乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です   作:りーおー参式

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お久しぶりです、春ですね。異動の春、人事の春ですね。

・・・大して美味しくもない、望んでもない人事に憤るリオンきゅんの気持ち、痛いほどわかりますw



第35話 突入、オフリー屋敷!

「おい、どうするんだよ!王国の奴ら、大挙して押し寄せてきてるのに、さっさと逃げないのかよ!」

「私に言われても困りますね。前にも言いましたが、私の顧客は貴男ではありませんので」

 

体格のいい大男、オフリー領の浮島に逃げ込んできている空賊ウイングシャーク残党の幹部が、隠し部屋の中をうろつきながらぼやく。

ウイングシャークの本隊がリオンやギルバートにより討伐されてしまい、さらに、王国による残党狩りから逃れてオフリー領の浮島にまで逃れてきたのであるが、

逃げ込んだ先にも、王国のオフリー家討伐部隊が監査名目で乗り込んできており、男にとっては災難が続く状態となっている。

現在は、状況を打破しようと、会話の相手である商人風の男とオフリー伯爵の企てに便乗しようとしているのだが、当然ながら、その男も易々とタダ乗りを許してはくれないでいた。

 

「そんなこと言ってる場合じゃねえだろ!伯爵だって、さっき乗り込んできた団体さん相手に付きっ切りで、助けるか、ここから逃げるかしねえとそのうち見つかっちまうぞ」

 

ウイングシャーク残党幹部の大男は部屋の小窓からこっそり外の様子を覗き見る。

伯爵の屋敷は、城と呼んでもいいくらいの大きさで、隠し部屋のある最上階からは領内の様子が広く見渡すことができた。

既に屋敷は王国の鎧部隊に取り囲まれているようで、連絡係と思しき部隊も行き来し始めている。

そして、他の鎧よりも一回り大きいサイズで、灰色と黒色のカラーリングの鎧が伯爵の屋敷に向かって来るのが、大男の目に入ってきた。

 

「あ、あれは!」

「ほう、アレが噂のロストアイテムですか。若干の威圧感はありますが・・・」

 

商人風の男、その正体はラーシェル神聖王国のエージェントであるガビノが、大男の後ろに立ち、自らの下あごを撫でつつ、外の様子を見て呟いた。

 

「部下達の話だと、こっちの攻撃は当たっても全然効かないらしい。しかも、もとんでもねえパワーだって話だ」

「報告によると、ロストアイテムの鎧は2機いるそうですが?」

「”箱持ち”と”羽型”だな。俺達の本体を壊滅させたのは箱持ち、別の部隊を潰したのが羽型だ」

「となると、今、こっちに向かって来るのは羽型・・・我が国にまで悪名が轟く公爵家の赤い通り魔ですか、情報通りのようですね」

「オフリーのお嬢さんが公爵家なんかにケンカ売らなきゃこんなことにはならなかったのに・・・クソが」

 

外を見ながら大男は悪態をつく。そして、それを見ながらガビノは考えを巡らせる。

 

(調整は経てなくとも、肉体的な強度や実戦を潜り抜けての精神力はそれなり・・・聖騎士は貴重ですし、こいつにも役に立ってもらうとしましょうか)

 

懐から小瓶を取り出すと、ガビノは、後ろから大男の足を払って、強制的にうつ伏せにさせ、背中から馬乗りになって抑え込む。

 

「てめ!何しやが・・・」

 

大男の抗議は、口にかまされた厚手の皮手袋で中断させられてしまう。

他方のガビノは、素早く小瓶から金属の破片のような物質を取り出すと、ニヤリとした笑みを浮かべながら、その破片を大男の首元に突き刺した。

間もなく大男は首元を押さえながら苦しみ出し、破片を取り出そうとしても、むしろその破片は身体の中へ向かって少しずつめり込み始めていた。

 

「貴方に埋め込んだのは魔装の破片という我が国の奥の手です。喜んでください、これであなたもロストアイテムの力を使えるんですよ?せいぜいこちらの役に立ってくださいね」

 

大男の体が少しずつ黒色に変色していき、元から大きかった身体はさらに巨大化を始める。手足は長く伸びつつも、その先端は鋭利な形状へと変わっていく。

他方、大男が苦しみもがく姿に目を向けずに、慣れた足取りで素早くガビノはその場を去る。行先は、これから起こるであろう混乱に乗じて領内から脱出するために、オフリー伯爵から聞き出しておいた、外に通じる隠し通路である。

 

ガビノが所属するラーシェル神聖王国には、かつて、友好国である帝国から送られた特別な鎧がある。

その破片を人間の体に埋め込むことで、通常の鎧では全く歯が立たないほどの戦闘力を持つ機動兵器に変貌させることができるのだが、特殊な訓練と調整を施した聖騎士以外ではフルスペックは発揮できない。しかも聖騎士の数は限られており、気軽に使い捨てできるほどの数はいない。

他方、そこら辺にいる一般人に埋め込んでも、せいぜい少し強いモンスター程度にしかならない。

とはいえ、今回、破片を埋め込んだ大男は聖騎士ほどではないものの、スペックは高く、それなりには強い機動兵器になってくれるだろうと考えたのだった。

 

(赤い通り魔には、国境沿いの工作を難しくしてくれた借りを返してやるとしましょうか)

 

将来的に自分や妹が苦労しないように、という下心に基づいて、学生時代には国境沿いの下級貴族の結婚相手の世話をしたり、役人働きを始めてからは領主の財政事情を悪化させる悪妻を駆除してきたギルバートに対して、ガビノは苦々しさを超えた憎しみに近い感情を持っていた。

王国内の貴族社会では白い目で見られてきたギルバートの行動は、周辺国家の工作員にとっては、金、女という側面から付け入る隙を小さくする行為に他ならない。

 

後ろ盾の大きくない人間による行動であれば、搦め手を駆使して潰すことも難しくはない。

だが、都合の悪いことに、相手は当時の王太子の婚約者の実家の跡取り、しかも王家の分家とも言われる公爵家では手を出そうにも、時間や手間がかかりすぎてしまい、事実上、手を出せないでいた。

その憎き相手がこの場に来てくれるのであるから、魔装の破片を使ってでも始末しておくべきだというガビノの判断であった。

 

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殴り込みをかけたオフリー伯爵領の軍事施設で、解体中の飛行船に潜伏していた部隊を殲滅し終えた僕はアロガンツ・ブロスを駆って、領主の館に急いでいた。

厳密に言えば、潜伏していた部隊を葬ったのは、公爵家の鎧部隊や、今現在、後ろから付いてきているジルクではあるのだが。

 

「バルトファルトと戦った時にも思いましたが、そんなに大型で重そうなのに、どうしてそんなに素早く動けるのですか?他の鎧が付いて来れていませんよ」

「未知の技術が使われてるロストアイテムだからだろ。それに、お前の鎧だってなんとか付いて来れてるじゃないか」

 

ジルクが乗る鎧は、リオン君との決闘の際にも使われていた機体である。さすが、跡継ぎ息子のために開発・製造された鎧の性能は、他の量産機とはスペックが違うようだ。

 

「ロストアイテム=高性能ではありませんよ。だからこそ、私達は油断して敗れたのですが」

「あの馬鹿王子戦以外も見てみたかったよ、僕が決闘会場に付いた頃には、4人とも負けた後だったからな」

「いつも言ってますが不敬ですよ」

「そんなくだらないことを議論してる場合じゃないだろ」

 

僕が急いでいるのには理由がある。

オフリー家の艦隊の指揮官は、戦力差が絶望的なことを理解すると、観念したようで知っている情報を一気に暴露し始めた。

どうやら、フランプトン侯爵に切り捨てられ、公国からも見捨てられたところに、ラーシェル神聖王国のスパイが入り込んで、オフリー伯爵と悪だくみをしているらしい。

 

指揮官も詳しくは知らないようだが、そのスパイが持ち込んだ秘策があるようで、部隊を領内の各所に隠していたのも、その悪だくみの一環とのことだ。

はっきり言って絶望的な状況であるこのタイミングで一策講じるほどであれば、よほどの策なのだろう。

不測の損害は、先々のパワーバランスの変化、しかも悪い方向への変化を加速させかねない以上、急いでオフリーの身柄を押さえて、バーナード大臣の安全を確保すべきだ。

 

「ラーシェルは、ギルバートさんも狙っているかもしれない、と言っていたようですが、積極的に渦中に飛び込んでいくタイプでしたか?」

「必要以上に手を貸すつもりはないが、フランプトン侯爵を少しでも抑えるためには、アトリー派閥の力が削がれることは避けたいのさ」

 

悔しいが、パパ上率いる、レッドグレイブ家の派閥は決闘騒動以降、凋落が著しい。今は勢力を立て直している真っ最中で、フランプトン侯爵の派閥が力を付けていくのを防げていない。

 

「罠と分かっても飛び込んでいくのは、よほど自信がある強者か、危険がわからぬ愚者か・・・どちらなのでしょうかね」

「冷静に先のことを憂う謙虚な好青年と言ってくれ。でも、そんなところに腹黒いお前がわざわざ付いてくるのはどういった理由なんだ?向こうには大臣その他、アトリーの連中が勢ぞろいだぞ」

「彼らを助けるところに立ち会っていれば、レッドグレイブにも、アトリーにも恩が売れます。ラーシェルの企みでアトリーが亡き者となっていれば、私を怨む人間が減ったことを直接確認できますので、精神的に安心できます」

「・・・屑っぷりが安定しすぎていて、逆に安心するから不思議だな。とりあえず、お前のツラは見つかると面倒だから仮面をしておけ」

「そんなもの用意していませんよ」

「僕が準備しておいたから大丈夫だ」

 

露店で買った仮面なのだが、あるフィクションに登場する敵役らしい。

生きた人間をパーツにして作った悪趣味な壺を芸術品だと言い張るおどろおどろしい鬼とのことだ。

何故かはわからないが、よく分からないアンティークな茶器を買ったりしているジルクにはピッタリではないだろうか。

調べてみると、どれもこれもガラクタばかりだった、という噂もあるが、常人には理解できないものに高い価値があると思う思考は似たようなものがあるかもしれない。

 

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さて、ジルクとの他愛ないやり取りをしていたところだったが、ようやくオフリー伯爵家の領主の屋敷に到着する。

悪いことをしてがっぽり儲けていたせいなのか、屋敷というよりは、城に近い大きさの建物だった。僕の実家の屋敷の倍以上大きいかもしれない。

王城ほどではないが、小さめなら鎧だって中で動かせるかもしれないね。

 

屋敷の脇でアロガンツ・ブロスから降りて、中へと進んでいく。

途中、随所に配置されている騎士達がギョッとした目で僕の後ろから付いてくるジルクの仮面を見ている。

そんな反応を楽しみながらも、豪華な装飾が随所施され、一定距離ごとに美術品が飾られた廊下を速足で奥まで進んでいくが、それにしても中が広い。

前世の街中にあった動く歩道とか付けておいてくれよと言いたくなってしまう。

 

「噂には聞いていたが、本当に金、金、金な家のようだ」

「オフリー家は、金で爵位を買った成り上がりと言われて、社交の世界から爪弾きにされていますからね」

「あんなもんに付き合わなくていいなら羨ましいが?」

「真っ当な貴族は参加するのが当然です。ギルバートさんみたいに色々理由を付けてほぼ全て不参加を貫くのが放置されているのは、公爵家に文句を言える人が少ないからです」

「ジルク、うちの爺やみたいなことを言うんじゃない。それに何回かは顔を出したことはあるんだぞ」

「それは初耳ですね。思いもよらないまさかの答えが返ってきて驚きです」

 

足を止めて振り向くと、ジルクが前のめりになって僕の方を向いている。

仮面を被ってはいるが、この話に興味津々なのが見て取れる。

数秒考えてから、再び前を向いて歩き出しながら、答えてやることにした。

 

「そんな面白い話じゃないぞ」

「寄ってくる御令嬢方にどう対応したのですか?」

「亜人連れの命知らずな女には臭いから寄らないで、と追い払ってた」

「そ、それは想像通りの展開ですね」

「ちなみに、そうでない令嬢はほとんど寄ってこなかった。辺境の悪妻を駆除して回ってた頃だったから、関係者が巻き込まれたか、後ろめたいところがあったのかもしれないな」

「まあ、たまたま、そのような質の悪い令嬢ばかりが集まってただけかもしれませんよ」

「その結果、誰も話しかけてこなくて、退屈だったから、令嬢から相手にされない野郎連中で集まって、隠語を用いた下ネタ大会を開催して大盛り上がりしたら、後日、主催者から涙目の苦情をもらったよ」

「他の派閥の大物の関係者と接点を持つとか、上品に交流すればいいだけですよね!?」

「婚約クラッシャーの爆弾魔のくせに、つまらない正論を言うんじゃない。それに、そのおかげで辺境の領主達や女性に苦労している貴族からの好感度が爆上がりしたんだぞ・・・って言ってる間に、どうやら、ようやく領主の部屋に付いたらしい」

 

僕が指さした先に、ひと際豪華な造りの扉があり、その脇には警備の騎士達が何人も配置されている。

彼らの間を抜けて、堂々と正面から中に入っていくと、巨大な部屋の入り口から向かって左側の奥に、バーナード大臣を始めとした王国の監査部隊の幹部達が座り、手前の机には帳簿などの大量の書類が並んでいる。

一方、入り口から入って右側の奥には、オフリー伯爵と思しき中高年の男性、僕より少し年上くらいに見える男性、そして、見覚えのある性格の悪さが顔に現れている女がソファに座っている。

こいつら3人がオフリー親子なのだろう。3人の周りには、監視兼護衛の騎士達が10人近く配置されていて、オフリー親子はしきりに辺りを見回しながら、居心地の悪そうな表情を浮かべている。

 

お忍びで学園祭を訪れた僕と、血みどろの大乱闘を繰り広げた亜人連中を囲っていたオフリー家の令嬢、たしか名前はステファニーとかいう名前だったが、彼女は僕の姿を確認すると、恨みがましい目線を躊躇なく僕に向けてきた。

せっかくなので、大臣の下に歩きながらも、全開のボンボンスマイルを浮かべて手を振って煽ってやるとしよう。

 

そして、僕が大臣の下に到着すると、こちらに集まってきた大臣とその部下達に小声で情報を伝える。

 

「大臣、急いで旗艦に戻ってください」

「どういうことだい?」

「領内に各所に不意打をするための部隊が配置されています。また、オフリーはラーシェルと何やら画策しているようです。連中の指揮官がゲロりました」

「しかし、領内はほとんど制圧済だと聞いているが?いや、ここは彼らの縄張りか・・・それにラーシェル・・・どうしてこのタイミングで・・・」

 

大臣はブツブツと呟きながら考え込んでいる。

今回の作戦の総大将が、明確な理由もなく前線から退くことの影響を考えているのだろう。

 

「この先、王宮内の派閥抗争の展開を考えると、バーナード大臣に万が一のことがあっては、政治が回らなくなってしまいます。幹部は残してでも、今は御身の安全を最優先にしてください」

「レッドグレイブ家にいいように利用されるのは気に食わないが・・・たしかに君の言うことにも一理あるか・・・」

 

ただ、そんなヒソヒソ話をしていると、後ろの壁、いや、壁の奥から何かが暴れ回っているような音が聞こえてきた。

しかも、音はどんどんと大きくなり、音の発生源がこちらに近付いてきているようだ。そして、室内の壁に小さくヒビが入り、小さい破片が床に転がり落ちる。

 

何か嫌な予感がする。

客観的なデータに基づくわけではない。

ただ、前世のゲームや漫画等ではこういったときには、”何か”イベントが起きるものだ。2次元世界での経験則とでもいうべきだろうか。

そして、この世界も、乙女ゲームの世界とはいえ、男性向けゲームのメーカーが新規事業として開発・発売したゲームだ。

 

「ギルバート君、顔色が優れないように見えるが、どうしたんだい?」

 

余裕がなくなってきたことが顔に出ていたのだろう。バーナード大臣が僕に問いかけるが、答えている余裕も、何かを考える余裕も僕にはなかった。

何となく動いた、としか言いようがなかったと思う。

とっさに大臣や幹部らの手を取って、こちら側に引っ張り込んだ次の瞬間、壁は大きく崩れると同時に、その奥から鎧くらいのサイズの黒い物体が室内に踏み入ってきた。

 

そして、突入してきた勢いで、黒い生物は、大臣らが腰かけていたソファを踏み潰し、室内の中央に山積みにされた帳簿類を薙ぎ払い、オフリー伯爵らの前で足を止める。

 

危なかったあぁぁぁ!

もう少し判断が遅かったら、今ごろバーナード大臣は、水星の潰れたトマト状態になるところだった!

 

動きを止めた黒い物体は、よく見てみると、触手のように長く、先端は鋭い手足が10本ほど付いていて、腹部には肉眼が大量に浮き出ている。

暴れ回っていたせいなのかはわからないが、肩で息をしながら、口からは悪臭の漂う唾液を垂れ流しており、思わず口元を覆ってしまう。

背中にはコウモリにあるような羽が生えていて、頭部にある角と合わせて見ると、物語の中に出てくる悪魔を連想してしまう。

 

「アレは何だい!?」

「僕が聞きたいくらいです!」

 

大臣の問いに、礼を尽くして答える余裕もなかった。

乱入してきた黒い生物は、体全体の動きを止めながら、頭部と腹部の目は、眼前にいるオフリー伯爵とその息子と思われる男性を凝視している。

恐怖のせいで動けないでいるオフリー伯爵達をよそに、黒い生物が裂けそうな口を開く。

 

「おま・・・えら・・のせいだ・・・」

 

人間の言葉だと!?

ダンジョン等にいるモンスターが人間の言葉を話す、というのは聞いたことがないが、目の前の怪物はたしかに人間の言葉を発した。

僕だけじゃない。大臣や監査部隊の幹部も驚きの表情を浮かべているし、仮面を被ったジルクも顔の向きが黒い怪物に向いたままになっていることから、思考がフリーズしているのだろう。

 

そんな僕らをよそに、黒い怪物はさらに口を大きく開くと、次の瞬間、オフリー伯爵と隣にいた息子を、頭から膝上あたりにかけて、一噛みで食い千切ってしまった。

残された2人の男性の、計4本の足からは真っ赤な血が噴き出し、その脇にいたステファニーとかいう女の足元が血の池となる。

 

異常すぎる光景だった。

ふと思ったのは、某新世紀なアニメの新劇場版の2作目で、汎用人型決戦兵器のゼロ号機が最強と言われる敵に食われたときのような絵面みたいだな、という感想だ。

ショッキングな出来事で、脳内の認知機能が現実逃避をしたようだ。目の前で起きた現実の出来事だと瞬時には理解できていなかった。

 

「う、うわああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

近くにいた騎士の誰かが恐怖のあまり、叫び声を上げる。

室内に大音量で響き渡る絶叫のおかげで、僕を含め、他の人間はようやく我に返る。

他人がテンパっているのを見ると、自分はかえって冷静になる、というやつだろうか。

あまりの出来事に、目の前の怪物が危険極まりない存在であるという意識を持つのが遅れてしまった。

 

オフリー伯爵らの周辺にいた騎士達が一斉に魔法攻撃を開始していた。

 

「ジルク!」

「わかってます!」

 

僕もファイヤーボールを怪物に向けて投げ付ける。仮面を被ったジルクも素早く背負ったライフルを構えて、引き金を引いていた。

銃弾に加えて、炎や氷の魔法が大量に、黒い怪物に命中するが、主に炎の魔法が原因の爆炎が、黒い怪物を覆ってしまう。

その間に、大臣達は部屋の入り口にまで到達していて、入り口付近で警備をしていた騎士達に囲まれてこの現場から離脱していた。どうやら最悪の事態は避けられたらしい。

 

「やったか!?」

 

しかし、魔法攻撃をした騎士の誰かが禁断の台詞を口にしてしまった。

おい、そのセリフは言っちゃダメなやつだから!

”やったか!?”というフレーズが出たときと、野菜の星の王子様が連続エネルギー弾を撃ったときは、相手をやれてないのだと決まっているんだぞ!

 

僕以外は、楽観的な展開を期待して油断していたのだろう。

先端が鋭利な刃物のようになっている触手が、煙の中から飛び出してきて、何人もの騎士達が串刺しにされてしまった。

さらに、怪物の腹部の辺りで魔力が集まり始めて、間もなく、僕のファイヤーボールよりも何倍も大きいオレンジ色の火球が形成されると、僕の近くで固まっていた騎士達に向けて放たれる。

 

ド〇クエだったら、1ターンの間に何回も行動するなんてずるいぞ!みたいな文句を言っているところだが、リアルの命の取り合いをしている場面で、さすがにそんなことは言っていられない。

 

黒い怪物の火球は、直撃こそしなかったものの、轟音が響き渡り、僕も煙と熱風に飲み込まれる。

火球が直撃した床面には巨大な穴が開いていて、その周囲には、何人もの騎士達が倒れている。おいおい、この攻撃力は生身でどうにかできる相手じゃないぞ!?

手元の剣に手をかけつつ、もう片方の手の周囲に、炎の槍を展開させて僕は再び攻撃態勢を取る。

そして、次の攻撃を仕掛けるために、足を踏み込んだときに・・・不意に足元が、否、床が崩れ始めた。

 

先程の怪物の攻撃で生み出された穴に視線を向けると、穴を中心に床の亀裂が四方八方に広がり始めていた。

僕の足元にも床の亀裂が伸びてきていて、破片がボロボロと下に落下していくのと同時に、体全体に浮遊感が広がっていく。

あれ?これって・・・もしかしなくても・・・落下していっている!?




ジルクきゅんの中の人は上弦の5ですw

前世持ちTS者の兄上が、お貴族様達の社交の場で華やかな交流している絵柄が浮かばないwww
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