破壊神のフラグ破壊   作:sognathus

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これにてスマホ太郎編は締めになります


第9話 エピローグ(修行)

「牛乳配達はやった事があるかの?」

 

「い、いえ……。というか牛乳配達という言葉は解るのですが、馴染みがない言葉です」

 

「お? そうなのかえ? まぁ確かに、近頃は何事も通信で済ませて、後は配送業者からの荷物待ちであろうからの。牛乳配達とはまぁ、つまるところバイトじゃ」

 

「ば、バイト?」

 

「と言っても、儂らはボランティアのようなものじゃから、給金などはあまり期待せぬように。あくまで目的は修行じゃからな」

 

「な、なるほど。あっ、もしかして修行というからには身体を動かす事、つまり徒歩で牛乳の定期購入を契約している方に、配達するという事ですね」

 

「おっ、流石に若いだけあって飲み込みが早いのぉ。ふぉっふぉっふぉ、そういえば悟空達の時は修行さえできれば良いという感じじゃったから、こんな会話もなかったのぉ。懐かしいわい」

 

 亀仙人は本当に昔を懐かしむように、修行するために移動した島の浜辺から海を眺める。

 サングラスだったのでどのような目をしていたのかは判らなかったが、それでも海を眺めるその横顔からは、きっと穏やかな目をしているのだろうと冬夜に予想させるには十分な雰囲気があった。

 因みにこの島まで来た手段はウミガメだ。

 亀仙人の従者だという謎の喋るウミガメの背に、亀背人と一緒に乗って此処まで来たのであった。

 冬夜は亀の背に乗るという発想とは縁が遠い世代だったので、島に着くまでの経験はそれはそれは鮮明に記憶に残るものとなった。

 

(か、亀って乗れるものだったんだな。いつ沈むか分からないいイカダに乗っているようでちょっと怖かったけど楽しかった……)

 

 実は最初は飛行する方が速いという事で筋斗雲を利用しようとしていた。だが、『久し振りだからもしかしたら乗れるかも』と、謎の動機に意気揚々と突き動かされた亀仙人が飛び乗ろうとした瞬間、結局乗れずに雲を突き抜けてしまう始末。だがそれならと、彼に倣って飛び乗ろうとした冬夜まで乗れなかったので、二人でウミガメのお世話になることになったという経緯があった。

 修行の同行を希望した八重は、冬夜達より先に筋斗雲に乗って島に移動していたので、何処か複雑な表情を浮かべ、口数が少ない冬夜の様子に首を傾げて出迎えた。

 因みに筋斗雲に乗れず、呆然としていた冬夜を見る亀仙人の様子はとても嬉しそうであったという。

 

 

「武天老師様、お久しぶりです。今日は久し振りに牛乳の配達を手伝って頂き、有難う御座います」

 

「いやいや、こっちも修行の代わりになるからの。昔と変わらず快く協力してくれて儂からも礼を申しますぞ」

 

(う、牛!?  い、いや、牛人間!?)

 

 亀仙人が住む世界特有の獣人族の姿に、衝撃を受けて冬夜は固まった。

 そんな動けずにいる彼に、亀仙人は牛乳瓶が8本入ったケースを渡してきた。

 反射で受け取った牛乳の重さに我に返った冬夜は、ケースを見ながら言った。

 

「え、これだけですか?」

 

「うむ、此処は人が住む集落も(まば)らなとこでの。配るのはこれくらいじゃ」

 

「うーん、ということは結構距離を歩きます?」

 

「これ、歩いてどうする。基本移動はランニングじゃ」

 

「あ、はい。すみません。それで、この牛乳は何世帯くらいに届けるんですか?」

 

「配達するのは四件、ふーむ……移動距離は五十キロメートルくらいじゃから、半日もあれば十分じゃろ」

 

「えっ」

 

 想定外の言葉に、思わず絶句する冬夜。

 牛乳配達という言葉には確かに馴染みはないが、それでも食事のデリバリーに近いくらいの感覚はある。

 移動手段に車や単車を使ったとしても、彼の中の常識ではせいぜい十キロメートル程度だった。

 だが、今彼の眼の前に居る老人はそれを遥かに超える、五十キロメートルという距離の配達を今からこなすのだと言う。

 それも徒歩でだ。

 当然、能力による身体強化は許されない。

 それでは鍛錬にならないのは理解していたので、冬夜もそれについては従うつもりだった。

 と言うか……事前にウイスによって、安易に能力に頼らないように能力を封印されていた。

 冬夜はこの時程、島で待機している魔法使いの姉妹の助けを欲した事はなかった。

 因みにここまで大人しく亀仙人の言葉に耳を傾けていた事で、半ば存在が空気と化していた八重は、この時点ではまだあまり動揺していなかった。

 流石と言うべきか……冬夜に近い女性の中で、体力に自信があるだけの事はあった。

 冬夜は直接的な助けにはならないものの、落ち着いた態度を崩さない八重の存在に頼もしさを覚え、この苦難を乗り切る為の心の支えとする事を決めたのだった。

 

「大丈夫でござる冬夜殿。拙者が上手く先導致す故」

 

「有難う八重……」

 

「八重ちゃん、女子(おなご)なのに感心じゃのお。これ、冬夜とやら? 今回は彼女に及ばないまでも、足まで引っ張らないように気を引き締めねばならぬぞ?」

 

「はい!」

 

「ふむ、良い返事じゃ。それでは……」

 

 いよいよ過酷な鍛錬の始まりかと固唾を呑む冬夜達に、亀仙人は『その前に』とある物を差し出してきた。

 

「?」

 

「?」

 

 それは、リュックのように背負えそうなバンドが付いた”亀の甲羅”であった。

 亀仙人は、それを持ちながら二人に言った。

 

「一つ、二十キロある。まぁ最初じゃからかなり軽めじゃ。これを背負いながら今から牛乳配達をしてもらうぞい」

 

「……」

 

「……」

 

 ついに八重も、冬夜と同じく絶望したように顔を青くしていた。

 そんな彼らに、無自覚ではあったが追い打ちにとなる言葉を、亀仙人は注意喚起の為に添えた。

 

「道中は熊やら山賊やら恐竜も出る事があるので、移動の際も気を抜かないように。なに、危なくなったら儂が助けるので安心せい」

 

 冬夜と八重は、この地獄の行脚のような過酷過ぎるトレーニングを過去に亀仙人から受け、無事に乗り切ったという二人の猛者の事を現実逃避するかの如く、思い出していた……。そして、その二人は一体どのような怪物だったのか……絶望するよりも気になって仕方なかった。




いつか各編のその後みたいな話を作ってみたい

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