乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です 作:りーおー参式
来月発売の書籍最新刊、マリエルートともども兄上様が無事に生還しますように・・・
主人公様ことオリヴィアさんの激励というか、リオン君へのアタックを後押しして、自室に戻ろうと思ったところで、1つ忘れていたことを思い出した。
そう、リオン君から預かったオリジナルの攻略対象である2人、紫色の攻略対象ことフィールド家のブラッドと、赤色の攻略対象ことセバーグ家のグレッグだ。
妹に鉄拳制裁を喰らったり、空賊と戦闘したり、主人公様を励ましたりと忙しい状況が続いていたせいか、すっかり放置をかましてしまっていた。
別に会話をしなければならない、というわけではないが、せっかく公爵家の飛行船に恥ずかしげもなく乗船しているのだから、嫌味くらい言ってやってもいいだろう。
元々、あの決闘騒動の発端となった夏休み前のパーティーで、妹をさんざん侮辱した礼はきっちりしてやろうと思っていた。
一応、この船に乗るに当たって、たまたま僕が別件での対応中に、2人は、船長に挨拶をしにくるくらいの最低限のマナーくらいはあったようだが、妹に喧嘩を売ったことは飛行船のクルー達は知っているので、船内でもおとなしくしているらしい。
彼らに宛がったゲスト用の部屋に向かっていると、ちょうどいいタイミングでブラッドとグレッグの2人が出てくるところに遭遇する。
「おや、招かれざるお客人殿達はおでかけかな?戦闘はもう終わったから逃げる心配は要らないよ」
2人とも非常に気まずそうな顔をしている。言いたいことを我慢している、というのが手に取るようにわかる。
「ぼ、僕達は別に逃げようだなんて・・・」
「やめろ、今の俺達じゃ何を言っても虚しいだけだ」
反論しようとしたブラッドをグレッグが制止した。
ずいぶんと謙虚というか、心を折られているように見える。パーティー会場ではアンジェに向かって、お前はもうおしまいだ、みたいな暴言を吐いてくれたらしいのに、こんなにしおらしと、嫌がらせをしたって面白みがない。
「妹が世話になった礼をしてやろうと思ったが、ずいぶんとお行儀よくなったようだね」
「自分が粋がってたガキだってことをバルトファルトに思い知らされましたからね」
「それはけっこうなことだ」
「バルトファルトといえば、さっきの戦闘、あいつの鎧が出てましたけど、あいつは先に王都に戻ったのではないのですか」
鼻っ柱を折られて落ち込みモードのように見える勇者王・・・じゃなかった、グレッグをよそに、ブラッドが、彼らからしてみれば当然抱くであろう疑問をぶつけてきた。
こいつらにとってみれば、アロガンツは因縁の機体だから気になっても仕方あるまい。
「あれはリオン君の鎧の同型機みたいなものだ。しかるべき対価を支払って公爵家が譲り受けた。やはり自分達がプライドもろとも粉々にされた鎧は気になるかい?」
2人は不機嫌な顔を露骨に浮かべるが、歯を食いしばって自分を押さえているようだった。
安い挑発にはやっぱり乗ってこないか、少し寂しいじゃないか。
先に気持ちを切り替えたブラッドが、僕らとリオン君との関係への疑問をぶつけてくる。
「ジルクも言っていましたが、妹さんの婚約解消からバルトファルトと近付くまでがずいぶんと早いですね。ギルバートさんもずいぶんとバルトファルトと仲が良いように見えます」
「確かに、レッドグレイブ家のような大物なら、成り上がりの新顔を助けるにも、寄子への根回しとかに時間がかかるだろうに、ロストアイテムの献上から、空賊退治の増援まで、フォローに入るまでが早いな」
ブラッドに続いてグレッグも気になったところを突いてくる。
ラーファン家の女に誑かされて頭がおかしくなったと思っていたが、さすがに国内有数の大物貴族の元跡取りだけあって、頭が切れるところは変わらずのようだ。
今のところ、公爵家がリオン君の昇進の推薦をしたりはしているが、それは派閥単位ではない。
家単体、もっと言えば半分は僕個人がリオン君に急接近しているだけ、という可能性にも考えが及んでいるかもしれないな。
「将来的に後を継ぐのは僕だからね。それに派閥の中には、将来の王妃の実家、という肩書き目当てにすりよってきた連中も多い。僕個人として、将来を見据えて信用できる相手を独自に作るのは自然なことさ。その結果、すさまじい力を持つ鎧も、騎士も手にすることができた。その力は君たちが身をもって味わっただろう?」
「・・・貴方が陛下と親しいことは知っていますが、この先、公爵家はどう動くつもりなのですか?」
これは公国との国境を守るフィールド家の人間らしい疑問だな。
うちの実家に反乱の兆候があれば、その隙をついて公国が攻め込んできても不思議ではないから、中央、というか王都、王宮の動きが気になるのは当然か。
「少なくとも、あのオフリーの元婚約者に教えてやるようなことではないね。むしろ、あんな女が婚約者であったことは、個人的には同情するが・・・君も見ていたであろう、学園祭でのオフリー家の亜人どもと僕の乱闘騒ぎの感想を聞きたいところだね」
「そ、それは・・・その・・・さすがアンジェリカさんのお兄さんといいますか・・・」
「さすが王国随一の武闘派だよな。学園で専属使用人を殴り倒すどころか血祭にあげる人間なんて、ギルバートさんとバルトファルト以外、見たことないし。あの実戦さながらの殺意というか、ぶっ潰してやるっていう気迫は正直に言って見習いたいぜ」
おい、紫!人のことを、∀のお兄さんこと、ターン〇ックスみたいに言うのは止めれ。
しかも、なぜかグレッグのほうは、勝手に好感度が上がってないか!?なんでバイオレントな場面を見せると心を開き始めるんだよ!
「でも領主貴族からしたら、公爵家とバルトファルトが手を組んで、しかもあの鎧が2機もあるなんて恐ろしいですよ。野心を持って攻め込まれたら、戦っても勝てる気がしません」
「ああ、バルトファルトの鎧の強さはもう異次元だ。規格外の物量戦に持ち込む以外の勝ち筋が浮かばないよな。しかも、それがもう1機なんてだけでも悪夢みたいなもんなのに、公爵家が同じく物量でフォローしてきたら、あいつを止める手段がない」
いくらなんでも正面から喧嘩売られない限り、他所の領地に攻め込むなんてしないぞ!?辺境伯の領地なんて攻めたって喜ぶのは外国ばかりだし!
グレッグ、お前も冷静にうちが野心を持ち出したときの想定をするな!パパ上あたりが聞いたらマジで反乱を起こすかもしれないじゃないか。
というか、あらためて外部の客観的な話を聞くと、公爵家の武力にリオン君&アロガンツって、まるで鬼に金棒のように見えるんだということがよくわかるな。
女に誑かされたとはいえ、やはり腐っても元祖攻略対象か。ラーファン家の女が絡まなければ、頭がしっかりと回ることがよく理解できた。
「そこまで考えているなら、自分達の身の振り方でも考えたほうがいいんじゃないのかい?あのマリエという女を囲っている限り、お前達は公爵家、いや僕の敵だからな。空賊ですらむやみには殺さないリオン君と僕が違うのはさっきの戦闘で見た通りだ。妹を傷付けた代償、安く済むとは思わないことだ」
グレッグとブラッドはマリエという女の名前が出た途端に表情を厳しいものへと変え、僕を睨みつけてきた。
これ、まるで僕が悪役みたいじゃないか?あ、でも妹は悪役令嬢なんだから、そういえば僕は悪役令息なのか。
オリジナルの攻略対象がみんな揃って敵に回るってすごい状況だな。
そのうち決着を付けるんだろうが、廃嫡された連中とは言え元は身元のしっかりした連中だから、事後処理が面倒くさくなりそうだ。嗚呼、頭が痛くなってくるな。
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王都に戻った僕は、王宮に空賊の身柄や、オフリー家と空賊が結託していることを示す証拠各種を引き渡したり、各所への報告を済ませてから公爵家の屋敷に戻ることになった。
あいにくと今回の討伐命令発出に手を回してくれた陛下に会うことはできなかったが、まああの方のことだから、何かがあれば、いかなる手段を使っても呼び出してくるだろう。
結局、王都にある屋敷に戻れたのは夕方から夜になろうという頃合いで、屋敷内では、今回の討伐に参加した騎士たちを労うための簡単な食事会が開かれていた。
武闘派の脳筋騎士達に気苦労をかけさせないためか、割と砕けた場になっており、今回の討伐作戦で僕をサポートしてくれた飛行船の船長や鎧部隊の隊長達も盛り上がっている様子だ。
僕も各方面にお礼やら挨拶をしながら、駆け付け三杯とばかりにアルコールを摂取していたら、だいぶ酔いがまわったらしく、頭の中がぼんやりとしてきたので、先に自室に戻らせてもらうことにした。
自室の椅子に座り、首まわりのボタンを外して楽にしていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
水を一杯飲んで椅子から立ち上がり、ノブを回して扉を半分ほど開くと、1人のメイドが立っている。
この子は、たしか以前にアンジェの取り巻きをしていた女子生徒の姉だったか。要は決闘騒動の前後で妹と距離を取った家の出身者だ。
ぶりっ子ちゃん系の雰囲気をしており、男性受けを意識しているように見えることは否定できない。はっきり言えば可愛いと言える。学生時代も、あのケモナー学園の女子生徒としてはわりとチヤホヤされていたらしい。
情報源はあの腹黒性悪眼鏡だが、情報がアンジェにも伝わる可能性があるだろうから、正確性の高い情報だろう。僕からの評価はともかく、アンジェからの評価が下がることは避けたいだろうからね。
卒業してから、なぜ公爵家でメイドをやるようになったかまでは知らないが、親の方でどこかに嫁がせるよりかは、派閥の中での使い道を残すために嫁がせなかったという可能性もある。
女子生徒は卒業までに婚約しなくても後ろ指を刺されないから本当にこの国は女尊男卑が激しいよね。
さて、目の前のぶりっ子ちゃん系メイドであるが、体を若干くねらせつつ、胸元で両手を組んで僕を見上げている。
「若様、実はお話が・・・」
「すまないが、アルコールが入ってしまっていてね。明日でもいいかい?」
「わ、私、以前から若様のことを・・・」
僕の話を聞いてないのか、この女。というか、急に愛の告白じみたことを言ってくるなんて胡散臭えぇぇ!!
ハニートラップの予感がぷんぷんするぞ。
たまにワンちゃん既成事実を狙う貴族出身のメイドがいるんだけど、その子達だってここまで露骨じゃなかったぞ。
そりゃ僕だってこの年で異例の婚約者無し状態だから、夢見てトライしようと考える気持ちは理解できるけど、それにしたってもっと作戦を考えようよ。
今は僕が酒に酔ってるということ以外に付け入る要素はないぞ。というか、ドン引きしすぎて酔いも醒めつつあるくらいだ。
いや、こんなやぶれかぶれの特攻戦術を取らざるを得ないという線もあるか。もしかしたら実家から何か指示を受けたのかもしれないね。
ああ、面倒くさい。これだから貴族出身の女は嫌なんだ。前世基準の価値観からすると、いい歳していつまでも実家に縛られやがって、と思ってしまう。
いや、実家の権威を思いっきり使い倒している僕がそれをいうと盛大過ぎるブーメランになってしまうか、危ない危ない。
最低限、この子の立場も考えてやらないといけないか。
「君が、誰に何と言われてここに来たのかは敢えて聞かないでおくよ。今日はひとまず下がりなさい」
「そんなこと言わないでください、それじゃあ私も困ります!」
「僕は討伐任務で疲れていたのか、寝ていて返事がなかった、部屋も施錠されていた、と言えば君のせいにはならないさ」
「そもそも若様だって悪いんですよ!」
ハニートラップの自白も早かったが、責任転嫁までしてくるのか!?
まあ大方、身分の低い子とばかり遊んでいることへの文句だろうな。責任とか家どうしの話が出ないように、純粋に恋愛を楽しんでいて、貴族出身の女を避けているのが露骨に映ったのかな。
「僕が君に何かをしたということは全くないはずだが?というか、最近だと屋敷内での対応はコーデリアがほとんど単独で対応しているから、君達メイドさんと接する機会もなかったはずだけど」
「それですよ!どうしてコーデリアさんばかりなんですか!」
この子は何を言っているんだろう・・・全く意味が理解できない。
僕が反応に困り、言葉を紡げないでいると、目の前のぶりっ子ちゃん系メイドはさらに言葉を続けてくる。
「コーデリアさんに手を出すくらいなら私の方が可愛いじゃないですか!!若様の寵愛を一人で受けるなんてズルいです!!」
おいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!
トンッでもない核兵器クラスのアルティメットな誤解が起きてるぞぉぉぉ!!!!!
僕があの性悪腹黒陰険眼鏡に手を出すだって!?しかも寵愛って一体全体どういうことだってばよ!?
寵愛って、僕の知らない間に、スーパーヘイトっていう意味に変わったのか!?
ショックで頭がクラクラ、膝がガクガクしてきたんだが!?
「あまりに突飛なことを言われて驚きを禁じ得ないのだが、君は僕がコーデリアに手を出している、と思っているのかい?」
「だって若様がお屋敷にいらっしゃるときはいつもコーデリアさんが対応するじゃないですか。他のメイドだってたくさんいるのに!」
「1つ言っておくけど、僕はメイドを指名したことなんて1回たりともないよ!あ、いや昔は平民や騎士家出身の子とこっそり付き合ってたときはちょっと指名したことはあったが、貴族出身のメイドを特別扱いしたことなんて1回もないから!」
そう言ったところで、ちょうどぶりっ子ちゃん系メイドの後ろを、腹黒メイドことコーデリアが、いつもの澄まし顔で通り過ぎようとしているのが目に入った。
「あ!コーデリア、ちょうどいいところに来てくれた。どうやら彼女は、僕が君を寵愛していると大きな勘違いをしているようでね。手間をかけて悪いが、誤解だと説明してもらえるかい?」
声をかけられたコーデリアは、僕とぶりっ子ちゃん系メイドを何回か交互に見て、顎を手で触りながら表情を変えずに数秒ほど考えてから口を開く。
「ご寵愛だなんて恐れ多いです。せいぜい、若様が学生のころから、学園が休みのたびに王都の店で食事をご一緒したり、先日のように若様がお怪我をされた際には私が付きっきりでお傍にいた程度です」
おいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!
どうしてお前は誤解を更に拡大させるような言い方をするんだ!?
学生時代は食事って、辺境出身の下級貴族の結婚相手を、当時の公爵家のメイド達とマッチングさせるためにやっていた食事会のことだろぉぉ!!
というか、お前は女性側の幹事として毎回参加していたのに、結局、誰ともくっつかなかったじぇねえか!!
しかも、怪我したときの話ってつい最近のやつだろ!僕が手を出さない相手だからパパ上が決めた、みたいなことを言ってただろうが!
どれもこれも、字面だけなぞれば虚偽の事実は含まれていないが、意味の込め方が不正確なこと極まりない!
さらに、ここぞとばかりに、口元が三日月のように曲がり、ニチャァという擬音が浮き出そうな笑みとともに見下すような顔つきをぶりっ子ちゃん系メイドに向け始めやがった。
「おい、その表現はちょっと、いやだいぶ不正確じゃ・・・」
僕が言いかけたところで、怒りのスイッチが完全にオンとなってぶりっ子ちゃん系メイドが口をはさむ。
「何よ!そんな地味顔してるのに、どんな手を使って若様に取り入ったのよ、顔に似合わず下品な女ね!」
やめて!まるで僕がコーデリアに誑かされたように聞こえてしまう!しかも、なんか肉体関係までありそうなニュアンスにもなってるし!
「何のことだかさっぱりわかりませんが、そう思うのなら、貴方はまず足りない中身をどうにかする努力をしたらいかがですか」
「調子に乗るんじゃないわよ、この性悪!」
君らは2人とも、お互いにしっかり性悪だと思うよ、と言おうとしたんだが、それより先に、ぶりっ子ちゃん系メイドはぷんぷんと怒りながら、この場から去って行ってしまった。
なんか空賊討伐よりも、女に誑かされた攻略対象2人の相手をするよりも疲れた。
もうボンボンのメンタルはボドボドだぁ・・・でも、コーデリアに注意はしておかないとな。
「おい、いくらなんても、あれは言い過ぎじゃないか」
「虚偽の事実を申したものと認識してはおりません」
「性格の悪い役人みたいな言い方はよせ」
「あら、自己紹介ですか」
「・・・面倒臭い女を追っ払ってくれたことには感謝してるんだ。次からは、僕のダメージがもっと少なくて済むように頼む」
「気が向いたら検討します。私は関係を疑われてメンタルにダメージを受ける若様が見られて少しうれしいです」
こいつ、僕へのアンチっぷりが先鋭化しすぎじゃないか。
この女の、僕を波風が立たない範囲で害しようとすることへの執念はどこから湧いてくるのだろうか。
「君にもダメージはあるだろうが。僕の愛人と思われてるようなものだぞ」
「あら、屋敷内の使用人達がそのように勘違いしているなら、勝手に周りが忖度してくれますので好都合ですね。仕事がしやすくなります」
「父上や君の実家から、責任取れと言われたらどうしてくれるんだ」
「・・・そのときくらいは事実を説明しますよ」
それ以外の時には説明しないっていうことじゃないか。本当に性格の悪い女だな。
「それと、申し遅れましたが・・・」
「ん、何だい?」
「おかえりなさいませ。ご無事で何よりです」
「・・・ああ。残念ながらすぐに領地には戻れなさそうだから、またしばらく面倒をかけるよ」
ん?なんで僕はこいつのツラを見てホッとした感覚を覚えているんだ?
いや、もう今日は疲れたから考えるのはやめよう。無事で残念とか言われなかっただけマシだな。
しかし、今日のやり取りが、後日、妹の身にも大きな危険をもたらしてしまうことを、そして、あの乙女ゲーにもあった公国との戦争の足音が確実に近付いてきていることを、そのときの僕は、まだ予想だにしていなかった。
お分かりの方もいるとは思いますが、ぶりっ子ちゃん系メイドは修学旅行の飛行船で発煙筒を炊いた女子生徒の姉です