乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です 作:りーおー参式
バルトファルト領に乗り込んできたゾラ一行が、赤い通り魔の影におびえて退散した数日後、リオンはパルトナーの格納庫に足を運んでいた。
浮遊しながら移動する球体ボディのルクシオンの子機の後に続いて艦内を歩いていたリオンであるが、目的地に到着したところで、先導してきたルクシオンのモノアイが光る。
『以前、レッドグレイブ家から依頼のあった件ですが、ようやく準備が整いました』
「アロガンツほど強くなくていいから、性能のいいロストアイテムの鎧を売ってくれって話だったな」
「はい、それがこちらになります」
ルクシオンのモノアイから発射されたサーチライトに照らされた先に鎮座していたのは、丸みのある頭部に、流行のトレンドからは程遠い重量感を漂わせた、リオンにも見覚えのある鎧であった。
「アロガンツじゃないか!いや、でも少し形状が違う・・・?」
『これはマスターのアロガンツを製作する際に、裏でデータ取りに使っていた試作機を改修したものです。マスター以外にも使えるように少々性能を抑えつつ、アロガンツへの組込みを検討中の新たな機能をいくつか試験導入しています』
リオンも機体をよく見てみると、背部は、エンジンノズルが付いたコンテナ型のバックパックではなく、2枚のウイングの付いたものとなっている。
その他に、リオンのアロガンツにはないキャノン砲が両肩に設置されていた、腕部の形状もやや異なっている。
「おい、公爵家をモルモットにしてデータ取りするつもりか!?何かあったら首をすっ飛ばされるぞ!」
『マスターの機体よりもマイルドな調整にしてあるので、兵器としての安定性は十分です』
「お前のサポート無しにまともに動くのか?」
攻略対象5人との戦闘時には、スコップと砲塔付きドローンしか使わなかったが、アロガンツには、多種多様な武装がある。
王太子であるユリウスの機体を粉々にした、掌から放つ衝撃波に加え、ブレードやサイズ等の近接武装に、ミサイル、チャフ等の防御兵装はルクシオンのサポートあってこそのものであることはリオンも自覚している。
『おやおや、自覚はあったようですね』
「俺は謙虚だから自分で何でもできると思っちゃいない。任せられることは、相手に任せる主義なんだよ」
『相変わらず口先だけはよく回りますね』
「お前も相当なものだと思うけどな」
ルクシオンのモノアイが2、3回点滅した後、180°回転してリオンから目を背けると、機体の解説を再開する。
『この機体には、私が作ったサポート用の人工知能を搭載しています。念のため、マスターには敵対できないように禁忌設定を組み込んでいるのでご安心ください』
「そもそも公爵家に敵対するなんてまっぴらごめんだな。命がいくつあっても足りない」
『王太子と敵対したマスターの言葉とは思えませんね。おや、どうやらこの浮島に来客のようですよ』
「何だ?ゾラ達がまた乗り込んで来たのか?」
『いえ、所属は・・・王宮とレッドグレイブ家の飛行船のようです』
「俺のお沙汰がとうとう決まったか。これでようやく婚活からおさらばできるな」
『本当にそんなにうまくいくのでしょうかね』
-----------------------------------------
爵位の管理等を担当する部局の文官を連れて、僕はバルトファルト領に到着した。
ぱっと見渡したかぎりだが、開発の真っただ中といった発展具合であり、どこかのんびりとした田舎だといえるだろう。
関係者を連れて、アンジェ達が滞在しているバルトファルト男爵の屋敷に到着すると、アンジェの面倒を見るために同行していた使用人達が入口で待機している。
そして、屋敷の扉が開くと、アンジェ、この乙女ゲー世界の主人公であるオリヴィアさん、そして追加DLC系攻略対象のバルトファルト君が中から出てきた。
妹としても、僕が迎えに来るとはまさか思っていなかったのだろう。
「兄上!?」
「久しぶりだね、アンジェ。少しは元気になったみたいで安心したよ」
「わざわざ兄上が自ら来るなんて・・・どうしたのです?」
「・・・可愛い妹の様子が心配になってね」
「今度は一体、何をやらかしたんですか」
一瞬の間から、僕がドジを踏んだことを見抜くなんて、悪役令嬢なうちの妹は、鋭いのか、攻撃性が高いのか、それとも僕への信用がないのか、どれなんだろう。
「違うんだ、不幸な事故に巻き込まれただけなんだよ」
言えない。
この国の大臣のお家の家臣達に騙されて歓楽街に連れ出された上に、亜人とアヴァンチュール寸前な伯爵令嬢と、愛の休憩施設の前で口論になり、空きっ腹に流し込んだアルコールをマーライオンした、だなんて言えるわけがない。
というか、さすがの僕も、実の妹にこんな恥まみれなエピソードを知られたくはない。知られたら、残っているかもわからないお兄ちゃんの威厳が、確定的にゼロになってしまう。
それに、この世界にストーカーという概念を創り出した重い女との関係を疑われるのは甚だ不本意だ。
仕方ない、強引に話題を逸らすとしよう。
僕はアンジェの横にいたオリヴィアさんに視線を向けて微笑みかけながら、その手を取ってみる。
「やあオリヴィアさん。この前に引き続いて、アンジェの傍にいてくれてありがとう。お礼に今度お茶でも行こうよ。いっそのこと、君さえよければ僕の愛人に・・・って痛い!」
アンジェに耳を引っ張られて、オリヴィアさんから引き離されてしまった。オリヴィアさん自身は、苦笑いを浮かべながら、バルトファルト君のほうをチラチラと見ている。
とはいえ、主人公にちょっかいを出しても、運命の修正力さん(仮)は大きく動いてこないようだ。今回もアンジェに怒られるだけで済んだ。
シナリオに影響を与えようとすると、王妃様が激おこになったり、妹の婚約破棄が数年も前倒しになったりするのに、この違いは何なのだろう。
「兄上!いつまでもふらついてないで、いい加減しっかりしてください!これから苦しくなる公爵家を兄上が支えないでどうするのですか!家臣達も心配しているんですよ」
アンジェのお言葉に、付き添いの使用人達も小さく頷いている。
アンジェの婚約がなくなり、公爵家の派閥の力は弱体化する一方だ。盛り返すことは容易ではない。そんな状況であれば、後継ぎの僕がしっかりしろ、というのは理屈としては正論すぎるくらい正論だ。
ちなみに、他の使用人達と異なり、ひときわ大きく頷いているのが、我が家における僕の宿敵、腹黒メガネメイドのコーデリアだったりする。
ただ、いつもなら嫌味の一つや二つも言ってやりたいが、今回はアンジェが元気を取り戻すまで、よく付き添ってくれたし、いきなり僕から毒を吐くのはやめておくとするか。
「君もアンジェの付き添いご苦労だった。変わりはない・・・ようだな」
「ええ、それと、先日、面白いものを見つけました・・・ふふ、若様もずいぶんと人気のようですね」
そう言ってコーデリアは、一枚の紙を差し出した。何かの会報のようだ。
目を向けると、僕の似顔絵と思しきイラスト、そして、見出しには書かれているのは・・・赤い通り魔?僕にとんでもない異名を付けやがったのはこいつらかぁぁぁぁ!!!!!
「プププ・・・ほ、報告は後ほど改めて・・・」
「ずいぶんと楽しそうだな、この腹黒め」
少しでも優しくしてやろうとしたのは間違いだったらしい。
-----------------------------------------
バルトファルト家屋敷の入口での妹との再会イベントが終わり、屋敷内の一室では、同行してきた人事所管部局の役人がバルトファルト君の処置について、説明を行っている。
僕もそこに同席しているのだが、バルトファルト君の昇進については、彼だけでなく、その父も驚きを隠せずにいた。
処刑されることは免れても、何らかの責任を取らされるものと思っていたのだろう。普通に考えればそのとおりなのだろうが、うちの実家も含めて様々な思惑が絡み合った上での結果でもある。
まだ納得できていない様子のバルトファルト君が、顔を引きつらせながら口を開いた。
「その・・・男爵の地位とか、騎士の称号って返上じゃないんですか?」
「おや、もしかしてこんなものじゃ満足しなかったかい?」
少しおちょくってみると、バルトファルト君は首を大きく左右に振って否定してくる。
「自分で言うのも変ですが、あんな騒ぎを起こしたのにどうして・・・」
「それを言うなら決闘を申し込んだのはうちの妹さ。王宮でのセレモニーはすぐに行われるから、おめかしする準備をしておいてくれ」
当初の予想通り、バルトファルト君には、嬉しさの欠片も見当たらない。むしろ、放心状態になっている。
やはり上昇志向的なものは強くないようだ。あんなに強い力を持っているから、野心がギラギラしすぎると面倒になりかねないが、ここまで出世欲がないのも困る。
最低限、聖女となった後の主人公と釣り合いが取れる程度には高い地位を持ってもらわなければ、僕が困る可能性があるかもしれない、というか困るだろう。
公爵家と神殿は特別に親しいわけではないので、将来的にはバルトファルト君を経由して聖女となるオリヴィアさんと手を組もうと思っていたが、そこの流れを崩すわけにはいかない。
噂では、学園内の女性人気は低いという話だから、逆に女性をあてがってやれば攻略自体は難しくないと思っていたが、意外と攻略難易度が高いのか!?
君はもう主人公の獲物なんだよ。捕食・・・いや、攻略されるのはご褒美、運命だと思って諦めてくれ!
うちがバックにつくから、聖女様の相手として、一緒にこの国でブイブイいわせようぜ!
「そういえば、公爵様から頼まれてた件なんですけど、用意できたので一緒に来てもらっていいですか?」
そんなお願いをパパ上がしてたねえ、その記憶はアルコールと一緒に体外に排出してしまっていたよ。
-----------------------------------------
バルトファルト君に連れていかれたのは、パルトナーという彼のロストアイテムの1つであり、700メートル級の飛行船だ。
おそらく、彼の鎧であるアロガンツと一緒に、DLC用のセット販売されたチートアイテムなのだろう。
そして、船内の格納庫に入り歩いていると、まず目に入ってきたのは、王都での決闘騒動で、この国の既存技術では最強であろう王太子用の鎧を完膚なきまでに叩きのめし、文字通り粉々にした黒と灰色の鎧であるアロガンツだ。
この鎧を見て、決闘時のバルトファルト君による壮絶な煽りの記憶が蘇る。あのときは本当にスカッとした。それと同時に湧き上がる彼への感謝の気持ちを伝えることにしよう。
「これまでは周囲の目もあったからフランクに話せなかったが、あのときは本当にありがとう、バルトファルト君、いやリオン君と呼ばせてくれ」
「・・・王太子殿下をぶん殴って昇進するとは思わなかったんですけど」
「ようやく本音っぽいことを言ってくれたね。国のために身を挺した騎士を冷遇したら、それこそ笑い種だよ。それとも国のために、というのは噓だったのかな」
「う、嘘じゃないです・・・」
とっさにリオン君はバツが悪そうに目を逸らした。
「君に対して公爵家が感謝しているというのを対外的に示すというのと、うちが王家に対して怒っているというのを示すためには、昇進してもらうのが最もわかりやすい形だったのさ。君にとって不本意だろうことはわかっていたから、そこは申し訳なく思っているよ」
「色々と思うところはあるんですけど、学園でヘイトを集めすぎちゃったので、今さら戻りにくいってのはありますね」
「結婚相手のことかい?」
リオン君が頭をうつむいて恥ずかしそうにしながらうなずいた。
「婚活の心配はしなくていいよ。公爵家が、いや、いざとなったら僕個人で面倒を見よう。気になる相手がいれば、それはそれで構わないし、何かあれば相談してくれ。僕の異名、知ってるだろう?」
「えっと・・・赤い通り魔ですか」
「そっちじゃないよ!辺境の愛の救世主のほうだよ!」
「す、すいません!でも自分のような成り上がりにずいぶんと都合が良くて少し怖いですね」
リオン君が一ボケ入れてくるとは予想外だった。
だが、都合が良すぎるというのはその通りだろう。彼の側からしたら、過剰に優遇されていると感じるのは不思議ではない。
転生者として、この先に起こるであろう出来事が幾分かわかっているという僕の事情を知る由もないだろう。
彼には、主人公のための人柱としての役割があるとは口が裂けても言えない。だからこそ、それっぽく聞こえる理由を用意してある。
「君が倒したユリウス殿下の機体は今の王国で最高クラスの機体だ。それが相手にもならないということは、君一人で、通常の鎧なら束になっても勝てないだろう。僕は臆病な人間なので、君と敵対するよりはお友達になりたいのさ。腐っても公爵家だからね、武力以外なら力になれると思うよ」
「それって、俺にレッドグレイブ家の派閥に入れってことですか」
「いきなりそんなことは言わないよ。拙速に動けば、うちの派閥の中でも地位が害されるかも、だなんて被害妄想を抱いて君を陥れようとする連中が出かねない。そうだねえ、学園を卒業するまでは青春を謳歌していてくれ」
「ギルバートさんが俺に何をさせたいのかわかりませんね」
さすが攻略対象。ただの武力馬鹿ではないようだ。
うーん、聖女になる主人公に腰を振っていればいい、だなんて本音は言えないな。
「極端な話をすれば、こちらが指示を出すとき以外は、特に何もしなくていいかな。あとは、あのマリエとかいう女や、うちの敵対派閥の女に誑かされなければそれでいい。むしろ、一緒にいた特待生の子とイチャイチャ学生ライフを楽しめばいい」
「いや、イチャイチャしてなんてないですよ。あの学園での数少ない友達です。それに、さっきギルバートさんが思いっきり口説いてたじゃないですか」
「あれは僕の持病のようなものでね。貴族じゃなくて、性格が悪くなさそうな子には挨拶代わりに口説いてしまうんだ。あの学園に通った後遺症のようなものだろうね」
「・・・最後のところは同意です。卒業するまでに婚約者がいなくても後ろ指を刺されないのはズルいと思いますけど」
「いや、後ろ指はきっと物凄く刺されてるよ?公爵家のパワーとか、アンジェのために色々と動いてたってのがあるから、有耶無耶にできているだけだと思う。正直言うと、そのうち、他国あたりから嫁さんを引っ張ってこられそうで怖い。まあ特待生のオリヴィアさんについては、僕に脈はなさそうだから安心していいよ」
「いやいや、俺も狙ってないですって!・・・あ、着きました。こちらです」
話の途中で目的地に着いたらしい。リオン君のアロガンツの横を通り抜けて、格納庫の最も奥にあったのは・・・
「アロガンツがもう1機!?」
とっさに後ろを振り向いて、リオン君の灰色と黒色のアロガンツを確認する。そして、僕の目の前には、それとは別のアロガンツの姿があった。
よく見ると、違う部分がいくつかある。同型機の別機体ということだろうか。
バックパックはコンテナ型から、2枚のウイングを備えたタイプになっているし、機体のあちらこちらに赤や黄色の配色がされている。
まるで水泳ゴーグルをかけた竜巻お兄さんの機体のようだ!男の子の中にある厨二ソウルをくすぐるカラーリング、実にトロンべ・・・
「これは・・・欲しくないと言えば噓になるが、もらってしまうのも気が引けるな」
冒険者の見つけた宝は冒険者のもの、というこの国の不文律に触れてしまわないだろうか。
「見つけた鎧の中で、使えそうな鎧はこれしかなくて・・・それに戦闘に使うには時間がかかるかもしれないです」
「どういうことだい?」
リオン君の説明によると、彼の機体よりも各部が簡素で出力も低そうなので、試作機の可能性が高いらしい。
試作機のほうが性能が低い、というのは、ロボットものの中では珍しいパターンだな。ド〇グナーとドラ〇ーンのようなものか。
また、機体の動きは全般的に人工知能がサポートを行うが、この機体の人工知能は稼働経験に乏しく、細かな動きを最適化するためには、それなりに時間をかけて経験を積ませる必要があるそうだ。
百聞は一見に如かずとばかりに、リオン君が、もう1機のアロガンツに対して、格納庫内の木箱を積むように指示を出した。それに従い、木箱は縦に2箱積まれ、3箱目を積もうとしたところで、木箱は雪崩のように崩れてしまった。
さらに、機体はそれを見て、頭と肩を落として明らかに凹んでますというポーズをしている。
言葉ではなく、動きで感情を表現するなんて、表現力が豊かな人工知能だな。だけど、何故かわからないが、このポンコツ可愛さが癖になりそうだ。
始めはこんな感じだった機体を、決闘のときまでにリオン君は育て上げたのだろうか。
「君のアロガンツも最初はこんな感じだったのかい?」
「まあ、色々とやりましたよ。浮島の中で温泉を掘ったりとかもしましたし」
「けっこう楽しそうだね」
「恐縮です」
「わかった。父上にも説明して、しかるべき代価を払おう。このお礼はまた場を改めさせてくれ」
父からは、アンジェを連れて戻ったら、アトリー家とのゴタゴタのほとぼりが冷めるまで、しばらく領地に戻っているように言われている。
よくよく考えてみれば、今まで僕には全くなかったチート的な要素が、思わぬところから転がり込んできた。
悪役令嬢な妹の婚約が解消された後、というのは皮肉なものかもしれないけどね。
主人公があのケモナー学園で過ごす三年間のうち、まだ1学期、全体の9分の1くらいしか経過していないはずなのに、イベントとしてはずいぶん多くの出来事が起こったようだ。
本来であればクライマックスの時期に起きるはずの、悪役令嬢の婚約破棄イベントが1年生の1学期に起こるだなんて誰が予想できただろう。
まさか、これが最初からクライマックスというやつか!?
だが、この先は、これまで以上に気を引き締めなければならないだろう。公国が攻めてくるというイベントはまだ起きていない以上、まだ僕の苦労は続くはずだ。
本当に乙女ゲー世界というのは、悪役令嬢の身内にも厳しい世界だね。
-----------------------------------------
ギルバートやアンジェリカ、オリヴィアを乗せた公爵家の飛行船に同行する形で王都に向かうパルトナーのブリッジでは、リオンがルクシオンを問い詰めようとしていた。
「新人類なんて滅ぶべしと言ってるお前が、気前よくアロガンツの同型機を渡すとは思わなかったよ」
『先日も言いましたが、既にあの機体の本来の役割は終わっています。その上で、マスターのアロガンツを強化していくためには、データと経験が必要です』
「今のままだって十分だろ」
『将来的に、新人類の兵器や私のような存在が現れないとも限りません。そのときに遅れを取らないことが重要です』
うまくここから貴族社会とは無縁のスローライフを送れると思っていたリオンには、今回の結末は意外そのものであったし、これ以上の面倒事は避けたいというのが本音である。
「現れないまま終わってほしいものだな」
『それに、マスターから言われた、ギルバートの情報を集める目的もあります。あのプロトタイプアロガンツには、小型のスパイロボを仕込んでおきましたので、情報収集の精度を高めていきます』
「そうだな、頼んだ。婚活から逃げられそうなのはありがたいけど、俺に都合が良すぎて、公爵家が何を考えているのかわからなくて怖い」
『もっともありそうなのは、アロガンツやパルトナーの力を自陣営に取り込むことで、アンジェリカの婚約解消により弱まる公爵家の影響力を補おうとしているのでしょう』
「厄介な人に目を付けられたもんだな。けど、距離を離せば、それでいいのかを考えると悩ましい」
『そうおっしゃいますと?』
リオンが頭を抱えてため息をついた。
「ギルバートさん、リビアのことを気に入ってるっぽいんだよな。本人は脈無しと言ってたけど」
『食事に誘ったり、愛人になるよう口説いていましたね』
「悪役令嬢の兄弟って攻略対象のテンプレの1つだからな。前世の俺の死後に、追加コンテンツがあったら、あの人が攻略対象の可能性が高まる」
(本来の攻略対象5人があのざまな以上、ギルバートさんとリビアをくっつける事態も考えておくか。でも乙女ゲー世界で、主人公を攻略対象の愛人にするなんて、ありえるかなあ・・・)
『マスターは、オリヴィアがギルバートに惚れるとお考えですか』
「顔が良くて、貴族の女が嫌いで、金持ちだぞ。リビアじゃなくたって、惹かれても不思議じゃない。それが愛人っていうのはどうかと思うけど」
『貴族の女子以外には手広く口説いているようですが。それに、将来的には聖女になるのであれば、王国の価値観でも釣り合いが取れるのでは?』
「公爵と聖女、身分的な釣合い的はユリウスルートに近い組み合わせか」
(それに、最終的にラスボスを倒すのはリビアの力だ。マリエの奴のせいで、この先の流れが全く読めないからな・・・)
「ルクシオン、情報集めは頼んだぞ」
「ご命令とあれば」
機械的に回答したルクシオンだったが、マスターであるリオンの言うことには納得しがたい部分が多い。
しかも、この世界の運命は、オリヴィアの恋愛成就次第なのだという。
疑わしいことは否定できないが、かといって、命令には背くことができない。
しかも、現時点でそのオリヴィアの普段の目線は、他ならぬリオンに向いていることが多い。
それを、他の男にくっつけるというのは滑稽だと言わざるを得ないだろう。
田舎でのスローライフを望みながら、結局は大暴れして、大物貴族から目をかけられ、昇進するというのは、控えめに言っても滑稽だし、やることなすことが悉く裏目に出るリオンの存在は、ルクシオンにとっては浅はかでもあり、愛おしくもある。
旧人類によって作られた後、長きにわたって基地で待機状態となっていたルクシオンは、外の世界で活動を始めてまだ1年足らずだが、大胆にして愚かなマスターと過ごす今を、少し楽しいとも思い始めていた。
というわけで、悩みに悩んで、さらに悩んだ末、劣化版アロガンツとマリエルートでおなじみのサポート人工知能を兄上様に支給することになりました。
そして、原作様で言うところの1巻がようやく終了です。
お読みいただいてる皆様のおかげで、ここまで書けたなと思っております。ありがとうございました。
兄上様とリオン君が、それぞれお互いを追加コンテンツ扱いすることのすれ違いコントを引き続きよろしくお願いいたします。
あ、それとヒロインどうするか考えないと・・・
次回は、学園祭に潜入の巻(予定)です。