破壊神のフラグ破壊   作:sognathus

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薄暗いとある洋館の一室で、見事な着こなしと雰囲気だが少々服の色合いが豪勢に思える紳士と、一目で神父と判るも明らかにその体格は一介の神父には見えない男の二人が、何やら宜しくない雰囲気で話していた。


第7話 圧倒を見せる第一戦

「やはり控えますか」

 

「ああ、自分の主義に反するのであまりこういう事は言いたくないのだが、何か今回は嫌な予感がしてね」

 

「同感です」

 

遠坂時臣は魔術師だった。

科学の力とそれによる人工物で溢れた世の中に置いて異端の存在であり、自身の生活を支える生活用品においても人類の先端技術を用いた物を毛嫌いするという古風を通り越してやや時代遅れな性格だった。

しかしその思考は極めて論理的かつ合理的で、根拠のない直感に頼って行動する事も嫌っていた。

そんな彼が今回は自身の直感に従うと言った。

これは極めて異例と言える事だったが、綺礼はこの決定に異を唱える事も無く同意した。

彼も今回の事態の不可解さには警戒を厳とし、慎重に行動するのが肝要だと結論していたからだ。

 

時臣と綺礼はある一計を案じようとしていた。

それは綺礼のサーヴァントである個でありながら群体という特性を持つアサシンの一人を使い、それを時臣のアーチャーにそれを仕留めさせるというものだった。

これを恐らく自分達を使い魔を介して監視しているであろう競争相手に見せつける事によって、彼らの目を欺き綺礼の行動の有利を得ようとしていたのだ。

これが計画通り行われていれば、表向き綺礼はこの争いにおいてサーヴァントを失った脱落者となり教会の保護下になる筈だった。

そうなれば綺礼は時臣にとってこれ以上は無いと言うほどの使い勝手の良い斥候を手に入れる事になる。

聖杯戦争を管理する教会と管理される側が協力し合うという事自体が本来あり得ない事だったので、この計画は最初から成功が約束されていると言えた。

しかしその主導権の確保すら迂闊な行動になり得るとして、時臣はこの秘策の実行を見送って異常事態の真相を見極める事を優先する事にしたのだ。

 

 

ランサー、ディルムッド・オディナが月明かりの元堂々とアルトリア達を訪ねてきたのには理由があった。

今回の聖杯戦争は開戦前より戦争を管理する教会も対処が間に合わぬ不測の異常事態が連続して起こり、戦争を管理運営する教会も参戦する魔術師たちも極端に慎重に行動をするようになった。

お陰で互いの動向すら探るのが困難な状況となったところで、ついにディルムッドのマスターであるケイネス・エルメロイ・アーチボルトが痺れを切らしたのである。

ケイネスディルムッドに命じた。

 

『とにかく発端となれ。これは偵察でもある。故に深追いも禁ず』

 

要は彼がこの膠着状態を解き、可能な限りの情報を集めてこいという事だった。

雑な命令と言えば誤りではなかったが、ケイネスはあくまでディルムッドのマスターであり魔術師だった。

実戦経験は乏しいようだったが、それを置いても元々魔術師自体が戦闘の指揮官のような役割とは無縁の存在なので、命令が多少大雑把でも仕方ないと言えた。

だが指示自体には心情的には賛成であった。

事態が動くならそれはそれで己も望むところだったし、必要とあらば助言などをする事でマスターをしっかり補佐するつもりだった。

新たな主君の元で確かな忠義を今度こそ貫きたいという願いによって現界したディルムッド・オディナは、その一念発起を胸に暑く胸に滾らせて偵察の中で見つけたビルス達に声を掛けたのだった。

 

 

「そういう貴方はこの聖杯戦争に参戦せしサーヴァントという見解で相違ないか?」

 

しっかりとイリヤ達を手で制し、油断のない声でアルトリアはディルムッドに逆に問い掛けた。

その眼差しは真っ直ぐにディルムッドを捉え、セイバーとして流石の貫禄を見せていた。

 

「如何にも。この身はランサーとして現界せしサーヴァント。宜しければ一槍願えないだろうか」

 

ディルムッドは最初から得物である槍を持っての対面だったので、己のクラスは変にはぐらかすことも無く伝えた。

元々両手で扱うのが基本の長さの異なる槍を両手に一本ずつ持ち、その内の一本を真っ直ぐにアルトリアに向けて彼は堂々と開戦の申し込みをした。

 

「イリヤ、下がっていて下さい」

 

「うん、頑張ってね!」

 

「なんだ?」

 

「いよいよ何か始まるみたいですね」

 

「おぉ、今! ここに今! 心躍る素晴らしき物語が今! ついに幕を開ける!」

 

「……」

 

妙に緊張感のない一考にディルムッドは内心首を傾げた。

見ればセイバーの後ろには子供や明らかな自分と同じ(何故か戦に役立ちそうもない本と筆を持った)サーヴァント、そして何よりも目を引く異形の存在二人という珍妙な団体がいた。

故につい口から洩れてしまった。

 

「……妙な連れだな」

 

「それについては目を瞑って欲しい。そして決闘の申し込み謹んでお受けしよう。だがその前に一つ良いか」

 

「何か?」

 

「その槍、しっかりと握っておく事だ」

 

ガンッ!

 

「?!」

 

一瞬だった。

ディルムッドの程の強者だから反射的に反応ができたものの、彼はいつの間にか己の間合いに入り不可視の剣を振るっていたアルトリアの一撃を槍を交差しての防御で受け、そのまま5メートルほどふっ飛ばされた。

 

「ぐ……なに……」

 

ただの単純な一撃だったのに、その凄まじい膂力と威力にディルムッドは自分を受け止めてくれたコンテナにめり込んだまま驚愕した。

 

「見たところ貴方は私と同じ誇りある騎士とお見受けする。さぞ気高き志があって現界したのだろう。故に呆気のない終幕などという無粋な事はしない。さあ立たれよ」

 

「は……っ」

 

自分を見据えて真っ直ぐに剣を向けるセイバーを睨みながらディルムッドはなんとかコンテナの束縛を解き、再び地面に立った。

 

(おかしい。何かのルーンやスキルを使ったわけではなさそうなのに素振りだけでこの威力。奴の基本ステータスはどうなっている……?!)

 

ディルムッドが持つ槍は二つとも宝具であり、その内の一つは魔術の効果を無効化する力を秘めていた。

セイバーが手に持っているであろう剣が不可視だった為、それを防御で受けた時に咄嗟に効果を発動させた事で彼は直ぐにその結論に達した。

思わぬ一撃の痛みに軋む身体に耐えるなか、ディルムッドは必死に思考を巡らせた。

アルトリアは爆発するイリヤの尽きる事のない魔力の供給を受け、自身のステータスは限界まで最高の補正を受けていた。

それはスキルや魔術で補強されなくても通常の攻撃で相手を沈黙させるほど十分強力なもので、しかも先程の一撃ですら彼女は全く全力ではなかった。

その事にはアルトリア自身も密かに心の中で衝撃を受けていた。

 

(なんだこれは……)

 

「貴公の心遣いに感謝する……。ふぅ……」

 

ディルムッドもセイバーが本気で放ったたわけではない事は戦人の本能で感じていた。

だからこそ彼女の気遣いにも素直に感謝し、礼を述べた。

 

「これは最初から全力、か。マスター……」

 

ディルムッドは大きく息を吐いてもう一つの宝具の解放と自分の全力を出す許しをケイネスに求めた。

 

「マスター、これは偵察では済みません。どうか許可を」

 

『くっ、ならん! 何とか撤退の算段を付けて態勢の立て直しに全力を図れ! まだ自棄になるときではない!』

 

「これは自棄なではありません! どうか許可を!」

 

事態の急展開に狼狽したケイネスのランサーとのオープンな意思疎通をアルトリアは黙って観ていた。

どうやらランサーのマスターは何処かでこちらの様子を傍観しているらしい。

ならば現状から判断するにそちらに注意を向けるのが肝要と言えた。

 

そうやって再び局所的な膠着状態が始まろうとしていた時だった。

突如凄まじい轟音を響かす雷鳴と共に新たなサーヴァントが天空より降臨した。

その人物は逞しい牡牛に引かれた古代の戦車に乗っており、ディルムッドより二回りはありそうなほど大きく屈強な身体をした偉丈夫だった。

皆が突然の雷の乱入に驚いて言葉を飲んで黙るなか、そんな雰囲気を一瞥して満足した顔で彼は静寂する空間に大音声を放ち震わせた。

 

「双方を剣を収めよ! 征服王の御前である!」

 

 

「おい、また変なのが現れたぞ」

 

「ほほほ、今度は雷ですか。賑やかになってきましたねぇ」

 

「素晴らしい! 何という波乱でしょう! 吾輩胸が高鳴って参りましたぞ!」

 

そんな状況においてもこの三人だけはいつも通りだった。




2カ月近くも間が空いた割りにはあっさりとした戦闘描写と少ない文字数の話の展開ですいません。
しかし原作のこの後の展開を知る方なら、次の話の戦いが今回より派手になる予想は容易かと思いますのでそれにご期待頂けたらと思います。
うん、派手にしないとな……。
なんせここから一気に登場するキャラ増えるからなぁ。

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