乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です 作:りーおー参式
あと、食前食後の方は一度ストップ推奨かもしれません。
ゼロ距離から掴んだ顔面を爆発させるというヒートエンドから始まる僕は最初からクライマックスだぜえぇぇ!
ファイヤーボールで吹き飛ばされた亜人から何やら獣の悶える叫び声が聞こえてきたが、何と言っているかは聞き取れない。
足をバタバタさせながら、焼け焦げた顔を手で押さえる亜人に近付いて、ガラ空きとなった股間を垂直に踏み抜いた。靴越しに何か柔らかいものが潰れる感触があった気がするが、急所を敵前で隙だらけにするほうが悪い。
さらに悶える亜人の声が聞こえてくる。
「ほら、これでおしまいかい?あの学園では、女子に隠れて、男子達にもっと威勢よくしているじゃないか」
人差し指を、手元に向けてくいっと曲げ、残りの亜人達を煽る。それにカチンときたのか、顔を歪めたチーター系亜人とライオン型亜人が今度は二人同時にこちらに向かってきた。
種族の特性なのかわからないが、亜人は素の身体能力が高い一方で、魔法を使えない。つまり、物理的な攻撃を仕掛けるほかない。それであれば、相手の弱みを徹底的に突くのが僕の主義だ。
再び掌の上に火球を生み出し、亜人達の顔面の高さに投げつけた。亜人達はとっさに上半身を逸らしながら、顔の前で腕を組んで防御態勢を取る。
さっきの顔面攻撃を警戒してか、商売道具の顔を守ろうとしたのだろう。
投げつけた火球がライオン型の亜人に着弾したところで、2人の動きが止まり、すかさず次のファイヤーボールをまだ無傷で、上半身に意識が残っているチーター型亜人の足元をめがけて投げ付けた。
チーター型亜人は両足を焼かれるとともに、火球が爆発した衝撃で建物の壁に叩きつけられて倒れ込んだ。残ったもう1人のライオン型亜人は倒れている同僚を見て、隙だらけになっている。
まあ、戦闘訓練を受けたプロでもないんだから、そうなるのも無理はないけど・・・
「余所見をしてはいけないよ?ファイヤランス!」
僕の周囲に膨れ上がった炎の柱が6本浮かび、やがて槍を形作るように収束していく。
そして、僕がライオン型亜人の方へ右手を向けると、炎の槍は亜人に向けて突き進み、右腕、腹、股間、両足を貫いて、その体を焼き尽くしていく。
やかましいうめき声が上がるが、熱によるショックで気を失ったのか、すぐに静かになったので、とどめの一撃とばかりに小さめのファイヤーボールを顔面にぶつけて、焼いておく。
せいぜいこの国のケモナー女からもらって貯め込んだ金を使ってお高い治療でも受けるんだな。
「強いけど・・・なんか、こう・・・エグくないか?」
「さっきから、股間とが顔面とか、急所ばっかり狙ってるような・・・」
「たぶん、専属使用人の商売道具に攻撃を集中してるんだ。相手の嫌がることを狙って畳み掛けるって、まるでどこかの高貴なお方のようなやり口だな」
「そういえば、この前は両足を骨折したジルクの両足を思いっきり殴りつけたって言ってましたよ」
「いや、それはむしろグッジョブじゃないのか?」
クラリス嬢の取り巻きの男子達と、アトリー家の文官衆が合流して、ヒソヒソと話し込んでいる。
いや、僕を焚き付けたのは君達だよ!
気を取り直して、残ったチーター型亜人に目を向ける。壁に叩きつけられただけだから、ダメージらしいダメージはないはずだ。こちらも確実にトドメを刺しておこう。
再び手を亜人に向けると、先程発生させた炎の槍の残った1本が手元から放たれて、チーター型亜人の股間を焼いていく。
あれ、最後のファイヤランスの手元側の先端がクロスというか、十字架っぽい形になっていないか?
何やら、まるで突き刺さった真っ赤な矢が亜人の墓石のようにも見える。酔っ払ってちゃんと見えてないだけかもしれないけどね。
さて、残っているのは猫型亜人と、ファンタジー種族の定番エルフ型の亜人だ。
しかし、ここまでの”ケンカ”を目の当たりにしてだいぶ戦意を失っているらしい。
よくよく考えたら、今日の勝利条件は、クラリス嬢の貞操の防衛だから撤収してくれるなら、それはそれでいいんだよな。
「そこで転がってる連中、持って帰ってくれるかな?」
優しく聞いてあげたら、2人は、声もなく何回も首を縦に振って、手早く戦闘不能になった亜人を回収すると、繁華街の奥へと姿をくらましていった。
ふう、とりあえずこれでハメる側がいなくなったから、ミッションコンプリートだね、というか暴れ回ったせいで酒がさらに回ってしまった。というか、冗談抜きに気持ち悪い。少しの衝撃で逆流するかもしれない。
やっぱり空きっ腹にストロングなアルコールはまずかった・・・
「これで約束は果たしたから今日は帰りますよ。さすがに今から飲む気にはなれませんしね」
アトリー家の文官衆とクラリス嬢の取り巻き男子達にところに戻り、もう帰る旨を伝えると、彼らは静かに頭を下げていた。
やめてくれ、僕がアトリー家の反社系用心棒みたいに見えるじゃないか。
とはいえ、ここまでのやり取りはまだ平和だったのだが、ここで、ある意味、今回の騒動の震源であるクラリス嬢がカットインしてきた。
「ちょっと!これはどういうことですか!」
「はて・・・酔っ払いどうしのケンカですよ?」
僕が視線を文官衆に向けると、彼らは小さく首を縦に振る。
「ケンカですよ、じゃないですよ!私の専属使用人に何か恨みでもあるんですか!?」
「先に殴ってきたのはあの亜人ですよ。それに、おたくの家の皆さん方から、お嬢様を止めてくれと言われたから、貴女がやんちゃできないようにした、それだけです。というか、酒が回って気持ち悪いからもう帰っていいですか?」
「ふざけないでください!」
「え!お嬢様に慰めとか、励ましの言葉とかかけてくれないですか!」
「ギルバート様、本当にうちのお嬢様に興味ないですよね・・・」
クラリス嬢は怒りのボルテージを高めているが、文官衆はどうやらその相手まで僕にしろと言っているようだ。
嫌ですよ、亜人囲った女なんて口を聞くのも苦痛です。飲んだアルコールが逆流しそうだ。
「あなた達も!公爵家まで巻き込んでどういうつもりなのよ!」
「それは、その・・・お嬢様が自棄になって、その・・・」
うん、言いにくいよね。仮にも国の重鎮の娘が、亜人と夜遊びからのアバンチュールをキメるのを止めたかった、だなんて。
まあ、下級貴族の令嬢の多くが貞操観念なんて概念を持っていないこの世界に慣れてきてしまったので、クラリス嬢の行動も、外見のギャル堕ちフォームチェンジ以外は、さほど違和感がない。なんて酷い世界なんだろう。
ただ、よく考えてみれば、僕を脅してまでクラリス嬢を止めたかったのは、家のためだけではなく、きっとクラリス嬢本人のことを本当に心配してのことなのだろう。
一時の感情に身を任せて本人の軽率な行動で取り返しのつかない状態になるのを阻止したかったんだろうね。
取り巻きといい、文官衆といい、アトリーは主への忠誠心が強いね、レッドグレイブ家とは大違いだ。
うちのアンジェなんて、決闘騒動で誰も取り巻きが助けに入ろうとしなかったんだぞ!
少し自分の家の悲しい状況に思考を持っていかれていたが、そこに再びクラリス嬢の怒号が響く。
「もう邪魔しないでよ!婚約者だって顔すら合わそうとしない私にかまってどうするのよ!」
文官達は下を向いたまま答えられずにいる。
平時のメンタル状況であれば、クラリス嬢とて、そんなことを言ったりはしないのだろう。
だが、ジルクへの愛がとにかく重かったクラリス嬢には、自分に全く気を向けていないように見えるジルクの仕打ちによる精神的なショックがさぞ大きかったようだ。
要するに、ジルクの気を少しでも引きたかったのだろうね。考えてみれば、高度な教育を受けたとはいえ、まだ16か17歳の女の子だ。前世で言えば高校2年生くらいか。
一方の僕は前世も合わせればアラフォーだ、少しくらいお節介を焼いてもバチは当たらないかな。
それに、クラリス嬢とジルクの関係については、僕も、この世界の主人公であるオリヴィアさんとジルクをくっつけるために、クラリス嬢との円満破局を狙ってちょっかいを出した過去がある。
仕方ない、アンジェに歯向かったジルクには、僕の道連れで、もう一度犠牲になってもらうとするか。
「悲劇のヒロインごっこ、いつまで続きます?亜人と乳繰り合ってる暇があるなら、さっさとジルクに落とし前付けさせればいいでしょう」
「そ、それは・・・」
「今の気持ちが憎悪と愛情のどちらに傾いているのかわかりませんけど、まずはその大元を徹底的に追い込むのが先でしょう。人間なんて、自分が良くてナンボのものなんですから、自らを傷付けてる暇があるなら、さっさと復讐しに行きましょう」
我ながらけっこう酷いことを言ってるな。
自分のためなら他人なんて傷付けてしまえ、だなんて言ったら、前世では、SNSは炎上するだろうし、学校の先生とかなら処罰されてしまうかもしれないね。
「相変わらずレッドグレイブ家は過激ですね、でも・・・復讐していいんですか」
「成功しようが、失敗に終わろうが、とにかく全力で怒りと憎しみをぶつけてやれば、たいていの場合は何かが見えてきますよ。幸い、そちらには貴女のためならば喜んで馬車馬のように働く面子がいるじゃないですか」
クラリス嬢の態度が少し和らいだ。ほら、文官衆と取り巻き達!さっさとこの流れに乗っかってこい!
うつむいているクラリス嬢をよそに、僕は文官衆のほうを見ながら、クラリス嬢のほうを指さすと、先に気付いた取り巻きのダン君を皮切りに、取り巻きの男子達が会話に入ってくる。
「お嬢様!ジルクのやつをボッコボコにしてやりましょうよ!」
「休み明けの学園祭だ!」
「エアバイクレースにきっと出てくるはずですから、まずはそこです!」
若いっていいね。勢いはこちらのほうが強いようだ。そして、ここで出遅れた文官衆達も加わってくる。
「我々はマーモリア家の醜聞を徹底的に洗い出しますよ。あいつらの一族郎党に至るまでアトリーにケンカを売ったことを後悔させてやりましょう」
「きっと今ならレッドグレイブ家がド派手に動いているので、たいていのことは霞んで見えるからやりたい放題ですよ!」
おい、最後にとんでもないことを言った奴、出てこい!
だが、クラリス嬢もどうやら自分がどれだけ大切に思われているのかを再認識したようだ。
その気持ちが男女の愛情ではなかったのだとしても、受け入れられているという事実が彼女の心を癒したのだろう。表情も柔和なものへと戻っている。もう軽はずみなことはしないだろう。
「色々とご迷惑をかけてしまいました、お礼を言わなければなりませんね」
クラリス嬢がこちらにやってくると、お礼を言いながら僕の手を取る。
手に柔らかな感触が伝わってくるのだが、それ以上に彼女が付けていた香料と、侍らせていた亜人の獣っぽい匂いが、逆流寸前の胃と食道にプレッシャーをかけてくる。
「貴女のためなら、僕だって脅して巻き込むくらい手段を選ばない家臣達と仲良くやってくださいよ、もう巻き込まれるのは御免ですからね。あと、獣臭いんでちょっと離れてもらえます?」
・・・あ、しまったあぁぁぁ!つい、本音が出た!監査先であくどい領主夫人を煽るときのお決まりのフレーズを口走ってしまった。
クラリス嬢が怒りでプルプルと震えている。そして、いつの間にか般若のような表情を浮かべ、目が大きく見開くと、僕の顔めがけてビンタが飛んできた。
「おっと、危ない。いくら酔っていても、これくらい防げますよ」
とっさに直前にクラリス嬢の手を止めて顔面殴打を回避した。クラリス嬢の髪が揺れて、再び香料の匂いが僕の鼻を突いて胃と食道を圧迫する。
ここで僕は完全に警戒を解いてしまっていた。油断したといってもいい。
次の瞬間、僕の脇腹に魔力で強化したと思われるクラリス嬢のボディブローが突き刺さっていた。
痛みと言えるようなものはない。だが、僕の腹部は空腹の入れた強めのアルコールで焼かれ、逆流寸前だった。
そこに加わった予想外の衝撃に、とうとう胃の内容物が一気に駆け上がってくる。
さっきまでの大立ち回りで吐き気が急上昇状態だったが、今の一撃で臨界点を突破したのかもしれない。
手を口に当てて、無理やり押さえ込もうとしたが、どうやら間に合わなかったようだ。
この日、この瞬間、ホルファート王国の繁華街に1つのマーライオンが出現した。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
逆流がアンコントローラブルとなり、第一の逆流後、すぐに、第二の逆流が来る前にとっさに路地裏に駆け込んだ僕の耳にクラリス嬢の悲鳴が聞こえてくる。
もしかして、ボディブローを入れてきたクラリス嬢にも少し命中した?
そんなことを考えながら、逆流に苦しんでいると、”別のマーライオン”による逆流音が聞こえた。
ああ、これは”もらい〇ロ”が生まれたみたいだね。
マーライオンは連鎖する。慣れていなければなおさらだ。
そして、アルコールでぼんやりする意識の中で、クラリス嬢の声が聞こえた。
「私、汚れちゃった」
いや、それ誰のせいだよ!僕のせいじゃないからね!?
というわけで、この世界線ではゲロインの座を贈呈することになりました。
いや、救済すべきかは迷ったんですよ・・・飛沫が触れたかは不明ですし、貞操はご無事です、はい
あと、あの・・・マーライオンなオチが直近で被るとは思ってなかったんです・・・
前の話から、空きっ腹にストロング缶ぶち込んだとか、
ギャルにフォームチェンジしたクラリスぱいせんへのツッコミを、
〇魂のゲロインこと神楽さんへのツッコミ(劇場版の成長したグラさんが出てきたところ)風にしたりとか、
マーライオンオチへの伏線は引いてたつもりなんです・・・