乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です 作:りーおー参式
命令書の実物をオフリー家側からの使者に確認させた後、しばらくしてから伯爵家の飛行船は引き返していった。
公爵家側の動きが非常に公的な裏付けに基づくものであることがわかったため、現場ではこれ以上は判断できないし、動いてもトカゲのしっぽ切りを喰らってしまいかねないと思ったのだろう。
リオン君とパルトナーもすでにこの空域を離脱しており、残ったのは公爵家の飛行船だけだ。
命令書の内容は、ウェイン準男爵領の空賊の討伐を命ずるものであり、空域内の残党を探してみたのだが、結局見つけることはできず、今は王都に戻る最中だ。
とはいえ、王都に戻る前にいくつか片付けないといけないこともある。
まずはオリヴィアさんのフォローだ。リオン君とケンカした、というあたりをヒアリングした上で仲直りの方法を考えなければならない。
あの二人がくっついてくれないと、その後ろ盾になって、僕が公爵家の当主をやっている間の実家を盤石なものにするという僕の計画が水の泡となりかねない。
あとは、オリヴィアさんのオマケでこの船で預かることになったオリジナルの攻略対象の2人、フィールド家のブラッドとセバーグ家のグレッグの廃嫡コンビだ。
ひとまず予備の部屋にぶち込んであるが、そもそもあの2人、空賊退治に鎧も持たずについてきたらしい。
何?お前らは鎧もなく空賊の鎧や飛行船と戦えるの?馬鹿なのか?
もしかしたら、デコの辺りに三番目の目が開いて異世界からブラックなドラゴンでも呼べるのか!?
それとも、体の中に未知のウルトラテクノロジーを仕込んでいて叫んだらロストアイテムな鎧を装備してファイナルフュージョンでもできんのかあぁぁぁ!?
というか、決闘騒動でアンジェと敵対しておいて、よくもその代理人をしたリオン君の船に乗り込もうと思ったな。
若干思考の迷路に迷い込んでいるところで、船長が僕の方をチラチラと見ている。頭を抱えている僕が気になるのだろう。
「あの・・・若様」
「何か用事かい?」
「その顔、どうしたんですか?」
ああ、艦長が気にしていたのはこっちか。アンジェに思いっきりグーパンされたところが痣になっているんだよね。ちょうどいいから、オリヴィアさんに話しかけるための口実にするためにそのままにしてるんだけど。
「僕は運命の女神様に嫌われているようでね。最悪のタイミングだったんだ」
「建国の聖女様ではなくてですか?というか私にもわかるように教えてください」
「バルトファルト男爵は、僕達が合流する前に、2回も空賊を撃退していたと聞いただろう?ただ、彼はまだ若い。心身ともに消耗しているだろうから労おうと娼館に誘ったんだ」
「これまたすごい提案をしましたね」
「そしたら、ちょうどそこをアンジェに聞かれてしまったんだよ」
艦長が絶句している。そして苦笑いを浮かべながら天井を仰ぐ。
「彼の将来のためにも、練習したっていいかなと思ったんだよ」
「若様の顔と口から、娼館という単語を聞くだけで違和感がありますね」
「ブリッジには男しかいないから言うけど、やはり酒と猥談は人間関係の潤滑油だと思うんだ」
「ですから、その顔から真顔で猥談なんて単語を出さないでくださいよ。まあ・・・その辺りは否定しませんけど、お嬢様はまだ多感なお年頃ですし、そもそも女性に聞かせる話じゃありませんね」
「そうだね、だからタイミングが悪かったと言ったんだよ」
ブリッジのクルー達も苦笑いをしている。そんな中で一人、通信士だけが真剣な顔をして、何やら報告を受けている。そして話を終えたところで視線を僕らに送ってきた。
船長もすぐに表情を切り替え、真剣な面持ちで指示を飛ばす。
「状況を報告しろ」
「偵察中の部隊からです!空賊と思われる2隻の飛行船が接近中とのこと!」
「若様!」
「ああ、わかっている。全体の指揮は任せるよ。あと、皆には迷惑をかけるが、エスコート、頼んだよ?」
------------------------------------
おそらく特注であろうパイロットスーツに着替え、格納庫のプロトタイプアロガンツの足元で深呼吸する。
空気を大きく吸い込むと、スーツが体にピッチリとまとわりつくのを感じるね、ちょっと恥ずかしい。
宇宙世紀のようなふんわりタイプのものはないのだろうか。
開いたハッチからプロトタイプアロガンツに乗り込み、各種スイッチをオンに切り替えていると、コックピット上部にあるスピーカーから機械音声とは思えない軽やかなしゃべり声が聞こえてきた。
「マスター、機体のコンディション、オールグリーン!いつでもいけるよ!」
若干片言で、まるで来日間もない外国人タレントのようだねと思ったこともあったが、完璧すぎないところに親しみを感じる。
外タレの片言はもしかしたら好感度稼ぎの計算だったのだろうか。よくよく考えてみれば、片言で用件の趣旨を伝えられるってだけでもすごいよね。
いや、戦闘前に僕は何を考えているんだ。やっぱり緊張しているんだろう。
模擬戦だけは二千回には達しないものの、相当な数をこなしたつもりだが、実戦というのは空気が違うものだね。
「なあ、プロトタイプアロガンツ。君の弟はもう2回も空賊連中を撃退したんだ。お互い、お兄ちゃんとしては格好悪いところは見せられないぞ」
「わかった!アロガンツ、がんばる!」
「その意気だ、よし行こうか!」
背部のウイングのバーニアが火を噴いて機体が浮き上がると、すぐに加速してプロトタイプアロガンツは大空へ飛び出していく。
前世のアニメや漫画で描かれたGのような負荷は特に感じない。むしろ普通の鎧に乗っているときよりも身軽に感じる。おそらく、負荷を軽減する装置が組み込まれているのだろう。
ひとまず余計な思考をやめて、先に出撃した部隊に追いついたところで、鎧部隊の隊長が事前の打ち合わせどおりに各機をプロトタイプアロガンツの後ろに下がらせた。
「若様、例の準備はよろしいでしょうか」
「ああ。プロトタイプアロガンツ、両肩のキャノン砲をぶち込むぞ」
「エネルギーチャージ、できてる!」
本家のアロガンツにはない武装の中で、模擬戦のときには準備の都合でテストできなかったものがある。
両肩に乗っかった砲塔は、近・中距離用の散弾状のビームと長距離用のビーム砲を撃ち分けることができるらしい。要は、前者はスプレッドビームキャノン、後者はロングレンジビームキャノンといったところだろうか。
「隊長、各機に伝達。2,3発、デカいのを撃ち込む。当たるとは思わないから、敵がバラけたところを確実に仕留めるぞ」
「かしこまりました!」
「ロングレンジビーム、セット!目標、敵飛行船!」
「了解!目標・・・ロック完了!」
「え?ロック?この距離で!?飛行船の大砲だってこの距離は届かないぞ!」
今も飛行船はお互いに威嚇射撃を行っている。
お互いに命中するとは思ってないし、1発くらいがまぐれで当たっても、魔力シールドで防がれるのは常識だ。
だから僕も、ロングレンジビームは威嚇射撃程度にしか使えないと思っていたのに。
「アロガンツ、がんばった!」
手先は器用とは言えないが、こういうところは高性能な各種機械で構成されたロストアイテムとその人工知能ならではなのだろう。
何発か当たれば、魔力シールドを剥がすくらいはできるかもしれない。よし、それならやってやるさ!
「ロングレンジビームキャノン、いっけえぇぇ!!」
手元のトリガーを引くと、両肩の砲塔から極太のビームが勢いよく発射される。放たれた二筋の光は、空賊の飛行船の側面に当たる直前に魔力シールドとぶつかり合うのだが、次の瞬間には飛行船の横っ腹を食い破り、そのまま貫いてしまった。
そして、まもなく船内から小さな爆発が連鎖して発生し、そのまま飛行船は、力なく地上めがけて落下を始めた。
「は、はあぁぁぁぁ!?」
「敵艦撃墜!アロガンツ、やった!」
おいおい、魔力シールドごと貫通して敵艦ごと沈めるなんて武器、聞いたことないぞ!
かの有名な黒騎士だって飛行船を撃墜するときは魔力シールドをロストアイテムの大剣で破ってから、船体を切り裂いたっていう話だ。
こんな武装、普通の鎧相手に使ったらオーバーキルにも程があるぞ!
自分の鎧ながら、その威力に寒気がするね。これでプロトタイプなんだから恐ろしい。
また、この威力に混乱しているのは、当然ながら敵も同じのようで、状況をプロトタイプアロガンツが伝えてくる。
「次弾チャージ完了まで120秒、敵鎧部隊の連携鈍化を確認」
「わかった、いい子だプロトタイプアロガンツ。このままサポート頼むぞ」
「合点承知!褒められた、やったね!」
無邪気か!それに合点承知って語彙のバリエーション豊富だな!だが、今は目の前の敵に集中するとしよう。
「隊長、敵さんは混乱している。各機には、当初の予定どおり連携して確実に仕留めるよう伝えてくれ!」
「かしこまりました!お前達、若様の強烈な先制パンチに遅れを取るなよ!」
隊長の指示に鼓舞された公爵家の鎧部隊は、威勢のいい返事とともに、空賊の鎧部隊に向っていく。
こちらの火力、そして、味方の飛行船が一撃で沈められるという予想外の事態に敵の指揮系統が混乱しているようで、プロトタイプアロガンツの言うとおり、敵の動きは鈍い。
そこを公爵家の精鋭部隊が襲い掛かり、空賊側の鎧は1機、また1機と落とされていく。
今さら気付いたのだが、敵の飛行船を沈めた、つまり命を奪ったことへの忌避感は思っていたよりもなかった。
まあ、前世の死因が痴情の縺れの末の刺殺だからな。気を抜けば殺られる、というのが意識の底に刷り込まれているんだろう。
それに、監査で色々と摘発した結果として、命を落とした者もいただろうから、それも遠因かもしれない。
ただ、そんな思考を遮るかのように隊長機が僕に呼び掛けてきた。
「若様、あちらを」
隊長機が指さす先には、騎士達と交戦している空賊の鎧の姿がある。
隊長が言おうとしているのは、あれを初陣の獲物にしろ、ということだろう。おそらく彼が父や船長から言い含められている本来の目的がこれなんだろうね。
つまり、僕に人殺しを経験させる、というものだ。飛行船1隻まるごと沈めた時点で既に大量殺人者なんだろうが、より直接的な形で手を下させたいらしい。
「僕はそんなに情けない男かい?」
「私達には私達の役割があります。なにとぞ、ご容赦を」
「・・・気配り、感謝しよう」
隊長から漂うサラリーマン的な哀愁を感じざるを得ないね。この世界では適法なことではあるが、ボンボンに場数を殺人の経験を踏ませるためのが仕事というのは・・・
「プロトタイプアロガンツ、グレイブセット!」
「了解!刀身の加熱・・・完了!」
プロトタイプアロガンツが手にしている薙刀のような武器、グレイブの刀身が熱で赤く染まっていく。
リオン君の説明だと、これもロストアイテムらしいのだが、これってアレだよね!ザ〇の斧とか、グ〇の剣の槍バージョンだよね!?
しかも刀身から持ち手まで濃いめの赤色だからレッドグレイブってことだろ!ダジャレか!!
気を取り直して、僕はプロトタイプアロガンツにグレイブを構えさせて、空賊の鎧に切り込んでいく。
機体の重厚なボディからは想像の付かないスピードでプロトタイプアロガンツは、敵機との距離を縮め、刀身をそのまま鎧に深々と突き刺した。
空賊の鎧はやがて動きが止まり、槍を引き抜くと、力なく落下していく。
「お見事でした。ご気分は?」
人の命を奪ったことの精神的負荷を案じているようだ。
「感傷的なセリフがお望みかな?大して変わりないね」
「それならば結構です」
「先にデカいのをやってしまったしね」
大きく息を吐きながら、戦場をあらためて見渡してみる。もともと、空賊の飛行船2隻と交戦するにはやや過剰ともいえる鎧が出撃していたせいか、戦況は間違いなく優勢だ。
僕に万が一のことがないように、飛行船に残す戦力をギリギリまで減らして、前線に戦力を集め、この戦闘に臨んでいるのがわかる。
さんざん周りにお膳立てしてもらったおかげで、このままいけば、武闘派大物貴族の跡取りの初陣としては及第点だと言えるだろう。
しかも、初撃で空賊側は飛行船をやられたせいで、残った連中も後退を始めており、そこを公爵家の精鋭部隊が追撃していた。
唯一気になるところがあるとすれば、僕達のいる後衛と、すでに敵の残りの飛行船に張り付いて攻撃を始めている前衛ではかなり距離が開いてしまっていることくらいか。
ただ、いくらロストアイテムであるプロトタイプアロガンツが強力な鎧だからといっても、なんともあっけないものだと感じている自分もいることは否定できない。
「大勢は決したようだね」
「油断は禁物です・・・といっても、各部隊の優勢は続いておりますので時間の問題でしょう」
「そうだな、各員にも気を緩めないよう改めて指示を出しておいてくれ」
できるだけ冷静な態度を取るよう努めているのだが、やはり若干ではあるが心拍数が上がっているのがわかる。心身とも、少しクールダウンしたいところだね。
だが、そんなそれを無理やり中断させるかのような、喧しいアラートがコックピットの中で鳴った。
『警告。味方飛行船付近の雲中に鎧部隊の反応を確認。数、およそ10。繰り返します・・・』
ずいぶんと急激にAIのキャラが変わったな、というか、別動隊か!しかも、そんなセンサーがプロトタイプアロガンツに付いているのか!
しかも、こちらの飛行船に雲の中からこっそり近付くなんてやってくれる!どうりで敵さんが脆いはずだ!囮だったということかよ!今から前衛の鎧部隊を戻しても間に合わないか。仕方ない、それなら・・・
「プロトタイプアロガンツ!この機体なら“間に合う”か?」
『単機であれば可能です』
まんまと敵の術中に嵌まってしまったようだ。
しかも、それを由来不明なロストアイテムがなかったら気付くこともできなかった。クソっ!何が及第点だよ。あれこれやったところで、結局、僕自身はボンボンのままじゃないか!!!
「隊長、どうやら別部隊がこちらの飛行船に接近中らしい。ロストアイテムが敵機の反応をキャッチした」
「若様の鎧にはそんな機能があるのですか!?」
「理屈は僕もよくわからん!だが、このアロガンツならどうやら間に合うらしい。ガセならそれで結果オーライだ、この場は任せるよ?」
「それでは若様が危険です!」
「責任は僕が取るさ。プロトタイプアロガンツ、ぶっ飛ばしていくよ!」
「わかった!アロガンツ、トップスピードでいく!」
背部ウイングのバーニアの炎を最大限に噴かせて、僕はプロトタイプアロガンツの速度を一気に上げる。
僕らの飛行船には、将来の僕の部下になる者だけじゃない、主人公様もアンジェもいるんだ。
こんなところでゲームオーバーなんて冗談じゃないぞ!
<パルトナーの一室にて>
『警告。味方飛行船付近の雲中に鎧部隊の反応を確認。数、およそ10。繰り返します・・・単機であれば可能です』
リオン「ルクシオン、お前、一人で何ブツブツ言ってるんだ?」
ルクシオン『レッドグレイブ家の艦隊が敵の襲撃を受けています』
リオン「おい、それヤバいだろ!パルトナーを戻せ!オリヴィアさんにアンジェ、おまけにブラッド、グレッグもいるんだぞ」
ルクシオン『ですので、向こうのアロガンツのAIを適宜乗っ取って敵の接近を知らせたり、状況分析のサポートをしています。いざとなれば本体と光学迷彩で隠したドローンを使ってどうにでもできます』
リオン(こいつ、本当に何でもありだな・・・)
というわけで兄上様の必死の戦いもルク君の掌の上でしたとさ・・