乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です   作:りーおー参式

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気付けば、書き始めてもう1年w

まだ書籍2巻分が終わらないwww
しかも、今回、まさかの9000字超え

サブタイの没案
レスバの優勢と劣勢は絶えず移り変わる、人、それを「回天」という


第36話 MISSION:オフリー屋敷を脱出せよ

「ギルバートさん!ほら、起きてください!」

 

何やら聞き覚えのある爆弾魔の声が耳に入ってくる。

あれ、僕はどうして仰向けに倒れ込んでいるのだろう。目を開くと、割れた仮面を頭の上で被っているジルクの顔が視界に入ってくる。

たしかいきなりオフリー伯爵の部屋で行われていた監査という名前の取調べ会場に、全身が黒い怪物が乱入してきて暴れ回り始めたから、それを迎え撃とうとしたら・・・

そうだ、床が崩れて下に落下したのか。落下の衝撃で意識を失っていた、というところか。周囲に怪物の気配はないし、ジルクが安全を確保してくれていたのだろう。

 

「・・・僕はどれくらい意識を失っていた?」

「5、6分というところです。あの黒い怪物の攻撃で床が抜けて、我々は下のフロアに落下してしまいました」

「黒い怪物はどうした?」

「先程から上のフロアから時折爆発音や叫び声が聞こえてきます。残念ながら討伐された、と考えることは難しいところですね。今から別の部隊と合流しますか?」

 

難しい判断だな。大人数で一斉に魔法攻撃を仕掛けたのに、ダメージを与えられた気配がなかった。

ということは、生身であの怪物を倒す、というのは現実的ではないだろう。

化け物の正体や出所も気になるところではあるが、それで対策案が出てくる可能性が高いとも思えない。

ラーシェルのスパイとやらが持ち込んだモンスター、というのがありそうな答えだろうが、そこら辺に詳しい人間もいない。

そうだとすると、他の部隊と合流しても、あの化け物と出くわしたら、簡単に蹂躙されて終わり、ということになりかねない。

 

「いや、下のフロアに落下したことだし、ここから脱出して鎧を取りに行くとしよう」

「確かにそれが一番現実的ですね」

 

合意ができたところで、足元の埃を払いながら立ち上がり、辺りを見回すと、上から落下してきた瓦礫がいたるところで積み上がっている。

奥から赤い液体が染み出ている瓦礫の山もあり、少なくない人間が犠牲になったことがうかがえる。

黒い怪物に対して周囲が攻撃を開始した時点で大臣と護衛は部屋から出始めていたので、奴に追いつかれていなければこの領主の館というか城からは脱出できているだろう。

そんなことを考えていたところで、どこからか呻き声らしき音が僕の耳に入ってくる。

 

「おい、ジルク。どこかから声が聞こえないか?」

「・・・はい、でもだいぶ小さい声ですね。一体どこからでしょうか」

 

改めて周囲を注意深く見渡してみると、近くの瓦礫の隙間から手の先がわずかに飛び出している。

僕とジルクは急いで駆け寄って、上に積み上がった瓦礫をどかしていく。

手の大きさからするとおそらく女性だろう。別室に待機していた使用人か何かが、降ってきた瓦礫に埋もれてしまった、というところか。

 

「しっかりしろ!今、瓦礫をどかしてやるから大人しくしてろよ」

「早く助けて!さっきから瓦礫に体を圧迫されてるのよ!」

 

助けを求めているのにずいぶんと強気なやつだなと思うところはあるが、かといって、命の危機に瀕しているのだから礼節を求めるのも酷というものだろう。

全身に覆いかぶさっていた瓦礫をジルクと手分けしてどかしていき、衣服や足がかなり見えるくらいまで撤去が進む。どうやら体力が尽きる前に救助することができそうだ。

なんだか衣服のデザインに、若干の見覚えを感じるところではあるが、無事救出できることに安堵しながら、肩の上に乗っかった瓦礫を持ち上げた。

 

「・・・・・・」

 

次の瞬間、僕の視界に入り込んできた金髪の女と目が合い、1秒間だけ考えた僕は、無言で瓦礫を元あった場所に戻した。

 

「待ちなさいよ!早く瓦礫をどかしてよ!」

「お断りだ!今さらお前なんぞ助ける意味ねえんだよ!」

 

瓦礫の中から聞こえてきた罵声に対して、僕はそれ以上の音量で罵声を浴びせる。瓦礫の中に埋まっていた人物、それは、学園祭から続く一連の空賊騒動の原因であるオフリー伯爵家の令嬢であった。

埋まってたのがコイツだったら絶対に助けなかったのに。しかも、このままだと埋め戻されると危機を感じたのか、この性悪令嬢は、残った瓦礫の下から無理やり這い出てきてしまう。

 

瓦礫を早々に撤去したのがアダになったか。

 

「人の顔見てもう一回埋めるってどういうつもりよ!殺す気!?」

 

肩で息をしながら、オフリー伯爵家の令嬢が僕に噛みついてきた。

 

「お前だってリオン君やオリヴィアさんを空賊に殺害させようとしただろうが」

「だからって、瓦礫を戻すことないじゃないのよ!?」

「そ、そうですよ。さすがにここまで救助を進めた以上、埋め戻すのはさすがに・・・」

 

ジルクがオフリー伯爵家の令嬢をフォローしながら会話に入ってくる。

あのジルクが善人のようなことを言っているだと・・・?

いや、単にこいつの知人であるブラッドの元婚約者だから、完全に放置するというのも気まずかったのだろうか。

 

「このクソ女を生かしておく価値なんてないだろ。それならば、ここに放置して、こいつの父や兄と一緒に、あの黒い化け物の腹の中に入れてやるのが情けというものだろう」

「さすが公爵家の赤い通り魔という異名を持つギルバートさん。台詞がまるで悪役か、物語に出てくる魔王のようですね」

「お前が僕を敬う気持ちを欠片も持たないことは理解したよ」

 

それに、僕は悪役令嬢のお兄ちゃんだからね。台詞が悪役っぽくなるのは仕様というものだ、たぶん。

 

「それにしても、その令嬢の価値ですか・・・最低限の人道的な観点から仕方なく、というところですかね」

「アンタもしれっと失礼なこと言ってくれるじゃないのよ」

「どうせ処刑だろ、斬首なら使った刃物を後で処理するのが面倒だし、魔法で処すなら魔力が、毒殺するならワインがもったいない」

「はい、そこは私も同意いたします」

「同意すんなよ!」

「強いて言うなら、今となっては空賊との接点を証言させられるオフリー家唯一の生き残りではあります・・・まあ、既に物証だけでも取り潰しには十分でしょうけどね」

 

・・・面白いことを思いついた。そこまで言うなら発言には責任を持ってもらうとしよう。考え始めたらどんどん楽しくなってきて、思わず口角が吊り上がっていくのが自分でもよくわかった。

 

「何よ、その底意地の悪さの原液が滲み出たみたいな顔は!?」

 

どうやら僕はずいぶんと悪い顔を浮かべているらしい。

っていうか、底意地の悪さの原液って何だよ!性悪さでお前にとやかく言われる筋合いはないぞ!

 

「この女に価値があるなんて、目から鱗だ!さすが元王太子の乳兄弟のジルク君だ」

「え・・・?今度は一体何を企んだんですか?」

「功績を欲しがってたお前にチャンスをやろう。そのクソ女、お前が連行しろ」

「えぇぇ!?ちょっとそれはいくらなんでもあんまりですよ!そんな業を背負わされるなんて」

「おい、それはどういう意味だよ廃嫡緑!」

 

オフリー家の令嬢も、僕ら二人に同時にディスられ続けて、どんどん取り繕わなくなってきている。

廃嫡緑・・・廃嫡グリーンとかのほうが呼びやすいな。

さしずめ、青、緑、赤、水色、紫の5人合わせて廃嫡戦隊5馬鹿レンジャーといったところか。

 

「お前みたいな、ばっちいやつ、触るのも嫌だってことだろ。それとも大量の亜人を侍らせるビッチい女と言うほうがお望みかな?」

「清々しいくらいの誹謗中傷ですね」

「お前も、そこの通り魔野郎と似たようなことを言ってるわよ」

「そうだぞ、それに今のお前は僕の部下みたいなもんなんだから、指示は聞けよ。っていうか、通り魔って言うな」

 

ここで、ジルクに、お前らが囲ってる女だって、貴公子5人を侍らせてるスーパービッチだと言わなかった自分の優しさを褒めてあげたいね。

 

「・・・わかりましたよ、貴方という人は本当に卑怯な方ですね」

 

人のことを、タマネギ頭のクラスメイトにディスられる紫色の小学生みたいに言うんじゃない。

まあ、それはともかくとして、結果的には3人で屋敷を脱出するべく外に向かうことになった。

逃亡防止のために、オフリー家の令嬢の両腕をロープで拘束して、ジルクが連れて歩いている。

今も時折、遠くから断続的に戦闘音が聞こえてくるので、今回乗り込んできているアトリー家の騎士か、屋敷の警備のために普段から配置されているオフリー家の騎士あたりと交戦しているのだろう。

そして、あの黒い化け物が現れたときのことを思い出して、僕は速足で歩きながら、疑問を口にする。

 

「あの化け物・・・何だったんだろうな。何十人もの魔法攻撃を同時にくらってもほとんど効いてなさそうだった。そんな怪物がダンジョンでもなく、領主の屋敷に出てくるって・・・」

「先の戦闘で拘束したオフリー家の指揮官が話していた、ラーシェル神聖王国の工作員がオフリー伯爵と接触していたという情報と合わせると、ラーシェルが使う魔装というロストアイテムかもしれません」

「ロストアイテム?」

「人に寄生することで、強力な鎧のような姿になるという噂を聞いたことがあります」

 

魔装・・・たしか前世の妹がおねだりしてきた課金アイテムの黒い鎧の名称がそんな感じだった気がする。

ということは、ジルクのいうとおり、あれがロストアイテムである可能性は高いな。

・・・性格はともかくとして、この若さで幅広い知識を持って、断片的な情報を素早くつなぎ合わせて推論を立てられるあたりは、さすがの優秀さだな。性格はクズだけど。

せっかく推理したラーシェルの話だ、ダメ元で当事者の身内にも聞いてみるか。

 

「おい、何か知っているかクソ女」

「何か聞きたいならせめて悪口以外で呼びなさいよ、この通り魔!」

「・・・たしか、ス・・・ブステファニーだったか」

「ステファニーだよ!アンタ、今、わざと間違えただろ!」

 

汚いから唾を飛ばしながらツッコミをするんじゃない!

しかも、僕のことを通り魔呼ばわりで定着させようとするつもりか!?

 

「知りませ~ん、わざと間違えたって証拠でもあるのかなぁ?」

「動機はあるだろ!」

「そもそも、お前が売ってきたケンカだろ!」

「・・・なんて醜い争いでしょうか」

 

クソ女ことステファニーと僕の泥仕合に、ジルクがさも自分は無関係かの如く嘆きの言葉を挟んできた。

おいおい、人のことをとやかく言える立場じゃないだろうが!

 

「お前ら5人の婚約破棄騒動のほうがよっぽど醜いだろ」

「失礼な!私にとっては、一連の騒ぎなんて、マリエさんとの運命の出会いから真実の愛を見つけるまでの雑多なイベントにすぎません」

 

うわ、出た!悪役令嬢断罪モノの定番台詞の一つ、真実の愛、いただきました~!

 

「偉そうに言ってるけど、結局、ぽっと出の黄色い毛虫に誑かされただけじゃねえか」

「し、失礼な!」

「そうよ!しかも、真実の愛なんだったら、他の男にも粉をかけさせるんじゃないわよ!あの女のおかげで、うちがようやくフィールド家と結んだ婚約だって破棄になったじゃないのよ!!」

 

そうか、あまりの悪行と性悪さですっかり忘れていたが、このステファニーも、ブラッドの元婚約者だったわけだから、マリエの被害者でもあるのか。

この女のやること、なすことの悉くが、逆恨みだったり、イリーガルだったりするから、何一つ擁護できないと思っていたが、対マリエに関してだけは、言っていることが正論だな。

この流れについてだけ言えば、初めてステファニーの言うことに同意できてしまう。

 

こいつの悪業のせいで、正論を言っているはずなのに、すごく大きな違和感があるというのは皮肉なものだ。ブラッドに関してだけは、婚約破棄になって良かったじゃないかとも思えてしまう。

いや、ストーカーとも言えるクラリス嬢の重さを考えると、ジルクについても婚約破棄になって良かったのかもしれない。

赤と水色は知らないが、緑と紫について言えば、そもそも婚約解消に至る素地はあったのかもしれないな。

 

とはいえ、せっかくのいい機会だ。ステファニーに便乗してジルクを攻め立ててみよう。

 

「そうだぞ、ジルク。お前があのマリエとかいうクソ女を抑え込んでいれば、アンジェの婚約だって破棄にならなかったんだ」

「ちょっと!ギルバートさん、貴男はどっちの味方なんですか!?」

「決闘騒動でアンジェに敵対したのはお前じゃないか」

「いい年して未だに真実の愛を見つけられない可哀そうなギルバートさんには、私の気持ちはわかりませんよ!」

「少なくとも、オリヴィアさんのような、可愛くておっぱいが大きくて優しい子とかなら理解できなくもないが、あのクソ女は理解できん」

「私はマリエさんの人間性に惹かれたのです!ギルバートさんみたいな体目当ての人と一緒にしないでください!」

「バルトファルトといい、赤い通り魔といい、これだから男ってやつは・・・顔と体ばっかり見てデレデレしやがって!相手は平民じゃないのよ!」

 

ステファニーに便乗してジルクを攻め立てていたら、今度は、ジルクに便乗してステファニーがこっちを攻撃してきやがった。

 

「何だと?お前がオリヴィアさんにしたことはきっちり落とし前を付けさせるから覚悟しとけよ!?」

「アンジェリカといい、アンタといい、なんでレッドグレイブが平民女の肩持ってるのよ!所詮あんな連中、数字でしかないってアンタの妹だって言っていたわよ!」

「僕に女性との交流の素晴らしさを教えてくれた御方は、女性の価値に身分は関係ないという主義でね。平民だろうが、騎士家だろうが、いい女はいい女だ」

 

なんといっても、この国のトップが言ってるんだからな!

ある意味、あの人が言っていることこそがこの国のルールなんだぞ!

 

「責任取らなくていい相手の体目当てにしか聞こえないんだけど!?」

「失礼な。内面もいい子とだから恋愛を楽しめるんだ!外見も内面もゴミな女が偉そうに言うな!」

「アンタは、顔はともかく、内面がぶっ飛びすぎな危険物件だって貴族社会で言われてるのを知らないの!?社交に呼ばれない私の耳にも入ってきてるわよ!」

「ちょっとステファニーさん。この方は、やってることこそ、辺境の悪妻狩りとか、責任の大きくない役人仕事ばっかりですが、これでも公爵家の跡取りですよ!?」

「おいジルク!これでも、とはどういうことだ、この爆弾魔!?」

 

そりゃ、本来ならパパ上に代わって領地運営の実績を積むとか、王宮の中枢近くで父とともに政治屋さんごっこをするのが将来の公爵様のあるべき姿なんだろうが、

この世界が”あの乙女ゲームの世界で、妹が断罪されたのをきっかけに、このままだと実家が没落不可避だったんだから仕方ないじゃないか!

僕だって、自分がやってることが、前世で読んだことがある悪役令嬢断罪モノによく出てくるような公爵家の跡取りと違い過ぎるなという自覚くらいあるんだぞ!

 

「公爵家?今さら知ったことじゃないわよ、どうせここで死ぬか、王都で死ぬか、の違いしかないなら、少しでもアンタ達の心をえぐってやるわ!」

 

ステファニーの発想が前世にもいた”無敵の人”になっちゃってるじゃねえか!

こいつ・・・リオン君のせいで目論見が外れ続けたり、追い詰められた結果、開き直ってしまってるぞ!?

だが、上等だ!そっちがその気なら、こっちも遠慮なく心をえぐってやる!

 

「面白いことを言うね。顔、体、肌、貞操観念、性格、実家の品行その他諸々、お前のどこに良さを見つければいいのかな?」

「そんなものは金でどうにでもするのが貴族ってやつじゃないのよ!」

 

なんだろう、発言内容が、うちの妹より悪役令嬢っぽい気がしてきたな、コイツ。

 

「それを貴族の標準にしないてくれます?迷惑です」

「ハアァ?アンタら5人組に迷惑云々言われたくないんですけどぉぉ!?」

 

ジルクも脇から静かにステファニーをディスるが、即座にジルク達の醜聞というか揚げ足取りでステファニーも切り返す。

ここまで言われてもまだ心が折れないのか!ある意味、凄いな。開き直った無敵の人状態とはいえ、メンタル強すぎるだろ!

ディスり続けている間に、1つだけ、こいつの長所、見つけちゃった気がするよ。

どこまでディスればメンタルをぶっ壊せるのだろうか。

教えてくれ〇ーフェイ、この女の心を折るために、僕はあと何個、この女の悪いところを挙げればいい?

アロガンツ・ブロスもジルクもアンジェも、何も教えてくれないよ!

 

三者三様、三つ巴状態で自分以外を大声で罵り合うという、レスバトルロワイヤル状態が続き、僕を含めて3人とも呼吸が荒くなってきた。

敵地だというのに、つい激情に駆られて熱くなってしまった。

 

「・・・ここでこれ以上議論を続けても、埒があきませんね」

「そうだな、早くここから脱出して、この女を官憲に突き出そう」

 

ため息をつき、移動を再開しようとしたその時だった。

大きな衝撃音とともに、後方の天井が崩れ落ちてきて、上の階から、先ほどの黒い怪物が瓦礫とともに落下してきた。化け物はゆっくり起き上がると、すぐに僕らを見て、動きを止める。

 

何だ?どうしたんだ?

静かになったのが逆に怖いんだけど?動かないなら今のうちに逃げたほうがいいのか!?

 

数秒ほど沈黙が続くが、黒い化け物は両腕部に加えて4本の触手の先を僕らの方に向けた。

触手の先端は鋭利な刃物のようになっており、ときおり、犠牲者になった者のものと思しき血液が先端から垂れている。

 

「オフリー!レッドグレイブ!お前達さえいなければああああ!!!!!!!!!!!」

 

黒い化け物が怒号をあげて、大音量の叫び声が全身に叩きつけられると、音というものが空気の振動なのだと再認識させられる。

化け物がこちらに向けて触手数本を振り下ろし、僕達はとっさに後ろに飛び退いて攻撃を回避した。

というか、こいつ、やっぱり人の言葉を理解している。

なるほど、ジルクの言っていたとおり、人間が魔装というロストアイテムを使ってこのような姿になったのだろう。

相手がロストアイテムなら、なおのこと、生身で相手するもんじゃないね。

 

「逃げろおぉぉぉ!!!」

 

僕とジルク、ステファニーの3人が一斉に走り出した。

当然、黒い化け物はそれを追って来るがので、苦し紛れにファイヤーボールやファイヤランスを叩き込んでみたのだが、有効打になっている気配はない。

ジルクの銃も化け物に大したダメージにはなっていなさそうだ。しかも、化け物の全身を覆う黒い肉塊は、最初に見たときよりも巨大に、しかも硬くなっているようだ。

 

「おいおい、もしかして人を食うたびにパワーアップしてるのか!?」

「魔装は人を喰らうという噂を聞いたことがあります!」

「オフリーのやつ、生きてても死んでも僕に迷惑をかけやがってえぇぇぇ!!!!」

「ははは!ざまぁないわね!いい気味よ!」

 

このクソ女め!本来なら、僕達がこいつにざまぁするターンのはずなのに、ざまぁ返しをしてきやがった。

とはいえ。ステファニーも含めて、3人とも全力で走り続けている状況は変わっていない。

 

これでは、やってることが、傘会社が開発した暴君に追われるバ〇オハザードか、ジュラ〇ックパークじゃねえか!ここは乙女ゲームの世界じゃなかったのかよ!

 

心の中で世界への恨みを叫びつつ屋敷内を逃げ回っていると、通路の先がY字型で二手に分岐しているのが見えてきた。

そうだ、お台場なテレビ局でやってたグラサンスーツ姿のハンターに追われるバラエティ番組では、こういうときに二手に分かれて、とっさの判断に迷ったハンターを撒いていたな。

 

「ジルク!こうなったら仕方ないから二手に分かれるぞ!僕は左、お前は右だ!どちらに行くべきかを迷わせて時間を稼ぐぞ」

「了解です!」

「ちょっと私は!?」

「僕が知るか!」

 

ステファニーの抗議めいた質問を却下しつつ、僕がまず左に曲がり、後ろを振り向くと、少し距離を置いて走っていたジルクとステファニーが右に曲がろうとしていたのだが、

分岐地点に差し掛かろうとしたところで、ジルクはステファニーをこちら側の通路の方向に突き飛ばす。

 

「この野郎、やってくれたな!」

「後ろにいた我らが同じ方向を選んだのでは、相手の判断にとっさの迷いを作れませんからね!」

「図ったな、ジルクゥゥゥゥゥゥ!!!」

「フフ、ギルバートさんなら、このくらい乗り越えられると信じてますよ!」

 

あの野郎おぉぉぉ!!!もっともらしい理由を付けて、土壇場でクソ女を押し付け返してきやがった!

改めて後ろを振り向くと、ステファニーと黒い化け物の姿が見える。

黒い化け物は、発言内容からオフリー家とレッドグレイブ家の双方を怨んでいるようだから、ジルクの方ではなく、こちらに来るのは当然か。

しかも、運の悪いことに、走る先に壁が見えてくる。要するに、行き止まりということだ。

どうするべきかを考えていると、ステファニーが先に追いついてきて、僕に怒鳴り散らしてくる。

 

「ちょっと行き止まりじゃないのよ!」

「うるさい!どうするかを考えてるんだから黙ってろ!」

 

逃げている最中に窓から見えた景色からすると、現在地の高さは屋敷の3、4階くらいだろう。

・・・壁を壊して外に飛び降りるしかないか。

そうこうしている間に、黒い化け物も追い付いてきてしまったようだ。

僕がファイヤーボールで壁を破壊しようとすると、後ろからすごい力でステファニーがしがみついてきた。

 

「離れろ!僕は壁をぶっ壊して飛び降りるんだ!」

「そんなの無理よ!こうなったらアンタだけでも道連れにしてやるわ!はははは!」

「邪魔すんな、クソ女!」

 

巻き付いているステファニーの腕を引きはがそうにも、魔力で肉体強化しているのか、火事場のクソ力なのか、絡みついて離れない。

 

「お前らさえいなければ・・・好き放題に暴れていられたんだあああああああ!!!!!」

 

現時点でも十分に暴れ回ってるだろ!

僕の心の中のツッコミをよそに、怪物は大きく口を開く。

こんなところで、しかもこんなクソみたいな女と心中で、化け物の栄養になるなんて冗談じゃないぞ!

前世も、今世も酷い死に方じゃないか!ジルクじゃないが、そんなに深い業を背負わされる筋合いはないんだけど!?

 

怪物の口が目の前に迫り、牙から滴り落ちた唾液から放たれる悪臭が僕の鼻を突いた。

こうなったら、最後の手段だ。ありったけの魔力を腕に集めて巨大な火球を作る。

一か八か、馬鹿みたいに開けた大口の中に、いつものようにゼロ距離から火球をぶち込んでやる。外側は頑丈でも、内側からなら、ってやつだ。

だが、覚悟を決めた次の瞬間、事態は思わぬ方向に転がり始めた。

 

僕の後ろから、壁をぶち破って伸びてきた巨大な黒い腕が、怪物の顔面にめり込み、そのまま後方へと殴り飛ばした。

救世主ともいうべき黒い腕は、化け物とは違ってメカニカルで、一目見て鎧のものだと判別できる。

後ろを振り向くと、崩れた壁の向こうから姿を現したのは、通常のものよりも大型で、両肩にキャノン砲、背部に2枚のウイングを持つ、ある意味、僕が棚ボタ的に手に入れた鎧だ。

 

「マスター!助けに来たよ」

 

どうやらこっちのロストアイテムは自動操縦機能が付いていたらしい。

スピーカーから無邪気な呼びかけが聞こえてくる。

やばい、相棒への好感度が上がり過ぎて、何故か泣けてくる。鼻水まで出てきた。

だが、せっかく相棒が助けに来てくれたんだ。ここから反撃開始のレッドファイトと行こうか!




原作様での行動を見る限り、ジルクきゅんならこのくらいのムーブはしてくれるはずw

なお、今回の三角関係笑を文字化するとこんな感じ。

兄上→ステフタソ:妹や主人公様らに危害加えたクソ女
兄上→ジルクきゅん:有能だが信用できない馬鹿野郎

ジルクきゅん→兄上:マリエの敵だが、借りがないわけではない
ジルクきゅん→ステフタソ:貴族としてはいかがなものかと思うし、好感もないが、一応知人の元婚約者だからなぁ・・・

ステフタソ→兄上:兄妹そろって目障りなクソ男
ステフタソ→ジルクきゅん:マリエが他の男に手を出さないようにお前がしっかり囲っておけよ

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