破壊神のフラグ破壊   作:sognathus

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寒いですね。
最後に投稿した日付を見て気分も寒く感じました。


第11話 最強のマスターの誕生

半壊して死に体のバーサーカーに魔力を供給する為に刻印蟲が体内で蠢き、その凄まじい苦痛に雁夜は堪らず絶叫した。

彼とて自分の居場所を知られる恐れがあるのだから声を漏らしてしまうのがどれだけ愚かなことくらい解っていた。

しかしその時感じた痛みは、そんな雁夜の当然の結果だと納得しても尚、己の意思では漏れ出る声を抑えきれない程に壮絶なもので、彼があげた絶叫はその場の付近に居た者の耳に容易に届いた。

 

「な、なに?」

 

初めて聞く人間の凄まじい絶叫に怯えた表情をして身を竦ませるイリヤ。

セイバーは彼女を安心させるように身をかがめてその頭を撫でながら言った。

 

「安心して下さいイリヤ。どうやらあれはあのバーサーカーのマスターのもののようです」

 

「凄く苦しそうな声だったね。その人大丈夫かな」

 

「……」

 

まだ会ったこともない上に敵かもしれない男の心配をするイリヤ。

セイバーはその子供らしい純粋なイリヤの優しさに己の警戒で険しくなっていた心が癒やされるのを感じた。

が、勿論声がした方から視線を逸らさず注意を向けるのも怠らなない。

ビルスによって瀕死の状態になっているとはいえサーヴァント、まだ現界を維持しているだけでも十分に警戒に値する状態なのだ。

 

「そう神経を尖らせなくても良いと思いますけどね。見たところ先程のビルス殿の一撃でバーサーカーは虫の息。加えてそのマスターの方も現界維持の為に魔力を吸われてるだけにしては不可解に思う程の苦痛に満ちた声。恐らくこの点から推察致しますに……」

 

「少なくともバーサーカーのマスターは真当な、魔術師としては力量が不足していると推察できるという事か? キャスター」

 

「左様ですね」

 

ランサーの問いにキャスターはニッコリと愛想笑いで浮かべて肯定した。

だがそんなキャスターに対してセイバーは依然として警戒態勢を解くことなく、厳しい視線を向けて言うのだった。

 

「だとしてもです。キャスター、貴方も一応サーヴァントだ。例え騎士でなくても生前が全く闘いに縁がなかった人生であったとしても、貴方はイリヤに召喚されたサーヴァントとして彼女を護る義務があることを忘れてはならない」

 

「当然です。如何に全く戦うことができないサーヴァントでもそれは心得ていますとも。……しかしまぁ作家本人が物語に出張ってしまう事には正直些か抵抗を感じてしまうのは否めませんけどね。ふむ、ではここは私もキャスターたるサーヴァントとしての皆様に吾輩の力をご覧にいれましょう」

 

「え」

 

今まで彼の事を無能のお荷物と内心で評価してたセイバーは、まさかキャスターからこんな殊勝な言葉が出てくるとは露ほども考えておらず、思わず呆けた声を出してしまった。

 

「キャスター、貴方、戦えるのですか?」

 

「いえ、全く。微塵も、毛ほども戦の腕に覚えはありませんよ?」

 

「あ?」

 

彼に僅かばかりでも感心しかけたセイバーは、その期待はずれの発言に怒りから真顔になって聞き返した。

無意識に剣の柄を握る手にも力が入り、キャスターを見るセイバーの目が現世に召喚されてから最も険しくなる。

セイバーもまさかこんな視線を最初に送る相手が敵ではなく身内に出てしまうとは思ってもみなかった。

それだけにキャスターに対する黒い怒りは沸々と込み上げ、こめかみに青筋を立てながら薄ら笑いを浮かべそうなセイバーのこの時の表情は、ビルス達とキャスター以外の彼女を見る者を戦慄させた。

そんな恐ろしい顔をしたセイバーにもキャスターは特に臆した様子も見せず、むしろ自信を感じさせるような演技がかった大袈裟な素振りで皆の前に進み出ると言った。

 

「まぁまぁ落ち着いて下さい。何も私は戦うことはできなくても勲詩に花を添えることもできないとまでは申していないでしょう?」

 

「…………?」

 

「では皆様! 暫しの間どうぞこちらにご傾注を! 私はキャスターとしてこれから皆様に……」

 

「早くしなさい」

 

長い口上を聴くつもりはないというセイバーの威圧にキャスターは「ふぅやれやれ」と肩を竦めると懐から本と筆を取り出した。

 

「ここから先は気になる事がありましてもどうかご静粛にお願いします」

 

 

キャスターが自分の力を披露しようとしていた時、ビルスとウイスも興味を持ちその様子を眺めていた。

 

「あいつ、何をするつもりかな」

 

「さぁ、何にしても楽しみですね」

 

「そう期待できるような事……ん?」

 

キャスターが何をするのか特にそれほど期待することもなく眺めていたビルスは、ふと自分のズボンを引っ張る力を感じて視線を下に落とした。

そこにはいつの間にかセイバーの元から自分の所に来ていたイリヤがおり、目で早くアーチャーを助けてと訴えていた。

 

「ああ、そうだったなウイス」

 

「はい、畏まりました」

 

 

「……何だ」

 

バーサーカーと同じく瀕死だったがアーチャーの視界に何者かの靴が入った。

宝具を本格的に使用する前にビルスに無慈悲に破壊されたことでという不幸が逆に幸いして、アーチャーは消費されることなく残っていた魔力と気力を振り絞ってまだ現界を維持できていた。

だがそうとはいっても瀕死の重傷を負っていることには変わりなく、体力の消耗から思うように身体を動かすことができなかったアーチャーは視線を上に向けることができなかった。

これは傲岸不遜で常に自分以外の存在を見下すのが当然としている彼にとってはとてつもない屈辱であった。

 

(おのれ……よもや我にこのような無礼を働かれて何もできぬとは……)

 

「貴方を助けます」

 

「…………なに?」

 

「イリヤさんの優しさとビルス様の指示に感謝なさることですね」

 

「去ね……。そのような……施しなど……」

 

「申し訳ないのですが拒否はできません。貴方には耐え難い屈辱でしょうけど、まぁどうしても我慢できないのなら回復した後でまたビルス様に文句を言えば良いではありませんか」

 

「…………クソが」

 

無念さから我慢できず下品な悪態を一言漏らすと、アーチャーはそれ以上何も言うことはなかった。

 

「結構」

 

ウイスはニコリと微笑むとアーチャーの肩に手を置き、手を置かれた本人が何をされたのか解らないほどの一瞬で彼を全快させた。

 

「……なに?」

 

奇跡という言葉でしか言い表せられない現象に純粋に驚く表情をするアーチャー。

そんなアーチャーにウイスは続けて言葉をかけてきた。

 

「まぁ貴方が失った武器も、まだそれほど時間が経っていないのでやろうと思えば『戻す』事はできるのですが、それは早い内にビルス様が許可をしてくれるのを祈ることですね」

 

「貴様は……何なんだ……?」

 

「私はただの神の付き人です」

 

「…………っ」

 

自分が最も気に入らない回答だった。

よもや自分が最も嫌う存在とそれに関係する者にここまで嬲られることになるとは。

 

「なるほどな……。では我をここまで屈服させてさぞや嬉しかろうな」

 

「え? いや、別にそんな事はないと思いますよ? だってビルス様、確かに最初の貴方の態度には腹を立てていましたけど、先程ビルス様が吹っ飛ばしたあの黒い方と貴方が戦っている様子を見ていた時は寧ろ見直していましたよ?」

 

「……あの情けない様を見てか」

 

「ええ、あの時あそこまで追い込まれても屈服する様子を見せなかった貴方を見てビルス様はただの偉そうな奴じゃなかったとそういう印象を抱かれていたご様子でした」

 

「ふっ……ふっ……ただの偉そうな、か……」

 

「ええ、ビルス様の貴方への最初の印象は実に最悪でしたね。いや、これは本当に危なかったんですよ? 貴方の一人のせいでこのあたりの星々が無くなっていたのかもしれないんですから」

 

最後のウイスの一言がこの時のアーチャーには一瞬では理解し難かったが、それでももう既に自分に関心がなさそうなビルスを見ていると、不思議と先程まで滾っていた怒りの感情が虚無めいた感情に取って代わり気分が沈んでいくのを感じた。

 

「ふっ……はっ……。まるで心底つまらぬ道化の芸を見て怒りを通り越して呆れ果てたような気分だ」

 

「まぁともあれ落ち着かれたようで」

 

「うむ……一つ」

 

「はい?」

 

落ち着いたからこそ賢王でもあるギルガメッシュ(アーチャー)は興味を持った。

訊かずにはいられなかった。

彼は自分から離れようとしていたウイスの背中に問いかけた。

 

「貴様は神の付き人で奴は神と言ったが、奴は如何なるか……」

 

神とは最後までいえなかった。

何故なら不意に自分の身体が抗えない魔力の強制力によって、自らの手で己の喉を裂き、自分の意思とは関係なく自害しようとしたからだ。

身体の自由を奪われ意識こそまだ驚愕の感情に傾いていたものの、この事態が自分のマスターである遠坂時臣の令呪によって起こされたものだとアーチャーは一瞬で考え至った。

 

(なるほど。実に魔術師らしい、サーヴァントとマスターの関係らしい顛末だ。利用の道が完全に絶たれたのなら成程、解らなくもない)

 

二度目の生にしてはあまりにも無様過ぎる最期に自嘲の薄笑いすら浮かびかけた時だった。

何者かの手が自分の意思の干渉を許さない己の腕を掴み止めたのだ。

 

「!」

 

アーチャーは今度こそ驚きに目を見開いた。

彼の腕を掴み止めたのは、自分がここまで落ちぶれる原因となった張本人であるビルスだった。

恐らく令呪三画全てが消費された命令は確定した運命と言って差し支えがないほどに強力なのだが、それをビルスは容易く止めてみせ、更に現在も止め続けていた。

 

「ま、約束だからな」

 

ちらりと興味なさそうな目でアーチャーを見たビルスは次にウイスの方を向くと言った。

 

「こいつもイリヤと繋げ。最初からあった繋がりは今、破壊した」

 

「?」

 

アーチャーはビルスが何を言っているのか全く解らなかった。

だが違和感というか事態の急変には直ぐに気付いた。

先程まで自分に働いていた魔力の強制力がビルスの言葉の直後に霧散するように消えていたのだ。

 

「は?」

 

口笛を吹きながら既に去りゆくビルスの手から離された自分の両手首を見てポカンとするアーチャー。

しかしあれよあれよと再び新たな事態がアーチャーに問答無用と言わんばかりに起こる。

 

「……なんだ?」

 

アーチャーは何処からか流れ込んでくる異常という言葉でも不適切に感じるほどの莫大な魔力が自分に流れ満ちていくのを感じた。

 

「ん?」

 

一方ちょっと胸の中が一瞬熱くなった気がしたイリヤは可愛く小首を傾げた。

この時、聖杯戦争史上例がない3人のサーヴァントを同時に最高の状態で一人で契約し従えるという、トリプルマスター(バケモノ)があまりにもあっさりと爆誕した。




モチベが下がってる、この一点に尽きます。
原因としては加齢、仕事、ストレスなどがあるでしょう。
まぁでも、それでも不定期な更新をしながら続いていく気はします。

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