破壊神のフラグ破壊   作:sognathus

57 / 71
果たしてFate編はいつまで続くのか。
あまりよくない頭を何とか回して楽しみ半分プレッシャーに戦々恐々としながら書いてます。


第10話 ビルスの横槍

飛び出した影はバーサーカーのマスターの命令通りにアーチャーを襲った。

未だ筆舌に尽くし難い屈辱に打ち震え、周囲を気にする余裕がなかったアーチャーであったが、それでも奇妙な雄叫びを上げながら自分に突撃してきたバーサーカーの存在には流石に気付いた。

 

「! きさ……!」

 

アーチャーは足場にしていた街灯をバーサーカーに蹴り折られ、悪態を中断させられた。

そして彼の足が地に着いた瞬間、獲物を狙う獰猛な捕食動物の如き勢いでバーサーカーは拳を振るう。

アーチャーは自分に向けられてきた凶暴な黒い拳を咄嗟に受け止めるがそれはフェイントだった。

 

「ぐっ……!!」

 

拳に注目させて空いた胴体を狙った蹴りが本命だったのである。

勢いを付けた凶悪な蹴りをアーチャーはまともに喰らい、アーチャーは凄まじい勢いで吹き飛ぶ。

 

「―――――!!」

 

バーサーカーは更に猛追を掛けた。

蹴り飛ばされるも何とか途中で足を着いて踏み留まり、その衝撃に息も絶え絶えといた様子のアーチャーに対して一気に間合いを詰め、アーチャーに今度は本当に偽りのない拳による攻撃を見舞う。

 

「がっ……ぁ……!!」

 

もはや接近は察知できても防御の反応ができる程の力が出せなかったアーチャーはまともに顔を殴り飛ばされ、ついに聞くだけで見た者は痛みに竦み上がりそうな鈍い音を立ててアーチャーはアスファルトの地面に叩き伏せられた。

だがそれでも彼は直ぐに身体を起こし、四つん這いになりながらも肩で息をするその姿からは闘志の衰えを感じさせなかった。

そんな満身創痍の彼にバーサーカーは無慈悲にも高く上げた足を鉄槌のように勢い良く降ろし、彼の頭を踏み潰そうとした。

しかしそこは英雄王ギルガメッシュ、自分の命の危機に本能だけで反応するとバーサーカーの踵が己の頭蓋を砕く前に両手を交差させて防御をした。

 

「ぬっ……あ……っ!!」

 

何とか死は免れたが、攻撃の勢いは相殺することが出来ずに再び地面に叩きつけられるアーチャー。

その必死に足掻く様からは、ビルスに攻撃するまで纏っていた王としての威厳を認めるのは最早困難であったが、それでも決して容易に敗北せず、抗い続けるその姿には英雄王ギルガメッシュとしての不屈の挟持が確かに見受けられた。

 

 

「ふぅん。アイツ、態度だけ偉そうで何もできない奴だと思っていたけど、ちゃんと戦う事はできるんだな」

 

「ええ、そうですね。あんな突然に追い詰められながらも士気の衰えは一切見せないところを見ると、あの方も立派な戦士のようです。しかし……」

 

「ま、相手が悪いな。襲っている奴はアーチャーよりは明らかに戦士としての腕は圧倒的に上だ。僕があいつの武器を破壊しちゃったから正直真っ当なタイマンじゃ敵わないだろうな」

 

「確かに」

 

「んー、だけどな。あの黒いのは武器は何も使わないのか?」

 

「そうですね。それが気になります。お?」

 

アーチャーとバーサーカーの壮絶な戦いにも呑気な雰囲気で感想を言っていたビルスとウイスだが、バーサーカーが鎧をまとった騎士風の出で立ちをしながらも特に武器を持たずに戦っていたのが気になっていたようだった。

そんな矢先にウイスはバーサーカーが戦い方に変化を生じさせた事に気付く。

 

 

「…………」

 

何を思ったのかバーサーカーは自分の攻撃によってまだ四つん這いの状態のアーチャーから後に跳んで距離を取ると、徐に拳を振り下ろし地面を抉った。

 

 

「あいつは何を……」

 

バーサーカーの行動の意味が解らず呆然としていたウェイバーの隣で、かつて前線での激しい戦いも経験した事もある征服王は何となく勘付き、自然と口から「もしや」と漏らした。

 

 

バーサーカーに抉られた地面の破片がその勢いによって幾つか宙を舞う。

彼はその中から拳大の石の塊を認めるとそれを掴み取って何の躊躇いもなくアーチャーに投げ付けた。

 

 

投石(スリング)!」

 

古代から近代の戦争において最も原始的な攻撃方法の一つを、まさか聖杯戦争という万物の願いを巡って争う神聖な戦いにおいて見ることになるとは思ってもみなかったセイバーがつい驚きの声を上げる。

彼女以外の面子も総じて似た思いだったが、その中においてランサーがバーサーカーの攻撃に違和感を感じ、やがてその攻撃がただの投石でない事にセイバー以上の驚きの表情をする。

 

「いや待て! あれは……」

 

 

投石用の道具も用いずにただ腕力のみを使ったバーサーカーの攻撃は優雅さや騎士としての誇りを微塵も感じさせない野蛮な攻撃だった。

生身の人間よりサーヴァントは強力な存在なので当然ただの投石も人間のそれと比べたら遥かに威力は勝る。

だがそれくらいランサーでなくてもサーヴァント本人なら当然予想はするし、攻撃法がどれだけ意外に野蛮な攻撃であろうと彼はそこまで驚きはしなかった。

彼が驚いた理由はバーサーカーの投石がただ物理法則に従ったものではなく、明らかに『アレ』を連想させる超常の現象を見せたからだ。

 

「なにっ?!」

 

アーチャーはその時、通常は空にしか見えない流星が真っ直ぐに自分に向かってきたような錯覚を覚えた。

そう錯覚してしまったのは、それだけバーサーカーが投げた石が彼の予想を超えた変化を見せ、自分に最悪の事態を回避できる隙を与えない悪夢のような威力だったからだ。

 

「……っ……ぁ」

 

アーチャーが受けから衝撃に我に返り、その後から襲ってきた激しい痛みの原因をゆっくりと視線で追うと、その先には自分の脇腹にぽっかりと出来た拳一つ分はあろうかという穴があった。

 

「…………」

 

信じられないものを見たという表情で一瞬顔を強張らせたアーチャーだが、今度こそ全ての気力をバーサーカーに奪われ、ついに自身の身体を支える力を全て失いがしゃりという鎧が地面に当たる金属音を響かせてうつ伏せに倒れた。

 

 

「おい、あれ……あれって、さっきのってもしかして……」

 

「ああ、恐らく宝具だな」

 

ウェイバーが何を言いたいのか察したライダーが彼の予想を肯定する。

対してウェイバーはライダーに自分の考えを肯定してもらったにも関わらず、納得できないといった様子で言った。

 

「いやでもただの石ころだぞ? それを投げただったんだぞ?」

 

「それでもあの威力、あの尋常ではない流星の如き勢い。アレは間違いなく宝具が起こす奇跡のそれだ」

 

「じゃあアイツの宝具は石ころだってのかよ?」

 

「いや……」

 

混乱するウェイバーにまるで自分に言い聞かせるようにセイバーが会話に入ってきた。

 

「恐らくあのバーサーカーの宝具は手にした全てを最低限の宝具の域にまで昇華させるというもの」

 

「え?!」

 

果たしてそんな奇妙で小狡い宝具有りなのか、存在するものなのか。

セイバーの言葉に驚きの声をあげるウェイバーだったが、それが正解なのか確かめるように自分のサーヴァント(ライダー)の様子を窺うと、彼の真剣な表情からセイバーの意見を支持していると悟ることができた。

 

「そんな……なんて出鱈目な……」

 

「そう驚くこともないだろう。見たところバーサーカーだというのにあいつの戦い方は暴力的ではあるがその動きは何処か常に流麗に見えた。恐らく生前のあらゆる武器を使いこなす神がかり的な技術の高さが宝具という切り札にまで至ったのだろう」

 

「ランサー、貴殿もそう思うか」

 

自分が導き出した結論と大凡同じだったのでセイバーの方を向いてそう言うとランサーは厳かな表情で頷いた。

それに同意するようにライダーも頷く。

どうやら三人の見解は一致しているようだった。

 

「マジかよ……」

 

バーサーカーの宝具の特異さに未だ衝撃が抜けきらぬウェイバーの後で、ビルス達はといえば……。

 

 

「ねぇ、あの金色の人大丈夫?」

 

イリヤはバーサーカーの宝具より倒れたアーチャーの心配をしていた。

 

「殆ど虫の息じゃないか? あれじゃもう直ぐその内死ぬだろう」

 

「そうですねぇ……」

 

「どうした? 何か怪訝な顔をしているぞ?」

 

「いえ……」

 

ウイスはアーチャーがここまで瀕死の状態だというのに、彼のマスターが令呪を使って強制的に撤退させたり回復の手段を講ずる為の行動を一切見せないことがちょっと気になっていた。

どうやらアーチャーはビルスに宝具を完全に破壊されたことによって、彼のマスターに完全に戦力外と見做されたらしい。

ウイスはそのマスターの冷淡さに少しだけ残念な気持ちを覚えたのだ。

 

「自分が召喚したアーチャーさんがあんな状態になっているというのに、何も反応を見せない彼のマスターさんってちょっぴり意地悪だなぁとですね」

 

「ああ、まぁそうかな。ん?」

 

ビルスが自分の服を引っ張られる方に顔を傾けると、そこには何かを心配するようなイリヤの顔があった。

 

「ねぇ……」

 

「あいつは敵だぞ?」

 

「うん、でももう戦いに使える武器は持ってないんでしょ? それなのにあんなに一方的に乱暴されちゃうんなんて可愛そうじゃない?」

 

「僕はそうは思わないね。あいつだって結構粘ってたじゃないか」

 

「うん、そう。頑張っていたよね? それでも……」

 

「……」

 

ビルスは縋るような目で自分を見るイリヤから視線を逸して何とか我関せずを貫こうとしたが、やがて泣き顔を隠すように自分のズボンに顔を埋めてそれでも動かない彼女を見て大きな溜息を吐いた。

 

「はぁあああ……。仕方ないなぁ貸し一つだぞ?」

 

「え、お菓子?」

 

「なに、お菓子?」

 

「……」

 

「……」

 

微妙な空気が二人の間を流れる中、ビルスが口を開くより早く良い思い付きが浮かんだイリヤが先手を取って喋った。

 

「うん、お菓子! あの人助けてくれたらすっごく美味しいお菓子あげる!」

 

「ほう。本当だろうな?」

 

「大丈夫! イリヤこっそりお城からお金持ってきたから!」

 

「そうか。なら良し」

 

実は持ってきたお金はドイツの通貨だったので後にいざそれを使おうとしても何もできないという事態に見舞われてしまうのだが、そんな事になるなどまだ予想もできていなかった二人は、取り敢えずその場は契約の締結をお互いに確認するのだった。

 

 

(なんたる無様……。この我がこのような……。時臣め、宝具を失った我には興味が失せたか……不快な……)

 

消え消えの意識の中でアーチャーはまだ意識はあり、辛うじて現界を保っていた。

だがそれも完全にとどめを刺すために自分に近付いてくるバーサーカーの足音を聞くともうここまでだと彼に覚悟をさせた。

そんな時。

 

 

いつの間にか手にしていた鉄棒を宝具と化し、止めの一撃を見舞おうとしていたバーサーカーの手首をビルスが掴んで止めた。

 

「?」

 

全く気配を察することが出来ない内に自分の動きが止められたので、理性を失ったバーサーカーも一瞬混乱したのか大人しい仕草でビルスの方を見た。

そして彼の姿を見るや直ぐに攻撃態勢を取ろうとしたところで、当然それより早くビルスの一撃を食らうのだった。

 

「?!?!?!??!!」

 

ビルスはただ手の甲で軽くバーサーカーを叩いただけだった。

だがそんな仕草にどういう仕組でどれだけの威力が込めれていたのか、バーサーカーは自身がアーチャーを殴ったり蹴り飛ばしたときより凄まじい勢いで彼に弾き飛ばされ、コンテナなど軽く幾つも貫通し、ビルス達からかろうじて見える遥か遠方の堤防にぶつかって四肢が四散した状態になる事でようやく止まった。

 

そのあまりにも非現実的な光景に、意識が遠くなりかけていたが故に事態が把握できなかったアーチャーとウイス以外の全てが愕然とした表情になっていた。

 

そんな周りの者など全く意に介さない様子でバーサーカーを弾き飛ばした方を見ながらビルスは一言だけ言った。

 

「ちょっと大人しくしてろ」




投稿が遅々としてすいません。
そして重ねてすいません。
ビルス様力が見れるのバトルは次話の予定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。