スマホ編の最終話(のつもり)です
「おー……この少年を、ですかビルス様?」
「そ。お前、なかなか誰かを鍛えるのは上手いらしいじゃないか? だからコイツのことを頼みたくてさ」
「ほほーぅ? それはもしかして悟空のように?」
「そうだ。あいつ、お前との昔の事を楽しそうに話していたぞ」
「ほっほっほ。あー……それは懐かしいですなぁ……。」
何やら親しげに破壊神と話している謎の老人。
冬夜達はそんな二人を戸惑った表情でただ見ていた。
その場所は、猫の額ほどの狭さの陸地を完全に海に囲まれた孤島。
そこには赤い屋根にピンク色の壁という派手な色だが簡素な作りの木造の家が建っており、それがなかったら完全な無人島と言える場所であった。
「あ、あのぉ~ビルス様? 僕は具体的にここで何をすれば?」
ビルスと親しげに話している辺り、その老人も自分にとっては格上の人物と見て良さそうだったので冬夜は努めて申し訳無さそうな仕草をして二人の会話に割って入ってきた。
それに反応してやっと冬夜の方を向いてくれた二人は、先ずはビルスの方から話を始めた。
「ああ、言っただろ? 君を鍛えるって。こいつが君を鍛えてくれる……えーと……。」
「師匠ですね。そしてビルス様は私のお弟子さんです」
「え?!」
いつの間にか自分の後ろに居たウイスの存在より彼が発した言葉の方に冬夜は心の底から驚きの声を上げた。
(し、師匠? この人、なんか凄くビルス様と親しい関係だと思っていたけど破壊神の師匠って、今言ったよな?)
ただでさえどうしようもない存在として今もプレッシャーという名の心労を感じているビルスの師匠という事は、少なくともウイスという人物は彼と同等かそれ以上の力を持つ存在ということだ。
冬夜はその事実に軽く目眩がして倒れ込みそうになるのを必死に耐えて我慢するのだった。
一方ビルスは、補足してきたウイスを鬱陶しそうに睨みこそしたが、彼の発言自体は否定することもなく耳を掻きながら言った。
「まぁそういう事だ。こいつは亀仙人。これから君の師匠となって修行で鍛えてくれる」
「しゅ、修行? は、はぁ……あの、宜しくお願いします……。」
「ほっほっほ。いやぁ本当に若いのぅ。悟空とクリリンを鍛えてやった時のことを思い出すわい」
こんな老人がいったい自分をどう鍛えるというのだろう。
格上の存在だとしても自分の神のように全能さを感じる
冬夜とてビルスからその弱さを酷評こそされるものの、長い神族との付き合いから、自分の師匠として紹介された亀仙人なる男からそういった力がない事は直ぐに察することができた。
故に自分を鍛えるという話が恐らく肉体に関係する事だとは予想は付いたのだが、下手したら自分の4倍くらいの長さの人生を歩んでいそうなこの老人が果たして自分をどう鍛えてくれるのか、冬夜にはその点の予想がまるで付かなかった。
(まぁトレーナーみたいなものかな? 指示だけして僕のトレーニングを監督するんだろう)
冬夜のこの予想は別におかしくはなかった。
寧ろ他の人からも一般的な考えだと判断されることだろう。
彼の仲間であるエルゼとリンゼもそう考えていた。
だが、八重だけは違った。
彼女だけは他の三人より精神と肉体の鍛錬に関しては人一倍長じていたので、同じ人間だった事もあり、亀仙人というこの老人のただならぬ武術家としての気配を微かだが感じ取っていたのだ。
(この老人はただものではない。ハッキリ言って不味い……!)
そこで八重は冬夜に何かあった時に彼の助けとなる為に、自分も修行に参加したいと申し出た。
それを見たエルゼとリンゼは当然の流れで自分達も冬夜と一緒にいたいという理由から共に参加したいと申し出たのだが、そこは八重がきっぱりと止めた。
「お止めになった方がよろしいかと」
「なっ、八重、貴女だけ抜け駆けしようっていうの!」
予想通りの反応にいつもの八重だったら赤面して言葉もしどろもどろになるところであったが、この時の彼女は違った。
八重は真剣な表情で姉妹を見据えて言った。
「そういうわけではござらぬ」
「え、じゃあどうして……」
姉と同じく抗議の声をあげかけたリンゼだったが、八重が急に雰囲気を変えて表情を引き締めたのでその言葉を飲み込み、代わりに不安げな眼差しで八重にその真意を問う。
八重はそこで老人から受けた自分の直観について答えたのだった。
「その予想が当たっていたとしたら尚更私達も付いてなきゃ……!」
「魔法でサポートをするおつもりで? もしそうだとしたらそれは絶対にやってはならぬことですよ?」
「そんな、どうして……」
「ビルス殿が仰っていたようにこれはあくまで冬夜殿の身体を純粋に鍛えるのが目的です。なのに魔法など使ってしまったら修行の意味がなくなってしまうし、そしてなによりそんな事をしたらビルス殿の不興を買う恐れがある……。」
「……っ」
最後の八重の言葉に口惜しそうな顔をして強く唇を噛み締めるエルゼ。
確かに彼女の言う通りだった。
今こうして運良く避ける事ができた自分たちの世界の終焉の危機を、再び自分達が原因で迎える事など到底容認できる事ではなかった。
「分かったわ……。でもそれならせめて冬夜の心を支える役割として私達も参加させて。それならいいでしょう?」
十分に状況を理解した譲歩にこれなら八重も応じてくれると思ったエルゼであったが、予想外にも八重はそれでも厳しい表情をして頷いてはくれなかった。
これには流石に反感の色を強く顔に浮かべたリンゼも抗議しようとしたのだが、その前に八重が言った。
「拙者なりに今まで相当の鍛錬は積んできたつもりでござるが、それでも冷や汗が出ております。そんな修行にお二人は付いてこられる自信はおありですか?」
「そ、それは……。」
体力に一番自信がないリンゼが先ずこの言葉にたじろいだ。
八重はそこまで言った上で最後にこう付け加えて二人に背を向けた。
「拙者は警告致しました。それでも参加されると申されるのなら相応の覚悟有りという事で拙者もこれ以上は何も申しませぬ。では」
「お、お姉ちゃん……。」
意見を求める妹にエルゼもやっとここに来て真剣に悩む。
愛しい人の支えにはなりたいが逆に彼の負担には当然なりたくない。
ならば八重の警告を聞き入れて彼を見守る側に立つのもある意味冬夜の為と言えた。
(はぁ……取り敢えず様子を見るか)
数分悩み抜いた末に苦渋の決断をしようとした時だった。
八重の修行参加の申し入れに亀仙人が「うむ」と頷き、ついに修行が始まる雰囲気がした。
その予感は当たっており亀仙人は二人に杖を差し向け早速修行の内容を告げるのだった。
「お主達に課す修行とは牛乳配達じゃ」
「え?」
「へ?」
一人は牛乳配達という完全に予想外の修行内容に対して虚を疲れた声。
もう一人は馴染みがない修行内容に困惑の声を漏らした。
それは離れた位置から亀仙人の言葉を耳にしたエルゼとリンゼも同じであったが、この時まだ4人は当然では有るがこの修業がどれだけキツイものか理解できていなかった。
ここから先の展開に20キロの甲羅やその倍の物を背負わされたり、その上で猛獣に追いかけられながらも牛乳を配達しなければならないという、狂気に片足を突っ込んだとんでもない修行が待っていることなど知る由もなかった。
正直内容としては中途半端感が否めない結末と思っています
もしかしたら加筆や追加の話を作るかも
そして年内にFate編の話を終わらせることができなかった自分の無能さに草生やしてます
こんな調子ですがビルスの話もまだ……続きます
有り難いことにいろいろとご意見も頂いておりますので
こんな拙作に今年もお付き合い頂いた読者様に対しては感謝の念を禁じえません
それでは皆様良いお年を
できましたら来年もお付き合い頂ければ幸いです←更新頻度なんとかしろよ