎて避けやすいのかな……ぎゅっ!」

 

 

「はは、派手だけど。これじゃ避けるなというのが難しいな。 ……ん?」

 

フランドールの派手な爆発を楽しんでいたビルスが何かを感じて下を見た。

 

 

「メイド! 道は作ってやる!」

 

「あんたはそれを辿って行け!」

 

「恩に切るわ……!」

 

降りかかる弾幕を萃香が能力で集めて空白を作り、勇儀は地上にある回避用の玉を地面ごと抉って放り投げ、弾幕を弾き飛ばしていた。

 

 

「咲夜、やるわね……!」

 

「ああ、あたし達も負けてらんねーな!」

 

咲夜が鬼達の助けで空を駆け上がるのを見て霊夢が魔理沙に目配せをする。

魔理沙はそれに頷き今まで入らなかったウイスが用意した回避スペースに入る。

 

「霊夢頼むぜ!」

 

「ええ!」

 

魔理沙が懐から八卦炉を取り出して使用の準備を始める。

霊夢はそれが整うまでの僅かな時間、全力で魔理沙が入っている玉の防衛を始めた。

玉に入っているから当たっても大丈夫なのだが、それでは準備が最初からになってしまう。

霊夢は決意の篭った目で自分達に向って来る弾幕を見た。

 

 

「なぁ、あの巫女さん弾幕弾けるのか?」

 

「恐らくは無理だろう。私もいろいろ試してみたが避けるしか……妹紅、そこ!」

 

「! ……と、悪い!」

 

「気にしなくていいさ」

 

「でもよ、それならあいつはどうするつもりなんだ?」

 

「恐らくは何らかの術を使って弾幕を全部自分に向けるつもりなんだろう」

 

「なるほどな。でもそういうのは……」

 

「行こうか」

 

「ああ!」

 

息の合った見事な動きで互いをカバーしながら弾幕を避けていた妹紅と慧音は、同時に頷くと霊夢の元に向かった。

 

 

「お嬢様!」

 

「来たわね咲夜!」

 

レミリアは自分の傍まで来た従者に気付いて声を掛ける。

 

「ウイスが作った玉をあんな使い方するなんて面白い事するじゃないか。さて、これからどうするのかな?」

 

「……」

 

レミリアと咲夜は頭上に浮かんでいるビルスを凝視する。

 

「お嬢様?」

 

咲夜レミリアと弾幕を避けながら主が何故攻勢に出ないのか不思議に思った。

それはレミリアも感じ取る事ができ、目は合わさなくても言葉は彼女に向けて言った。

 

「さっきから必中を狙って攻撃しようとしてるんだけど、それができないのよ」

 

「え?」

 

「最初は弾避けに能力を使った所為で力が不足しているかと思った。でも違うの」

 

「……」

 

「運命の干渉が完全にできない。最初の運命操作はあの人に許されていたんだわ……!」

 

「なんですって……」

 

悔しそうにビルスを睨むレミリアを咲夜は驚愕した顔で見つめる。

 

(お嬢様がこんな顔をされるなんて……)

 

 

弾幕が霊夢に迫る。

霊夢は自分の分身の式神を展開してそれを魔理沙が居る玉の周りに配備する。

 

(弾幕は弾けなくてもこれで防御は出来るはず。式神が全部やられても最後には自分が壁になれば……)

 

いつもの自分ならこんな風に捨て身じみた方法で奮闘することなど決して有り得なかった。

だが少なくとも今この時においてはそういった余裕や緩慢は全て捨て、心から真剣に取り組まなければ危うい事を霊夢は本能で感じていた。

 

ピチュン、ピチュンッ

 

不動で防御の陣を敷いてる分身をビルスの弾幕が瞬く間に3分の2ほど削り取る。

 

「っ」

 

予想はしていたがやはり凄まじい攻撃だった。

もし当たらずに回避する事で時間を稼ぐ事を防御と仮定したなら、まだ一人で避けている方がどれだけ効率的だっただろう。

だがそれはできなかった。

あの一瞬、弾幕ごっこが始まった瞬間に二人で思い付いた一瞬の勝利の為の策。

これを実行する為にはどうしても魔理沙の“爆発力”が必要だったのだ。

 

結局式神を使った霊夢の分身はものの2秒足らずで全て消えた。

新たに展開する事はできるが、迫って来る弾幕との間隔からそれをする余裕はなかった。

 

「魔理沙! 後は頼んだわよ……!」

 

いよいよ自分が盾になるしかないと判断した霊夢は、横に飛んでなるべく多くの弾幕に当たって魔理沙を護ろうとした。

だがその時――

 

ドンッ……ガガッ!

 

「いっててて……。やっぱり当たると少し痛いな」

 

「っ……そうだな。だが、妹紅よくやったぞ」

 

「あなた達……」

 

弾幕に当たる直前に慧音と妹紅がそこに割って入り、霊夢を押しのけて二人同時に左右に飛ぶことによって代わりに弾幕を受けた。

妹紅は苦笑いしながら霊夢を見て言った。

 

「あんた達に何か策があるのは見て分かった。だから力になったんだよ」

 

「これで大分時間は稼げたんじゃないか? ほら、上では先に奮闘している二人がいる。早く行ってやらないと」

 

慧音が指した方には空中で何とかビルスに近付こうと奮闘しているレミリアと咲夜の姿があった。

霊夢は二人に目で感謝の意を贈り、魔理沙の方を見る。

 

「魔理沙?」

 

「待たせたな。ついでに霊夢も一緒に来てくれると嬉しいぜ」

 

「仕方ないわね」

 

霊夢は軽く笑うと魔理沙と一緒に玉に入る。

入って来た霊夢の肩を魔理沙は片手でしっかりと抱き寄せ、空いた手に八卦炉を持ってそれを地面に向けた。

 

「ありったけの魔力を込めたからな。全力だ。しっかり掴まっているんだぜ?」

 

「分かってるわよ」

 

霊夢が自分の肩に回された魔理沙の手を握り、空いた手で自分も彼女の腰を抱きしめた時だった。

 

「! 霊夢!」

 

「あー……これ無理だわ。私もう動けない」

 

「残念だ……」

 

新たに迫って来た弾幕に魔理沙が目を見開き、もう助ける事ができないでいた妹紅と慧音が無念の声をあげた。

 

(後はこれをぶっぱなすだけだってのに……!)

 

魔理沙も心中で覚悟をして目を瞑った。

 

ブンッ

 

「え?」

 

突如自分達の周りに黒輪が現れ、輪郭線が拡がったと思うとなんとそれが全部霊夢達を襲ってきた弾幕を全部飲み込んだ。

直後――

 

「きゃぁ!」

 

ボンッという音がしたかと思うと、同じくその黒い線、隙間から紫が弾かれるようにして出てきた。

 

「あぅぅ……」

 

「あ……」

 

「紫……」

 

呆然とした目で自分を見る霊夢と魔理沙に紫は目を回しながら何とか言った。

 

「霊夢……魔理沙ぁ……早く……行ってぇ……」

 

 

「行くぞ……!」

 

最早そこで礼を言って時間を使うこと自体が自分達を手助けしてくれた者たちへの非礼だと結論した魔理沙は、二人でその場でしゃがむと、もうそれ以上は何も言わず八卦炉の放射を全開した。

 

ゴッ……!!

 

霊夢達が玉の中で浮きながら魔理沙が手だけを玉から突き出して八卦炉を発射した事によって、二人が入っている玉はまるでロケットのように凄まじい速度で真上へと上昇した。

 

 

「お嬢様! あれを!」

 

「あ」

 

咲夜の声を聞いて下を見たレミリアは思わず声を漏らした。

なんと自分が気付かない内に霊夢達が凄まじい速度で弾幕を弾きながらこちらに昇ってきていたのである。

 

「へぇ、やるもんだ」

 

ビルスはそれに感心して笑っていたが、それと同時に弾幕を展開した時の様に霊夢達に向って指を突き出した。

 

(まさか……!)

 

レミリアは悪い予感がしたが、弾幕が邪魔をしてやはり彼に近寄れなかった。

 

「くっ!」

 

咲夜もその予感を察して能力を使って一か八か特攻しようしたがその時。

 

ドッ

 

なんと天空から光の柱がビルスを囲むように円形に何本も降り注ぎ、咲夜の進路を妨害し、なおかつ地上にいる者たちへ更なる追撃を加えた。

 

「僕自身は何もしないとは言ってないからね。ま、その代わり避けないけどさ」

 

そう言って更にビルスは、直接自分は指先から赤い光線を出した。

 

ビッ

 

 

「マジ、かよ……!」

 

光の柱が降り注ぎ、更に赤い光が自分に向ってくるのを見た霊夢と魔理沙は戦慄した。

これはもうダメかと流石に思った。

だが……。

 

ガガッ!

 

「え?」

 

「我を呼んだか? いや、呼んでなくても今回は来たがな」

 

いつの間にか石柱が自分達を護るように囲ってビルスの光線や光の柱を防いでくれていた。

だが攻撃は防げても衝撃には耐えられなかったようで、石柱が砕けるなかで彼女達を援護した神奈子は少々不満そうな顔をして言った。

 

「むぅ、残念だが。次の出番は人形師に任せよう」

 

「アリス!」

 

神奈子の背中に隠れていたアリスが姿を表し、自分もありったけの人形を展開して次なるビルスの攻撃を見事に防いだ。

 

「もう最悪! 無くなった分の人形作り、絶対に手伝ってもらうからね!」

 

「ああ、約束だ!」

 

「いっけぇぇぇぇ!」

 

霊夢の掛け声を合図に、二人が入った玉は更に加速してビルスへと向かった。

 

 

「ほほう」

 

ビルスは本当に感心した様に目をパチクリさせて声を漏らす。

だがそれでも容赦はしないようで、今度は片手の手を開くと全ての指先からまるでマシンガンの様な速度の凄まじい数の弾幕を発射した。

 

「させません!」

 

「ん?」

 

ビルスの弾幕が拡がって広範囲に散る直前に咲夜がその目の前に割って入り、時間停止の能力を発動する。

発射されたばかりのビルスの弾幕はまだ一か所に固まっている状態で、咲夜は自分が展開した能力の範囲にそれが入るようにした。

 

「お嬢様……!」

 

「仕方ないわね!」

 

もうここまできたら勝負に出た方が良いと決断したレミリアは、全員に適用させていた運命操作を解除して、咲夜が止めていた弾幕が全て彼女に『被弾』する様に操作した。

 

ガガガガガッ!

 

「くぅ……!」

 

溜まらず落下していく咲夜をレミリアは直ぐに追いかけて受け止めた。

そして彼女を抱いたままゆっくり降下しながら霊夢達に向けて叫んだ。

 

「しくじりは許さないわよ!!」

 

 

「やるな」

 

だがビルスは余裕だった。

例え生き物にとって理解ができない刹那時であっても、ビルスにとっては悠久の時と同じだった。

故にいくら意表を突く行動を取っても、彼からしたら直ぐに次の攻撃をすれば済む話だったのだ。

故にビルスは次に何をしようか考えた。

だが、その時見せた余裕が彼にとっては失敗だった。

 

 

ズ……ォォォオオオオオ!!

 

「へ?」

 

突然頭上で凄まじい爆発音と光を感じて、ビルスはそれが気になって思わず上を見る。

 

 

「それいけぇぇぇ! ドッカァァァァン!」

 

それは地上でパチュリーが体力を使い果たして被弾する直前に明後日の方角にわざと全力投球した、彼女特製のフランドールの力もブレンドした超絶大のロイヤルフレアの“無駄撃ち”だった。

 

「もう……死ぬ……」

 

今度こそパチュリーは体力を使い果たしてその場でフランドールを下敷きにして昏倒した。

 

 

「なんだあれ?」

 

ビルスはまだ頭上に現れた火球を見つめている。

それはまるで小規模な太陽のようで、見る者によってはそれが放つ輝きは美しささえ感じさせた。

ビルスにとってもそれは例外ではなかったようで、不意の見世物にすっかり関心が移っていた。

 

 

「夢想天生」

 

「ん?」

 

声が聞こえて後ろの方をビルスが振り向くと、そこには魔力を使い果たしてへとへとになった魔理沙と彼女とは対照的にニッコリ笑って勝利宣言をしている霊夢がいた。

 

「?」

 

ビルスはまだ状況が掴めずキョロキョロしている。

そしてやっとそこで、自分が霊夢の秘奥義を受けて様々な色の綺麗な弾幕を受けて自身が光り輝いている事に気付いたのだった。

 

(化け物か)

 

本当は軽く弾幕を当てるか、もしかしたらタッチしただけでも良かったのかもしれないが。

念の為秘中の秘、最大の技を最後に放ってみたのだが。

それを受けて平然と自然体でいるビルスを見て霊夢は腹の底からゾッとしたのだった。

 

 

「弾幕、最初に出したもの以外を人以外にも効果があるようにしてしまったのは失敗でしたね」

 

「いや、それについては本当に忘れていた」

 

「あと最後の油断、これについては私は少々悲しいですねぇ」

 

「いくら僕でも油断してたら余裕も何もない。仕方ないだろう」

 

「まったく、おかげで最後はちょっと拍子抜けでしたよ?」

 

「うるさい!」

 

 

何やら奥の方でウイスという人物にビルスは説教をされている様だった。

その光景を興味津々といった様子で各面々は見ており、あんなとんでもない弾幕遊戯を行ってみせたビルスをあのように説教しているウイスという人物とは一体何者なのだろう?

皆、そんな疑問が頭に浮かんでいる様だった。

 

 

「ふぅ……」

 

もうすっかり影が薄くなり誰の気にも留められていなかった中主神だったが、それはそれで気楽で気分が良かったらしい。

そして最後に煙草を一服すると、居住まいを軽く正して一人ビルス達に向って一礼すると人知れずまた何処かへ去って行った。

彼が去った後には、やはり煙草の灰などは何も残っておらず、ただ清らかな空気と風だけがその場に吹いていた。

 

 

「いやぁ、とっっっても良い画が撮れました!」

 

満面の笑みで射命丸がカメラを大事そうに抱えながら霊夢達の前に足取り軽く現れた。

 

「あんた……そういえばあなたは何処で何をしていたのよ?」

 

「写真をずっと撮っていましたよ? いやぁ、流石に弾幕を避けながらと言うのはかなりキツかったですけど。そこはレミリアさんの力に助けられましたね」

 

「高くつくわよ」

 

「号外の第一紙は紅魔館に届けますのでどうかご勘弁下さい。まぁ流石に最後に能力を解除された時は写真を撮る余裕なんかなかったですけど」

 

「はは、逞しいな」

 

霊夢の非難めいた視線もなんのその。

射命丸は悪びれた様子もなく清々しく笑いながら、レミリアの皮肉も感謝の意を伝えて受け流し、本当に機嫌良く嬉しそうな様子だった。

その態度に疲れて寝ている妹紅をおぶった慧音が呆れたような苦笑を漏らす。

 

 

「いやぁ、宴の後の酒はまた格別だねぇ!」

 

「おい、萃香。あたしにも一口くれよ。あ、神さんもどうだい?」

 

「頂こう。久しぶりに美味しそうな酒だ」

 

「楽しそうだね。良かったら一曲如何?」

 

「賑やかなの弾いちゃうよ!」

 

「気持ちは分かるけどテンポは守ってねメルラン姉さん」

 

鬼と神は勝利を祝って早速酒盛りを始め、そこに騒霊も加わり更に気分を盛り上げていた。

 

 

「あれ? そういえば弾幕ごっこの時、幽々子や妖夢は見なかったな?」

 

「ああ、私はお腹が空いていたから気分が乗らなくて」

 

「主のあまりの予想外の動機に動揺してたら一緒にやられました……」

 

「なんてマイペースなの……。あぁ、もう人形が一つしかない」

 

「私も手伝いますよ。今回は貴女にも助けられましたし」

 

「咲夜に同意ね。特別に図書室を貸してあげるわ。そこを使うといい。小悪魔にも手伝ってもらいましょう」

 

「あっ、いいな! ねぇパチュリー! わたしもやりたい!」

 

魔理沙は魔理沙でアリスと一緒にレミリア一家との談笑に興じ、改めて今回の祭りに思いを馳せていた。

 

 

 

「……ま、負けはしたけど楽しかったしな」

 

「ええ、それは確かに。ビルス様とても良い顔をしていましたよ。特に最後が……ぷぷっ」

 

「おい、呆れてたんじゃないのか!」

 

皆がそれぞれ思い思にまるで後夜祭を楽しんでいる中で、その光景を眺めていたビルスもまんざらでもない様子だった。

いつものようにウイスの小言にムキになってビルスが言い返していた。

その時、八雲紫が従者の式神の二人を連れて恭しい態度で彼らの元を訪れてきた。

 

 

「ビルス様」

 

「ああ、ゆかりか。今日はご苦労さん」

 

「いえ、そんな。私の方こそ今日はいろいろと……本当に色々とありがとうございました」

 

「あ? ああ、うん。まぁ……うん、なんかアレだ。悪くなかったよ」

 

「ビルス様そこは素直に」

 

「分かってる! ゆかり、色々大変だったな。すまん」

 

「いえ!」

 

思わぬ破壊神の素直な謝罪に若干憔悴していた紫は弾かれたように姿勢を正して恐縮した。

 

「藍様、わたしあんな紫様初めて見ました」

 

「橙、それは言っちゃいけないよ。それを言うなら私の方だってそんな紫様を今日だけで何回見たやら。ふふ……」

 

橙の純粋な感想に対して何故か藍の方は主の滅多に見ないこれまでの姿に何故か表現のしようがない充実感を感じていた。

 

 

「んー、さぁて、祭りも終わったしそろそろ行くかな」

 

軽く伸びをして旅立ちの合図をするビルスに紫がハッとした顔して言った。

 

「あ、出立されるのですか?」

 

「うん、いろいろ楽しめたしね。居心地も悪くないけど何かもういいかなって気もするし」

 

「ビルス様、失礼ですよ」

 

「いえ、お構いなく。そうですか……もう行かれる……」

 

「んん? これは意外だな。面倒なのがようやくいなくなるから安心するのかと思てたよ」

 

ビルス自身も自分が紫に今までいろいろと不安な思いをさせていた事は自覚していた。

だがやはり、その様子を大体面白がってもいたわけだが、珍しく殊勝にも、その時に限っては彼はそれを態度には表さずに労いすら感じさせる雰囲気を自分から出した。

そんなビルスの気遣い(?)に、紫は彼の顔を真っ直ぐ見ながら答えた。

 

「正直に申し上げれば、確かにかなりの心労を味わいました。でも……」

 

「でも?」

 

「結果としては私も此度のお祭りは楽しかったという雰囲気は理解できますし、何より私自身貴方様から贈り物も頂いてますから……」

 

「ああ、中主神から貰った知識の事か。あれ? そういえばあいつは?」

 

「もう去られたみたいですよ。謝意の念を頂きました。気付かれてなかったんですか?」

 

「全然……あ、本当だ」

 

「ビルス様ちょと酷いです」

 

ビルスは今気付いたという様に軽く顎を掻いた。

それに対してウイスが呆れるといういつもの光景がそこにあったが、それを見つめる紫の目は穏やかだった。

 

確かに今回は彼女にとって災難と言うべきことが多々あったが、その過程でビルスの計らいによって召喚された中主神によって紫はビルス達側の知識を得た。

それはあらゆる叡智に勝る至宝ともいえるべきものであった。

今の紫はそれを使って幻想郷の平和を保つ術、自分の力を伸ばしたり或いはそれを他者にも適用させる術など、無限とも言えるあらゆる方法が即座に思いつける域に達していた。

加えて苦労こそしたが、今回の経験は他の皆が顔に出している通り楽しくもあった。

要は結果としては失ったものより得たものの方があまりにも多く、価値の比較が考えられない程だったので、結論としては彼女はビルスに感謝の気持ち以外は持たなかったのである。

 

「ビルス様、今回は色々とありがとうございます。次も満足される旅になる事をお祈り申し上げますわ」

 

「ん、ありがとう。気が向いたらまた来るよ」

 

「えっ」

 

思わず本音が漏れそうになって焦る紫をビルスは面白そうに笑いながら最後に言った。

 

「はは、だけど楽しかったのは僕もだ。またね」

 

「どうもお世話になりました。それでは……」

 

ウイスも紫に礼儀正しく一礼すると、あっという間に光に包まれて空へと昇っていった。

 

 

「ん? 何さっきの? あれ、紫? ビルスさん達は?」

 

「……ふふ、さぁ♪」

 

紫は空を見つめていたかと思えば程なくして霊夢の方を振り返り、いつもの腹の裡が読めない笑顔で楽しそうに言った。




予告通り最終話は投稿できましたが、ごめんなさい。
新編は仕事の都合で次週になります。
ただもう、舞台は決まっているので投稿自体は次週で間違いないので宜しくです。

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