乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です 作:りーおー参式
誤字報告いただいておりました、ありがとうございました
サブタイトルは、「王国の魔女」とどっちにするか迷いました。
気晴らしのためにダンジョンに潜った僕だったが、運がいいのか悪いのか、何と妹の婚約解消の原因であり、僕がこの乙女ゲー世界に転生したことに気付いてから重ねてきた苦労をぶち壊した張本人である、マリエ・フォウ・ラーファンと出くわしてしまった。
そして、この国の将来を期待された貴公子5人をまるごと誑し込んだ魔女を消そうとしたのだが、とても令嬢とは思えぬ戦闘力を持っていて、本気の僕と同等か、下手したらそれ以上かもしれない。
しかも、マリエがふいに口にした「悪役令嬢」という台詞から、こいつも僕と同じような転生者だということがわかったことから、お互いの憎悪と嫌悪は置いておいて、いったん情報共有をすることになった。
といっても何から話そうか・・・差し支えなくて、それでいて、相手に、僕が真実を話していると理解させられる内容となると・・・
仰向けに倒れていた体の上半身を起こして、僕は静かに口を開く。
「じゃあ、まずは僕が元カノに刺されて死んだ話からしようか」
「いきなりとんでもなく重い話をぶっこんできたわね」
「ふっ、寝起きにカツカレーくらい重かったか?」
「・・・〇郎系ラーメンくらい重いわよ」
野菜爆盛りの、健康的なのか不健康なのかわからない麺類が懐かしいね。
「信頼関係がお互いマイナスなんだから、それなりの情報を開示しないと、つまらない探り合いだけで終わってしまいそうじゃないか」
「ま、まあそれはそうだけど・・・」
若干引き気味になりながら、僕は前世の死因を話し始める。
そろそろ結婚かなという元カノが、共働きをするという約束を破って専業主婦になりたいとか、自分の親と同居したいとか言い出したせいで大喧嘩になり、
僕もブチ切れて、別れ話になったところで、向こうが隠し持っていた刃物で腹を刺されてそのまま・・・という面白みのない話だけどね。
「アンタ”も”なかなかヘビーな死に方してたのね」
「“も”ってことは、そっちはどうなんだ?」
尋ねられたマリエも、静かに語り始めた。
聞かされたのは、なかなか壮絶なマリエの前世だった。
兄にあの乙女ゲーの攻略を押し付けて、自分は親から資格取得を理由に騙し取った金で海外旅行に行ったら、あの間に兄は死亡していて実家を追い出されてしまった。
その後は夜の接客業を始めて相当の実績を上げて、やがて妊娠したが、相手の男は責任を取らずに逃亡し、娘を出産したものの、お前では子供を育てられないと実家に娘を取られて、その後に付き合った彼氏のDVで死亡したのだという。
「気の毒な部分がないとは言わないが、因果応報というか、前世も今世も屑だな」
「うっさいわね!アンタはなんで男のくせに乙女ゲーなんてやってたのよ」
「妹が一人暮らしの僕の家のゲーム機でやってたのを見てただけだ。課金用の金を集るくらいには屑の素質はあったかもしれないね」
「たかだか数千円で、固定給のある男がケチ臭いわね」
さすが夜の蝶、男の金に集って吸い上げるプロフェッショナルの発言だね。
「でも、そのおかげで大まかなゲームの流れは知っていたのはプラスだったさ。最初は見知らぬ異世界と思ったが、あの学園に入学してすぐに妹の婚約が決まって、この世界があの乙女ゲー世界だと気付いたわけだ」
「公爵家って王族の親戚みたいな人でしょ。それなのに、ユリウスとか、アンジェリカって聞いて気付かないのって意識が低いんじゃない?」
「そもそも自分がゲームの世界に、だなんて思わないし、カタカナの名前だからあんまりピンとこなかったんだよ。それでもって学園に入ったら超が付くほどの女尊男卑社会で、国境、辺境出身の下級貴族の男子があまりにも虐げられていたんだ」
「別に王宮からしたら下っ端貴族がどうなろうと関係ないじゃないの」
「彼らのヘイトがたまれば、外国が攻めてきたときに素通りさせたり、他国のスパイとして動くようになる可能性がある。そうしたら、王妃になる予定だった妹も、その実家であるうちも危ないなと思って、まずは結婚相手を色々と世話してたのさ。お前の転生先はずいぶんと評判悪いが、転生先の生活はどうだったんだ?」
「・・・最悪よ。アンタみたいなボンボン暮らしとは違ってね」
げんなりとした表情を浮かべたマリエの口から、彼女の今世が語られる。
転生先はラーファン家の末娘で、使用人のようにこき使われただけでなく、必要な金を調達するために山で熊狩りをしたり、血のにじむような努力をして回復魔法を身に付け、あの学園に入学し、ゲームで身に付けた知識で攻略対象を誑かしたのだという。
僕にとっては迷惑極まりない結果であったが、知識や魔法があったとしても、実際の会話や学園生活に反映させてやり取りするのはコミュニケーション能力の問題が大きい。
夜の世界での実績があると聞いて、5人の男を同時に誑かしたというのも納得はできるが、なんとも業が深い女だよね。
「・・・事情はだいたいわかった。だが、その辺にしておけよ、バルトファルト男爵はレッドグレイブがもらうから手を出すなよ」
「はあ?いらないわよ、あんな地味モブ男」
「あんな化け物じみた強さの鎧を持ってるから、DLCとかの追加コンテンツかと思っていたが」
「三作目までにあんなやつは出てこなかったけど・・・私が死んだ後にリメイクが出た可能性もあるわね。でもアイツのツラを見てるとなんかむかつくのよね」
「あのゲーム、3作目まで出ていたのか!?それも気になるが・・・いや、まずは今をどうにかするのが先決だな。あ、じゃあ主人公様もこっちでもらうけど問題ないよな?」
「あんな頭お花畑な女がどうなろうと知ったこっちゃないわよ」
「魔法も使えるし、性格も悪くないし、可愛い子じゃないか」
主人公様であるオリヴィアさんを褒めたらマリエの表情が険しくなる。
何か、こいつの中の地雷を踏んでしまったのかもしれない。
「いかにも男が好きそうなスペックして、薄っぺらい綺麗ごとばっかり言うからムカつくのよ」
「スペックには同意だが、あのゲームは男性向けゲームメーカーが乙女ゲー市場に新規参入するために作ったやつだろ」
「そんな宣伝文句、あったかもしれないわね」
「違う分野への参入は会社にとってはリスクも大きい冒険だ。男性向けゲームを製作する会社の中で諸々の決定権を持ってるのは男ばっかりだろうから、社内で方針を決める際に通ったデザインが、男好みな外見のオリヴィアさんだったと考えれば不思議じゃないさ」
「なんかずいぶんとメタいこと言うじゃないの」
「前世も今世も、下っ端働きの組織人だからね」
「アンタの言ってることを要約すると、オリヴィアは、キモいおっさん好みの容姿っていいたいわけ?」
「キモいって言うな、男性差別だぞ。プレイヤー目線で市場調査を詰めていって決めるというやり方も否定はしないが、上手くいかなかったときに責任を取らされるのは決定権を持ってる会社のお偉いさんだ。ならば、そのお偉いさん達がハンコを押せるデザインがオリヴィアさんだったということだ・・・むしろ、デザインで言うなら、その外見で攻略対象5人を丸ごと誑かしたお前の中身はすごいと思うぞ」
「急に褒めたように言いながら、結局ディスるんじゃないの!」
攻略対象5人全員を知っているわけではないが、あの疑り深く性格のねじ曲がった屑なジルクをあっさり誑かした時点で、こいつの男を落とすスキルというか能力は相当なものだ。
「てっきり、呪いや洗脳魔法、もしくは禁じられた違法薬物かと思っていたら、単なるコミュニケーションで骨抜きにしたんだから誇っていいぞ。しかも、逆ハーレムルートって、本来は3年かけて行うのに、ほんの数ヶ月で達成したんだしな」
「そんなに褒めてくれるなら少し協力してよ。生活力のない5人を養うのって大変なんだから」
「自業自得すぎて草が生えるな。帰ってから食う飯が美味そうだ」
マリエからしたら、”助けて!釣った魚にやる餌代が高すぎるンゴ”っていう心境なんだろうか。
「ふざけないでよ!」
「ふざけてない、ざまぁみろ、NDKって煽ってるんだ。お前、うちに何をしたか忘れてないだろ」
「転生した者どうしじゃない」
「同じ転生者だって言っても、前世も今世も赤の他人じゃねえか。アンジェはたしかにゲームの中では悪役令嬢なのかもしれないが、その前に、今世の僕の家族だ。僕の苦労を台無しにした赤の他人な屑女と、可愛い身内じゃ比較にもならないね。助けてほしけりゃ妹に土下座して詫びてからだ。そしたら小銭くらい恵んでやるよ」
「ケチ!銭ゲバ!」
キーキーと叫びながら、マリエは手足をバタつかせている。怒りながら殴った地面には、その衝撃で大きめな穴ができていた。クソ、この脳筋系ビッチめ。
「土下座一つで、僕の何年もの苦労をぶち壊した屑の命を取らずに済ませてやると言ってるんだ、優しいだろ?」
「苦労って言っても、ボンボンがぬくぬくとした温室で、貴族ごっこしてただけじゃないのよ」
「さすがに山で熊狩りしてた脳筋と比べるのはフェアじゃないだろ。それに僕の行動は、性悪貴族達の中では奇行扱いされてるぞ。まあ、シスコンを拗らせたのが原因だと誤認されていたほうが都合がいい。他の人間に、ゲームのシナリオを踏まえての行動だったというわけにはいかないからね」
「シナリオっていうことは、公国との戦争はどうすんのよ」
「戦力は準備している。うちは無駄に地位が高いから、油断してると、負け戦の大将を任じられて、責任を押し付けられかねないからね」
「まるで責任を取りたくないから逃げてるみたいね」
「責任を取るべきなのに取らないのと、責任が生じないように立ち回ることは別だ。デキちゃってから逃げるのと、そうならないようにアレを付けることは違うだろ」
「・・・また嫌味!しかもレディに何てことを言うのよ!」
前世の出来事を擦られたのに気付いたマリエが顔を赤くしながら僕を睨んでくる。
「出産経験者が避妊云々くらいでカマトトぶってるんじゃない。ゲームのシナリオをぶち壊したハイパービッチめ」
「ビッチって言うな!女性差別よ!ゲームのシナリオを壊したのはそうかもしれないけど、アンタだってこの世界に十分すぎるくらい干渉してるじゃないの」
「僕は実家が落ち目にならないように動いているだけだ」
「障害の乗り越え方が、私は回復魔法とゲームの知識、アンタは腕っぷしと実家の権力だったって違いがあるだけよ」
地面を殴って軽々と大穴を開ける女に、腕っぷしとか言われるのは嫌味だろうか。
僕は心の中でツッコミを入れるが、マリエはそれに気付くわけもなく、僕への文句を続ける。
「空賊退治はともかく、何回も専属使用人の集団と殴り合いして片っ端から血祭りにするわ、性質の悪い女は社会的に抹殺するわで、顔は攻略対象みたいな貴公子のくせに、乙女ゲーの世界でやってることは、まるでヤンキー漫画かマフィア漫画よ」
「心外だな、僕は集英社派なんだが」
「考えてもみなさいよ、悪役令嬢の兄が卒業した学校に殴り込んできて、学園内で大暴れして何十人も血の池に沈めるって、ヤンキー漫画でしか聞いたことない展開よ!」
「たいていの場合は、売られた喧嘩を買うか、王国の将来の平和のためにやったことなのに」
「売られた喧嘩?それなら私もアンジェリカに怒鳴られたり、取り巻きの女子達に嫌がらせされたわよ。そんでもって、王子様を奪ってやったけどね」
マリエがサムズアップして鼻で笑いながら、僕を睨んでくる。
・・・あれ?言われてみると僕とコイツって、前世の知識を使って、シナリオに干渉しまくった同じ穴のムジナだったりするのか。
「ほら、反論できないじゃない!はい論破!!」
「君と僕が似ているのなら・・・今日、僕らの衝突は運命的な出会い・・・いや、決戦だったのかもしれないね」
「それの最後がグーパンと頭突きって、これまた、まるっきり男の子向けの漫画の展開ね。アンタ、いい加減、世界観を破壊し過ぎよ」
「お前だってそのチンチクリンな未発達フォルムで5股かけるなんて、危なっかしい18禁の世界観を作り出してるじゃねえか!」
人のことを、10年ごとに出てくる通りすがりの特撮ヒーローみたいに言うんじゃない。
だが、これ以上、お互いのこの世界への干渉をあげつらっても不毛だなと思えてきたのも事実だ。
妹へのケジメを付けさせれば、これ以上、コイツとぶつかって潰しても、得られるものも多くはないか。
「・・・色々と言いたいことはまだあるが、僕は色々と忙しい。ただ、お前の事情も理解はしたから、妹にケジメを付ければ始末はしないでおいてやる。せいぜい逆ハーレムを満喫していろ」
「いきなり剣で斬りかかってきた通り魔の発言とは思えないわね」
「優先順位の問題だ。今は敵対派閥とか公国とか、どうにかしないといけない連中が多すぎる。その代わり、今度、僕の周りに何かをしたなら覚悟しておけよ」
「へえ~女の子1人に苦戦したくせに、大きく出たわね」
「ああ、次があったら確実に消せるように準備しておいてやろう」
僕とマリエはお互い笑いながら、睨み合い、マリエは拳に魔力を集め、僕は左腕にファイヤランスを出現させて対峙する。
コイツの攻撃が拳主体なら、リーチの長い僕は不利ではないはずだ。少し休んで体力はわりと回復しているから、勝ち目がないことはないだろう。
状況が動いたのは、無言での睨み合いが始まって数十秒ほど経ってからであった。
「ご主人様、下がって!」
どこかのデュエルなコーポレーション社長の弟のような声がダンジョン内に響き、僕の足元に手榴弾が転がってきた。
チッ、さっき気絶させたショタエルフが目を覚ましたようだ。
回復した体力を使って急いで立ち上がり、この場から離れて爆風から逃げ回る。
「カイル!よくやったわ!」
マリエはその隙にショタエルフの手を引いてダンジョンの入り口のある方向へ向かって走っていく。
僕もそれを追おうとしたのだが、ショタエルフは、まるで巻きびしのように手榴弾をばらまきながら逃げるので、僕の視界はその爆発の炎と煙で塞がれてしまった。
そして、煙が晴れた頃には、マリエらの姿は消えており、僕は一人取り残された格好だ。
とりあえず、攻略対象5人が篭絡された理由と王国の魔女の正体はわかったものの、よりにもよって転生者、しかもあの乙女ゲー世界の今後の動きを知りうる者だということは、見過ごせない不安要素にほかならない。
・・・だが、今は考えてもどうしようもないか。今は数日後のオフリー家討伐作戦を優先しなければならない。
仕方ない、今日はもう屋敷に戻って休むとするか。
罵り合いがこんなに長くなるとは思わなかったw
いつも煽って罵倒する兄上様が、図星と痛いところを突かれる場面は新鮮ですねwww