破壊神のフラグ破壊   作:sognathus

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ビルスが予告してきたセイバーの強化は単純だった。
つまり爆発したイリヤの魔力供給を受けて、パーフェクトかそれに近い状態にまで魔力で自分自身を強化しろという事だった。



「無理です! 論理的には可能でしょうけど魔力の供給元の変更は高度な技術と知識が必要です。残念ながらこの場にいる人員では……」

ウイスがあっさり繋いでくれました。
セイバーは目の前の二人が奇跡や悪夢を呼吸するより簡単に起こせる存在だという事に改めて恐怖した。


第5話 異常事態に対する好奇心

一方その頃、所変わってイリヤが誘拐(同然)された切嗣達はその時、必死の様子で日本への移動の準備に取り掛かっていた。

ビルス達が今はいないので彼らは現代の人間の技術とルールに従ってしか遠く離れた日本の地へ行く手段がない。

だから必死に最速で、彼の地へと行こうとしていたのである。

 

「ん?」

 

不意に声を漏らした夫に持ち物の確認をしていたアイリが顔を向けた。

 

「どうしたの? 切嗣」

 

「……たった今、僕からセイバーへの魔力供給が急に止まった」

 

「え?」

 

もうこれ以上驚く事は無いと思っていたアイリだったが、それは流石に予想外だった。

まさかもう脱落したと?

あのセイバーが?

まさかあのビルスに?

 

様々な思考が頭の中を巡り動揺するアイリを切嗣が安心させるように言った。

 

「ああ、ごめん。止まったのは魔力供給だけだ。パスは今もつなが……な?!」

 

今度は切嗣が狼狽える番だった。

彼の言う通り魔力の供給は何故か急に止まったが、それにも関わらず彼が脳内で認識していたセイバーのステータスに急激な変化が見られたのだ。

 

『全ステータスA+』

 

冗談のような能力だった。

サーヴァントのステータスは契約したマスターの魔力や持って生まれた能力によって大きく補正がかかる。

並みの魔術師ならサーヴァントのステータスは平均より低くなる事はそれほど無いが、例えばいくら魔力があっても幸運などはそうはいかない。

これはマスターの素質が強く関係するのでどうしてもサーヴァントのそれも影響を受けて低くなってしまう事があるのだ。

にも拘らず今切嗣が認識したセイバーの能力はその全てが最高値のなっている。

これは新たに得た魔力の供給によってほぼ強制的に補正が掛った事に他ならない。

魔力だけでは補正の掛けようが無いステータスを無理やり上方補正してしまう魔力とは一体いかほどのものなのか、切嗣には想像ができなかった。

 

(一体何が起こってるんだ)

 

一つ言える事はセイバーが自分より強力な魔力の供給源を得たということだったが、何故か切嗣はそれがビルスだとは思えなかった。

あの自由奔放な神がセイバーのような清廉潔白を絵に描いたような人物との間に速やかに契約が成立するとはとても思えなかったからだ。

自分で言うのもなんだが何より相性が悪い気がする。

 

「切嗣……」

 

沈黙する切嗣にアイリが心配そうに声を掛ける。

切嗣は迷いを振り切るように軽く頭を振って直ぐに彼女に反応した。

 

「ああ、すまない。なんでもない、準備を急ごう」

 

そうだ。

自分は急がなければならない。

自分が発端とは言え既にサーヴァントは一騎脱落しているのだ。

残るは6騎。

聖杯戦争はもう始まっているここで気を抜くわけにはいかないのだ。

 

「……ん?」(6騎?)

 

何気に浮かんだ言葉に切嗣は違和感を覚えた。

打ち倒さなければならないサーヴァントが減ったのは喜ばしい事だったのに何故かそれが腑に落ちなかったのだ。

 

(一体何が……)

 

そこまで考えたところで切嗣はハッとしてアイリを見た。

そう、そうだ。

この戦争の鍵であるアイリに全く変化が見られなかったのだ。

アイリは実はこの戦争の勝者に与えられる願望機たる聖杯がその体内に埋め込まれている。

それはアイリ自身を聖杯を護る殻とし、かつそうする事によって相手に彼女が聖杯だと悟らせない為でもあった。

そしてこの聖杯が願望機たる力を発揮するには、その器をとあるエネルギーを満たす必要があった。

それは聖杯戦争でマスターが従えるサーヴァントの魂だ。

この魂が6騎分集まる事によって聖杯が願望機として発動し、勝者の願いを叶える賞品となるのだ。

 

しかしこれには、ある悲しい事実がある。

正しくはアイリに密接な切嗣にだけ関係する事実が。

実は聖杯がサーヴァントの魂で満たされ願望機としての機能が充実して行く度に、それを宿すアイリの人としての機能が徐々に失われていくだ。

これは最終的に聖杯となるアイリにとっては必然の末路であったが、だからこそこれは切嗣には身を切られるように辛かった。

 

だがこれに異常が生じていた。

前述した仕組み故に例えサーヴァントが1騎減っただけでもアイリは明確な変化を感じるはずだったのだ。

だというのに切嗣がそれに今になって気付き、本人はまだその事に気付いていない程、彼女には苦痛を感じるような変化は起こってはいなかったのだ。

 

(これは一体……)

 

「切嗣本当に大丈夫……?」

 

いよいよ夫の事が本当に心配になってお互いの額が当たりそうな距離にまで近付き彼の顔を見るアイリ。

彼は不安と驚きが入り混じった顔をしていた。

アイリはそんな切嗣の顔を見るのは初めてだった。

性根は優しい故に心の苦しみを敢えて出さんと努めてきた彼は、彼女にだけは今までいろいろな弱い姿を見せてきてくれた。

だがアイリは今のような彼の顔は本当に初めて見た。

それは本当に予想だにしない事態にどう結論、選択をしたら良いのか迷っている純粋に戸惑っている顔だった。

 

「……ごめん。後で話すよ。取り敢えずもう行こう。準備はできているだろう?」

 

「え、ええ」

 

混乱しながらも首尾よく旅立つ為の準備を終えて手を差し出してきた切嗣の手をアイリは握り返した。

彼女は切嗣の様子から自分も不安や戸惑いを感じながらも、何故か彼ほど事態を不安視はしていなかった。

彼はイリヤの心配や、ビルスに対しての不安を感じているのだろう。

そしてたった今自分も気付いたが、自分に何も起きていないという事に対する異常事態にも戸惑いを。

だがやはり、アイリは切嗣ほどこの事態に不吉な考えが浮かぶ事はなかった。

こんな純粋に困った顔をする切嗣を見たのは初めてだったし、こんなに何が起こるか判らない旅に心からにワクワクしたのだ。

 

(この旅には何かきっと起こる。まだきっと起こる)

 

アイリは自分達が参加している聖杯戦争をいつの間にか旅と考え楽しむようになっていた。

 

 

キャスターのサーヴァントが脱落したというのにアイリに変化が生じなかったのは当然ビルスにあった。

彼は破壊の神であり、彼の破壊は絶対である。

ましてや今回彼がキャスターに行った破壊は物の破壊ではなく存在の破壊であった。

この戦争で召喚されたキャスターは世界によって無差別に選ばれたマスターの性格に影響された者だった。

それは世に悪名高き『青髭』

ビルスはキャスターの魂ごと消滅させ、この世界で彼のサーヴァントが『青髭』として召喚される可能性を完全に破壊してしまったのである。

この時点で世界的に悪名高き『青髭』は歴史的には確かに存在しながらも、サーヴァントとしては永遠に現界する事が無い完全にある意味物語の中だけの存在になってしまったのである。

 

この事態を抑止力は警戒した。

そして迅速に、今度は無差別にではなく冬木で最も力のある存在をマスターとして選び、この異常事態を収拾する使命を与えたのである。

その人物とは……。

 

 

「んっ、いたっ?」

 

手に突然痛みを感じたイリヤは思わず声を漏らした。

 

「ん?」

 

「おや」

 

「えっ」

 

三者三様な反応を見せる中、イリヤの手の甲に妙な三画から構成される紋様が浮かび上がっていた。

 

「なんだろこれ?」

 

不思議そうに自分の手に突然浮かんだ紋様を眺める彼女に、その時どこからか声が掛けられた。

 

「吾輩に新たな物語の執筆を依頼されるのはお嬢様ですかな?」




あけましておめでとうございます!
一番好きなサーヴァントを出す事にしました。
青髭の旦那ごめんなさい!

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