乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です   作:りーおー参式

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なんやかんやで体調不良が2週間ほど続き遅くなりました・・・
PCRは受けなかったけどやっぱり56ちゃんだったのだろうか


第34話 家臣は主に似なくてもいいのに

バーナード大臣達との事前打ち合わせどおりの合同作戦会議を終えて、公爵家の戦艦に戻った僕は着替えを済ませて鎧の格納庫に来ていた。

プロトタイプアロガンツあらため、アロガンツ・ブロスのコックピットで最終チェックを済ませると、内部のスピーカーから明るい口調の人工音声が聞こえてくる。

 

「マスター!だいぶ疲れがたまってるみたいだよ、ちゃんと休んでる?食事の栄養バランスに気を付けてね!」

 

何らかのセンサーで僕の身体の状態を測定して健康の度合いを把握しているのだろう。

気遣ってくれるのはうれしいが、プライバシーという概念を導入してほしい。

そして、話す内容が妙にオカンじみてきているような気がする。

 

「体は元気さ、気疲れしているだけだよ」

「その原因、滅ぼす?」

「過激だね。でも滅ぼしたら今度は別のことでもっと疲れるからやめておくよ」

「わかった!マスターは割と面倒くさがり。アロガンツ・ブロス、学習した」

「ははは、酷いこと言うなよ、相棒。僕はこんなにも働き者だっていうのに。ところで、出撃準備はできているかい?」

 

本来は実家の権力と財力にあぐらをかいて、酒池肉林、贅沢三昧な暮らしをすることだってできるのに、自分が将来困らないという目的のためとはいえ、

実家や自分の戦力を増強したり、国に不満を持つ辺境の貴族達のガス抜きをしたり、妹の通う学校に顔を出して敵対派閥の使用人と血みどろの大乱闘をしたり、空賊を討伐したり、将来の聖女様の恋路を実らせるためにあっちこっちで裏工作をしているというのに。

よくよく思い返してみると本当になんで僕は前世並みにこんなに働いているんだろうかと少し悲しくなってくるね。いや、たぶんある程度働いてないと落ち着かない貧乏根性が魂に刻まれているのだろうね。

 

「うん!コンディションはオールグリーン!いつでも出られるよ!」

「よし、じゃあ因縁のオフリー家をぶん殴りに行こうか!アロガンツ・ブロス、出るぞ!」

 

今回も、公爵家の艦隊の指揮はベテランのキャプテンに任せて、僕は鎧働きに徹することになっている。

本来は、公爵家の跡取りという立場の僕が全体的な艦隊の指揮を執らなければならないのだろうが、アロガンツ・ブロスという強大な力を持つロストアイテムを手にした僕が前線で戦った方が、全体的な犠牲ははるかに少なくて済む。

というか、アロガンツ・ブロスの防御性能を考えると、鎧の中にいたほうが安全のような気すらしてくる。

 

散発的な戦闘もなく、僕達は制圧を担当することになっている港近くの軍事基地に到達する。

目視でも基地敷地内には、20隻以上の飛行船や100機以上の鎧の姿が見えるほか、解体中か鹵獲品と思われるボロボロの飛行船が数隻配置されている。

飛行船の中には、先日の空賊討伐の際に、リオン君が鹵獲した空賊を横取りしようとして、うちの艦隊と対峙していた船もある。

 

素早く部隊を展開していた公爵家の鎧部隊は、基地施設に対する突入を開始し、主だった抵抗もなかったというのもあって、敵基地の制圧はあっという間に終わってしまう。

一応、建前は監査であるし、オフリー家の側にも堂々と抵抗する大義名分はなかったのだろう。

騎士というか軍人達が事務仕事をするための建物からは、両手を上げて降伏の意を示した者達がぞろぞろと出てきている。その中には、先日の空賊退治のときに、僕と嫌味皮肉をぶつけあった指揮官の姿もあった。

知らない顔じゃないし、挨拶くらいしてやろう。

・・・決して、オフリー家に対して蓄積していたヘイトを、一方的にぶつけてやろうと思ったとか、そういうわけじゃないからね!

 

「奇遇ですねえ、こんなところでお会いできるとは思いませんでしたよ」

 

アロガンツ・ブロスのコックピットから体を乗り出して声をかけてきた僕の姿を見て、オフリー家の艦隊の指揮官は露骨に嫌そうな表情を浮かべる。

本来であれば、失礼を通り越して無礼すぎる態度だと言えるのだが、まぁオフリー家がもう逃げようがないくらいに追い詰められていることを考えれば、このくらいの開き直りくらいしても不思議じゃないか。

 

「大部隊で押しかけてきて、戦争でも仕掛けにいらっしゃいましたか?さすが公爵家。平民あがりに対するイジメに金をかけすぎじゃないですか?」

「金にモノを言わせているのは一体どっちだか。それに、空賊達と濃厚にお付き合いしているところにお邪魔するんです、警戒するのは当然でしょう」

「一軍人である私には分かりかねますな」

「仕えた相手がとても悪かったのだろうと心の底から同情くらいはして差し上げますよ」

「その同情を何かの代価にできないのであれば要らぬご配慮です」

 

同情するくらいなら換金できるものでも恵んでくれ、ってか?

なんか前世でそんな感じのオーバーオールを着たロリッ子主演で、全然中身が甘~い!とは言えなかったドラマがあったと聞いたことがある。

さすが金の力で下級貴族の家を乗っ取り、汚れ仕事とさらなる金で伯爵にまで上りつめたオフリー家の人間だ、主の金への執着心は、部下達にも染み渡っているらしい。

家臣は主に似てくるものなのかな。

 

「ところで、戦力はここにあるもので全てですかね?」

「この基地にあるものは、今、貴方がご覧になっているもので全てですよ。領地外に出ている戦力はいくらかあると思います」

「僕は監査部隊の非常勤顧問の肩書を持っています。嘘を言った場合、貴殿個人にも不利益となりますから、後々のこともしっかり考えて答えることをお勧めしますよ」

 

オフリー家の指揮官の目元がピクリと動いた。感情の動きを隠し切れなかったのだろうか。

思い返してみれば、この男は、自らの身を賭してでもオフリー家に忠誠を尽くそうというタイプではなかった。

リオン君が捕縛した空賊の身柄引き渡しを巡って僕と対峙した際にも、主であるオフリー伯爵の性格や想定される動きを踏まえて、自らが責任を押し付けられてトカゲの尻尾にされるのを巧みに回避しようとしていたのを思い出す。

 

「ここからは、僕の独り言です。今の立場を保障できなくても、衣食住に困らない程度に取り計らうことは、僕なら容易ですよ。色々な相手に手広く恩を売ってきたのでね」

 

これは前世の世界にもあった司法取引のようなものだ。

場合によっては顔や名前も変えてもらうが、この男なら、オフリー伯爵に捨て駒にされないようにするために、何らかの情報を隠し持っていても不思議じゃない。

僕個人としてはあまり好感の持てるタイプじゃないが、今回の作成の肝は、ただ勝利することではない。

味方の損耗を最小限にとどめて勝つ、というものだ。

スパ〇ボでいえば、勝利条件は敵の全滅だが、味方NPCが何機以上撃墜される、みたいなことが敗北条件に入っているようなシナリオだろうか。

誘いに乗っかってこい。僕はお前の性悪さを信じているぞ。

小悪党1人見逃して大損害を免れるなら、そのくらいの濁った水、飲んでやるさ。

 

「・・・表現を訂正します。当家の艦隊の指揮官として、この基地内で所管している戦力は今、そちらの部隊が制圧しているもので全てです」

 

面白い言い方だ。オフリー家の正規軍以外の戦力が領内に、いや、この基地にいるということか。

順当に考えれば、裏で繋がっていた空賊ウイングシャークの残党あたりだろう。

 

「なるほど。それならば貴方が管理できない戦力はどちらにいるのでしょうね」

「所管していないような戦力の所在と言われましても、お答えするのは難しいですね」

 

そう言いながら、目線を逸らした。その先にあるのは、解体中ということで基地施設の端っこに並んでいるボロボロの飛行船だ。

 

「あの飛行船は?」

「空賊から接収したのですが、使えないくらいボロボロだったので解体中です。崩れると危ないので、近付いて何かあっても責任は取れません」

 

解体中とはいえ、飛行船サイズの質量が崩れたら、さすがの鎧もタダでは済まないから捜索を後回しにしていたが、そこに戦力を隠していたということか。

しかも、通常であれば、飛行船の中には、その質量を浮かすための浮遊石も搭載されており、相応に価値があるものだから、普通であれば、解体中の飛行船を乱雑に攻撃するということは滅多にない。

 

「ブロス、念のため索敵を頼む」

 

アロガンツ・ブロスのコックピットに戻った僕は周囲の敵を探らせる。

以前の空賊討伐の際にも、アロガンツ・ブロスはいち早く敵の別動隊を察知していた。

それって、既存の鎧や飛行船の持つ索敵能力があることだよね、さすがロストアイテム。

 

「・・・索敵完了!結果をモニターに映すね!」

 

表示された画面に目を向けてげんなりとした気分になった。

それぞれの飛行船の中には、けっこうな数の鎧が潜んでいるようだ。

モニター上に映る飛行船の中に、鎧の存在を示すアイコンが大量に点在している。

 

前世のゲームやアニメの知識があればこそ、そんな表示もあっさりと受け入れられるが、このような機能は、この世界の普通の鎧には多分ない。

・・・やっぱりロストアイテムってチートすぎないか、というセルフツッコミを心の中で思わずしてしまうが、それを使って僕の将来的な安全を買えるなら、そのチートに乗る以外に選択肢はないな。

 

アロガンツ・ブロスを解体中の飛行船に向かわせて、閉じている鎧の発進用出入り口に近付く。

ちなみに、部下達や形ばかりの護衛は、正規のオフリー軍の制圧に当たらせている。

本来なら、彼らに隠し戦力を探らせるべきなのだろうが、アロガンツ・ブロスなら、敵の不意打ちをくらってもダメージはほとんどないので、反対を押し切って僕1人がここにいる。

部下達は将来にわたって貴重な戦力だ、一人でも多くの騎士達が、僕が実家を継いだときにも残っていてもらう必要があるしね。

 

そして、出入り口を外から開くためのスイッチにアロガンツ・ブロスの手をかけようとしたところで、飛行船の壁を突き破って数機の鎧が飛び出してきた。

炙り出された、ともいう。索敵どおり潜んでいたようだ。

あまりに僕が予想した通りの展開になってしまって、前世であった某通信教育教材のご都合主義展開マンガを思い出してしまったね。

たしか、進〇ゼミをやれば、勉強、部活、恋愛、みんなうまくいくよ!的な話だった。

 

さて気を取り直して、ここはひとつ、圧倒的な戦力差を見せつけて、相手の心を折ってしまうか。これがもっとも早くこの場の戦闘を終わらせる方法だろうからね。

 

飛び出してきた鎧は、機体各所に継ぎ接ぎがあったりして、正規軍のものとは思えない。空賊か、もしくは傭兵のものだろうか。

しっかり戦闘モードになっているようで、既に安全装置を外したと思われる火器の銃口を、アロガンツ・ブロスに向けている。

よし、ここは一通り敵の攻撃をくらっておいて、”やったか!?”と思わせたところに、爆炎の中から無傷で現れるという、”今、何かしたか?”ムーブをきめてから、一撃で相手を殴り倒すくらいしてやろう。

”やったか!?”は、やれてないフラグだ、とはよくいったものだ。

これをすれば決定的な戦力差をすぐに理解できるだろう。

 

そんなふうに思っていたところで、敵の鎧の頭部から首元にかけての部分が、丸ごと吹き飛んだ。いや、正確に言えば、後ろから放たれた弾丸によって抉り取られていた。

さらに、僕とアロガンツ・ブロスが踏み入ろうとした飛行船の中から出てくる鎧に加えて、他の船から出てきた機体も、順次、撃ち落されていく。

なんかこう・・・左右から飛び出てくる的を撃つクレー射撃を見ている気分だ。

 

高威力の銃火器による、精度の高い狙撃だ。高い技術、能力がなければできない芸当だ。それ故に、犯人の特定はすぐにできる。

 

コックピット内の通信機のスイッチに目を向けると、自動的に接続された。

相変わらずアロガンツ・ブロスのAIは優秀だ。思考、いや視線の動きを読んだのだろうか。いずれにしても仕事が早い。

 

「火力が強すぎないか」

「ご無事で何よりです」

「あんな連中の攻撃なんて避けるまでもないからな」

「でしょうね。ギルバートさんのことですから、相手に圧倒的な力の差を見せつけて心を折ろうとしたのでしょう?」

「かつて心を折られた張本人が言うと説得力が違うね」

「まったくいい性格をしていますね。さすがバルトファルトの黒幕」

 

そういえば、決闘騒動でのリオン君の背後には僕がいた、という誤解が貴族社会の中ではある程度広がっていたな。僕に都合がいいから放置していたのを忘れていた。

まあ、実際問題として、現時点でリオン君の武力以外のケツ持ちをしているのは公爵家だから、あながち大きな間違いではないんだけど。

 

飛び出してきた鎧を次々と撃ち落したのは、言うまでもなく、この討伐作戦にくっついてきたジルクだ。

なるほど、さすが攻略対象の1人。やはり素の能力は高いな。

そして、かつてリオン君と決闘した際には、リオン君の姉を脅してアロガンツに爆弾を仕掛けさせたものの、

爆発によるダメージは無しに等しく、逆に力の差を見せつけられた、というレベルの高い屑っぷりを見せつけた男でもある。

こうして話している間にも、解体中の別の船からも潜伏していた鎧が飛び出してくるが、次々と狙撃されている。

 

まさか、こいつのおかげで、我々には鷹の目が付いているムーブができるとはな。

いや、むしろこいつなら、いつ僕のことを背中から撃っても不思議じゃない。アロガンツの性能を、その身をもって知っているなら、下手な真似はしないだろうけどね。

 

とはいえ、ジルクにこのままいい格好をさせ続けるのは気分が良くない。僕も戦闘に参加しないとね。

 

「アロガンツ・ブロス、残りの敵を表示してくれ」

 

・・・あれ?いつもの陽気な人工音声が聞こえてこない。

その代わりなのだろうか、モニターに短い文字列が表示された。敵機の反応、もうすぐゼロ。

え?もうそんなにジルクが撃ち落したのか!?

っていうか、もうすぐゼロって何だ?残ってるなら駆除しないと。

そう思って周囲を見回すと、うちの鎧部隊が大挙して解体中の飛行船に向かって攻撃を開始している。

制圧した正規軍の監視に必要な最低限の戦力以外が、こっちに参加しているようだ。

さらに、捜索がまだだった格納庫や鎧などを隠せそうな建造物をすごいスピードでガサ入れし始めた。

どうやら、ジルクに負けてられないと、奮起したようだ。相変わらず公爵家の騎士達は血の気が多いな。一体、誰に似たのだろうか。

 

「家臣は主に似るものだと言いますよ」

「おいジルク、どうやって僕の思考を読んだ。それに、公爵家の主は僕じゃなくて父上だ」

「ギルバートさんといい、アンジェリカさんといい、随分と血の気が多いと思いますよ」

「アンジェは少し怒りっぽい子かもしれないが、僕はマイペースな人間だろう」

「マイペースな人間は専属使用人十数名と血みどろの乱闘騒ぎを起こしたりしませんよ」

「そういうペースが僕のペースなんだよ、きっと」

「それを世間一般では血の気が多いと言うんじゃないんですか。まぁ、どちらでもかまいませんが、今回の討伐作戦でギルバートさんを最も手助けしたのは私だということを忘れないでくださいね」

 

そうだった。

こいつは、今回、決闘騒動でアンジェと敵対したことを発端とする、マーモリア家としての落とし前をレッドグレイブ家に対して付けるために参加しているのだったな。

その通信を聞いた公爵家の鎧達がいっせいにジルクの鎧のほうを向いた。

ちょっと待って!こいつが腹立たしい屑なのは間違いないけど、少なくてもこの場では敵じゃないから!

 

「うちの騎士を煽るんじゃない!」

 

アロガンツ・ブロスの拳が、ジルクの鎧の頭部を軽く小突く。

 

「い、痛いじゃないですか。こんなにも働いて結果も出しているのに」

「戦果は十分だが、火力が強すぎるだろ!捕獲、制圧用の武器も持ってこいって言ったよな!?」

「威力の高い武器を持ってくるなとは言わなかったじゃないですか」

「だからと言って、頭部と胸部を丸ごと抉り取るようなライフルを持ってくるか!?」

「他の武器も持ってきてますよ!それより、ほら、オフリー家の指揮官からもっと情報を聞き出さなくていいんですか!?」

 

・・・くそ、それはその通りだな。

それにしても、この戦闘では、ジルクがほとんど1人でいいところを持って行ってしまった。

遊びで戦争をしているつもりはないが、対外的には何か戦果を上げないと、他の派閥から舐められかねないんだよな・・・まあ、本来、僕は鎧働きで戦果を考えるなよと言われかねないんだけど。

 

愚痴っても仕方ない、またあの性格の悪い指揮官から情報を聞き出すとするか。

隠してる戦力があるのは、ここだけではないだろうからね。やはり、破れかぶれの神風スピリットでオフリーというか、フランプトン派閥以外の勢力に打撃を与えようとしているのだろうか。

今後のフランプトン派閥との対峙を考えると、他の派閥で構成された別動隊が大きく被害を受けるのも避けたい。

オフリー領の浮島での戦いはどうやらまだ続くらしい。

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