乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です 作:りーおー参式
公式様が面白くキャラぶっ壊すのってズルい…
コミカライズ作者様、天才か。
というわけでコミック8巻と某Twitter見て勢いで書いてしまった…
さて僕は現在、実家、つまり父の領地での事務作業に追われている。
学園の修学旅行で向かった南方の温かい浮島からの帰り道に、妹やこの乙女ゲー世界の主人公であるオリヴィアさん達が乗った飛行船は、公国の先遣部隊の襲撃を受けてしまった。
この世界が、前世の妹が僕に課金用の小遣いを集りながらプレイしていた乙女ゲー世界であることに気付いたときから危惧していた公国がついに動き始めたのだ。
公国が攻めてくるのは妹が3年生になってから、と思い込んでいた僕としては、驚きを隠しえない。
しかも、飛行船の位置を知らせ、公国を手引きしたのが、妹の元取り巻きなのだという。
そのこともあって、父は事後処理を含め、多忙を極めており、王宮を離れることができなかった、
そのため、僕が領地での仕事を進めるよう指示を受けたのだ。
ついでに、妹も休養もかねて連れてきたのだが、どういうわけか、この乙女ゲー世界の主人公オリヴィアさんも一緒である。
公国の襲撃を受けて、一度は公国の船に囚われてしまった妹であったが、廃嫡されたあのバカ王子を始めとした本来の攻略対象達との決闘騒動に続き、
今度もその妹を救ってくれたのが、ロストアイテムと呼ばれるオーバーテクノロジーで作られた機体を駆るリオン・フォウ・バルトファルトという男だった。
しかも、妹が課金を決意したきっかけともいうべき公国最強の黒騎士までもが戦場に現れ、諸々の政治的な思惑を踏まえ、
表向きには水色の攻略対象ことクリスが撃退したことになったようだが、実際に破ったのはこのリオン君なのだという。
「一体どうして悪役令嬢にフラグが立ったんだ・・・」
前世の記憶にあるあの乙女ゲー世界に、リオン・フォウ・バルトファルトという攻略対象は存在しない。
そんな謎の男が妹とのフラグを順調に建築している。
ちなみに、本人と話をしてみると、別に妹を狙っているような素振りは見当たらない。
むしろ、主人公であるオリヴィアさんとのフラグのほうが立てられているように見える。
この3人、どういう関係なのだろうかという疑問が尽きないのだが、今に関してだけは別の問題が僕の心をかき乱していた。
平時の領地運営に関係する決裁に加え、リオン君から献上された公国製の飛行船や鎧に関するリスト、公国の技術や機体を反映させた新型鎧の開発計画書、
その他各種報告書に目を通していた僕の耳に、妹とオリヴィアさんが話す声が聞こえてくる。
2年生になってから始まる実技系の授業に向けた事前の特訓を2人でするとは聞いていたが、それにしては随分と楽しそうだ。
立ち上がり、執務室の窓から屋敷の外を眺めた僕の目に入ったのは、お揃いの乗馬服に身を包んで、同じ馬に乗りながら、オリヴィアさんに後ろから抱き着いている妹だった。
え・・・何この光景?
前世と合わせれば40年以上生きているが、僕の中には、初めての感情が生まれようとしている。
馬上の妹はオリヴィアさんの肩に頬を乗せて、その体温を全身で感じ取ろうとしているようだ。
今時の女の子って、友達同士でこんな濃厚な接触をするものなのか!
妹達の周りでは、メイド達がその光景を眺めている。その中には、ある意味で僕の宿敵、ガチのアンジェ派上級メイドのコーデリア・フォウ・イーストンもいる。
メイド達、早く2人を止めろ!このままだと、僕の開いちゃいけない扉が開いてしまうかもしれない!
おい、コーデリア!お前もアンジェが大事なら、女の子同士でイチャイチャさせるんじゃありません!
アンジェが主人公の攻略対象になったらどうするんだ!
しかし、理性がこの光景を止めさせなければならないと告げる一方で、心が、いや魂が妹達の姿を受け入れ始めようとしているのを感じる。
そうか、前世では聞いたことしかなかったが、この感情のことを言うのか。
これが・・・尊い。
ん、ちょっと待てよ。
確かに、パッと見たかぎりでは、馬上で戸惑うオリヴィアさんを、アンジェが悪戯っぽくからかいながら、組み付いて愛でており、2人の関係はアンジェリカ×オリヴィアだろう。
だが、この世界の主人公ともいうべき、オリヴィアさんは、本来、相手を攻略する側のはず。
まさか、庇護欲をあえて駆り立てながら自分に愛情を向けさせるように相手を掌の上で転がしているのか!?
そうだとすると、いかに相手を篭絡するかという意味ではオリヴィア×アンジェリカなのかもしれない。
だめだ、気になって仕事が手に付かない。
というわけで、馬術の特訓を終えたアンジェを執務室に呼び出した。
「兄上、御用ですか?」
「あぁ、お前に聞きたいことがあってな。事は急を要する」
気になって、気になって仕事が手に付かないんだ!
真剣な僕の表情を見て、アンジェもことの重大性を気付いたのだろう。
そりゃそうだ、これはこの世界の在り方すら左右しかねないのだ。
「まさか、侯爵派閥が何かをしでかしたのですか!?」
「いや・・・しかし、これはそれより重要かもしれない」
緊迫した空気が支配する執務室でアンジェが息を飲み、ゴクリという音が小さく聞こえた。
「お前達は、アンジェ×オリヴィアなのか。それともオリヴィア×アンジェなのか」
「・・・は?」
「場合によっては戦になるぞ、私の心が」
「兄上?」
アンジェがドン引きした表情を浮かべている。
言葉こそ発しないが、普段は紅玉のような輝きを放つ瞳からは光が失われ、僕への嫌悪感に満ちた視線が向けられている。
そして、無言のまま執務室の扉の前に立つと、普段よりも一回り以上低い声で言う。
「しばらく私とリビアに近付かないでください。リビアが汚れます」
静かに執務室の扉が外から開かれてアンジェが部屋を後にする。開けたのは、扉の隙間からちらっと姿が見えたコーデリアのようだ。
鼻で笑うような声が聞こえたのは気のせいだろうか。
よし、戦だ!この腹黒メイド!
後日、無地のTシャツを買ってこさせた僕は、手にした筆に、黒のインクを染み込ませていた。
この年になって新たな世界の扉を開くことになるとは思わなかった。
この気持ちを形に残しておこうと思い、文字をシャツの布地に書いていく。
今世の妹とこの世界の主人公によって目覚めた、新たな境地。
百合豚だ!
あくまで番外編です。
ギルバート君がリオンをどう認識しているかは、もう少々先までお待ちください。
投稿後に、コミカライズ作者様の新しいツイートがあったことに気付いたので、
Tシャツをコーデリアさん製からギルバート君自作に変更しました。