乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です 作:りーおー参式
某魔女の最終話を見た反動で、思いっきり馬鹿な話を書きたかったんです・・・
ダンジョンでのマリエとの激闘を終えて、屋敷に戻ることができたのは、日が沈んで夜も更けてからであった。
右腕の怪我は布切れを巻いてなんとか誤魔化しながら、裏門から敷地に入り、使用人達が使う勝手口を使って屋敷の中に入っていく。
周囲の人気がないことを確認して、こっそりと自室のカギを開け、照明のスイッチを押して大きく息を吐いた。
無人だった部屋がゆっくりと明かりで照らされ始める中で、首元のボタンを外し、マリエとの戦いでダンジョンを転がり回ったために泥と砂と埃で汚れた上着を脱ぐ。
そして、音もなく静かに差し出された手に、上着を預けて礼を告げた。
「ああ、すまないね。ありがt・・・・うえぇぇぇ!?」
ワンテンポ遅れておかしいことに気付いた。無人だった部屋にどうして人がいるのかということだ。驚きのあまり変な声が出てしまったじゃないか。
「おかえりなさいませ、若様」
いつもの能面フェイスを浮かべて上着を受け取った我が家の性悪腹黒メガネメイドのコーデリアが抑揚のない口調で帰りを出迎えてきた。
扉は確かに施錠されていたはずなのに、どうしてこいつが僕の部屋の中にいる。
「コーデリア、どうやってこの部屋に入ったのかな?」
驚きによるドキドキで目元がピクピクと動く僕の問いに対して、コーデリアは眼鏡の位置を正した後、襟の中に隠れていた紐を引っ張り寄せて、その先にあるカギを僕に見せてくる。
「若様が部屋の中に誑かした使用人を連れ込んで、悪さをしないように公爵様から合鍵をお預かりしています」
「誑し込んだとは人聞きの悪い。大人がお互いに合意の上で、していることに口を挟むのは野暮だろう」
「そうですか。それならば、このカギを奪ってみてはいかがでしょう?」
そう言ってコーデリアは、無表情のまま、カギを再び胸元にしまい、そのまま堂々と、大して大きくない胸を張ってこちらを見てくる。
取れるものなら取って見ろ、ということか。
何だ、このシチュエーションは。
僕に顔を赤くさせて、”そ、そんなことできるかよ!”みたいな感じのドキドキプレイでもさせようというのか、この性悪女め。
顔面SSRと腹黒性悪メイドのラブコメに需要なんてないといつも(心の中で)言っているだろうが!
しかも、カギを奪おうとすれば、ほぼ確実にセクハラだ。そんな弱みをこいつに握られるわけにはいかないな。
「僕が女性に飢えてない、理性的な人間であることに感謝するんだね。侵入経路はわかったが、どうして君が僕の部屋にいるのかを聞かせてもらおうか」
「お帰りが遅かったので、裏口を見ておりましたら、まるでコソ泥のようにコソコソと屋敷に入っていらっしゃいましたので、驚か・・・少し刺激をお届けしようと、部屋の中で待機しておりました」
ということは、明かりも付けない部屋の中で、音もなく待機していたのか。しかも、驚かそうとか言いやがったぞ。まったく、毎回、咎めるほどではない些細な嫌がらせを繰り出してきやがって。
「部屋の外で待機しておくという選択肢はなかったのかい?」
「他の使用人に出迎えを見られて、この前のような誤解がさらに広がってもよろしいのであれば」
「だったら、部屋の明かりを付けて、堂々と正面で待っていればいいだろう」
「無人の部屋の明かりが点いていたというのは不自然です」
くそ、この女、いつもどおり、完璧に理論武装済みか。
「デスクのカギは別なのですから、私に見られて困るものは無いと思いますが」
「困りはしないが驚くだろう」
「気配察知能力の低さを認識できてよかったですね」
息を吸うように嫌味を言ってきやがる。
本当に雇い主の息子に対して失礼な女だ。そのくせ、仕事の遂行能力は高いし、色々な分野についての知識もあるし、アンジェに絶対的な忠誠を誓っていて、大っぴらに咎められる点がないから余計にタチが悪い。
「はあ、もういい。それで、お前のことだから、僕を不快にさせるためだけにここにいたのではないんだろう?」
「報告しておくべきと判断した事項があるのですが・・・まずはその腕の治療が先ですね。治療魔法が使える者を呼んでくるので少しお待ちください」
コーデリアが僕の右腕を見るや否や、素早く水を入れた桶と数枚のタオルを持ってきた。
「いや、今日は遅いし、医者も寝てるかもしれないから、明日でもいいよ」
「ダメです!ご自分の立場を理解してください。もしものことがあったら、レッドグレイブ家はどうするのですか」
コーデリアの表情は安定の能面フェイスだが、珍しく強い口調で咎めてくる。
そんなにムキにならなくてもいいのに。普段は嫌味や皮肉が多いのに、珍しいなと思っていたのだが、どういうわけか、それは看破されていたようだ。
「何ですか?感情的になるのが珍しいとかお思いですか?」
「い、いや。別にお前は感情に乏しくはないぞ。ドヤ顔するときと、アンジェの素晴らしさについて語るとき以外は、表情筋が職務放棄しているだけで、むしろ割と感情豊かだろ」
「・・・・・・・・・衣服の汚れに、この怪我・・・何があったのですか?」
どういうわけか僕のツッコミに顔を少し赤らめ、しばし沈黙した後、露骨に話題をそらしてきやがった。
だったら、僕のほうにも考えがある。正直に説明してもらえると思うなよ。
「転んだ」
「嫌がらせを受けた学園の生徒みたいな嘘をつかないでください」
嘘じゃない。そう、マリエとの激戦でダンジョンの床を転がり回ったんだから、広い意味では転んだと言える。
しかし、嘘をつかない誠実な僕を、この性悪腹黒眼鏡メイドは信じられないようで、じっとりとした眼差しを僕に向けてくる。
「では若様のお好きな取引とまいりましょう。何があったのか、詳細をお話になるか、既におやすみになった公爵様を起こしてくるので、そこでその怪我や深夜帰宅の理由をお話になるか。どちらを選びますか?」
こいつ、パパ上からの信用を盾にして、なんて卑怯な脅しをしてきやがる。本当に性格の悪い女だな。
しかし、真実を父上に知られるのは面倒だ。ダンジョンでの激闘だけでなく、ジルクを使ってお見合いの話をぶっ潰そうとしていることにまで話が及んでしまいかねない。
父は、意外と今回のお見合い話に前向きだったからな。
「・・・仕方ない。他言は無用だぞ」
僕は頭を抱えつつ、今日、何があったのかをコーデリアに洗いざらい話すことになってしまった。
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「つまり、若様はあの黄色汚物を仕留め損なったということですか?たかだか女1人を?大の男が?」
ダンジョンでの出来事を3文で要約したコーデリアの視線が僕の顔面を貫く。じっとりとした圧が・・・圧が強いんじゃ!
そして、自分の情けなさが改めて自覚させられて、言葉が心をグサグサと刺していく。
彼女の口調から察するに、込められた感情は侮蔑と悔しさと・・・怒りだろうか。悔しさはアンジェを傷付けたマリエを葬れなかったこと、怒りはそのマリエを葬りそこなった僕の情けなさに対してだろうね。
「・・・我ながら情けないとは思ってるよ。赤い通り魔、爆炎の顔玉潰しの二つ名は返上したほうがいいかもね」
頭を左右に振って、やれやれ、といったジェスチャーをしておどけて見せると、コーデリアは俯いて少し沈黙した後、わずかに目を充血させて僕へのクレームを口にしてきた。
「・・・あまり無茶はしないでください。アンジェリカ様の婚約に続いて、若様の身にも何かあったら・・・」
文句を言いながらも、汚れのふき取りや傷の応急措置は手際よく進むのだが、黙ったまま仕事を進められないのだろうか。仕事は僕へのクレームや文句、皮肉とセットなのか。
だが、そんな腹黒メイドは、今日はどういうわけか、顔は相変わらず少し俯いたままだ。いつもだったら性格の悪さが滲み出たドヤ顔を向けてくるのに。
僕の身に何かあったら・・・レッドグレイブは後継ぎがいなくなって、ただでさえ弱くなった派閥は、さらに荒れるだろうな。そうすると、仕えている騎士やメイド達も先行きが不安になってしまうか。
食いぶち、仕事がなくなるおそれというのは・・・心配になるよね。
「・・・家臣のみんなの雇用を不安にさせたのなら詫びるよ」
「若様!」
「じょ、冗談だって!・・・って痛い、痛い!」
怒りながら、応急措置中の腕を、力を入れて握らないで!血が出ちゃう!また血が出てきちゃうから!
雇用というのは間違いだった。そうだ、コーデリアの実家は公爵家の寄子なんだから、僕や公爵家に何かあったら、自分だけでなく、自分の実家、彼女の親や兄弟にも影響があるだろう。
貴族としては破天荒というか、中身がパンピーな僕の行動に対しては、常々、思うところがあるのだろう。
とりあえずは、父上に今日のことをチクられないように、コーデリアのご機嫌取りをしたほうがよさそうだ。
珍しく荒げた声を出した腹黒性悪眼鏡メイドを見て思い出されるのが、マリエに言われた、僕もこの世界に干渉し過ぎだという言葉だ。
なんといっても、僕がこの世界への干渉を始めた発端というか、その影響をモロに受けたのがこのメイドだからね。
アンジェのため、そして僕の将来の安寧のために、あの乙女ゲーの展開という名の運命に抗う第一歩として、当時の学園にいた辺境出身の男子生徒達に結婚相手を斡旋したのだが、その手助けをしたのがこのコーデリアだ。
男子生徒達に紹介するメイド達の情報収集、日程調整に始まり、嫁いで辺境の領主の妻となった元メイド達が報告してくる辺境や国境付近の情報の取りまとめまでやってくれている。
・・・もしかして、僕ってコーデリアに対してかなりブラック労働を強いているのかもしれない。
僕が乙女ゲーの世界の運命に逆らおうとしなければ、僕が転生者でなければ、彼女はただ粛々とアンジェに仕えているだけで、少なくとも今よりも平穏な人生を歩んでいただろう。
一応、男子生徒達の婚約が成立するたびに、ポケットマネーから休日勤務手当相当の額に色を付けた報酬を払ってはいたが、それでも、彼女の人生の数年間に小さからぬ影響を及ぼしたことは否定できまい。
ただ、やましさを出すと、変に勘繰られたり、ボロが出る危険もあるからな。逆に感謝を前面に出しつつ、ブラック企業働きを労う方向で話してみよう。
「コーデリア、君がこれまで色々と助けてくれたことを僕は忘れていないつもりだ。僕はそれをとてもありがたいと思っている」
しっかりと顔を見て、感謝の言葉を述べながら、コーデリアの手を両手でしっかりと握る。
イメージとしては、前世で街頭演説しながら、支持者に両手で握手している政治家だ。
「わ、若様、急に何を・・・」
コーデリアの口調が穏やかなものに戻ったな。よし、掴みはばっちりだ。
少し照れているような仕草をしている理由はわからないが、このまま一気に畳みかけよう。
「色々と好き勝手にしているせいで、みんなに心配をかけてしまっているが、僕はこの家を次の世代のためにもしっかりと立て直そうと動いているつもりだ。この気持ちは建国の聖女様に誓ってもいい」
「そ、そうですよね。私も少し感情を出し過ぎてしまいました、申し訳ございません」
「構わないさ、コーデリアもアンジェのため、公爵家のためを思って言ってくれていると理解している」
「ギルバート様・・・」
あれ?何で名前呼びになってるの?こいつは普段から若様呼びなのに、珍しいこともあるもんだ。しかも、顔がなんだか赤くなっているし。
まあ、今はそんなこと、どうでもいいか。ブラック企業働きをさせてしまったかもしれないことを労うために、僕も全力を出そう。
「そこで、だ。よく働いてくれているお前のために、僕のポケットマネーから臨時ボーナスを出そうと思うんだけど、白金貨1枚でどうだろう?」
「は?」
コーデリアの赤らんでいた顔が瞬時にいつもの能面フェイスへと戻った。
そして、傷口の汚れを拭き取るために濡らしたタオルをギチギチと絞り上げて、みるみるうちに水分を失ったタオルが僕の腕に押し当てられる。おいおい、これじゃあ汚れがちゃんと拭き取れないぞ。
「ま、待つんだコーデリア」
「何を待てというのですか?」
「そ、そんなに絞ったら、ほら、水分がすぐにタオルから出ちゃうじゃないか」
だが、コーデリアは僕の制止も聞かず、水分のほとんど抜けたタオルで僕の腕の傷口を力任せに拭いていく。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!わ、悪かった、僕が悪かったから!そんなに、待って、動かさないで」
「あら、若様が悪かったのですか?ではわたくしめに、何が悪かったのか教えてくださいませんか?」
痛みで変な声が出てしまった。一方のコーデリアは、タオルを動かしながら、まるで射殺すような視線を僕に向けている。というか、ホントに痛いから!
「そ、その・・・1枚じゃ足りない?痛い、痛い!」
どうやら正解ではなかったらしい。タオルを擦る力が強くなり、逃れるためにもがいているせいで、腰かけているソファがギシギシと音を立てている。
「・・・そうか、アンジェのためだよな!金のためじゃなくて、アンジェのためにやってくれてるんだったよな!?」
僕の答えを聞いて、タオルを動かす手が止まった。よし、どうやら正解だったようだ。
「・・・・・・わかりきったことでしたね」
コーデリアは大きくため息をつきながら、再び水を吸わせたタオルを持ち、今度はほどほどの水分を含ませて、腕の汚れを拭き取り始めるのだが、その時、いきなり部屋の扉が開くと、
前につんのめるような動きでアンジェが部屋に飛び込んできた。
あれ?部屋の入り口あたりで何かに躓いてしまったのだろうか。
「兄・・うえ・・何をしてい・・・るので?」
髪を下ろして、寝間着とカーディガンを着ているので、もう眠るところだったのだろうか。
ただ、どういうわけか、アンジェの顔が真っ赤だ。もしかして、熱でもあるのだろうか。それだったら修学旅行なんて行かずに休んでいた方がよくないか?
ただ、怪我をした僕と、その手当てをしているコーデリアを見て、次第に顔色は白くなっていき、表情も無へと変わっていく。
「ダンジョンで転んで怪我をしたから手当をしてもらってるんだが、今日は屋敷に戻ってきていたようだね」
「ええ、明日からの修学旅行の準備をしようと思いまして」
「そうか、コーデリア。後はもういいからアンジェの手伝いを頼むよ」
「かしこまりました。後ほど、治療魔法を使える者を向かわせますので、きちんと手当を受けてください」
「へーへー、わかってるよ。アンジェ、ちゃんとオリヴィアさんと仲直りするようにね」
「はい。オフリーの件、兄上もご武運を」
「そのせいで、アンジェの護衛にと考えてた飛行船も引っ張っていくことになってしまった。すまない」
「大丈夫ですよ、王国内で遠出するだけですし、リオンも同じグループですから」
「そうだったな。油断は禁物だけど、楽しんでくるようにね」
戦力としてはリオン君がいるから、パルトナーとアロガンツさえいれば、そんじょそこらの相手なら全く問題はないだろう。
問題は修学旅行という非日常的なシチュエーションで、リオン君とアンジェにフラグが立ったらどうしようという心配だ。
常識的に考えれば、そんなことはありえないと思うんだが、コーデリアが以前に誤認していたことが僕の心の中で引っ掛かる。
リオン君がアンジェを決闘騒動で助けた動きが、まるでお姫様を助ける騎士のようだった、的なやつだ。いや、もともとアンジェはお姫様みたいなものだけど!
そんな二人に、修学旅行とかいう浮かれたイベントで何か起こってしまわないだろうか。
この修学旅行で、主人公様ことオリヴィアさんがリオン君と仲直りしてもらわないと僕が困る。頼むよ!頑張ってオリヴィアさん!
前世のようなネットがあればきっと僕は打算系オリヴィア派だろう。
二人のカップリングを心の中で願っていると、アンジェと部屋を出ようとしたコーデリアが小走りで戻ってきて耳打ちしてくる。
「それと若様、報告しようとしていた件ですが、手短にお伝えします」
「そういえばそんな話があったな。どうした?」
「先日、色々な勘違いをしていたメイドが急に暇を願い出て実家に戻りました」
「なんとも迷惑極まりない子だったな、理由は?」
「不明です。しかし、その実家に怪しい動きがあると”元同僚”から連絡がありました」
たしかあの子の妹はアンジェの取り巻きをしていたな。少し警戒しておくべきか、いや、まだ確証がない以上は変に警戒を見せるのも都合が悪い。
「急いで調べてくれ。オフリーを潰したら僕も動く」
「かしこまりました。若様もお気を付けてください。荒事に向われるのは・・・やはり心配です」
「君の手を煩わせないように気を付けるよ」
はあ、マーモリアのお見合い問題が片付いたと思ったら、また新たな問題が出てきたよ。
好きでこの世界に干渉しているわけではないのに、この世界は僕を過労死させたいのだろうか。
まあ、とりあえず、今回は、出先で怪我をしたときは、外で治してもらってから屋敷に戻るべし、ということだね。
☆おまけ☆
アンジェリカは翌日に控えた修学旅行の準備のために、公爵家の屋敷に戻ってきていた。
そして、夕食を済ませて、旅行の準備を終えたので、今日は早めに休もうと思ったあたりで、ふと窓から外を眺めていた。
タイミングがいいのか、悪いのか。ちょうど窓の外では、兄がコソコソと闇夜に紛れて屋敷に入ろうとしているではないか。
普段の言動から、きっと兄はまた市中での女遊びから帰ってきたものだと判断し、公爵家が置かれた状況に照らして女遊びを控えるように伝えるべきだと考えたアンジェリカは、兄の部屋に向かうことにした。
しかし、兄の部屋の前にたどり着き、ドアノブに手をかけようとしたところで、中から話し声が聞こえてきた。
(まさか帰ってきて早々に、メイドを連れ込んだのか?今度の相手は誰なんだ・・・)
そのまま踏み込んでも良かったのだが、ふとした好奇心でアンジェリカは聞き耳を立てることにする。
「コーデリア、君がこれまで色々と助けてくれた・・・ありがたいと思っている」
「わ、若様・・・」
「・・・次の世代のために・・・・・建国の聖女様に誓ってもいい」
「そ、そうですよね。私も・・・」
「構わないさ・・・」
「ギルバート様・・・」
(コーデリアが口説かれているだと!?しかも次の世代って!?)
ドア越しであるため、単語だけが飛び飛びに聞こえてくるだけなのだが、つなぎ合わせると、まるで兄が公爵家内の宿敵であり、アンジェの側近ともいうべきコーデリアを口説いているように聞こえる。
(悪くはない、いや使用人に手を出すのは良くはないな。確かにくっついてくれればいいとは思ったが、ずいぶんと急ではないか!?もしかして、何かのきっかけで、兄上はコーデリアへの想いがあることに気付いたのか!?)
兄と自分が最も信頼するメイドがいい雰囲気になっていそうな会話を耳にして、アンジェリカは自分の顔が熱くなっていることに気付きながらも、二人がくっついた場合のことを考える。
爵位的なことを考えれば正室は難しくても、側室としてなら嫁ぐことは可能だろうし、コーデリアであれば領地にいても、王都にいても、公爵家のプラスになる仕事をしてくれることは間違いない。
無理やりくっつけても、白い結婚で終わってしまっては元も子もないとは思っていたが、聞こえてくるような雰囲気であれば、きちんと粘膜的な接触をするだろうから、その心配もないだろう。
アンジェリカは、理性とモラルを大規模に動員して、色々なシミュレーションを行う。
だが、そんなものを忖度しない物音が続けて中から聞こえてきて、追い打ちをかけてきた。
「ま、待つんだコーデリア」
「何を待てというのですか?」
「そ、そんなに絞(しぼ)ったら・・・すぐに・・・出ちゃうじゃないか・・・ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!わ、悪かった、僕が悪かったから!そんなに、待って、動かさないで」
「あら、若様が悪かったのですか?ではわたくしめに、何が悪かったのか教えてくださいませんか?」
「そ、その・・・足りない?痛い、痛い!」
(お前がどうして暴走してるんだ、コーデリアァァ!?しかも、そんなに激しい粘膜的な接触をするようなキャラだったのか!?)
アンジェリカは思わず心の中でツッコミを入れてしまう。
創作物の世界では、そのようなこともあるという知識はあったものの、実際に耳に入ってくるのは初めてとなる刺激の強すぎるやり取りを聞いて思わず口を手で覆ってしまう。
しかも、何かがギシギシと鳴る音まで聞こえてくると、つい好奇心に抗いきれずに、アンジェリカは耳を扉に押し当てた。
(まさか、コーデリアが攻めで、あの兄上が受けなのか!?リオン並みに人を煽って罵倒して、邪魔する者は力づくで排除する兄上が受けなのか!?)
ただ、その強さが、興奮のあまりつい強めになってしまったせいで、実はしっかりと閉められていなかった扉があっさりと開いてしまい、耳を押し当てた勢いでつい前のめりになってしまったアンジェリカはそのまま兄の部屋へと入ってしまう。
そして、顔を上げたアンジェリカの視界に入ってきたのは・・・単に傷の手当てをメイドにしてもらってるだけの兄の姿だった。
兄上様にラキスケイベントは起きませんw
というわけで、定期的にやってくる需要無視シリーズをお届けしめしたが、アンジェは音だけ聞いてるととんでもない勘違いをしちゃうよ、という教訓が得られましたw
思春期だからしょうがないよね、バレないように覗いたり、聞き耳立てるのも淑女のたしなみだよねw
そして、きっと、今回の出来事は、自分の中の想いに気付くという切っ掛けのフリにはなったはずですwww
次回から、色恋入り乱れた公国襲撃の裏でのオフリー討伐の話となります。