乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です 作:りーおー参式
「ありがとうございました、レッドグレイブの大将!」
いつの間にか変なあだ名が付いてしまった。
まあいいけど、御大将とか呼ばれたら〇ャイニングフィンガーを放ってしまいそうだし、
若大将とか呼ばれたら、前世の金満球団の監督を思い出してしまう。
「いや僕が何かしたわけじゃないよ。君たちが恋に落ちただけさ」
落ち方はまるで滑落事故のようだったけどね。
「でも大将がいなかったら、俺はどうなっていたかわかりません。きっと彼女を幸せにしてみせます!」
「そのセリフは奥さんのパパさんに言うべきじゃないのかい?」
「そ、そうですよね。なら、公国との国境はしっかり守って見せます!それが将来的に王家を支えていく
大将への恩返しだと思いますんで!」
ついこの前までは、王国滅べマンだったのに、女一人できるだけで人は変わるものだな。
愛は世界を救う、だなんて言葉を聞いたときは頭お花畑かと思ったが、
愛はこの国を救うのかもしれない。
愛って何なんだろうね。
ともかく、これで将来の領主貴族の1人がしっかりと仕事をしてくれるようになったはずだ。
そうか、追い詰められて、誰にも相談できないから全て自分で何とかしなければならないと思い込んでいたが、
国境沿いの領主達が公国をはじめとした外国からちゃんと仕事をしてくれさえすればいいんだった。
領主がまともに仕事をしないと思わせてしまう王立ケモナー学園、恐るべし。
後日、王都にある実家に顔を出して、仕事中のとあるメイドを人通りの少ない裏庭に連れ出した。
「人気のないところに使用人を呼び出して手籠めにしようだなんて卑劣な真似をして、公爵家のご嫡男として恥ずかしくないのですか」
僕にその気がないことをわかりながら、公爵家のメイド、コーデリア・フォウ・イーストンが雇い主の息子に暴言を吐く。
「どうせ父がどこかから連れてくる貴族と結婚するのに、可愛げのないメイドに手を出すほど酔狂ではない」
「ええ、わかってますよ。若様が狙っているのは・・・」
「はい、この話はおしまい!」
「早く本題に入ってください。私は学生の若様と違って忙しいのです」
眼鏡をクイっと上げながら、1枚のリストを渡してくるコーデリアは、ジト目を僕に向けてきている。
リストにあるのは、屋敷の中の男爵家、子爵家出身の未婚メイドの名前である。
先日のアメフト系男爵とメイドその1の恋愛滑落事故の後、僕が調査を依頼していたのである。
「アンジェリカ様のためでなければこんなことしませんのに」
この子のハート、強すぎないか。普通、雇い主の息子の依頼なら、一応は忖度して引き受けてくれるもんじゃないのか。
父に内緒で、僕が屋敷の中で狙っているメイドの存在を把握しているこの女は、僕にほとんど忖度をしない。
渋い顔を浮かべるメイドが動いてくれたのは、彼女が崇拝している僕の妹アンジェリカのためである。
「君も学園に通っていたからわかるはずだ。辺境の下級貴族の婚活事情がハードすぎる。
そのせいで領主貴族の財政事情は悪化して、王国への忠誠心どころか憎悪が高まる一方だ。」
「一メイド風情が口を挟む問題ではありません」
「今は燻ぶっているだけの火種だが、王妃になったアンジェに火の粉が及ぶのは君の本意ではないだろう?」
「くっ…アンジェリカ様の名前を出すなんて卑劣な…」
辺境の領主貴族の王国ヘイトがあんなに強いとは思わなかったよ。
でも嫁さん1人を宛がってやれば、そのヘイトを緩和できるどころか、僕を通じて将来の王国への忠誠心にも
変えていけるなら、ただのボンボンにもやりようはある。
公爵家の嫡男なんていう大それた属性を持って始まった僕の第二の人生で、最初にやりとげたのは、
他人の婚活サポートになってしまった。
「リストにあるメイド達は、公爵様も政略結婚のコマと考えている可能性もある以上、公爵家としては動けませんよ」
「そうだね。だから今回のように、僕の知り合いが、運命の出会いをして野良恋愛の結果、結ばれたことにする。
もちろん、嫁ぎ先の家の監視をさせる代わりに、僕がこの家の後を継いだら領地運営のサポートはするさ」
一応、事前に、実家の許可さえ取れれば、メイド達が自分で結婚相手を見つけても罰はないことは確認してある。
後はコツコツとマッチングを進めていくだけだ。
ちなみに、偶然の出会いを装うのは、男子生徒側の実家が、レッドグレイブ公爵家以外の大貴族の寄子だったり
する場合があるためでもある。
てめぇ、うちの子分に勝手するな、と言われても困るからね。
「ちなみに、メイド達ですが、必ずしも一般的な男性好みの容姿や性格をしているとは限りませんよ」
「外見だけでパートナーを選ぶなんて愚かしいこと極まりないね」
学園を卒業するまでに結婚しなかった女子には、ぽっちゃり系だったり、内向的な性格で男子とあまり交流しなかったりする子がいるらしい。
だが、虐げられ続けた下級貴族の男子達にとっては、これらの要素は不利にならない。
それ程までに男子達は追い込まれ、未婚による不利益を避けようとしている。
恋愛が物足りなければ愛人を作るだろうけど、将来の公爵である僕が紹介した相手を蔑ろにはしないだろう。
げに恐るべきは、実家の威光。親の七光り万歳。今世の僕は本当にロクでもないボンボン息子だな。
安心してほしい。ボンボンお兄さんが君たちに屈強な野郎を紹介してあげるよ!だから一緒にこの国を守ろうね!
う~ん、字面だけ見ると、僕ってとっても愛国心に満ちているね。動機は保身以外の何物でもないのに。
「辺境領主たちの苦境を逆手にとって忠誠を捧げさせるなんて、やはり卑劣ですね」
「弱きを助けて強きを挫く、と言ってほしいな」
学園内で弱い立場の辺境領主貴族の男子を助けて、強い立場にあるケモナー令嬢達を挫くのが、
国内でも王族の次に強い立場の公爵家な僕、というのは滑稽だけどね。
「では、内々にメイド達の意向調査と日程調整を行います。若様のほうもよろしくお願いします」
「あぁ了解だ。君も仕事に戻ってくれ」
こうして、休みの日に、取り巻きたちの目を盗んでは、婚活弱者の男子生徒を連れて、街に繰り出す日々が始まった。
ある時は喫茶店や居酒屋で、またある時は評判のクレープ屋台の行列で、偶然を装った男女の出会いの場を設けるのである。
結果だけ言えば、予想の斜め上を行くほど上々であった。
1件1件を挙げればキリがないが、亜人奴隷や愛人の面倒を見ろとか、王都での華やかな生活のための
過大な仕送りを求められない、というだけで男子生徒は涙を流す勢いでメイド達を口説いていくのだから。
もちろん、メイドの数にも限りがあり、全ての男子生徒を救済することはできないから、国境近くや辺境の男子を優先的にサポートしたが、それなりの数のケアはできたと思う。
父に僕の動きを察知されにくくするために、正式に婚約等をオープンにする時期は色々と調整してもらったが、
この取組が上手く行き過ぎたのが良くなかった。
このときの僕は、まだ知らなかったのだ…この国の「不都合な真実」を。
ある日、父からの呼び出しを受けたのである。
最初は卒業してからどうするのか、とか政略結婚の相手が決まった、とか、そんなことを言われると思っていた。
ところが、呼び出された先である、王宮内の父の執務室に入った僕の目に入ってきたのは、予想だにしないメンツだった。
一人は肩掛けに肘をつき、足を組んで気だるそうにソファに腰掛ける男。だが、その頭頂部にはこの国の頂を意味する冠が乗っかっている。
もう一人は、プラチナブロンドに輝く髪に、飛び出すボイン、2児の母でありながら、王宮内で年齢不詳とも囁かれる美しい女。
そう。この国の頂点に立つ2人、王様と王妃様がセットで父の執務室にいるのである。
何を言えばいいのか、どうすればいいのかわからない、といった表情を浮かべて父が問うてきた。
「ギルバート、お前、一体何を企んでいる」
尋ねる父の目は僕を睨みつけている。
王様こと、ローランド・ラファ・ホルファート陛下は面倒くさそうな顔を浮かべながら、父の執務室内をキョロキョロと見渡している。
これから行われることに興味がないのだということがわかる。
だが、父以上に僕を目で射抜いているのが王妃様ことミレーヌ・ラファ・ホルファート様である。
王妃様の綺麗な顔からは、ネガティブな感情、嫌悪感が放たれている。僕が一体何をしたのだろうか。
さすがに、緊張感から冷汗が流れ始めてきた。部屋の空気も、氷魔法を使ったわけでもないのに冷え切っている。
端から見れば取り巻きを連れずに、街で遊び歩いているように見えただろうが、それだけだ。
父から生活態度を叱責されるというならまだ理解できるが、この国のトップ2人がこの場にいる理由は何だ。
知らぬ間にこの国の王族と僕は婚約でもしていたのか?
いや、妹が王太子と婚約した以上、重ねて僕が王族と婚約する理由はないだろう。
だとすれば、僕がこの場に呼び出された理由、しかも王妃様に剥き出しの嫌悪感を向けられる理由は何なのか。
ギルバート君は「野良恋愛のキューピット」の称号を手に入れました。
本編でも登場シーンの半分はリオン君らの色恋の話をしていましたので、そこをベースにキャラ付けを図っております。
次回、若い燕達を虜にしてきた真ヒロインによるボンボンの処刑タイムが始ま・・・るかもしれない。
一応、リオン君達の入学までは駆け足で進む予定です。