破壊神のフラグ破壊   作:sognathus

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「初めましてお嬢様。吾輩はウィリアム・シェイクスピア。間違いなく世界最高の芸術家で御座います。以後お見知りおきを」

そう堂々と真正面から全員を前にして、突如現れた男は言った。


第6話 世界が待っていた(らしい)者

予想だにしない召喚によって現世に現れた紳士は一同の前でそう言って、一見礼儀正しいのに何故か尊大にも見え、かつ謎の自信にも溢れた態度で堂々と自己紹介をした。

 

 

「……」

 

アルトリアは完全に呆気にとられてしまっていた。

聖杯によって世界の知識はこれまでの歴史も含めてある程度は与えられていたので、名前を聞いただけで彼が自分と同じ地方出身の英霊という事も判った。

それ故に活躍した時代に大きな時間差があったとはいえ、同郷の士を得た事を一瞬喜んだのだが……。

改めて冷静に考えてみれば、マスターの前とはいえ、彼からすればまだ味方かどうかも判らない自分や、更に得体のしれないビルス達の前で堂々と真名を告げた事にショックを受けた。

しかも彼は自分の事を率先してサーヴァントのクラスではなく芸術家と言った。

自分の力を示す為の形容と取れなくもなかったが、何か彼の“芸術家”という言葉には、悪い意味で全くの嘘偽りが無い様に感じた。

これは彼女が持つ未来予知に近い直感の力によってもたらされた警報だった。

 

「わぁ、丁寧な挨拶ありがとう。えっと、シェイクスピアさんね。私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ」

 

シェイクスピアは挨拶の折にしっかり紳士らしくイリヤの手に軽いキスををしており、その場違いではあったが敬意に溢れた態度に気分を良くしたイリヤは自分も丁寧にスカートの裾を摘まんでカーテシーを返した。

シェイクスピアはそれに微笑み返し軽く口髭を撫でると、今度はイリヤの周りにいる面々に目線を変えて口を開いた。

 

「皆様、改めて初めまして! 吾輩、この度、キャスターのクラスで現界のオーダーを頂きましたウィリアム・シェイクスピアと申します! 演劇や詩の作成の御依頼ならどうぞご遠慮くお申し付け下さい!」

 

「……」

 

イリヤを除いて皆は沈黙していた。

セイバーは先の理由により、ビルスとウイスは彼が何を言っているのかよく判らなかった為である。

 

「シェイクスピア、貴方はキャスターなのですか?」

 

このまま沈黙を保つのも場の雰囲気を悪くするだけだと判断したアルトリアが、何とか立ち直って真っ先に自分の頭の中に浮かんだ疑問を先ず彼に投げかけた。

 

「左様でございます。吾輩、今、感動に打ち震えておりますぞ! よもや吾輩が召喚されようとは! 最早これは運命と言っても過言ではありますまい! ああ、聴こえますぞ! 世界が万雷の喝采をもって吾輩に“物語を著せ”と期待している声が! 」

 

凄まじいハイテンションだった。

放っておいたら本当に物語を一つ創り上げそうな勢いだったのでアルトリアは慌てて彼を止めるように話を続けた。

 

「いや、あの、待って下さい。キャスターは元々貴方以外に既にいて、しかも敗北して消滅しているんです」

 

「ほう?」

 

アルトリアの言葉にシェイクスピアは顔を向けるも意外にも反応が薄かった。

「まるでそれがなにか?」とでもいうようにあまり気にしていない様子だった。

 

「聖杯に召喚されたサーヴァントは消滅すると再び別の者が召喚される事は無い筈です。なのに貴方がキャスターとして再び召喚されたというのは……」

 

「つまり吾輩が選ばれたという事ですよ!」

 

「いや、ですから……」

 

ダメだった、話が通じなかった。

バーサーカーでも精神汚染が進んだ狂人でもなく正常な精神状態なのに、意思の疎通が困難な我の強い人物はアルトリアは苦手だった。

こういう論理が通じ難い相手は本当に困る。

どうやって話したものか……。

 

アルトリアが対処に考えあぐねていると意外にもビルスから助け船を出してきた。

 

「ああ、それは多分僕があいつを破壊したからだろう」

 

「え?」

 

「僕はあいつを“完全”に破壊したからな。多分それがこの聖杯戦争に影響したんじゃないか?」

 

アルトリアはその言葉に息を飲んだ。

なるほど、それが事実ならある程度の推測もできた。

聖杯との関係を完全に断たれる形で消滅させられたのなら世界に還る事も無かったという事だ。

それは聖杯戦争のルールとしては不測の事態であり、受け入れられない事であったはずだ。

だから聖杯が働き新たなサーヴァントを選定したのかもしれない。

 

しかしだからと言って……。

アルトリアは改めてシェイクスピアを見た。

 

(何故彼が選ばれた?)

 

アルトリアの視線で彼女の疑問をシェイクスピアは察したらしい。

 

「吾輩とお嬢様との絆が気になりますかな?」

 

「え?」

 

これにはイリヤがちょっと驚いた顔をした。

出会って数分しか経っていない相手にいきなり絆という言葉を使ってきたのが意外だったらしい。

しかしシェイクスピアは、やはり彼らしく特に周りの事など気に掛ける様子もなく話を続けた。

 

「見たところ媒介が無く吾輩は召喚されたご様子。となればレディ・イリヤとの相性が優先されたのでしょう。これをレディと吾輩との絆と言わずして何と言いましょう!」

 

ちゃっかりイリヤへの呼称を『お嬢様』から『レディ』に切り替え、シェイクスピアは着々と抜け目なくイリヤへの取り入りを始めていた。

アルトリアは、そんな風にいちいち大袈裟な素振りでのたまうシェイクスピアに半ば呆れながらも、まだ納得できないと更に問い掛けた。

 

「貴方とイリヤ嬢がそんなに相性が良いとは思えないのですが……」

 

「いやいや、客観的視点だけでそう決めつけてはなりませんぞ。吾輩は常に望みとして面白い物語を著したいという想いを持っております。それはつまり世界を吾輩の作品によって面白くする事! と、いう事は、レディ・イリヤもそんな輝かしくも驚きに溢れた面白き世界を御覧になりたいと望んでおられるという証左! これをレディと吾輩の絆と言わずして何と表しましょうか!」

 

シェイクスピは最後にイリヤだけに向けて小さな声で「ね?」と付け加えた。

イリヤはシェイクスピアの口上をキョトンとしていて見ていたが、その最後の口添えに満面の笑みを浮かべて頷き返した。

 

「うん! そうね! 私も貴方が見せる面白い世界を見てみたいわ!」

 

シェイクスピアはそれに対して右手をゆっくりと左肩に振ってイリヤに深い感謝のお辞儀を贈った。

 

「承知致しましたレディ! ここに貴女と吾輩の契約は成立! そして願いは成就しました! この宣言にまだ異議を唱えられる方はもういらっしゃらないでしょう!」

 

「え? 成就? まだ貴方はまだ何もしてないけど?」

 

「それは愚問というものですレディ。貴女と吾輩の契約が成立した以上、私達の願いは既に“果たされた”のです。後は共に行動をする中でそれが事実である事を証明するのみ! どうぞ吾輩のエスコートにご期待下さい!」

 

「まあ!!」

 

シェイクスピアの断言にイリヤは目を輝かして感嘆と期待の声を漏らす。

これはもう誰も、というかアルトリアは口を挟めなかった。

とてもではないがもう彼が明確な問題を起こさない限り自分が介入する余地は無かった。

ここで更に言い募ろうものならイリヤの不興を買いかねないし、それが果てはビルスへのそれに繋がる事も有り得たからだ。

 

「……」

 

アルトリアは横目にチラリとビルスを窺った。

 

「ふーん……」

 

ビルスは退屈そうにしていた。

ここで自分がまたシェイクスピアに言い募って時間をかけようものなら、退屈したビルスが何をしでかすか予想もできなかった。

彼が起こす行動に一切抗う手段がない以上、それを全力で回避してイリヤだけでも護るが咄嗟な判断で彼女に着いてきてしまったアルトリアの騎士としてのせめてもの務めだった。

 

「はぁ……分かりました。ですがくれぐれも、くれぐれも、頼みますよ?」

 

一体何を念を押して頼んでいるのかは言葉の表現からだけでは判らなかったが、アルトリアの憔悴と真剣が入り混じった顔を見ればその言葉にどういう意味が含まれているのかは大体の人が解ると言えた。

シェイクスピアはそんな彼女の心中を理解したのか、また口髭を撫でて自信たっぷりに答えた。

 

「お任せください! あの血生臭く殺伐とした時代に君臨された騎士王陛下の心も解れる素晴らしい物語(展開)をお約束します!」

 

「そういうことを言ったのではありません!」

 

やっぱり解っていなかった。

アルトリアが精神が更に疲労するのも構わず、目でビルスに謝意をしっかり送って再びシェイクスピアを戒めようとした時だった。

アルトリアが口を開く前にシェイクスピアが彼女の後ろにいたビルス達に視線を移して言った。

 

「そういえば、先程からいらっしゃるこちらの方々は天使と悪魔ですかな?」

 

『会話の最中に失礼。貴公達を聖杯戦争の参戦者と予測する者だが』

 

アルトリアにとって最悪の言葉に何処からか彼女達が知らない声も重なった。

 

こうして想定外の外の事態の連続によって幕を開けた第四次聖杯戦争は、ようやくそれらしい展開を見せ始めようとしていた。




相変わらずペースが遅くてスイマセン。
そしてまた話が停滞気味ですいません。
次からはバトル入ります。
まともなバトルになるかは保証できませんが……。(意味深)

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