乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です   作:りーおー参式

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誤字指摘ありがとうございます。

アンジェが断罪、追放された後も幸せになっているだと・・・!
いい話じゃないかw
ん?
そうすると、兄上様のやってることって半分くらいは意味ナッシング・・・!?


第32話 カチコミの前にあれこれ

妹の婚約を台無しにしただけでなく、あの乙女ゲーの攻略対象5人全員を誑かした女であるマリエ・フォウ・ラーファンは、僕と同じ転生者であることがわかり、乙女ゲーの世界であることをぶち壊すような殴り合いを繰り広げてから数日後、僕はオフリー領の浮島に向かう公爵家の飛行船に乗っていた。

さらにその中にある、ゲストルームに入ると、ティーカップを片手に、お茶請けの菓子類を食べながら優雅に過ごす男が深々と椅子に腰かけている。

男は、目を閉じて紅茶の香りを楽しみながら、僕が来たことに気付くと、何も言わずにティーポットを手に取り、未使用のカップに新たに紅茶を注ぐ。

 

外側だけ見ると、整った顔立ちに優雅な仕草、まさしく貴公子というにふさわしいだろう、外見だけは。

男の名はジルク・フィア・マーモリア。マリエに誑かされたあの乙女ゲーの攻略対象の1人であり、この国の大臣の娘との婚約を解消しただけでなく、妹に喧嘩を売った結果として廃嫡された屑男である。

 

こいつの妹とのお見合い話をぶち壊すために、やむを得ず手を組むことになり、オフリー討伐に同行させて鎧働きをさせる羽目になったしまった。だが、こいつを義兄と呼ぶことを避けられて本当に良かったとも思うところだ。

 

「ずいぶんと余裕だな。機体の整備は終わったのかい?」

「抜かりなく済んでおります」

「僕の機体に爆弾とか仕掛けても、すぐにわかるからな」

「そんなことをしたら、この船や周囲の公爵家の艦隊から消し炭にされてしまいますよ」

「お前ならやっても不思議じゃないと思っているからな。僕に何かあったら、マーモリアの本家も分家もどうなるかわからんぞ」

 

なんといっても、決闘相手の家族を脅して爆弾を仕掛けさせる男だから、信用なんてゼロどころかマイナスだ。

しかも、能力そのものは優秀だから余計にタチが悪い。

さらに、マリエとの殴り合いをした直後だから、ジルクから差し出されたティーカップを見て、毒でも入っているのではないかと疑ってしまう。

 

「毒なんて入れませんよ!」

「自分の信用のなさを呪うがいい」

「相変わらず嫌なことを言う方ですね」

「お互い、今はそういう立場だろう」

「・・・感謝はしてるんですよ。アトリー家ともあまり接しなくて済むように、ゲストルームに押し込めているというのも理解してます」

 

ジルクが、バツが悪そうな表情を浮かべながら弁明してきた。

 

「そう思うなら態度で示してくれ。夜遊び仲間だった相手を殴るのは、楽しくも、虚しいものさ」

「でしたら、お詫びにもう一杯、お茶を振る舞いますよ。ご希望の茶葉はありますか」

「雑巾の煮汁とかが入ってなければ何でもいい」

「少しは雅やかな趣味を持たれてはいかがですか?」

 

僕の外側は、公爵家の嫡男だなんていう、超上級国民だが、中身は前世が文系の社畜木っ端サラリーマンであるので、どうにも紅茶やお茶会というものに興味がわかない。

むしろ、過剰に濃いインスタントコーヒーの味が恋しくなるくらいだ。

 

「女の子を口説くためには、他のことに金と時間を使う主義なんだ」

「お茶を口説く道具として扱わないでください。味の違いが分からないと思われますよ?」

「細かい味付けが気になって、偉そうにケチを付けなきゃ気が済まなくなることに比べれば、色々なものを気にせずにいられるほうが精神衛生にはいいと思うのでな」

「教養の問題では?」

「レッドグレイブの荒くれ者系若様の味覚は庶民派だった、というギャップがある路線のほうが領民や家臣からの好感度が上がりそうじゃないか」

「学園在学中はロクにお茶会も開かずに、辺境出身の男子達と王都で飲み歩いてただけのことはありますね。当時の女子生徒達からは相当不評だったらしいですよ。アンジェリカさんも、夜会等で色々と嫌味を言われていたそうですし」

「その女の家、今回の討伐が終わったら教えてくれ。アロガンツ・ブロスで襲撃する。ところで、教養がありそうなのに実家から廃嫡されたジルク君に質問だ」

 

僕が嫌味を交えつつも話題を変えて質問を告げると、それを受けたジルクは、目元をピクピクさせながら不快そうな顔をする。

 

「何でしょうか」

「監査から逃れられず、追い詰められて有罪確定状態のターゲットが、モラルや法を無視して王国に最も大きな損害を与える戦術というのはどんなものがあると思う?」

 

ジルクは数秒ほど考えて、手元のカップの紅茶を飲み干すと、大きく息を吐きながらゆっくりと話し始める。

 

「艦隊が集結したところで浮島を丸ごと爆破し、諸々の証拠と一緒に全てを灰に帰して、混乱のドサクサに乗じて逃亡、といったところですかね。そうすれば、監査は空振り、王宮のメンツは丸つぶれ、集結した戦力が失われて各派閥は大損害となります」

 

怖っ!淀みなくスラスラととんでもないことを言いやがった。浮島まるごと爆破って軍人も民間人も全てひっくるめて巻き添えじゃねえか!

 

「フランプトン派閥大勝利!薄汚い未来へレディゴーといったところだな」

「何ですか、その頭の悪そうな表現は」

「気にするな。それよりも、さすが、綺麗な爆弾魔だけあって見事な発想だな。その選択肢はなかったよ」

「爆弾魔って言うのやめてくれませんか!?」

「僕なんて、屑女どもからは、通り魔って言われてるらしいぞ」

「・・・一緒にしないでください。話を戻しますが、オフリーがそこまで盛大にやってまで、自分を切り捨てたフランプトン派閥に義理立てをする理由があるとは思えませんが、我々に甚大な被害をもたらす方法はいくつもある、ということです」

 

赤い通り魔と緑の爆弾魔のコンビか・・・前世の狸と狐な麺類が思い出されて、ちょっと面白そうだと思ったのに、ジルクとしては不服らしい。

とはいえ、さすが幼い頃から王太子を支えてきた知力系攻略対象だけあって、作戦参謀としての能力は非常に高い。屑な中身のくせに。

 

「今回に限っては、お前が敵にいなくてよかったよ」

「私はギルバートさんほど直接的な暴力へのハードルが低いとは思っていませんが?貴男と敵対したら命がいくつあっても足りる気がしません」

「見解の相違だな。僕は必要だと思ったときに仕方なくやってるだけなのに」

「ギルバートさんが陛下とも仲が悪かったら、レッドグレイブ家は公国の次くらいに王宮から危険視されてますよ」

 

不穏なことを言うんじゃない。

パパ上が野心を燃え滾らせないように、ほんのりとしたうつけ者っぽさを出しているのが無駄になったらどうするんだ。

ため息をつきながら、僕はジルクが入れてくれたお茶を飲もうとティーカップに手を伸ばして口に運ぶ。

・・・なんだ、この苦くて、満員電車でケバいOLが漂わせる香水のフレーバーみたいな匂いは。

 

「お前、よくこんなものを飲めるな」

「おやおや、やはり物事の良さが理解できるか否かと、生まれには関連性がないのですね」

 

少なくとも、お前とは、味覚も価値観も女の趣味も分かり合えねえよ!

 

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そのころ、オフリー領の領主の屋敷では、王都を出発した飛行船の艦隊が続々と合流し、自領に近付きつつあるとの報告が上がっていた。

艦隊には、アトリー家やレッドグレイブ家だけでなく、フランプトン派閥以外のグループが広く加わっているのだという。

それを聞いたオフリー伯爵は、脂汗を流しながら、部屋の入り口近くのソファに目を向け、そこでくつろぐガビノに向かって声を荒げた。

 

「ガビノ殿!もう奴らはすぐ近くまで来ている!本当に大丈夫なのか?」

「落ち着いてください。指示したところへの戦力の配置は済んだのですか?」

「言われた通り指示は出した、準備は間もなく終わる。半分以上は金で雇った傭兵や空賊どもだが、時間稼ぎくらいにはなるだろう」

「よろしい、さすが伯爵、仕事がお早い」

 

そう言いながら、ガビノは立ち上がり、部屋の中央にある大きなテーブルに領内の地図を広げると、戦力を配置した箇所に、戦力に見立てた空のコップを置いていき、領主屋敷の所在するポイントを指さした。

 

「王宮側は、現在最も勢いのあるフランプトン派閥に配慮して、あくまで監査の形を取っています。そうとなれば、こちらから仕掛けない限り、まずは向こうがこちらの懐に入ってくる形となります」

「懐に入れるだと!迎撃するのではないのか!?」

「伯爵領の規模の各種調査やヒアリングとなれば、相当のマンパワーが必要となりますので、向こうの本隊が懐に入ったところを、一気に仕留めて、指揮を混乱させた隙に、隠していた戦力を動かしてください。後は、その混乱に乗じて・・・」

 

ガビノは話を続けながら、その指を領内の港の逆方向へと走らせて、オフリー領でも知る者が少ない隠し港のあるポイントで指を止めた。

 

「ここから、隠してあった小型の船で領内を脱出。その後、こちらの部隊と合流してラーシェルまでお連れしましょう」

「上手くいくのだろうな?」

「成功率を上げたいのであれば、捨て石にするオフリー家の戦力を増やすことをおすすめします」

 

(こいつ、よくも堂々と・・・)

 

伯爵に同席していた、飛行船艦隊の指揮官が心の中で毒づいた。

伯爵、つまり自分達の主人が、部下達を囮にして海外逃亡を図ろうとしていることは明白であった。言うまでもなく、自分達を守ろうとするタイプではない。

 

(赤い通り魔の言うとおりだったな・・・いや、わかりきっていたことだが)

 

そうなると、自分はどうやって生き延びるか。

命を懸けて主人を逃がそうと思うことはできないので、自分が生き延びたとして、どこを損切りラインに設定するかを必死に考える。

 

「おいおい、その捨て石とやらに俺達も含まれているんじゃねえだろうな?」

 

指揮官の考えをよそに、別の男が口を挟んだ。

目つきは鋭く、ところどころが破けている服を身に纏い、腰のベルトには拳銃やナイフが吊るされている。顔や腕にはいくつもの傷があり、領主の執務室にいるような外見はしていない。

実戦経験も豊富なこの男は、先日、リオン達により討伐された空賊ウイングシャークの中で直接的な交戦を免れた残党部隊を率いており、オフリー家と自分達の繋がりがあったことを強請りのネタにして領内に潜り込んでいた。

 

「私の取引相手は伯爵個人です。仕掛けるタイミングくらいはお教えしますので、あとはご自分でどうにかしてくださいね」

「チッ!外国のスパイが偉そうにしやがって」

「事実の問題として、伯爵の生殺与奪を握っておりますので。残念でしたね」

 

当然のことながら、ラーシェル側に空賊達を受け入れる理由はなく、取り付く島は無かった。

リオンのパルトナーや公爵家の艦隊と接触せずに済み、残党狩りからも逃れてオフリー領に逃げ込むまでは運良くことを運べたものの、逃げ込んだ先が王国に討伐されそうになっており、端的に言えば詰みかけている状態だ。

 

一方のガビノは空賊の男の頭から爪先までを一瞥して、王国に損害を与える術に関する考えを巡らせていた。

神聖王国より預かっている、手元のロストアイテムは特殊な訓練を受けた者が使ってこそ最大限の効果を発揮するが、その”素材”は使い捨てとなる。

兵士の訓練には時間も資金もかかることを合わせて考えれば、現地調達した素材を使えた方がコストを抑えることができる。

 

(聖騎士の数は限られていますからねえ。頑丈そうな贄があるのであれば、有効に使うとしましょうか)

 

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各派閥から出された飛行船の艦隊のほとんどが集結を終えて、オフリー領の浮島の近くまで到達したところで、

主要な勢力の代表達が、今回の動きの中心となっているアトリー家の飛行船に集まっていた。

僕も公爵家の艦隊の幹部数人を連れて、アトリー家の飛行船のブリーフィングルームに足を踏み入れると、既に集まった他派閥の面々が用意された椅子に座って、色々と情報交換を行っていた。

そんな脇では、アトリー家の騎士達が作戦会議で使う資料をどんどんと運び込んできていて、騎士も文官も総動員で届いた資料を各派閥へ配付している。

監査の主力部隊も動員していることから、アトリー家はほぼ総動員のような状態なのかもしれない。

ジルクを留守番させてよかった。

そんな中で、僕が部屋に入ってきたのを発見した文官達数名がこちらに手を振りながら近付いてきた。

 

「ギルバート様~こっちですよ~」

 

言うまでもなく、王宮で国境周辺の監査の仕事をしていたときの同僚だったアトリー家の文官達である。

彼らのフレンドリーと言っても差し支えない態度を見て、僕の後ろにいた公爵家の騎士の表情が険しくなる。少し宥めておいた方がよさそうだな。

 

「少々気安いのではありませんか?」

「昔の同僚さ。僕は、彼らと同じ釜の飯を食って仕事をしていたんだし、王宮での物事の動きを学ぶことができたのも彼らのおかげだ」

「他の派閥の目もあります」

「釘は刺しておくからそんなに睨まないでやってくれ」

 

うちの騎士達の心境は、うちの若様に気安く手を振りやがって!というところなのだろう。

一言くらい注意しておこうと、僕もアトリー家の文官達の方向へ向かって歩いていく。だが、僕が口を開く前に、文官の1人が先に小声で囁きかけてきた。

 

「突然すみません、会議の前に大臣がお話したいそうです。隣の控え室にお越しいただけますか」

「・・・何があったんですか?」

「詳しくは大臣からお伝えします。お供の方々はご案内しておきますので、こちらに」

 

普段は比較的フランクに接してくるタイプなのに、ずいぶんと深刻そうな顔をしている。何か想定外なことが起きていることは想像に難くない。

やはり今回の討伐戦は一筋縄ではいかないようだ。

 

 

おまけ

気付けばいつの間やら話数が30話、合計文字数が20万字を超えてしまった(読者の皆様ありがとうございます!)ところで、兄上様があの乙女ゲー(アルトリーベ)等について知っていること、知らないことを整理しようと思います。

 

〇知っていること(主に本編中に出てきたもの)

・ざっくりとしたあらすじ(主人公が平民出身のリビアでゲームの後半には聖女認定される、攻略対象は5人、そのうち公国が攻めてくる、オフリー家は公国と繋がっている、アンジェが断罪されると公爵家は落ち目になっていく等)

・前世の妹におねだりされて買わされた、アルトリーベに出てくるいくつかの課金アイテム(黒っぽい鎧(≒魔装)、ルクシオン(本体))

・マリエは転生者

 

〇知らないこと

・マリエ以外の転生者

・ルクシオン(◎)

・聖女認定されるための条件となる(呪いの)アイテム3点セットの存在と所在

・王家の船の存在(アルトリーベ内で、具体的にどうやって公国を撃退するのかという手法)

・アロガンツがルクシオン製の機体であること

 

おまけその2

まだ1回しか出てませんが、主人公機を出すと決めた後は、アロガンツのパチモンを使おうと思い、アロガンツ(初期バックパック)とアロガンツ(シュヴェールト)の間をつなぐようなものにすることにしました。

その結果、アロガンツ・ブロスの武装等の設定は、ざっくり言うと、以下の感じです。興味ない人、すいません。

・(赤い)グレイブ→シュヴェールトに収納されている大剣(刺せば”インパクト”を使える武器の)試作品といいう位置付け。

・背部大型ウイング→魔改造後のシュヴェールトの試作品

・肩部ツインビームキャノン砲→中距離から遠距離を1機で幅広く対応できる武装としたが、シュヴェールトでは採用されなかった。ちなみに、不採用の理由としては、シュヴェールト合体後のオリジナルのアロガンツは、ルクシオンが基本的にほぼ全てをサポートするため、命中精度の高いホーミングレーザーと、威力を向上させた携行火器を状況に応じて使い分けたほうが効率的だと(ルクシオンが)判断されたため(という設定)。

 




大臣達との打合せを含めると、また8,000字超えとかになっちゃいそうなので、少々短めです・・・
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