破壊神のフラグ破壊   作:sognathus

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「威圧」だけで晴れた空の彼方に消えてしまった天使たち。
そんな事を気にすこともなく、呆然と立ち尽くすロゼット達を尻目にビルスは欠伸をした。

ロゼットはまだ目の前で起きた事が理解できずにいた。


第5話 破壊神の希望

「……え?」

 

ロゼットは天使の群れが一瞬で無くなり、再び自分たちの前に晴れ渡った青い空が姿を現わした事が理解できなかった。

あの天使の群れは何処にいったの?

空を埋め尽くして太陽の光すら遮っていた絶望の群れは?

 

ふと隣を見ると、彼女以外の面子も呆然と空を眺めていた。

全員何が起こったのか分かっていないようだった。

 

「神隊ってのはあれで全部なのかい?」

 

全員が戸惑って未だに状況を把握してないなか、ビルスが気を遣う事もなくレミントンに問い掛けた。

 

「え? あ……」

 

レミントンはビルスの声に何とか反応はするものの、まともな言葉が口から出ない様子だった。

 

「だからさ、あれで全部なのか? って訊いてるんだ」

 

レミントンはそこでようやく状況を理解し、手早く身だしなみを整えるとその場でビルスに跪いた。

 

 

「ビルス様、先程は大変失礼を致しました!」

 

「ん?」

 

対するビルスは突然のレミントンの行動が理解できず、不思議そうに見つめるだけだった。

 

「先程私は貴方の事を破壊神と呼びましたが、それは私の中では異名程度の認識でした。まさか本当に破壊神であらせられるとは!」

 

「ああ、そんな事か」

 

レミントンの行動の意味を理解したビルスは、特に気にする風もなくまた先程の質問の答えを促してきた。

 

「別に解ってくれたのならいいよ。それよりさ、さっきの質問だけど神隊ってのはあれで全部?」

 

「ご慈悲に感謝致します!」

 

レミントンは質問に答える前にビルスの慈悲(本人にその自覚なし)に感謝の意を表した。

 

「……堅苦しい奴だな。ま、天使らしいけど。で、質問なんだけど」

 

「あ、はい。そうですね……あれで全部かは保証はできませんが、あれだけの数です。恐らく保持していた戦力のかなりの割合には当たると思います」

 

「直ぐに復活したりする?」

 

「流石にそれは……一応強力な天使のつもりだった筈ですから、再び創造して編成するにしても相当な時間は掛かるものかと」

 

「そうか。じゃあ暇潰しももうできそうにないか。さっさとここの神を破壊して次に行くかぁ」

 

ビルスはまるで準備運動をする様な仕草で次に神の破壊を決定しようとした。

そんな時――

 

「神よ!」

 

アイオーンがレミントンと同じく、畏まった態度で彼の前に跪いてきた。

 

「改めて貴方の力に感服致しました! 今更ではありますが、どうぞこれまでのご無礼をお許しください!」

 

アイオーンはその顔こそいつも通り平静を装っていたが、心の中で子供の様に興奮していた。

まさかこんな圧倒的な力があるなんて、破壊神である事を疑っていたわけではなかったが、ビルスの力は彼の予想をいくら超えても足りなかった。

しかもビルスは天使を塵と化した際に「威圧」と言っていた。

つまり彼は、自身が持つ力の片鱗すら見せずに普段の動作のみで天使たちを葬った事になる。

こんな圧倒的な力に憧憬し、畏敬の念を持てずにいられようか。

 

「アイオーン! いきなりビルス様の御前に出るとは失礼ですよ!」

 

そんなアイオーンの興奮を邪魔するように、レミントンが彼の無礼を叱責してきた。

 

「それはお前とて同じことだろう!」

 

対するアイオーンも相手が天使の所為か、対抗心を露わにして反論する。

ここに天使と悪魔が破壊神の前にお互いに肩を並べていがみ合っている奇妙な状況が発生した。

 

「何なんだお前達……」

 

ビルスは彼らの態度の急変に若干戸惑いと鬱陶しさを感じたらしく、少し引いていた。

 

「あのアイオーンが……」

 

呆気にとられた顔でその様子を見ていたジェナイが言った。

 

「信じられないわね……」

 

リゼールも目を丸くしていた。

あれは本当に私が知るアイオーンなのだろうか?

 

「あんな力を見せつけられては仕方無いだろう……」

 

それに対してヴィドは、何処か面白そうなものを見ているような声で感想を述べた。

きっと彼の素は本来、ああいうものなのかもしれない。

ヴィドは密かにそんな事を考えていた。

 

悪魔たちがそんな様子のなか、今まで敵同士だったロゼット達もまた、同じような雰囲気でレミントン達を見つめていた。

 

「レミントン牧師……」

 

「はは、天使と悪魔が……。あれは本当にアイオーンか……?」

 

「ビルス様……」キラキラ

 

 

「もういいよ。鬱陶しいから僕の前で喧嘩するな。破壊してしまうぞ」

 

いい加減アイオーン達が煩わしくなってきたビルスが二人のいがみ合いの停止を要求してきた。

 

「はっ、申し訳ありません!」

 

「失礼致しました!」

 

ビルスの言葉に即座に争いをやめて全く同じタイミングで謝罪する二人。

 

「……まぁいい。取り敢えずは次は神だな」

 

ビルスが次の目的を口にすると、何か重要な事を思い出したのかロゼットがビルスに意を唱えた。

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

突如声をあげるロゼット。

神の討伐が着々と進むなか彼女は一人、その順調な状況に異を唱えた。

このままでは終わらせるわけにはいかない。

彼女には何よりの目的があるのだから。

 

 

「ん? ああ、そうか悪魔をまだ破壊してなかったな」

 

ロゼットの突然の発言がその事の指摘だと判断したビルスは思い出したように手をポンと叩いた。

 

「いや、そうじゃなくて。アイオーン!」

 

「……」

 

ロゼットに呼ばれたアイオーンは敢えて返事はせずに、彼女の声だけに反応して見つめ返した。

レミントンと言い争っていた先程の態度と違って落ち着いているところを見ると、彼女が言いたい事を既に把握しているようだった。

 

「あなた、もう自分たちの目的は目の前なんでしょ? だったら弟を返して!」

 

「やはりその事か」

 

予想通りだった。

彼は元々、ロゼットの弟を利用して彼女を手に入れるのが目的の一つだった。

だが今や、ビルスの登場にって真の目的達成への過程が吹っ飛び、結果が目の前に迫っている状態だ。

その時点で既に彼らにはヨシュアにもロゼットにも用はなく、争う理由すら既になくなっていた。

 

だが、それでもアイオーンはすんなりと彼女に弟を返す気にはなれなかった。

自分たちの理想が目の前にある今だからこそ、そのおかげでできた余裕で種族の垣根を越えて彼女を諭す必要があると思ったからだ。

普段の態度から誤解されがちだが、その目的さえ絡んで成就に没頭していなければ、アイオーンは元々そんなに悪い性格ではないのだ。

 

「だがそれは承服しかねる」

 

「何でよ!」

 

「ロゼット、君はどうして弟が俺の甘言に乗ったか解るか?」

 

「え……」

 

それはロゼットには予想外の質問だった。

いつも弟の事を大事に考えてきた彼女だからこそ、弟は悪魔に一方的に連れ去られたものだと断じていたからだ。

 

「やはり考えてなかったか……。では、教えてやろう。君の弟、ヨシュアはな、君に面倒を掛け続けている事を心の負担に感じていたんだよ」

 

「えっ……」

 

アイオーンの言葉にショックを受けた表情をするロゼットだったが、直ぐに反論はしなかった。

それは、彼の次の言葉で全てを理解したからだった。

 

「俺はそこにつけ込み『強い体をやる』と甘言で彼を誘ったんだ。何故彼がその誘いに乗ったかもう解るな?」

 

「……」

 

「弟は返してやる。だがな、その前にお前は彼の事を理解しなければならない」

 

「……」

 

「ロゼット……」

 

「ロゼットさん……」

 

悔しそうな顔で何も言い出せずに地面を見つめるばかりのロゼット。

そんな彼女にどんな声を掛けたらいいのか分からず、名前を呼ぶ事しかできない二人の空しい声が響いた。

 

「おい、あれ本当にアイオーンか?」

 

またも呆気にとられた顔で今日何度目かの同じセリフを吐くジェナイ。

そんな彼に対してリゼールはどこか嬉しそうな顔で言った。

 

「知らなかったの? 彼、本当は優しいのよ?」

 

「リゼール、なんかお前嬉しそうだな」

 

リゼールのアイオーンに対する気持ちを知っていたのだろう。

ヴィドは彼女のそんな様子を微笑ましく思いながら言った。

 

 

「アイオーン、そのヨシュアって子は病気なのか?」

 

今まで黙って聞いていたビルスが不意にアイオーンにそんな質問をした。

 

「はっ、その通りです。病気の原因までは解りかねますが、健康な人間と比べてかなり虚弱な体質です」

 

すっかりビルスの従者(非公認)気取りのアイオーンは、不意の質問にも動じることなく彼の質問に即答した。

 

「くっ……」

 

傍らでは何故か悔しそうな顔をするレミントン。

悪魔に嫉妬している様に見えるが、一応彼は天使である。

 

「そうか。じゃぁ、ウイスに治してもらうといい」

 

「えっ?」

 

予想外の言葉にロゼットが驚きの声を上げてビルスの方を見る。

 

「僕でも病気を破壊することで対処は可能だろうけど、二度と病気にならないくらいの治療とかならウイスの方が向いてるしね。だろう? ウイス」

 

「え? あっ、そ、そうですね」

 

すっかり暇を持て余し、いつか地球で食べたアイスクリームを妄想して暇を潰していたウイスは不意のビルスの言葉に驚いて反応した。

 

「なんでお前の方が驚くんだよ……」

 

ビルスは最も付き合いの長い従者が新参の従者(らしい)に対応で負けていることにちょっと呆れた顔をした。

 

「ビ、ビルスさ、様! それ、本当ですか!? 本当に弟を……ヨシュアを治してくれるんですか!?」

 

ヨシュアが救われるかもしれない。

ロゼットはこの朗報にすがるような目でビルスに詰め寄ってきた。

 

「うわっと……何なんだ急に。本当だよ。そうしないとなかなか話が進みそうに――にゃ!?」

 

「っ、あ……ありがとう! ビルス様!!」

 

ロゼットはビルスの言葉を最後まで聞かずに、弟が救われるという希望に歓喜してビルスに抱き着いた。

 

「よかったね。ロゼット……」

 

「ロゼットさん……」グス

 

そんなロゼットを見ながら慈愛に満ちた目で優しく見守る二人。

だが、そんな彼らに対してビルス達の傍にいたウイスは悲しそうに佇んでいた。

 

「あの、治すのは私なんですけどね……」

 

ウイスのそんな独り言が、虚しく晴れ渡った青空に木霊した。




インターバル的な話になりました。

アイオーンちょっとキャラ崩壊し過ぎですかね。
でも、自分たちの悲願の成就が理想的な形で眼前にある事が分かれば、ある程度は安心して性格が崩れてたり......するといいな、と思ったり。

あとヨシュアの件はクロノクルセイドの根幹の一つだと考えています。
なのでそのフラグも破壊してもらわないと思いました。(やるのはウイスですが)
神の成敗は次くらいになりそうです。

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