乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です   作:りーおー参式

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兄上様に必要なのか迷うものベスト3

1位 嫁(婚約者)
2位 専用機
3位 相棒


第10話 口説くときも別れるときも準備が大事

バルトファルト君にラーファン家闇討ちデートを断られて、攻略対象5人を篭絡したマリエという女の襲撃はひとまずお預けとなってしまったので

ひとまず実家の屋敷に戻ってパパ上と今後の動きを相談しようと考えながら歩いていたのだが、ふと気付くと医務室のあるエリアに迷い込んでいた。

医務室の入口には、手書きでジルクの名前が書いてある。積極的に会いたい顔ではないが・・・まあ言い訳くらいは聞いてやるか。

 

部屋を軽くノックして室内に入ると、手足に加え、ミイラ男のように左目以外の顔面を包帯で覆った男がベッドの上で仰向けになっていた。

ジルク、だよな。髪の色がわからなければ躊躇していたかもしれない。

 

「やあ、久しぶりだね。元気そうで何よりだ」

「どうしてここに!?まだ出張先のはずでは?」

 

全身大怪我状態のところに元気そうだねと問いかける嫌味をスルーしやがった。しかも、僕の出張期間を何故把握しているのか。

だが、なんともおあつらえ向きなセリフを言ってくれるじゃないか。

 

「そうだな・・・君を笑いに来た」

 

言ってやった!赤い苗字というかファミリーネームになってから、1度は言ってみたかった彗星さんの台詞。

こんな場面で言うのもアレだが、小さな夢はかなった。あと、意地でもレッドファイト!なんて言わないからな。

 

「僕の出張期間をどうやって知ったのかは置いておくが、急な知らせがあったものでね。大急ぎで戻ってきたのさ。とりあえず、お前が怪我人かどうかは関係ない。歯ぁ、食いしばれえぇぇぇぇ!」

 

ベッド上に横になっているジルクの、包帯グルグル巻きになっている右足を思いっきり殴りつけ、そのまま圧力を加えると、声にならない声を上げて悶絶している。

 

「ほらほら、どうした?イケメンな顔は避けてやった僕の優しさに感激して声もでないかぁ?」

 

魔力を込めて殴らなかったのはせめてもの情けだ。魔力込みの全力の拳を顔面に叩き込んでもよかったのだが、こういうやつには地味な嫌がらせのほうが精神的なダメージがでかそうだしな。

しばらく足をグリグリ痛めつけて、だいぶ気も晴れたあたりで、悶絶から立ち直ったジルクが包帯の下から口を開く。

 

「貴方が王都を離れている間に全てのケリを付けようとしたんですけどね。間に合いませんでしたか」

「こんな決闘騒ぎを大々的に起こした上に、お前がボコボコにされるのを見られなかった、という意味ではそちらの勝ちかもしれないね」

「私を消すおつもりですか」

「妹に牙を向いたことによる個人的な報復はもうやったからな。ここから先は放っておいてもアトリー家がどうにかするだろうさ。うちが始末を付けるのはあの馬鹿王子だ」

「その発言はいささか不敬が過ぎますよ」

「面白いことを言うじゃないか。不敬を問うならパパ上を引っ張り出して公爵家と王家で全面戦争でもしようか。きっと“彼”もまた大活躍してくれるだろう。なにせ、王国の最新技術を結集して作った王太子機ですら、相手にならないとわかったんだからね」

「やはりバルトファルトは貴方の・・・」

 

分かった上でわざと勘違いさせるのは意地悪かもしれないが、決闘の時の僕の行動は、すぐに広がるだろうから、ここは便乗してミスリードさせてもらうとしよう。

 

「それを今のお前に教えてやるほどの親密さはもうないと思うよ?」

「迂闊でしたね。確かに考えてみれば、貴方が王都を何か月も離れるのに、アンジェリカさんをそのままにするなんてあり得ないでしょうね」

 

いや、ごめん。実家が護衛くらいは付けてたけど、本当に僕、アンジェ本人には何もしてあげてないんです。

妹が王妃になってから、自分がいかに楽をするかばっかり考えてるんです。

 

「それに、貴方譲りの悪知恵が授けられているなら、僕が色々と策を講じたのに、完敗だったのも頷けます」

「え?お前、一体何をしたの?」

「大層なことでもないですよ。バルトファルトの姉を使って彼の鎧に爆弾を仕掛けさせました。結局、ロストアイテムにはほとんどダメージはありませんでしたけどね。あとは、家族にも責任を取らせると脅した程度ですかね」

「おいおい、たかが決闘でやることとは思えないな」

 

そんな風に思いつつ、10分ほど前に、バルトファルト君をラーファン家焼き討ちデートに誘ったのを思い出した。

家族に落とし前を付けさせるのは、そんなにおかしいことではないはずだが、なんだかこいつと同レベルってすごく嫌だな。

どうせ誰かがラーファン家に落とし前は付けさせて潰すだろうから、僕は手を引こうかな。

 

「目的のためなら清濁併せ呑めと、貴方から学んだつもりなんですけどね」

 

こいつ、シレっと僕にも責任を擦り付けようとしていやがる。

口元は包帯で見えないが、目元は笑っている。まいったな、こいつはブーメランになってしまった。

こんなことばかり成長しやがって。

 

「そもそも、迂闊というならあのラーファンの女の対応だろう」

「はて、どういうことでしょう」

「とぼけるなよ。はっきり言うぞ、どうしてお前のところで止めなかった?変な女が湧いても馬鹿王子に近付けさせないために俺はお前に経験値を積ませたつもりなんだぞ」

 

当初に想定していたのは主人公だった。

実際には、追加コンテンツの黒色王子様ルートに入ったようだが、あの乙女ゲーではユリウスルートがトゥルールートのはずだ。

その主人公をジルクのところで食い止め、妹が主人公と相対する未来を防ぐために、色々とサポートをしてきたんだ。

そんな思惑を知らないジルクであるが、僕の問いには沈黙を続けている。

 

というか、攻略対象5人の今の状況は、外部からは明らかに異常だ。

1人の女を取り合うわけでもなく、いがみ合うこともなく、全員がそれなりに仲の良いまま、そろって篭絡されている。

 

「わかりません」

「は?」

「彼女は少ない言葉を交わしただけで、私のこと、いえ、私達のことを深く理解してくれました。悩み、苦しむ私達はいつの間にか優しく包まれていたのです。気付いたときにはマリエさんを愛していたのだと思います」

「ずいぶんと持ち上げるんだな」

「ええ。そんな素晴らしい女性ですから、ユリウス殿下が惹かれても仕方ありません。マリエさんが殿下を拒まないのであれば、私もそれを尊重したい」

 

なんというか、重症だな。クラリス嬢もお気の毒・・・いや、これはアンジェにも特大のブーメランになりかねないか。

まだ高校生くらいなのに、理解して包み込むってオカンかニュータイプか、それとも稀代の悪女か。

冗談はさておいて、現実的にはまるでマインドコントロール下にあるように思えてならない。洗脳魔法とか、呪い魔術とか、そんなものをかけられたと疑う方がいいのではないだろうか。

いや、もう僕がそれを考えることに意味はないな。

攻略対象5人はこんな有様だし、主人公は追加の攻略対象をロックオンして、追加ルートに入ったように見える。

妹の断罪を免れた、主人公がユリウスルートに入らなかったという2点においては僕の勝ちかもしれないが、

妹が王妃になって、父の跡を継いだ僕は早めに隠居して、この高い顔面偏差値をフル活用してたくさんの女の子と楽しく恋愛しながら平穏に暮らす野望が潰えた、という意味では大負けだ。

ここからは、ある意味、筋書きのないシナリオの中で生きていかなければならない。まるで人生そのもののようだね。

さて、そうなれば、オリジナルの攻略対象は、僕にとってほとんど用なしだ。あの馬鹿王子以外に憎しみはないが、それでも邪魔をされるのは困る。

 

「それと、貴方や陛下とは違った、真実の愛というものを見つけたのだと思ったのも否定できませんね」

「遠回しに僕への反発心が理由で、こんな大騒ぎを起こしたみたいに聞こえるんだが?」

「さて、どうでしょうかね」

「お前ら、もう後には引けないぞ。アンジェを巻き込んだ以上、俺も手を差し出すことはできないからな」

「わかってます、アトリー家にも婚約を解消する旨は伝えてました」

「それで済ましてくれるかねえ・・・執着してくる相手と別れるのって、くっつくよりも何倍も大変なんだぞ。別れ話を拗らせて刺されないように気を付けろよ」

「おや、もしかして実体験ですか」

「・・・大昔の話だよ」

「え・・・?」

 

そう。大昔、僕の前世が終わる原因だ。

結婚を考えてた女が、急に仕事を辞めたいとか、自分の親と同居したいだとか、僕の給料を小遣い制にさせろだとか言ってきたから、てめぇふざけんなとばかりに大喧嘩から別れ話に発展し、

二度と顔を見せるなと言ったら隠し持っていた包丁でズブりですよ、なんだろう、流れ出る血ってちょっと温かいんだなとか、少し手がベトつくなぁとか、服のクリーニングどうしようとか思ってたら、人生終わってたよ!

 

「手っ取り早いのは徹底的に嫌われるように振る舞うことだ、せいぜい頑張ってな」

「さすが、実践に裏付けされたテクニックは参考になりますね」

「あと、お前も、あのラーファンの小娘も、僕やアンジェにもう手を出してくるなよ。今回はバルトファルト君が予想以上に暴れ回ってくれたから個人レベルでは手を引くが、僕も決して大人しくはないぞ」

「ふふっ、肝に命じましょう」

「何かおかしいことを言ったか?」

「普段はのらりくらりとした口振りなのに、本気のときには一人称が俺に変わってドスを利かせてくるのだと気づきまして」

「・・・よし、もう片方の足も一発、逝っとくか」

 

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絶叫上げて気絶したジルクを放置して病室から出ると、扉の外には、クラリス嬢の取り巻きをしているガチムチ系男子が待ち構えていた。

たしかアトリー家の文官チームの1人の息子さんだったな、確か名前はダンとかいったっけ。隻眼のアッパーカット使いにパパさんを始末されないように気をつけてな。

おそらく動けないジルクのところにクラリス嬢を押しかけさせるつもりなのだろうね。

 

「ジルクのやつと話をすることはできますか」

「実は、ぶん殴ったら気絶しちゃった☆妹に牙を向けたから、つい、カッとなってね。その・・・折れた足を思いっきり・・・うん、ごめんね」

「そ、そうですか。あと先程、公爵家の方がこちらにいらして伝言をお預かりしました。早く屋敷に戻るようにとのことでした」

 

どうして僕がここにいるのがわかったのか、それにどうしてアトリー家のダン君に託したのか。

まるで僕に情報が伝わるのを遅らせようとしているようだ。

 

「それならまだうちの馬車が近くにいるかもしれないな。そこに乗って帰るとしよう」

「いや、それが、公爵家の方によると、妹さんを迎えに来た馬車は定員オーバーになったので乗れません、とのことでした」

 

なんだそのピンポイントな嫌がらせは!というか、うちの人間で僕にこんな仕打ちをするやつの心当たりなんて1人しかいない。

 

「もしかして、君に伝言を預けたのってメガネをかけた性格の悪そうなメイドかい」

「性格はわかりませんが、眼鏡をかけたメイドの方です」

「久しぶりにやってくれたな、コーデリアァァァァァァ!!!!」

 

叫ぶ僕、そして顔を引きつらせてドン引きしているダン君。

おのれ、あの陰険女め!アンジェの側近じゃなければ、さっさとどこぞの辺境に嫁がせてやるというのに!

 




兄上様の前世の死因:痴情の縺れ

投稿日が3日ほど早い?

この後の、パパ上との今後の作戦会議、リオン君のご挨拶とセットにしようと思ったら、この場面だけでもボリューム出てしまったので泣く泣くばら売りですw
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