本格的なバトルは内容の通り次話からとなります
「僕にお話というのは?」
神に呼ばれてビルスの前に来た冬夜は表向きは平静を装いながらその実、裏では自分から動く前にビルスと直接話す機会が再び訪れた事を喜んでいた。
彼は彼で今まで展開を見守っている中でビルスに確認したい事がいろいろとできていたのだ。
「ああ、君にちょっと訊きたい事がまだあってさ。でもまぁここは君に先を譲ってあげるよ。君も僕に話があるんじゃないかな?」
己の心を見透かされていようで正直気分は良くなかったが、せっかく戴いた厚意を無駄にする気もなかったので冬夜は「では」と軽く会釈をして口を開いた。
「ビルス様。ビルス様も神様のようですのでビルス様と呼ばせて頂きますね?」
「ん……」
のよう、ではなく事実なのだがとちょっと内心気分を害したビルスだったが、特にそれを態度に表すこともなく取り敢えず冬夜の確認に頷いて話の先を促した。
「ビルス様、先程神様とお話されていた時あの人、なんだか凄く深刻な顔をされていたのですが、何かビルス様の不興を買うような事をしてしまったのでしょうか?」
「……」
ビルスは冬夜のこの質問に今度は自制を忘れて呆れた顔をしてしまった。
(こいつ……慕っている神を気遣っての事なんだろうが、あの創造神が僕に恐縮していた原因が自分にあるとは微塵も思っていないのか……)
ビルスは小さな溜息を一つ吐くと呆れた顔のまま、加えて声もちょっと険を感じさせる雰囲気で言った。
「まぁ確かに気になった事はあったし、その発端があの神だったのは事実だよ。でもね」
「? はい」
「発端は彼であっても僕があまり愉快でない気持ちになった殆どの原因は君なんだよ?」
「え?!」
正に予想外の更に外。
自分では電話で創造神に念を押して確認されたようにビルスに失礼な態度を今まで取ってはないつもりだった。
だというのに創造神がビルスの不興を買った大元の原因は自分にあるのだという。
冬夜は全く心当たりがなかったので困惑した表情でビルスに訊いた。
「ぼ、僕ですか? あの、僕ビルス様に何か失礼なことしましたっけ?」
「君が僕に具体的に何かしたってワケじゃないよ。ただねぇ……」
「教えて下さい」
「とーや、僕に君の力を教えてくれないか?」
「え?」
まるで今話している事とは関係がなさそうな質問を唐突に受けて冬夜は虚を突かれた顔をする。
ビルスはそこから冬夜に余計な質問を受けないようにももう少し丁寧に言った。
「話の本筋からは逸れる事を訊いているわけじゃない。だから答えるんだ。君の力はなんだい?」
「ぼ、僕の力ですか……? えっと……スキルや魔法の事でしょうか?」
「それはあの神に後から授けて貰ったものだろう? 君自身が本来持つ力は何かと訊いてるんだ。何でもいいよ。何ができる、何が得意とかそういうのってあるかい?」
「え、えっと……」
ビルスの質問に冬夜はこの世界に転生する前、つまり生前の日本で学生として日常を生きいた頃の自分を思い返した。
彼が思い出した記憶の中でアピールできそうなのは順風満帆な人生を送っていたこと、そして育ての親の祖父の影響力のおかげでその人生を更に日々有意義に過ごしてきた事くらいだった。
それ以外は特に思い浮かばなかったので、冬夜は仕方がなくその事をビルスに話した。
「……なるほどね」
「あ、後はそうですね……まぁ若さ相応の体力とか反射神経くらいでしょうか」
「ふむ。ま、そんな所だろうね」
「ビルス様? こんな事が僕の質問と何が関係あるんですか?」
頭痛がしてきた。
実際にそうではなかったが、ビルスは久しぶりに悩ましい気持ちになった。
こういう自分の欠点に全く自覚がなく、一方的な善意だけをこれまた無自覚に押し付けることに遠慮がないという困った人物をどう諭したら良いのか。
いや、破壊神である彼にそんな義務や責任はない。
そう、彼は破壊神だ。
気に入らないもの、それでなくても全てを含めて破壊するという行いそのものが彼の存在意義なのだ。
だから今回は気に入らないという理由で冬夜ごと、大目にみてこの星だけに留めて塵にしても破壊神の本分としては全く問題がなかったしその方がスッキリした。
だがそうしないのは……。
「……」
ビルスは視界の端でひたすら俯いて自分に謝罪の意を伝えている創造神の姿に心の中で溜息を吐いた。
「僕も甘くなったもんだ」
「え?」
「なんでもない。あーそう、原因はね」
「あ、はい」
何となくビルスの凄みが増した気がする。
神物質で構成された身体がそう感じさせたのか冬夜は無意識に佇まいを正して彼の言葉を待った。
「ハッキリ言ってしまえば僕は君が元々特に個人で何ができるわけではないというのに貰い物の力に頼りきりで、その自覚がない君の姿に緩慢さを感じて不快なんだよ」
「えっ…………」
今まで誰にも言われた事がない辛辣な評価とも言える批判に冬夜は言葉を失った。
後ろではビルスの言葉に激昂したエルゼをリンゼと八重が必死に抑えていた。
彼女達とてビルスの言葉に怒りを感じなかったわけではない。
だが、エルゼはどうかは分からないが、少なくとも彼女を止めている二人はビルスが言いたい事を多少理解していた。
完璧であるが故に弱みがない冬夜に人間としての不気味さ、そしてその不気味さの原因となっている強大な力に全く謙虚さを見せない点など、ビルスの言葉から連想できる冬夜の問題点は落ち着いて考えれば幾つもあった。
「そ、そんな事いきなり言われましても……」
本当は「そんなこと貴方に言われる筋合いはない。これは自分が運が良く授かった偶然の贈り物であり、批判されるような後ろめたい問題は一切ない」そう冬夜は言いたかった。
だがそう言えなかったのはビルスの凄みもあったが、やはり初めて面と向かって祖父以外の他者にハッキリと批判されたショックの方が大きかったからであった。
ビルスはそんな冬夜を意に介さず今度はこんな事を言ってきた。
「ま、今まで甘い環境にいたらそうなるだろうね。まぁそこでなんだけど、とーや、一つ僕は君に命じる」
「はい……?」
「その後付の力の凄さ、ちょっと僕に直接見せてくれないか? もし僕が満足したら僕はこの世界にも君にも何もしないで去ろう」
「あの……それってもし満足しなかったら僕らはどうなるんですか?」
冬夜が恐る恐るした質問にビルスはこうあっさりと返した。
「どうだろうね。君を破壊するかもしれないし、もしかしたら君が大事に思っている仲間やあの神もまとめて世界ごと破壊してしまうかもしれない。まぁこればかりは君の頑張り次第だ」
まだビルスの破壊神としての強大さを正確に理解していなかったとはいえ、冗談という感じもなくそう言うビルスのこのスケールが大き過ぎるペナルティの内容に、冬夜の頬を一筋の汗が伝うのだった。
エルゼの良いところを探そうとしましたがなかなか見つかりませんでした。
実はこれは八重も同じで、リンゼの方が大人しいからまだ理性的な判断ができるかなと。
同じ評価下されたのにリンゼと一緒にエルゼを抑えるポジションに収まった八重はまだ良い待遇と言えます。
あと祖父以外に批判されたことがないという下りは創作です。