乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です   作:りーおー参式

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久しぶりのアトリーチームの登場です。


第26話 昨日の味方は明日の敵

さて、僕が性悪腹黒眼鏡メイドを寵愛しているだなんていうとんでもない誤解が、さらにとんでもない誤解を招くというハプニングに見舞われた翌日、僕は王宮に出向いて、リオン君の功績の報告と彼の昇進推薦手続き、

その他、色々な準備と仕込みのために各部署に顔を出していた。

そして、諸々の用事が済んで、屋敷に戻ろうと思ったところで、知った顔の面々と王宮の廊下で出くわしてしまう。できれば見たくなかった顔ぶれだね。

 

「お久しぶりです、ギルバート様。そんな嫌な顔しないでくださいよ~」

「よくもぬけぬけと僕を罠に嵌めておいて、堂々とできるね」

「それは、もう何年も同じ釜の飯を食ったようなお仲間ですから、私達の宮仕えの辛さを察してもらえるかなと思いまして」

 

僕に親しげに話し掛けてきているのは、アトリー家に従っている文官衆の面々だ。王宮内の色々な部署に配属されており、その情報網と事務処理能力の高さは中立派のアトリー家を支えている。

かつて国境沿いの監査を行う部署にいたときは、彼らと机を並べて膨大な書類を処理し、ときには偽名を使ってともに浮島を調査したりして、彼らの言うとおり、同じ釜の飯を食った間柄であることは否定できないだろう、あのことが起きるまでは。

 

「そのお仲間を売って主の娘を守った感想はいかがなものかな」

「売っただなんて聞こえが悪いじゃないですか。結局は痛み分けみたいなものなんですから許してくださいよ」

「お前らと違って僕は痛みばっかりだったような気がするけど気のせいかな」

「ところで、空賊討伐の話、聞きましたよ。辺境の悪妻狩りの次は空賊狩りですか」

「頑張ったのはバルトファルト男爵だよ。僕の功績なんて微々たるものさ」

「そう、バルトファルト男爵ですよ!ずいぶんと仲が良いみたいですけど、どんな方なんですか?」

 

なるほど、会話の本命はリオン君だったか。

以前、秘密だから自分達で調べてみたら?と言ってやったことがあったが、改めて聞いてくるあたりからすると、満足のいく情報は集められなかったのだろう。

決闘騒動に続いて、空賊討伐でその武力を示したリオン君の情報を集めているだけ、というならばいいんだが。

 

「彼は僕の秘密兵器だから、あまり探らないでほしいんだけど」

「別に男爵に危害を加えようなんてことじゃないですよ~私達も、大臣から、お礼がしたいので少し調べるよう指示されてるだけなんですから」

 

文官の話によると、僕がオフリー家の亜人集団と大乱闘をした翌日、クラリス嬢とその取り巻きがジルクともめ事を起こしたらしく、そこを上手く収めて、ジルクに一連の出来事の謝罪をさせたのがリオン君らしい。

なんか話だけ聞いてると、リオン君が主人公みたいな活躍をしているね。

 

「というわけで、ギルバート様にも大変お世話になりましたが、お嬢様もようやく立ち直りつつあるようなんです。私達も安心して夜に眠れます」

「そいつはよかったね。ここで嫌味を言うのはやめておいてあげよう」

「お気遣いいただきありがとうございます。でも、アンジェリカ様のほうは最近、男爵と少し距離があるようですが何かあったんですか」

 

こいつら、しっかりと調べていやがるな。

最近調べ始めたみたいな口調しときながら、実際のところは、もう情報の裏取り段階に入ってるじゃないか。

 

「さあ?学生の頃なんて、定期的につるむ相手が変わるもんだろう」

「ということは、さすがにアンジェリカ様を男爵に当てる予定はなさそうですね」

「さすがに、一度決闘の代理人になったからといって、そうやすやすと心が動くような安っぽい女じゃないさ」

 

当然の話だ。実際のところは、この世界の主人公であるオリヴィアさんの獲物であるリオン君に、恋愛的な意味で接近させないように注意しているというのが本音なんだけどね。

身分云々ではなく、主人公様の邪魔をして、結果的にあのゲームのように、妹が断罪されるような結末は避けたい。

 

「さすがにそうですよね。ちなみに、婚約者はもうお決まりなんですか」

「“僕”の方で用意を進めている。何か問題があるかな?」

 

僕がかつて結婚相手を紹介してやった辺境の貴族の家に、主人公様を養子に入らせるよう既に各種手続きの準備を進めているんだ。最終的には聖女様になるんだろうが、その前にリオン君とくっつけておけば、将来的にはリオン君の武力に加えて、神殿勢力にも睨みを効かせられるようになり、僕の将来は安泰だ。邪魔をされては困る。

 

「そんなに睨まないでくださいよ。我々は言われた通りのことをしているだけなんですから」

「それを言ったという主語は、大臣とクラリス嬢のどちらなのかな」

「・・・黙秘します」

 

まさか、あのアトリーのストーカー女、次の狙いはリオン君だとでも言うのか!?

ええい、冗談ではない!釘を刺しておかないと。

 

「クラリス嬢とでは爵位の釣り合いが取れないじゃないか。主の娘が安く見られてしまうのは望むところじゃないだろう?」

「そこを考えるのは、我々のような下っ端の仕事じゃありませんから」

 

ある意味、なんて模範的な役人回答だろうか。腹の中では別のこと考えてます、って僕が見破ってることもわかってるのに、すっとぼけてくるあたりが非常にいやらしい。

 

「よくもぬけぬけと言えるね」

「これ以上お聞きになりたいなら、大臣に直接お尋ねください」

 

ここらが潮時か。以前、リオン君の力について、父上に言われたことがふと思い出されるよ。

リオン君は、目端の利く連中や耳聡い連中にとっては、喉から手が出るほど欲しい存在だと父上は言っていた。

遅かれ早かれ、彼の争奪戦が始まるのは時間の問題だったのだろう。

リオン君は凄いな、主人公様の攻略対象であることに加えて、王国の大物貴族達もがこぞって彼に目を付けて攻略しようとしているということか。

 

というか、リオン君は、目を付けるだけならともかく、僕が知る範囲の中でもトップクラスにやべえ女とその信者に気に入られちゃったんじゃないだろうか。

頼むからしっかり彼と仲直りしてくれよ、主人公様!こればっかりは、もう祈るしかない。

アトリー家にリオン君を取られでもしたら、派閥間の武力バランスが劇的に変わるぞ。

 

「僕は別に上司を出せなんて言っていないよ?」

「男爵のことが心配なら、ギルバート様がお嬢様に求婚してくれれば解決すると思いますよ」

「価値観が合わない。お互いが不幸になるだけさ」

「なに平民みたいなことを言ってるんですか。それに、2人とも、お互いに体内の粘液を晒しあった臭い仲じゃないですか。お嬢様と結婚して、また私達とも仲良くわいわいやりましょうよ~」

 

僕のことを買ってくれているのはわかったが、僕が一番突っつかれたくないところに正拳付きをぶっこんできやがったな。

 

「ほう、誰のせいでそうなったのかもう忘れたようですね。バルトファルト男爵から譲り受けた鎧で頭をぶん殴れば記憶が戻るかもしれないから試してみましょう。それとも、亜人どものように顔面と股間を焼かれるほうがお好みかな?」

「じょ、冗談ですよ~ただ、我々も指示があれば動かざるを得ないので、恨みっこなしでお願いしますよ。それと、男爵がフィールド家、セバーグ家に、空賊退治の功績を使って廃嫡を取り消すよう働きかけてるらしいです。狙いはわかりませんが、それなりの金も流れているようです」

 

そう言って文官達は逃げるように去っていった。

 

あの2人の廃嫡を取り消す?どういうつもりだろうか。

攻略対象どうしで親密度が上がるイベントでもあるのか?ラーファン家の女に誑かされたままというのは変わらないままのようだけど・・・

あと、リオン君本人が意識しているのか否かはわからないが、アトリーも含めて、有力貴族の好感度を稼ぎすぎじゃないか!?

 

いや、それよりも今はアトリー家の動きか。もしクラリス嬢がアトリー家の実働部隊も総動員してリオン君攻略に動いたら相当やっかいだな。

というか、主人公様の恋愛が成就しなかった場合、世界ってどうなるんだ?

普通に考えれば、バッドエンド?ということは、まさかゲームオーバーで世界滅亡だなんてことになったりしないだろうな!?

もしかして、今、僕は世界の滅亡の危機にあるかもしれないと気づいている世界で唯一の人間じゃないだろうな!?くそ、またしても懸案事項が増えたじゃないか。

 

ええい、当初はジルクにオリヴィアさんを押し付けようと考えたときにも邪魔をしてくれたが、ここでも僕の企てに立ちはだかるのか、アトリー家め。

しかも話がやっかいなのは、アトリー家の派閥は、公爵家の派閥とは別とはいえ、敵対的な関係ではない。

むしろ、オフリー家の親玉であるフランプトン侯爵派閥を抑えたいという意味では緩やかな協力関係にある。

おおっぴらに対立すればいい訳ではないのが実にもどかしい。

 

右手で握手しながら左手で殴り合う、いや、そんなに激しくしちゃまずいな。

せいぜい、おなじコタツに入ってみかんを食べながら、その中にある足で蹴りあうくらいか。

世界の危機だというのに、我ながらなんて緊張感のない例えをしてしまった。

というか、どうして僕は悪役令嬢の兄なだけなのに、世界の命運を気にしなければならないんだろうか。理不尽だ!!!

 

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「報告に参りました。よろしいですか」

「ご苦労だったね、話を聞こうか」

 

ギルバートから逃げるように去った文官達が足を運んだのは、ホルファート王国の大臣であるバーナードの執務室だった。

文官達が書類を差し出すと、バーナードは素早く内容に目を通し始める。

 

「バルトファルト男爵に婚約者はまだいない、ということだね。これは幸いだ」

「おそれながら、爵位の釣り合いはよろしいので?」

「爵位だけの問題なら強引にどうにかする手がないわけじゃないさ。それに、別にクラリスの相手とだけ考えているものではないからね。あの子が望むかどうかは、時機を見て聞くつもりだが。」

 

好感は持っているのだろうが、それが恋愛感情も含んでいるのかはバーナードにもわからない。

娘であるクラリス自身は手痛い失恋をしてからまだ日も浅く、次の相手を考えられるような心理状態ではないかもしれない。

父親としては、ジルクのときのような二の舞は避けたいところであるが、一方で娘がジルクとの間に起こしたイザコザをうまく収めたバルトファルト男爵に興味を持っているという話もあり、何らかの形でアトリー家として接触を図りたいところでもあった。

 

「でもせっかくなら、バルトファルト男爵をまた昇進させようとしているレッドグレイブ家の動きは利用していこう。くっつくまでに子爵に上げれば釣り合いの問題はクリアできる」

「フィールド、セバーグも動いていますが、そう簡単にいきますでしょうか。過去の事例を探しても、卒業までの3年で、妾腹生まれの、嫡男でもない男子が子爵にまで上り詰めるといった事例は見当たりません」

 

文官達も過去の特筆すべき昇進事例等を色々と調べているが、現時点のリオンのようなサクセスストーリーですら見つけることはできていない。

 

「では、ひとまずレッドグレイブとは別ルートで更なる昇進の根回しを進めつつ、最新のエアバイクを送っておいてくれ。うちで持っているレース場を使ってもらえれば、うちやクラリスとの接点も自然と増やせる。並行して、バルトファルト男爵の武力を使って功績にできそうな賊や紛争の案件のリサーチも頼む。英雄に仕立て上げれば色々と便宜を図りやすくなるからね」

「かしこまりました。ですが、悠長にしているとギルバート様がどこかからお相手を見つけてきてしまいませんか?」

「それなんだが、ギルバート君は”公爵家で”とか、”うちで”と言っていたかい?」

「いえ、たしかご自分で用意を進めているとのことでした」

 

文官の言葉を聞いて、バーナードは口元に手を当てて、今まで見てきたギルバートの行動やそこから推測される行動原理を考えはじめる。

 

「ということは、彼が学生の頃に結婚の面倒を見た辺境の貴族を使う可能性が高いね。関係しそうな家を調べておくように」

「レッドグレイブ家の派閥は調べなくてよろしいのですか?」

 

文官達としては、過去にギルバートの行動の詳細までは知らないが、大物貴族が手早く新たな勢力を取り込むときに、自派閥の関係者との婚姻を用いることは非常にオーソドックスな手口であることから、そちらのほうが気になっていた。

だが、バーナードの口から期待した回答は返ってこなかった。

 

「無視していいとは言わないが、優先度は下げてかまわない。彼の弱みは実家の派閥とのつながりの弱さだ」

「弱さ、ですか?」

「ギルバート君は、在学中は下級貴族の面倒を見ていることが多く、学園卒業後はすぐに私達と国境沿いの監査に明け暮れていたからね。お気に入りの男爵を託せるような派閥の仲間が多いとは考えにくい。派閥の管理は一朝一夕でできるようになるものじゃない。金と情と力を巧みに使い分けて少しずつ関係を構築しなければ些細なことで崩れてしまう」

「つまり、ギルバート様は公爵家としてバルトファルト男爵を取り込もうとしているわけではないと?」

「大まかな承諾は取っているだろうが、公爵家として動いているならとっくに自派閥から強引にでも女性が宛てがわれてるよ。それが現当主のヴィンスという男さ。並みいる競合相手を押しのけて娘を王太子の婚約者の座に就かせた手腕は伊達じゃない。ここで公爵自身が動かないのは、決闘騒動で弱体化する一方の派閥の再編で忙しいからだろう」

 

バーナードは、部下に自分の推測を聞かせながら、部下達にも聞かせられないもう一つの理由も心の中でつぶやく。

 

(それに彼は王妃様から大目玉を喰らった前科がある。実家の手元にある貴族を使うのには躊躇いがどうしても出るだろうしね)

 

「大臣、なんだか楽しそうな顔をしていませんか?」

「親馬鹿かもしれないが、娘には幸せになってほしいじゃないか」

「それだけには見えませんが・・・」

「バルトファルト男爵はほぼ単機、単船で空賊を圧倒したそうじゃないか。彼が手に入れば、我々宮廷貴族と領主貴族の関係も変わるかもしれないよ。ふふ、ギルバート君が夢中になるわけだ。あ、男爵の戦闘記録も調べておいてね」

「あの・・・宿題がどんどん増えてるんですけど・・・」

 

文官達が気まずそうな顔を浮かべながら、恐る恐る呟いた。

それを聞いてバーナードはしばし考えて、にこやかな微笑みを浮かべる。

 

「時間外勤務手当の予算、ぶん取ってくるからよろしくね」

「「「あんた鬼ですか!」」」

 

こうして、アトリー家の文官達の残業が、さらに増えることが決まったのであった。

 




気付いたらバーナード大臣がアムロみたいな台詞を呟きつつ、陵南の田岡監督みたいなことを言っていました・・・

大臣「レッドグレイブの不安要素その1、短気すぎる兄妹!」
ギルバート・アンジェ「!?」

大臣「レッドグレイブの不安要素その2、跡取りと派閥との希薄な関係!」
ギルバート「ギクっ!」

大臣「レッドグレイブの不安要素その3、素人貴族ギルバート!」
ギルバート(どうしてバレた!?)

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