乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です 作:りーおー参式
誤字報告をいただいていたのを今、気付きました、ありがとうございました。
監査先から王都に戻った僕は、ケモナー学園の決闘会場に向かってダッシュしていた。
王都に着くまでに順次届いた情報を整理すると、妹の婚約者である王太子のユリウスや夜遊びの弟分ジルクを含めたあの乙女ゲーの攻略対象5人全員を篭絡した子爵家の令嬢と妹が決闘することになったのだという。
はあ?主人公って平民だったはずだろ!しかも、ラーファン家という、ガサ入れをすればどれだけボロが出るかわからないと悪い意味で大評判の家の娘らしい。
というか、あのジルクがあっさり篭絡されたというのが驚きだ。
いくらクラリス嬢との間に僕がヒビを入れていたのだとしても、ジルクに手を出そうとした相手にクラリス嬢が何もしないで、指を咥えて見てたと考えるのは不自然だろう。
だとすれば、この世界のストーカーの開祖クラリス嬢とお抱えの諜報部隊が対策を打つ間もなく誑し込んだとしたか考えられない。
いや、そんな女なんて、凄腕のお水世界の方でもあるまいし、学園にいるのか!?
っていうか、ゲームの3年目に起きるイベントが、1年目の夏、ゲームが始まって数ヶ月間で、僕が王都を離れていたたったの数か月間で起こされているのはどういうことだ!
もう一つおまけにわからないのが、妹の決闘代理人となったのが、先日、我が家の食卓で話題に上ったロストアイテムの冒険者、リオン・フォウ・バルトファルトという男子生徒だということだ。
仮にも、この国の中で大物貴族でありスペックも高い攻略対象5人とその鎧を相手に、1人で戦うなんて正気の沙汰とは思えない。
発掘したというロストアイテムの鎧があるらしいが、ロストアイテム=高性能とは限らない、というのがこの世界の常識らしいから、どうやって戦うつもりなのだろう。
まさか、僕が昔、辺境出身の男子達に結婚相手を宛がい回ってた話を聞きつけて、ワンチャン、うちの実家に恩を売って、婚活地獄からの脱出を図るつもりなのか。
色々と考えていたが、ようやく決闘会場にたどり着いて、観客席に通じる廊下を一気に駆け抜ける。
どういうわけか、戦闘音は聞こえてくるが、観客達の歓声があまり聞こえてこない。
おかしいな、ケモナー学園名物の決闘は、どんな試合でも盛り上がるものだと思っていたのだが。
そして、廊下を抜けて観客席にたどり着いた僕の目に映ったのは、黒色に近いダークグレーの大型の鎧が、白色と青色の鎧を、スコップでフルスイングして殴り倒す場面だった。
白と青の鎧は現時点の国内の技術の粋を集めて開発された王太子であるユリウス専用機だろう。妹がプレイしていたゲーム画面でも見たことがあるような気がする。
しかし、僕にとって大事なのはそこではなかった。
スコップ片手に最新鋭機をぶっ飛ばした黒い機体。僕の目はそれに釘付けだった。
ブ〇ックサレナのような黒くて無骨な装甲、重量のある機体を強引に動かすための大型バックパック、ほんのりと愛嬌のある丸型フェイス。
まさか課金アイテムか!!!!!!
前世の妹が、あの乙女ゲーをクリアするために、僕の残業代を使って黒っぽい鎧をゲーム内で買っていた。記憶はだいぶおぼろげなものになっているが、デザインが似ているような気がする。
だが、よくよく考えて見ればゲーム内に存在していたアイテムであれば、この世界に存在していても不思議ではない。
そして、妹がプレイしているのは見ていたから、黒い鎧の強さは知っている。
会場内を改めて見まわしてみると、4体の壊れた鎧がバトルフィールドの端っこに仮置きされているが、今現在王太子専用機と戦っている黒い鎧に目立った損傷はない。やはりこの世界の中でも最高峰の性能なのだろう。
「良かったね。君は王子様だから戦いに勝利するんだよ。王子として生まれたくなかったと言いながら、立場を最大限に利用する強かさは称賛に値しますよ!」
黒い鎧のパイロット、おそらく妹の決闘代理人の声が、鎧を通じて会場内に響き渡った。
決闘の当事者席で顔を覆って泣く妹の姿があることも合わせると、僕が会場にたどり着くまでにどんな言い合いがあったのかは何となく想像はつく。
「負けるなんて思っていなかったんです。許してくださいってお願いしてごらん」
「できるわけないだろ、これは神聖な決闘だ」
「じゃあわざと負けたふりしろってこと?そんなバレバレの忖度しろってキツイっすわぁ」
煽る妹の代理人、そして怒る王太子。
いや、怒っているのはこっちだからな。妹の気持ちは愛じゃないとか言ってくれたが、お前のためにうちの妹は小さい頃から、自分の人生を犠牲にするように厳しい教育に耐えてきたんだぞ。
ここが決闘会場じゃなかったら、僕、いやもう俺でいいや。俺が相手してやってもいいくらいだからな、この馬鹿王子。
・・・なんだか頭から卑猥な突起物が生えてそうだな。
とはいえ、俺の怒りをよそに、妹の代理人は、馬鹿王子を物凄い勢いで煽り倒していく。
あいつ、煽りスキルがすごいな!的確に相手の弱いところを突いて、ほじくり返して、心をへし折る罵声を浴びせていく。
何だろうか、怒りがどんどん鎮まっていく。自分でやれと言われても、あそこまで盛大に煽り倒すなんてたぶんできない。きっと彼なら監査先で、領民の血税を私欲のために浪費するゴミ女どもを僕以上に追い詰めてくれそうだ。
「くたばれ、くそ野郎」
「殿下、そんな奴に負けるな!」
「死んじまえ!」
バルトファルト君による煽り倒し劇場状態になり、静まり返っていた会場内から、馬鹿王子の激励と妹の代理人に向けた大ブーイングが起こり始めた。
それとは対照的に、僕の心はずいぶんと冷静さを取り戻しつつある。ボコボコにされながら立ち向かう馬鹿王子が哀れ過ぎて愉快に思えてくると、思わず大声で笑いだしてしまった。
そんな場違いなムーブを始めた僕に、何人かの学生が気付き始める。
「おい、あいつは誰だよ!バルトファルトの関係者か?」
「いや・・・馬鹿!あの人は公爵令嬢の兄貴だ!王都に戻ってきてたんだ!」
「ってことは、今や伝説と言われる辺境の愛の救世主(メシア)か!!」
「え、公爵家の赤い通り魔でしょ!?妹のためなら貴族の1つや2つ、笑って取り潰すって聞いたわよ」
「監査で僻地のドサ回りさせられてるんだろ」
「いや、監査先の辺境の領主を離婚させて、王都で好き勝手やる女を片っ端から消してるらしいぞ」
「何それ、うちの家も監査して正妻を消してくれないかな」
「私の従姉妹がレッドグレイブにガサ入れされてから、連絡取れないのよ」
色々と言われる仕事だとはわかっているが、称賛と批判の温度差があり過ぎて風邪ひきそうだね。
ってか、誰が赤い通り魔だ!言ったやつ、ちょっと出てこい!
人間サイズの怪獣を、不意打ち、串刺し、タコ殴りで撃破する、光の国の巨人の親戚のような見た目の、サイコパス系〇谷特撮ヒーローみたいに言うな!
僕だって前世のまとめサイトで見たときはドン引きしたんだぞ!
せめて赤い彗星とか、赤い〇芒星とか、そういうちょっと厨二心をくすぐられる異名が欲しかったよ!
僕を赤いアイツ呼ばわりした女生徒を特定しようと、ヒソヒソ話をしていた生徒たちのいる観客席に近付いていこうとするが、舞台の上で最後の特攻を仕掛けようとする馬鹿王子の声が会場に響き、僕の視線もそこに移る。
「バルトファルトオォォォォ!」
白と青の鎧が、魔力か余剰出力かはわからないが、光輝く翼を背部から形成させて、黒い鎧に突っ込む。
だが、馬鹿王子の渾身の突撃も、あっさりと黒い鎧の片腕に止められて、捕まえられた頭部が徐々に握りつぶされていく。
光の翼出して、がむしゃらに突っ込むのは敗北の”運命”に一直線ですよ、馬鹿王子様。
そして、黒い鎧が、王太子機を掴んだまま止まった。いわゆるお肌の触れ合い回線で何かを話しているようだ。また言葉攻めをしているのか!
会場の生徒達からは変わらず罵声が浴びせられ続けており、彼らから見たら、黒い鎧は悪の権化のようなものなのだろう。
しばらく動きが止まっていたが、黒い鎧の左腕が輝き、掌底を王太子機の胸部装甲に叩き込むと、衝撃で機体はバラバラに砕け散ってしまった。
何だ、あの攻撃は!?まるで秘孔か急所に当たったかのような一撃で、この国の最強の鎧が破壊されてしまった。
ロストアイテムの冒険者は一子相伝の暗殺拳の使い手か!
しかも、鎧、悪そうで・・・一撃、いや、さすがに関係ないか。ふと古い記憶から、思いついたことがあったが、さすがにカテゴリーが違うだろうから、思考の外に追いやる。
今は、彼の健闘を讃えて大きな拍手を送るべきだろう。
「嘘だと言ってくれええええええ!」
「こんな決闘認められるかああああ!」
どうやら馬鹿王子に大金をかけていた生徒がたくさんいたらしい、会場内から阿鼻叫喚の叫びが聞こえてくる。
馬鹿王子に大金をかけてたようで大損ぶっこいたらしい。
それにしても、なんて見事にボコボコにしてくれたんだろう。
「見てみろよ、あんなに満面の笑顔で拍手してるぞ」
「おい、もしかしてバルトファルトって公爵家お抱えの始末屋じゃないのか」
「確かに煽ってプライドをズタズタに引き裂いてから倒すなんて・・・普通、あそこまでは追い込まないよな」
「でも、取り巻き連中もあいつのこと知らなかったぞ」
「ってことは、個人で抱えてるんじゃないのか。噂だと妹のためなら何するかわからないっていうし」
「そういえば、あの人、王妃様とは仲が悪いらしいぜ、だから殿下を・・・」
「ってことは、決闘の場を借りてレッドグレイブの派閥が王妃様の派閥に報復したってことか!?」
おい、ちょっと待て。
そもそもバルトファルト君とは初対面だし、通り魔扱いの次は黒幕扱いか!
むかついたので、声がした方向に笑顔で手を振ると、ヒソヒソ話をしていた生徒達は顔色を変えて、蜘蛛の子を散らすように去っていった。
一方で、舞台のほうでは、戦いを終えてバルトファルト君が鎧から降りてくるところだった。
彼のパイロットスーツも機体色と同様に黒とグレーを基調とするカラーリングだ。
そんなバルトファルト君のところに、一人の女子生徒が近付いてくる。
金髪と茶髪の中間くらいの、亜麻色のショートカットで立派な胸部装甲を備えた女の子だ。
あれは・・・主人公じゃねえかああああ!!!!!!バルトファルト君とずいぶん親しげに話をしている。
リアルで見ると主人公、けっこう可愛いな。この国立ケモナー学園の女子達と違って、少し芋っぽいところが逆に新鮮だ。
ってか、バルトファルト君との距離、近いな。まるで主人公とそれを守る・・・
そういえば、王太子機は青と白、ジルク機は緑、その他の攻略対象の鎧もそれぞれのキャラの近い色となっている。そして、いずれもバルトファルト君の黒やグレーとは違う色だ。
鎧、黒くて悪そう、急所へ一撃・・・本当にまるでウー〇オス、ポ〇モンだな。
ん、ポケ〇ン・・・はっ!そうか!
そういえば前世でプレイしていた某携帯型怪物シリーズには、本体に加えて、発売後に数千円の有料追加コンテンツが実装されていた。
そう、追加コンテンツだ。
あのバルトファルトという男。
顔こそ若干地味だが、彼が手にしている力は、通常の人間のものとは明らかに次元が異なる。
さらに、鎧、パイロットスーツ、髪等の色が攻略対象の5人のいずれとも重複しない。
そうだ、あいつのようなモブがいるか!
それこそ、一子相伝の暗殺拳の継承者が活躍する世紀末世界で言われそうな台詞だが、僕は一つの結論にたどり着いた。
有料追加コンテンツの攻略対象。
確かにこれなら辻褄が合う。あのゲームは課金要素が充実していたにもかかわらず、ゲームバランスは狂っていたらしい。
僕の死後に、有料のDLCが追加実装されて、新規の攻略対象や、ゲームクリアを簡単にするためにチート機体をセットにして売り出した、というのは有り得なくもない。
きっとあの鎧も、本体で売っていた最強の鎧のデザイン違いか、亜種のようなものなのだろう。
そういえば、バルトファルト君はロストアイテムの飛行船も見つけたらしいから、追加コンテンツは攻略対象、イベント、シナリオ、鎧、飛行船あたりのセットにして売り出されたのかもしれない。
ひとまず彼と接触するとしよう。今は少しでも情報が欲しいし、仮にも妹の代理人として決闘をしてくれたのだから、兄として感謝の意を伝えるくらいは自然なことだろう。
あとは、面識のあるジルクのところに顔を出してもいいが・・・いや、顔を見た途端、よくも妹に牙を向いたなとぶん殴ってしまいそうだからやめておこう。
観客席から決闘会場内の通路を抜けて、舞台のフロアに降りると、役割を終えた黒い鎧が巨大なボックスに格納され、ボックスは空に消えていくところだった。
あれは自動操縦か?しかも消えたってことは光学迷彩機能まで付いているということか。
この世界の鎧には、まだそんな技術が搭載できたとは聞かないところからすると、さすがロストアイテムというところだろうか。
というか、あの力、正直言って僕のものにしたい。
今回のような決闘があったのでは、もはやアンジェを王妃にする、というのは現実的ではない。
いや、僕だってあの馬鹿王子を許さん。父だって、さすがに婚約の解消に動くだろう。
この時点で、僕の当初の勝利条件は消滅したことでもあり、積み重ねてきた苦労が水の泡となったことによる虚無感は尋常ではない大きさだ。
しかし、あの乙女ゲーでは、隣国であるファンオース公国が数年以内に攻め込んでくることになっているし、
実家の派閥は、将来の利益を見越して擦り寄ってきていた傘下の貴族達が離れていくことで大きく弱体化するだろうから、諸々の立て直しはマストだろう。
だとすれば、絶大な力を持つロストアイテムを擁する攻略対象と、将来的に聖女という宗教的権威を持つことになる主人公を、今のうちから囲い込んで、
10年先、20年先に僕が実家を継いだときに盤石な戦力と政治力を持っておけるようにしよう。
あ、でも性急に実家の傘下に組み入れて、古株の寄子が反発するのも面倒だから、ひとまず僕が結婚の世話をした辺境のメンツを集めた僕の私兵的なグループというか愉快な仲間達の辺りで保護したほうがいいかな。
そんなことを考えながら、黒い鎧を格納したボックスが浮かび上がって消えたのを見ていたバルトファルト君の近くまで辿り着き、話し掛けようとしたところで、突然、彼が僕の方を振り向いた。
まるで後ろに目でも付いているようだね。それとも気配を察知されたのか?いずれにしても生身の実力もそれなりのレベルなのだろう。
さあ、ファーストコンタクトだ。
「リオン・フォウ・バルトファルト君だね。僕はギルバート・ラファ・レッドグレイブ、妹が世話になったね。まずは兄として礼を言おう」
「い、いやその・・・いえ、騎士として名乗りを上げずに見過ごすことができませんでしたので・・・」
なんか微妙に返事が来るまでに間が空いたな。表情も固い。
5連戦で気が昂っているのか?いや、あんなに心をズタズタにするほど煽り倒せるのだから、精神状態としては落ち着いているはずだ。
となれば、いきなり公爵家の人間に話しかけられて警戒していると考えるのが妥当か。
確かに、学園の生徒達は入ってすぐに爵位や所属、浮島の位置等で分類されるグループに分かれる。
辺境出身の男子達と僕だって最初は全く接点がなかった。
今ではほぼ1年おきに、子供が生まれました、いやお前仕事しろよ、的な手紙のやり取りをするくらいに仲良くなっているけどね。
だが安心してくれ、決闘会場にいた連中が言っていたとおり、君の身柄は僕のところで保護してあげよう。まずは好感度稼ぎといくか。
「君の鎧、噂のロストアイテムだね。安っぽい流行に乗らない無骨なデザイン。僕は好きだよ」
「は、はい。ありがとうございます」
「この国の最高の技術で作られた鎧と戦ってもほとんど損傷しない装甲、正面からねじ伏せられるパワーも素晴らしい。それに背部の大型のコンテナ、あれは中に大量の武器があるのだろう。単機で多様な場面に対応できるなんて男のロマンが形になったような鎧じゃないか」
「でも、あれは冒険で発掘しただけで、自分で作ったわけじゃないですから・・・」
統制された軍の中では、一つの機体がなんでもできる必要はない。だが、俗にいうスーパーロボットの類を見て育った人間には、何でもできることはロマンの1つだ。
そんな思いを伝えてみたのだが、まだ反応は芳しくない。どうやって仲良くなろうか。
前世で読んだシ〇ィーハンターに出てきたマフィアは、同じ女を抱いて仲良く兄弟になろうと主人公に言っていたのをふと思い出した。
しかし、相手は攻略対象の可能性が高い。つまり、主人公の獲物だ。この世界があの乙女ゲー世界である以上、彼は主人公から逃げられない。
ここで適当な女を紹介してくっつけようとして、運命の修正力(仮)とやらが働いて、僕が不意打ちを食らうのは避けたいところだ。
いや、そんな力、あるとは限らないんだが、学園の男子達を大量に結婚させようとしたときの王妃様激おこ事件、
ジルクとクラリス嬢の関係にひびを入れようとしたときのストーカー開祖様ご本人突撃事件、
公国が攻め込みにくくするために辺境の監査に力を入れた後に起きた今回の決闘騒動、と僕があのゲームのシナリオの進行に大きな変更を加えようとしたときには、大なり小なり、何かが起きている。
修正力なんてオカルトレベルのものかもしれないが、何かあるのかもしれないと警戒しないのも不用心だろう。
それなら今度は攻略対象と主人公がくっつくのを手助けしよう。くっついた後はもうエンディング後のことだから修正力なんてないかもしれないし。
だから、まずは攻略対象と打ち解けなければならない。褒め殺しがだめなら、何かを一緒に行って、達成感を共有するとかを試してみるか。
そうだ、王太子ですらボコボコにするほどの破天荒な価値観を持つ有料コンテンツの王子様には、こんな提案はどうだろうか。
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ムカつくイケメンどもを殴りたかった、婚活地獄から抜け出したかった、あとは何となく放っておくことができなかった、
そんな理由で参加した決闘を終えて、リオンは自身の鎧アロガンツが回収されていくところを眺めていた。
『マスター、オリヴィアに学園を退学すると言いましたが、これからどうするのですか』
自身の前世の記憶を元に、この世界で生き残るために見つけたチートアイテム、宇宙戦艦ルクシオンの子機が自分にだけ聞こえるように話しかけてきた。
「まずは命乞いかな。ついでに爵位も返してあの浮島でまったりモブライフを楽しむさ」
『命乞いをする伝手があるのですか』
「そこはアンジェリカさんにお願いするさ。決闘の掛け金を積めば、公爵家が何とかしてくれるって」
『ずいぶんと詰めが甘いように聞こえますね。おや、ちょうどそのアンジェリカの兄がこちらに近付いてきています。上手く対処してください』
「え、嘘!ちょっと待って、いきなりはキツイって」
どこでアンジェリカの兄の情報なんて集めてきたのかが気になるところではあったが、突然の無茶ぶりを食らったリオンはとっさに後ろを振り向く。
「リオン・フォウ・バルトファルト君だね」
アンジェリカと同じ金色の髪が、夕日を反射して輝いている。
騎士服の上に、王都では季節外れに思える薄手のコートを纏い、その手は少し大型のジュラルミンケースを持っている。
これでキャリーケースも持っていれば、まるで海外出張帰りの陽キャ系サラリーマンのようだ。
決闘会場内を吹き抜ける風が、金髪をコートの裾をはためかせており、きっとゲームだったら背景にキラキラとした映像効果が表示されているかもしれない。
ギルバートの風貌を見たリオンは思う。
さすが悪役令嬢の兄だな、顔面のスペックが高い。悪役令嬢の兄というくらいだから、あの乙女ゲーに追加DLCとかあったら、攻略対象になっても不思議じゃないな。
くそ!実家は金持ち、顔はイケメン、生まれた時点で人生は超イージーモードじゃないか。いや、悪役令嬢の兄ってやっぱり苦労するのかな。
だが、ここで接触できたのはラッキーだ、何と言っても相手は公爵家の跡取り様だ。アンジェリカさん経由でお願いする手間が省けたとも言える。金を積んで命乞いをするにはもってこいだろう。
「妹が世話になったね。まずは兄として礼を言おう」
兄として?え、あのゲームでは決闘に負けたアンジェリカさんをさっさと辺境に嫁がせていたし、そんなに家族思いだとは思わなかったな。
裏で消さないだけ優しいのかもしれないが、少しイメージと違うな。
そこからこちらを探るようなやり取りが続いたが、あれだけの大立ち回りをやってのけたのだから、色々と気になる点があるのだろうから、波風が立たないように受け答えを続ける。
そして、いくらか言葉を交わすとギルバートさんはしばし何かを考えてとんでもないことを言い出した。
「君の処遇については、後日、人を遣わすか、うちの屋敷で父も交えて話をしよう」
「よろしくお願いします」
「それと、君の素晴らしい戦いを見ていて思ったんだけど、今晩、僕も鎧を持ってくるから、決闘の相手のラーファンの屋敷を闇夜に紛れて一緒に、焼かないか?」
「き、今日はちょっと・・・5人と連戦したので鎧もしっかり整備したいなあと思いまして、すいません」
「そうか、確かに腐ってもカスタマイズされた鎧5機相手の後だし、整備は必要か。じゃあまた後日会おう」
そう言ってギルバートさんはこの場を去っていくと、周囲の目がないことを確認したのか、再びルクシオンが話しかけてきた。
『うまく気に入ってもらうことができたようですね。それにアロガンツの機能美を理解できるとは。新人類ながら評価に値します』
「いや、お前。それより大事なことがあるだろ。攻略対象並みの顔面から、あんな物騒な言葉が出るとは思わなかったよ。公爵家怖えよ、もうドン引きだよ」
『私がいる限り、マスターに危害は加えさせませんよ。それに、この国の王太子の心を公衆の面前でへし折り、物理的にボコボコにしたマスターに対して学園の生徒達もドン引きでした。類は友を呼ぶ、という言葉もありますし、良かったですね、マスター。権力のあるご友人ができそうですよ』
「俺、あんなに怖いこと言う人と上手くやってける自信ないんだけど。あ、でも公爵家に行く前に、ギルバートさんの情報を集めておいてくれ」
『スリーサイz』
「男のなんて要らねえよ!」
いつもながら、相棒の皮肉と嫌味の酷さに頭が痛くなるリオンであった。
大誤算殿下が、ピカ様の主人公補正の前に敗れたのを見て、今回はその辺りでネタを作ろうと思っていたが、赤い方のほうが筆が走る結果になってしまった
参照
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