乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です   作:りーおー参式

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マサラタウンのサトシさん(35歳)、四半世紀ごしのチャンピオン就任おめでとうございます。
なんとかスカーレット・ヴァイオレット発売前に投下できた・・・

サブタイ名を変更しました


第24話 命名

襲ってきた空賊部隊との戦闘中に、プロトタイプアロガンツのAIが敵の別動隊の存在を補足したことから、僕は単機で雲の中を進んでいた。

 

『敵部隊との接近までおよそ60秒です』

 

これまでの愛嬌のある声とは打って変わって人工知能らしい機械的な案内に疑問が残らなくもないが、そういう仕様なのかもしれない。とりあえず今はこちらの飛行船に接近中の部隊を何とかしないとな。

雲を突き抜けると、既に飛行船の防衛に残った公爵家の鎧と空賊の鎧が交戦中であった。真正面からぶつかれば、こちらの騎士たちの練度の方が高いだろう。

しかし、奇襲を受けて浮足立った結果として、相手の勢いに押されつつあることは否定できそうにない。

飛行船には、妹や主人公様もいる以上、全力で潰す以外に選択肢はないな。

 

「プロトタイプアロガンツ、魔力シールド全開。このまま突っ込む!」

「了解!アロガンツ、突撃!」

 

プロトタイプアロガンツは、防御用のシールドを纏ったまま、空賊の鎧に突っ込んでいく。

重厚な鎧の質量が、既存の鎧を超える速度で衝突した結果、空賊の鎧はその衝撃に耐えられるわけもなく、機体がバラバラに砕け散ってしまう。

 

人工知能の口調が戻ったな、と思いながらも、戦場に乱入したプロトタイプアロガンツの登場と、味方機の突然の撃墜に動きを鈍らせた空賊の鎧に、僕は狙いを定める。

プロトタイプアロガンツが近くにいた空賊の鎧めがけて、右腕で殴りかかり頭部を吹き飛ばす。さらに、左の拳をガラ空きのボディに叩き込むと、胴体のコックピット部分が大きく凹み、中のパイロットは意識を失ったのか、鎧は重力に引かれて静かに落下していった。

 

「おい!黒い鎧はもういないんじゃないのかよ!」

「700メートル級の飛行船がここから離れたのはお前も見ただろうが!」

「ってことは飛行船だけ帰らせて、鎧は残してたのかよ!」

 

空賊達が仲間内で罵り合っている。

どうやら、プロトタイプアロガンツをリオン君の機体と勘違いしているらしい。こちらにパルトナーがいないことから好機と見て、こちらの飛行船で捕獲されているお仲間を奪還するという算段か。

 

空賊達は、散開しながらプロトタイプアロガンツと距離を取り、ライフルをこちらに向けると、一斉に発砲するのだが、弾丸はアロガンツの魔力シールドにことごとく弾かれて有効なダメージにはならない。

 

散開するまでは悪くなかったな。

だが、攻撃が通らないところに焦ったようで、ライフルの引き金を引くのに意識を持って行かれて足を止めてしまっている。そんな動きじゃ的にしてくれと言っているようなものだぞ!

 

「プロトタイプアロガンツ!ツインキャノンの散弾を使うぞ」

「了解!モード切替・・・完了!」

「よし・・・これを抜けられると思うなよ!」

 

僕がプロトタイプアロガンツの引鉄を引くと、先ほどは極太のビームを発射した砲塔から、何百もの光弾が前方全体に向けて連続して放たれる。

 

前世の知識で思い返すと、サザ〇ーの腹部から出る拡散メガ粒子砲みたいだな。そして、この世界では見たことないタイプの武器であることは間違いない。

空賊の側にとっても同じだったようで、初見の兵器への対策が全く取れずに、放たれた光弾は一つ、二つ、そして三つと空賊の鎧を貫き、動力部に直撃したのか、機体は爆散していく。

魔法による攻撃なら、魔法陣が展開されることが多いので、まだ回避行動を取るきっかけになったのかもしれないが、プロトタイプアロガンツの武装は基本的には純粋な火器が多い。

こちらの前面に展開したほとんどの鎧は、結果的に、なすすべもなく被弾したようだ。

マルチロックオンのような高等技術などではない、ただただ密度の濃い弾幕、手数の多さだけで多くの敵機を撃墜できてしまったのは驚きでしかない。

 

正直に言うと、命がけの実戦経験のない中で、携行火器のエイムを合わせられるかは非常に不安だったのだが、プロトタイプアロガンツの場合は、そんなものは全くなかった。

ほとんどをAIがやってくれるか、そもそもエイムの必要がない範囲攻撃だったからね。

 

そして、戦場内で多くの爆炎が上がる中、2機の鎧がプロトタイプアロガンツに向かって突っ込んできた。

被弾はしているようだが、機体の動きに影響は少なかったようで、戦闘の鎧は剣を構えて向かってきている。

くそ、やけっぱちの特攻かよ!

 

「プロトタイプアロガンツ、グレイブセット!」

「了解!・・・加熱、完了したよ!」

「槍相手に剣は無謀だな」

 

リーチの長い槍をぶん回しているだけで、達人以外の剣使いは接近すら難しいって誰かが言っていたような気がするが、まさにその通りだな。

プロトタイプアロガンツが突き出したグレイブの切っ先は、空賊機のボディを易々と貫いた。だが、同時にコックピット内にアラートオンが響く。

 

「マスター、影からもう一機来てる」

「わかってる!」

 

1機目の鎧のすぐ後ろから、こちらの上を取るように、もう1機の鎧が飛び出してくる。

グレイブが突き刺さったままのうちにできた隙を狙っているようだ。肩のビームキャノンは・・・間に合わないな。それなら、力でゴリ押しするしかないか。

 

「プロトタイプアロガンツ、パワーを上げろ!押し切るぞ!」

「わかった!出力、急速上昇!」

 

プロトタイプアロガンツは、各部のモーターの回転数を上げながら、1機目の空賊の鎧が刺さったままのグレイブをさらに深く突き刺しつつ、その鎧ごと、切っ先を持ち上げる。

さらに、背部ウイングのバーニアから出る炎が青く燃え始めると、プロトタイプアロガンツは力任せにもう1機の鎧をめがけて、突撃していく。

 

「貫いて見せろ、アロガンツ!」

 

もう1機の鎧のパイロットは、まさかグレイブに刺さった鎧ごと真正面から突っ込んでくるとは思わなかったらしく、1機目を貫通した刃が2機目の鎧も貫き、結果として、2機の鎧はまとめて串刺しになってしまった。

いずれの鎧も、数秒ほどは手足をバタバタとさせていたが、すぐに動きが止まり、沈黙する。

 

僕は大きく息を吐きながら、グレイブを敵の鎧から引き抜くと、胴体を高熱の刃で貫かれた鎧は、地表へと落下していった。

 

「プロトタイプアロガンツ、周囲に敵機の反応は?」

「索敵中、索敵中・・・味方以外の反応なし」

「わかった、周囲を警戒しつつ、甲板で味方の戻りを待つぞ」

「了解、警戒モードに移行します!」

 

ようやく戦闘終了か。結局のところ、最初から最後まで機体の性能頼みだったな。

実際に戦ってみて、改めて確信したが、既存の兵器との性能に差があり過ぎる。

同じ力、いやこれ以上の力を持つリオン君が増長しないのが不思議なくらいだ。

高校生くらいなら中二病の延長でもっと横暴に振る舞ってもおかしくないと思うのだが、さすが乙女ゲーの攻略対象というべきか。

やはり、彼との対立は絶対に避けて、こちらに取り込んでいくべきだろう。

 

そういえば、戦闘中に空賊達は、僕のプロトタイプアロガンツを、リオン君のアロガンツと誤認していたな。

それなら、この戦いの功績の一部も彼のものにしてしまうのもありだろう。

先の2回の戦闘と合わせれば、リオン君をまた昇進させることができるかもしれない。

あと、プロトタイプアロガンツ・・・名前にしては少し長いかもしれないな。

 

「プロトタイプアロガンツ、君の名称って変更できるのかい?」

「可能だよ!じゃあ僕の新しい名前を教えて!」

「そうだな・・・アロガンツのお兄さん、僕と同じ・・・よし、君は今からアロガンツ・ブロスだ」

「了解!アロガンツ・ブロス、登録しました!」

「あらためて、これからも頼りにするよ、アロガンツ・ブロス」

 

ブロスだと、リオン君のアロガンツとセットで、という意味になってしまうかもしれないが、奇しくも僕と同じ兄どうし、要するに彼と僕とでお兄ちゃんズという意味をブロスに込めることにする。けっして、バ〇モスとかいうカバ型魔王を連想してはいけない。

ネーミングにセンスがあるかはわからないが、僕にとっては、この名前にすることで、今までより機体に愛着がわいてくるから、これでいいさ。

 

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味方の鎧部隊が戻ってから、飛行船の船長と簡単な打合せを行い、自室のシャワーで汗を流した後、僕は船内にあるゲスト用の部屋に足を運んでいた。

部屋にいるのはもちろん主人公様だ。どうやら、リオン君とケンカをしたらしいとは聞いたが、その辺りをフォローしなければ、二人がくっつかず、その結果、僕の保身が危うくなるかもしれない。

 

ノックして部屋に入ると、オリヴィアさんが俯いたまま、ベッドの上で体育座りをしていた。

よく見ると、目元が赤くなっている。少し前まで泣いていたのだろうね。

主人公様でなければ、これぞ好機と口説いていたかもしれないが、今回ばかりはそうもいかない。

 

僕は室内の少し離れたところに置いてあった椅子に腰かける。まずは事情を聞かなければ始まらないしね。

 

「戦闘は終わったよ、怖い思いをさせてしまったかい?」

「それは・・・もう大丈夫です。ギルバートさんは・・・その顔・・・」

「軽い兄妹喧嘩みたいなものさ。いやぁ、参ったよ、悪ふざけしたらアンジェに怒られてしまったよ」

 

オリヴィアさんとしては、僕の顔の痣が気になったようだが、そこはやれやれ、という感じに両手を上げて首を振って場を和ませることにする。

 

「それ、ギルバートさんが悪ノリしちゃったんじゃないんですか?アンジェが言ってましたよ、お兄さんは、たまに予想もつかないことをするって」

 

力ない言い方ではあるが、少し笑みが戻ったように見える。

 

「それは僕にも言い分があるんだけど、間違ってもいないかな。というわけで、また回復魔法をお願いしてもいいかな?」

 

オリヴィアさんが僕の前に手を出すと、手先に集まった光が僕の顔に当たり、アンジェに殴られた痛みが引いていく。

 

「さすがだね、ありがとう。そういえば、リオン君とケンカしちゃったって聞いたよ。何があったんだい?」

「いえ、ギルバートさんにお話しするほどのことじゃ・・・」

 

僕にとっては、将来の保身と安定がかかっている以上、今は身分云々を言っている場合じゃない。主人公様の恋愛が実らなければ、僕の将来の安定的な権力基盤にも影響が出かねない。

リオン君とくっつかせるために、なんとしても事情を聞きださなければ・・・

 

「それなら、さっきの回復魔法のお礼に、人生の先輩がアドバイスしたいから、話を聞かせてもらいたいな」

「もしかして、そのために傷を残しておいたんですか?」

「いやいや、実はさっきの戦闘の負傷者対応で、ドクターが忙しいみたいでね。偶然にも、オリヴィアさんがうちの船に乗っていたから、お願いしただけだよ」

「ふふ、そうやって誤魔化すところ、やっぱりリオンさんに似てますね。私がいけなかったんです、酷いことを言ってしまって・・・」

 

そう言うと、オリヴィアさんは少しずつ、事情を話し始める。

事前にアンジェから聞いていたことに加えて、オフリー家のドーナツ頭から、リオン君がオリヴィアさんの体目当てで傍にいるんじゃないかと言われたこと、それをリオン君に言ってしまったこと、

自分はペットじゃないと言ってしまったこと、そして、謝ろうとしても一歩引いた態度を取られてしまっているのだという。

まずいな、2人の関係が壊れかけていると判断するのには十分じゃないか。

 

そんなとき、乙女ゲームの主人公の取るべき模範的な行動というのは何だろうか。

 

あのケモナー学園のゴミ女みたいな行動は論外だとして、ベタなところなら、相手と手を取り合えるというか、

同じ目線に立って、時に助け、時に助けられて、ともに問題を解決する関係あたりに進むよう誘導すれば見当違いにはならずに済むか。

 

「ペット・・・というのは穏やかではないね。でも、これからずっと守られてばかりのつもりなのかい?」

「そ、それは・・・」

「別にリオン君と同じことができなくてもいいんだ。君の強みである魔法を磨いたり、より深い知識を身に付けて彼と並び立てばいい。貴族ばかりがあつまるあの学園史上初の特待生だろう、オリヴィアさんは」

 

まずはオリヴィアさん自身が、自分に自信を失っていることから、必死にオリヴィアさんの長所をプレゼンしていく。

 

「ギルバートさん、いつも私を褒めてくれるんですね。どうしてそこまで気にかけてくれるんですか?もしかして、本当に愛人になれって言うんですか?」

「いやいや、あれは半分冗談だよ。一言で言えば、アンジェを支えてくれたことの恩返しさ。君達は妹が半生を台無しにされて深く傷ついて、取り巻き達も我が身可愛さに姿を消して孤独を強いられたときに、傍にいてくれただろう?兄としては、感謝してもしきれないんだよ」

「私とリオンさん、ですか?」

「あとは、その延長で、リオン君を保護したいんだよ。彼の武力は申し分ないが、貴族社会はそれだけじゃ心許ない。だから、亜人を囲ってる学園のゴミみたいな女と結婚されたら守り切れないかもしれないし、彼の実家には、リオン君を遺族年金目当てに殺そうとした正妻がいるから信用ならない。でも・・・」

「でも?」

「オリヴィアさんがリオン君とくっついてくれたら、僕も心置きなくサポートできるというわけさ」

 

ここで僕の目的の一部を明示するのは一種の賭けだ。

オリヴィアさんはあの乙女ゲームの主人公、しかも前世の妹の話によると、かなりのいい子ちゃんだという話だった。

邪な思惑を持って嘘をつくよりも、前向きな目的を、嘘のない範囲で示して信用を得られれば、今後の僕にとって大きな利益、つまり彼女が聖女となったときに大手を振って後ろ盾となることができる。

一方のオリヴィアさんは、少し言いにくそうにしながら口を開いた。

 

「でも、リオンさんと私じゃ身分が・・・」

「本当はもっと話が固まってから伝えようと思ったんだけど、実は君を、公爵家の寄子のどこかに家で養子にするという話が出ている。優秀な特待生を取り込みたい、という政略的な意味もあるけどね。そうすればオリヴィアさんがリオン君とくっつけば、身分のことはどうとでもなる・・・いや、僕がどうにかする。だから、ここから先はオリヴィアさん、君次第だ」

「普段、私達の前ではおどけているのに、裏では色々と考えてくれていたんですね」

「これでも大貴族の端くれだからね」

 

僕は椅子から立ち上がり、ゆっくりとオリヴィアさんの下に近付いて片膝をつく。

そして、彼女の前に掌を差し出した。

 

「悪いようにはしないから、お兄さんの悪だくみに一枚、噛んでみないかい?僕は可愛い女の子のためなら道化にもなれる男だよ?」

「私なんて・・・アンジェに比べれば可愛いなんて・・・」

 

オリヴィアさんが少し脇に目線をそらした。やっぱりまだ高校生くらいの年齢だと、男心というか、男の心情はわかっていないらしいね。

 

「う~ん、アンジェはすごく綺麗ではあるけど、可愛いかどうかは疑問が残るなぁ。男子にとっては、可愛いと綺麗って割と別物だよ?」

「ふふ、自分の妹をすごく綺麗だなんて言うお兄さんなんて初めて見ました」

「これでも妹のためなら浮島も笑って沈めるなんて陰口を叩かれているらしいからね。侮られたものだよ、むしろ反乱起こしたって足りないかもしれない」

「もう、そんなこと言ったらアンジェに怒られちゃいますよ?」

 

あれ、ここは”め!”ですよって言ってくれないの?あれはリオン君に向けて限定なのか!?

くそ、ちょっと自分でも言われてみたかったのに残念だ。

 

「それもそうだね。でもオリヴィアさんは、ちゃんとリオン君に謝らないとね。さすがに体目的だって言われたら僕だって凹むよ。リオン君がもしそんなに本能を持て余すなら、僕が責任をもって娼館に連れて行って発散させるから安心して!」

「それは・・・ごめんなさい、リオンさんがそういうところって・・・すごく・・・嫌です」

 

よし、これは嫉妬だな!間違いない。どす黒いプレッシャーの片鱗を感じて寒気がしたのは気のせいだろうか。

まあ、好意はあるとは思っていたけど、ちゃんと恋愛的な気持ちになっているようだ。

そりゃ高校生くらいの年齢なら、好きな相手がセクシーなお店に行くって聞かされたら嫌だよね。

 

「ってことは、やっぱりリオン君のこと、好きなんだね」

 

一瞬、驚いたように目が大きく開き、オリヴィアさんの視線が宙を泳ぐ。そして、ほんのりと顔が赤くなってきた。

とはいえ、少し寂しげな表情もまだ残っている。思うところがあるのかもしれないな。

 

「でも、リオンさん、はぐらかして逃げるのが上手そうですから・・・」

「それなら首根っこ締め上げて逃げられないようにしてから告白しちゃえばいいよ。それに、告白されてから急に相手を意識するってパターンもあるものさ」

「・・・わかりました、私、頑張ってみます」

 

そう言うとオリヴィアさんは立ち上がって僕の手を取って、固い握手を交わした。

ようやく主人公様に立ち直りの兆しが見えて一安心だね。たしかもうすぐあのケモナー学園では修学旅行の時期だったはずだ。

さて、鬼が出るか、蛇が出るか。

ただ、ここから先は主人公様の活躍を祈るとして、僕は僕にしかできないことをやるとしよう。

まずは、今回の空賊討伐を理由に、リオン君の昇進させる根回しからだな。

 




名付けって悩むものですね。


色々なご意見のあった娼館ネタですが、リビアに告白の切っ掛けを与えようと前々から考えていたものでした。
え?もっとロマンチックな誘導できないのかって?

おっしゃるとおりですww
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