乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です 作:りーおー参式
他の作品様の投稿日と被らないようにしてただけなんだからね!
バルトファルト家の浮島の港に到着したところに待っていたのは、バルトファルト家の面々ではなく、見慣れたアトリー家の文官連中であった。
最近ジルクからリオン君にターゲットを変更した、あのストーカー女がいなくてよかったとも思うが、ニヤニヤしながら手を振っている元同僚達の頭をとりあえず叩きたい。
「どうしてアトリー家がここにいるのか聞かせてもらいましょうかね?」
「言われなくたってわかるくせに聞かないでくださいよ~我々は男爵のところに、大臣のお使いで来ただけです」
「男爵・・・リオン君ではないということか?」
「そのとおりです。だからそんなに警戒しないで、安心していいですよ」
誰が安心するか。大方、リオン君の父親のほうから先に取り込んで、外堀を埋めようとしてるだけじゃねえか!
なんでわかるかって?そりゃ、僕だって同じ魂胆なんだ、お前らの企みなんてマルっとお見通しというやつだ。
さて、そんな金持ちボンボンと、別の金持ちの子分ご一行様が、この浮島の領主屋敷に到着すると、出迎えてくれたのはリオン君、精強な面構えの中年男性、リオン君より少し年上に見える青年の3人だった。
中年の男性は、アンジェから聞いていた外見的特徴からして、リオン君の父であるバルトファルト男爵に間違いないだろう。
となると、もう一人の青年はリオン君の兄で、バルトファルト家の次男だというニックス君か。心なしか、リオン君よりも鍛えこんでいてガタイが良いように見える。
「レッドグレイブ家、アトリー家のみなさま。ようこそいらっしゃいました」
男爵が頭を下げて、両脇の2人もそれに続く。
なんやかんやで何回も話をしているリオン君と違って、男爵やニックス君は公爵家のボンボンである僕と会うのは初めてだ。
普段、接することのない大物貴族跡継ぎのボンボンに、失礼があってはいけないと考えて、緊張と警戒でいっぱいなのだろう。
アンジェやアトリー家のストーカー女とは、顔を合わせたことがあるらしいが、今回は形の上では公爵家と伯爵家が一挙に押しかけてきて、心労がかかりっぱなしなのかもしれない。
「お出迎えいただき、ありがとうございます、バルトファルト男爵。ギルバート・ラファ・レッドグレイブです。御子息である子爵には、妹、いえ、我が家が助けていただきました。直接お礼を伝えるのが遅くなり申し訳ない」
そう言って、とびっきりの顔面偏差値から公爵家の若様スマイルを男爵に向けつつ、彼の手を取り、固い握手を交わした。
「と、とんでもない!うちの愚息が失礼をしていないか、不安で仕方ないところです」
男爵は顔を引きつらせながらも、笑顔を浮かべているが、どうにも居心地が悪そうだ。
バルトファルト家は、これまで、中央のドタバタとは縁がなかったとのことだから、リオン君が学園に入学してからの一年足らずの間に、公爵家や伯爵家と接することになって、戸惑っているんだろうとは思うけどね。
「ギルバート様、お話したいことはあるかと思いますが、続きは中でしませんか?」
男爵とどう距離を詰めようか考えていたところで、アトリー家の文官が場所の移動を促す。
「そうですね、では男爵。お手数ですが、ご案内いただけますか?」
こいつらもバルトファルト家に用があるから、ここまで来ている。大臣がどんな手を用意しているのかは、あとでリオン君から聞き出すとして、どうやって牽制していったものか、考えどころだな。
「それとギルバート様、お話は我々と一緒でいいですか?大臣の許可は取っていますので」
は?5秒前まで考えていたことが一瞬で無駄になった。
どうして手の内を晒すような真似をするんだ?リオン君を取るために外堀を埋めるのに、競合相手の僕を同席させるなんて、理由が不明すぎる。
バーナード大臣は一体何を企んでいるのか。
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「・・・という訳で、お嬢様が立ち直る手助けをしていただいた子爵に、バーナード大臣は非常に感謝しておりまして、今回のお話をお持ちした次第です」
バルトファルト領の領主屋敷の会議室に、僕とリオン君、その父であるバルトファルト男爵に、アトリー家の文官チームが集まっているのだが、僕を前にしながら、文官連中が男爵家への融資の話を持ち掛けている。
要は、黄色い毛虫ことマリエに誑かされたジルクが婚約破棄してやさぐれたクラリス嬢を、ずいぶんとクサい台詞で慰めて、そのハートを意図せず射止めてしまったことを指しているのだろう。
アトリー家がリオン君の外堀を埋めるのであれば、融資の話なんて、リオン君争奪戦の競合相手である僕の前でする話ではないはずだろう。
ちなみに、契約の条件ははっきり言ってバルトファルト家側に有利すぎると断言できるくらいに低利だ。
リオン君がうちに献上した公国の鎧や飛行船の価値を考えれば、その返礼として、うちの実家である公爵家ならもっといい条件で融資するくらいできるだろうが、
さすがにパパ上の許可を得ずには転がせない、僕の一存では動かせない額だ。
額の大きさから、アトリー家の本気度がうかがえるね、とても疎ましいけど。
「もったいないくらい非常にありがたい話なのですが、息子がロストアイテムと一緒に見つけた財宝等を元手に投資をしてくれておりまして・・・その・・・」
一方、それを聞く男爵の表情は相変わらず浮かばない。色々と調べてみたが、バルトファルト領はまだ発展途上な部分が大きい。
通常であれば、断る理由はないように思える。それでも断るというのであれば、考えられるのは・・・
「金もある、物もあるけど、それを転がす人手が足りていない、ということですね」
「・・・お恥ずかしい話、そのとおりです。これ以上、私一人で開発の手を広げるのは厳しくて・・・」
「そうですか・・・残念です」
「おや、大臣の話を持ってきたにしては、ずいぶんと諦めがいいですね」
僕の前でわざわざ融資の話をするなんて、煽るようなことをしてきた文官連中にほんのりと意地悪を言ってみる。
「ふふふ、ありがとうございますギルバート様。実は本題はここからでして、男爵には、アトリー家からお伝えしたいことがあるんですよ」
「本題、ですか?」
「ええ。ギルバート様にも同席していただいたのは、それが理由です」
融資の話だって大きい額であり、前座でするようなネタではないはずなのに、それが断られることを見越して、本命を叩き込んでくるだなんて、まるでアク〇ズに核ミサイルを撃ち込もうとするブラ〇ト艦長じゃないか。
しかも、それが僕も同席させた理由だというが、さっぱり見当がつかない。
戸惑う僕を差し置いて、文官連中が懐から調査報告書と書かれたファイルを取り出すと、男爵やリオン君、そして僕に配っていく。
「僕にまで見せて手の内を晒すなんて、何を企んで・・・」
融資の話だけでなく、本題だという話の資料まで僕に見せるなんてあまりに突飛な行動だと思っていたが、配られたファイルを開いて僕は言葉を失った。
その中身は、バルトファルト男爵の正妻、ゾラ・フォウ・バルトファルトについての調査結果を記すという言葉から始まる。
そして、男爵とその正妻や長女・長男の遠巻きに撮影した写真とそれを拡大し、男爵と長女・長男の外形的な類似性が認めがたい旨がテキストと画像を合わせて言及されていた。
さらに、男爵の次男であるニックス君や三男であるリオン君の写真が引用され、長男との外形的な類似性がないことの記述が続いている。
特にサンプルとして引用されているリオン君の写真の数が、ニックス君や男爵の長男、長女と比較して、非常に膨大になっているのは気のせいだろうか。
リオン君が開いているお茶会や普段の学生生活だけでなく、王都の中を歩く姿や決闘騒動、子爵昇進時の式典の際の写真がふんだんに掲載されている。
・・・これ、絶対に隠し撮りだろ。
すごいよ、そして怖いよ、アトリー家のストーキング術。
これぞアトリー家に代々伝わりしストーキング術だなんて言われても、すんなり納得できてしまいそうだ。
さて、本題に戻り、調査報告は、続いて男爵の正妻の行動に記述が移り、王都で散財したり、知人の貴族どうしで懇談する等について書かれた後に、
正妻が構成員をしている淑女の森の連中とそれなりの頻度で接触していることが記されていた。調査には相当の手間暇をかけていたようで、少なくない数の人間が今回の調査により、構成員であることが判明している。
淑女の森というのは、言うまでもなく、この国の主に中・下級貴族社会の中で、男性貴族を食い物にして私腹を肥やすクズ女どもの集団だ。
僕が国境沿いの監査をやっていた際にも、監査対象の家の正妻がこの団体の構成員だった事例が少なからずあり、その都度、駆除するようにはしていたのだが、
優先順位とマンパワーの都合上、十分に手が足らずに、他の構成員や全貌を掴むことはできないでいた。
ここまで調べ上げるあたり、アトリー家がリオン君を取るために本気になっていることが伝わってくる。
ちなみに、決闘騒動後に男爵の領地に滞在していたアンジェや公爵家の腹黒メイドであるコーデリアが、男爵の正妻と接触したらしい。
その際に、正妻が所持していた淑女の森の機関紙の中では、僕のことを、赤い通り魔と呼称していたそうだ。
そして、報告書の最終章では、男爵の正妻が囲っているエルフの専属使用人や、愛人について話が及んでいる。
・・・どうやら、ここからがアトリー家の本命のようだ。
先ほどの記述で男爵とリオン君らの外見を比較していたのと同じように、その愛人と男爵の長女・長男を写した写真が掲載してあり、目の色、鼻や口元といった顔面のパーツ、金髪や体格等の外形的な類似性が認められるという記述が続く。
要は、不貞の証拠と疑惑を推測させる資料だ。愛人と男爵の長女・長男には外形的な類似性が認められる一方、男爵との間に親子関係が存在しないということになる。
「このクソ女、托卵を企んだわけか」
「「「「・・・・・・・・・」」」」
しまった。つい、布団が吹っ飛んだレベルのクソどうでもいいダジャレを言ってしまった。
違うんだ、ダジャレを言おうとして言ったわけじゃないんだよ。しかも、誰も反応してくれないのに、みんなして僕に冷たい視線を突き刺してくる。
頼む、誰かツッコミを入れてくれ!もう、うちの腹黒陰険メイドでもいいよ!このダダ滑りしたダジャレを処理してくれえぇぇ!
だが、そんな願いが聞き届けられることはなく、しばし沈黙が場を支配し、僕のメンタルがゴリゴリと削られていたが、やがて男爵は左手で顔を覆って、うつむきながら息を吐いた。
隣にいるリオン君やニックス君は、男爵の姿を見て引き攣った笑いを浮かべている。
まぁ、仕方ないよね。もしかしたら、と思っていた部分があるかもしれないが、客観的な物証によって、心の中の疑いが、濃厚な疑惑へと変わったわけだ。
前世のようにDNA鑑定みたいな技術がない以上、この乙女ゲー世界では、細かな物証を重ねて、疑わしきは罰するという形で処理するほかない。
だが、そんな事情とは別に、まだ解せないことが1つある。
アトリー家がなぜ、これを公爵家、いや、僕にも見せたのかということだ。
その答えをいまだに出さないアトリー家の文官チームを黙ったまま睨みつけていると、連中も観念したように口を開く。
「そんなに睨まないでください。大臣の判断です。これでアトリー家はバルトファルト家に恩を売れる。ここからさらに、正妻の処理を含めて、自ら動くこともできるが、ギルバート様はこの件を知った以上はきっと動く、いや動かざるを得ない」
「大臣も、僕のことをずいぶんとわかったように言ってくれるね」
「アトリー家を牽制するためにも、決闘騒動以降のバルトファルト家や子爵とギルバート様の関係を考えても、今回だけ手を出さないわけにはいきませんよね?」
「つまり、アトリーは情報提供の恩を売っただけでなく、レッドグレイブを使って問題を解決させて、さらに恩を売る、というつもりか?」
「問題が解決すれば、我々とバルトファルト家には強い友好関係が生まれるので、それで十分というご判断です。それに、ギルバート様が、事実上庇護している子爵のご実家に巣食っている悪妻を野放しにしておくほど悠長だとは思っていないそうですよ。」
このクズ女を駆除すれば男爵もハッピー、アトリー家もバルトファルト家にお近づきになれる上に自ら手を汚さずに済んでハッピー、
僕も昔から目障りに思っていた淑女の森の構成員を消せてハッピー、公爵家もクソ女を駆除してアンジェ救出その他諸々の恩を返せてハッピー、以上のことから皆が幸せになるハッピーセットだとでも言うつもりらしい。
「それに、アトリー家が全部やってしまうと、利益を総取りしたことになって、これまで子爵の後ろ盾をしてきた公爵家のメンツを潰しかねません。そちらの顔を立てて、お貴族様社会特有の利益分配をやろうってことです」
「あくまで、僕や公爵家のためだと言い張りますか」
「我々アトリー家は中立派ですからね。表立って、他の派閥から睨まれるよりも、ズブズブの利益共有をしておきたいんですよ。それになんだかんだで、ギルバート様個人も、この手の女はお嫌いでしょう?」
やっぱり僕のことをよく知ってるな、大臣は。別の言い方をすれば、ていよく使われているとも評しうるが。
個人の感情として気に喰わないとはいえ、この提案は断りようがない。
公爵家の立場うんぬんもあるが、リオン君は、この乙女ゲー世界の主人公であり、将来の聖女であるオリヴィアさんにとっての、DLCでの攻略対象であり、彼女のつがいになる(予定の)人物だ。
将来の聖女の後ろ盾となって、地位を安泰なものにするという僕の狙いや、公爵家の先々のことを考えれば、その攻略対象であるリオン君は公爵家で取っておかなければならない。
個人的な感情としても、妹を窮地から二度も助けてもらったのだから、恩返しをしたいという気持ちはあるし、課金アイテムと思われるアロガンツやパルトナーという強大な戦力をみずみす他所の家に渡したくはない。
いや、むしろ彼が有してるロストアイテムの戦力を考えれば、アトリー家に渡すなんてもってのほかだ。
アトリー家がリオン君を取ってしまったら、あの公国の黒騎士を単機で倒せる鎧や、公国艦隊を単艦で降した飛行船パルトナーなどもセットになって奪われてしまうに等しい。
中立派であるがゆえに、公爵家以外とも場面によっては手を結ぶ場面もこの先、出てくることは想像に難くない。
そんなときに、リオン君の武力を背景にイニシアティブを取ろうとされてはたまったものじゃない。
くそ!仕方ない、アトリー家の思惑に乗っかるのは感情的に面白くないが、放っておくことによってアトリー家がリオン君に大手を振ってこれまで以上に接近するというマイナスのほうがはるかに大きいことは間違いない。
「大臣の狙いに思うところはありますが、いいでしょう。たしか、あの悪妻は、リオン君をバツ6くらいのババアの後夫にした上で、戦場送りにして殺害して遺族年金諸々を狙っていた、とリオン君から聞いたことがあります。そうだったよね?」
「は、はい。それをどうにかするために冒険者になって、ロストアイテムを発見したので・・・」
いきなり自分に話が振られてリオン君が慌てて回答する。
「ちなみに、子爵が売り飛ばされそうになった先の女の周りついては、現在調査継続中なので詳細はしばしお待ちください」
淑女の森の連中のオーソドックスな手口は、軍人にしてから、治安が悪いエリアや他国勢力との衝突の多い地域に配属して、死因も詳しく調べずに死亡判定されやすい状況を作るというものだ。
仕留めるには本人以外に、周辺の軍人もまとめて押さえる必要がある。
「そのババアを調べるついでに、近しい関係にある軍の連中、ついでに恩給、年金関係の部署の連中もピックアップしておいてくれ」
「了解です、では正妻のほうの逮捕状と身柄の確保はギルバート様にお願いします」
「わかった、おそらく正妻かそのバツ6ババアが、軍に袖の下を渡してるはずだ。その辺りが汚職だとして処理しよう。軍の連中のほうには、司法取引を仕掛けて、さっさとゲロさせればいい」
ゲロった後は閑職送りだけどね。ババアどもとつながりのあった軍の連中の上役も、公爵家と伯爵家に忖度して冷や飯ぐらいをさせることだろう。
いやはや、仕事のことになると、話が進むのが早い。
さすがかつては監査なんて地味な仕事で、国境沿いの悪妻どもを、僕と一緒に震え上がらせたアトリー家の文官チームだ。
腹の中では別のことを考えていたとしても、同じ方向を向いているときは非常に頼りになる。むしろ、いっそのこと、公爵家に転職してくれないかな。
若干現実逃避的なことを考えていたが、方針が決まったところで僕は男爵のほうに視線を向ける。
「さて、お聞きの通り、我々はこれから具体的に動きますので、覚悟を決めておいてくださいね」
僕から男爵に投げたのは、許可の要求ではなく、通知と心の準備の推奨だ。
男爵は眉間に皺を寄せながらも苦笑いしており、色々と悩むところはあるのだろう。
一方、リオン君やニックス君のほうを見ると、目元をピクピクさせながら愛想笑いをしている。
酷いな、そんなにドン引きしなくたっていいじゃないか。
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今日は1時間足らずの間で、バルトファルト家は、これから先、リオン君以外のことでも、慌ただしくなることが決まったようなものだ。
僕やアトリー家からの話が一段落したところで、家族内で話をしたいとの申し出が男爵からあったので、僕やアトリー家の文官チームも今後のことを話すついでに、
リオン君の発見した浮島の温泉に行ってみようということになり、そこに向かうために、一度、港に向かって歩いている。
ちなみに、僕は、本来ここに来るのはお忍びであり、煌びやかなお貴族様ファッションではなく、地味なジャケットにシャツとパンツという軽装だ。
「はあ、野郎連中で温泉に行くなんて、悲しくなりますね。地味でも可愛い子と行きたかった」
「よろしかったら紹介しましょうか?」
「アトリー家に頼むと、地雷女が出てきそうなので自分で探します」
「信用がなくて悲しくなりますね」
ちっとも悲しいような素振りはしていない、と喉まで出かかったが、自制した自分を褒めてあげたい。
「クラリス嬢と繁華街で一騒動起こしてしまったときのことを忘れてませんからね」
「そんなこともありましたねぇ」
「僕を思いっきり巻き込んでおいて、他人事のように言ってくれますね」
「ところで、公国の件は聞きましたか?ヘルトルーデ殿下を留学生として受け入れるようですよ」
この野郎、急に話題を変えてきたな。しかも、結構シリアスなトピックじゃないか。
リオン君が公国との戦闘の際に、アンジェ救出のついでに捕虜にした公国の王女の処遇は気になっていたが、処刑するわけでも、多額の身代金を要求するでもなく、
留学させるだなんて、日和ってるか、よからぬ意図があるとしか思えない。
「フランプトン派閥がゴリ押ししたらしいな。公爵家の派閥の再編が落ち着くまでは好き勝手させないといけないのは面白くないね」
「ずいぶんと不満そうですね」
「そりゃあ僕は、妹が拉致されかけましたからね。おめおめと留学させるなんて生ぬるい処理、気に喰わないに決まってます」
「フランプトン侯爵の派閥はレッドグレイブ家の影響力低下の隙を突いて、王宮内でも主要ポストの掌握を進めています。レッドグレイブ家には、王宮内でも、そろそろ反撃に出てほしいんですけど・・・」
「それは大臣から父上に直接言ってもらってください。しかも、その割に、事実上、うちの傘下にも等しいリオン君に手を出そうとしてるのはいただけないですねえ」
「そこは大臣とお嬢様の個人的な意向が強いので、我々下っ端役人は何とも言えませんよ。お嬢様の恋路を邪魔するボンボンの皮を被ったゴリゴリの武闘派貴族様のおかげで我々も残業続きな毎日です」
「そうか、そんな奴がいるんですね、ご愁傷様です」
アトリーの文官チームが僕のことを半目で睨んでくる。
おやおや、何が気に喰わないんだか。そんな被ったなんて奴は、ズル剥けの僕には全く心当たりがないね。
まったく、この世界は本当に乙女ゲー世界なんだろうか。
偏見かもしれないが、乙女ゲーって結局は恋愛以外の場面では、権力持ったイケメンが自分で解決するなり、周りが忖度して
うまく、なあなあで片付くご都合主義が多いものだと思っていたが、準王族みたいな公爵家だってこんなに苦労してるし、
王様は市井での愛のバラ撒きに夢中、王子様は前世が売れっ子キャバ嬢な転生者に夢中だ。
ちくしょう、どうなってるんだ、この世界。
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一方、バルトファルト家の屋敷の一室では、正妻であるゾラによる托卵疑惑の浮上を踏まえて、男爵であるバルカスとその息子であるニックス、そしてリオンの3人による話し合いが行われていた。
やや呆けたような顔つきで天井を見ているバルカスを見て、ある意味では、今回の調査が始まるきっかけとなったリオンが口火を切る。
「おい、この先、どうするんだよ親父」
「そうだったとしても不思議じゃないとは思うけど、いざ聞かされると、その・・・色々な気持ちが巡ってきて、上手く話せなくなるもんだな」
「ギルバートさん達が話をしているのに、親父の反応が薄かったのも、それが理由か」
「二人とも何を悠長にしてるんだよ」
リオンとバルカスの話に、バルカスの次男ではなく長男である可能性が浮上してきたニックスが口を挟んでくる。
「レッドグレイブ家とアトリー家がゾラ達を消したら、俺がこの家を継ぐってことになるじゃないか!?俺は、婚約者だってまだいないんだぞ!」
「大丈夫だ、ルトアートだってそんな相手がいるって話は聞かないぞ」
「なら、ニックスもギルバートさんに頼んで相手を見つけてもらったらいいじゃん」
リオンがニックスをおちょくるように言葉を返すが、一方のニックスは数秒してリオンの言葉の違和感に気付く。
「俺『も』ってどういうことだよ!お前、まさか婚約者ができたのか!?」
「本当かリオン!そんな話、俺も聞いてないぞ」
「いや、その・・・リビアをギルバートさんの知り合いの家の養女にするから、結婚したらどうだってギルバートさんが・・・いや、OKしたわけじゃないぞ!?」
「すごいな、公爵家、いや、ギルバート様ってウワサどおり、本当にやりたい放題するんだな!?ちくしょう、いいよなお前は。可愛くて性格も良い相手がいて、唯一の問題だった身分の話は超偉い人が片付けてくれるのかよ」
「人のことをご都合主義満載な登場人物みたいに言うなよ!」
「なるほど、だから式典のときにお嬢様方が押しかけてきても、反応が薄かったのか」
「え?どういうこと?」
話の内容をあまり理解していないリオンを見て、バルカスがニックスのところに行き、小声で話し始める。
「親父、リオンはあのお嬢様達が、式典のときに単なる付き合いで部屋まで来たと思っているんだろうか?」
「その可能性は高いな。下手したら、今日、アトリー家が来ていたのも、本当に単なる恩返しだと思っているかもしれん」
「弟ながら、とんでもない鈍感野郎だな。嫉妬の感情が爆発しそうだ、子爵様じゃなかったら殴ってやりたい」
リオンへの複雑な感情が噴き出すニックスだが、ここで学園生活の中であった出来事を思い出す。
「そういえば、学園祭が終わった頃から、同じ普通クラスにいる、アトリー家の取り巻きの男子からリオンの話を聞かれることが多くなったんだよ。なんか、男女関係のトラブルをあいつが解決したらしい」
「え?それがきっかけでお嬢様のお気に入りになったってことか」
「リオンは全く気付いていないようだがな。式典のときと言えば、ローズブレイド家のディアドリーさんもいたし、学園に入ってから一年足らずで、あいつの周りにすごい家の女の子が集まってないか?」
「ということは、今回みたいに、リオンを取り込むために、公爵家とか伯爵家がこれからもこの貧乏男爵家に接触してくるのか・・・嫌すぎるんだけど・・・」
バルカスとしては、父として息子であるリオンが他の家から高く評価されて嬉しくないわけはないのだが、
それに付随して、今回のような雲の上にいるような大物貴族がわらわらと近付いてくることに大きな不安感を覚えている。
アトリー家からの融資は断ったが、今後はリオンを中心に、様々な角度から、様々な方法で接触してくる大物が増えてくるのは頭が痛い。
「あと、一つ、嫌なことに気付いたんだけど言っていいか? 」
「万が一、ゾラ達がどうにかなる前に親父に何かあったら、跡継ぎをどうするかって話になるだろ」
「あ・・・」
「そしたら、当然、ゾラ達はこの家は自分達のモノだって騒ぐだろうけど、レッドグレイブもアトリーも、黙ってるわけないじゃん?」
「やめろ、それ以上は考えたくない」
ニックスから聞かされる不吉きわまりない未来予想図を聞くバルカスは、痛い頭がさらに痛くなってくるような気がしてきている。
「跡目争いが起きるぞ、絶対に」
「辺境の男爵家なんだから、そんな大層なものを継ぐわけじゃないのになぁ・・・」
「ゾラみたいな女を躊躇なく消すと言って憚らない公爵家に加えて、明らかにリオンを狙っている伯爵家が大手を振って参戦してくるぞ。そんなことになって、もしゾラが、公爵家や伯爵家の敵対勢力に泣きついてみろよ」
「うちの領地を舞台にした代理戦争が勃発して、バルトファルト領が焼け野原になるな」
どうしたものかと頭を悩ませるバルカスとニックスだったが、ちょうどそのとき、部屋がノックされて、バルトファルト家に仕えて長い使用人が息を切らせながら部屋に入ってくる。
「旦那様・・・その・・・奥様がこちらに向かっているとのことです。しかも、どういうわけか、神殿の船も一緒です」
「何ぃ!?こっちに来るなんて話、聞いてないぞ!」
「それより、さっきの人達は今どこに?」
「ずいぶん前にリオン様の浮島の温泉に行かれたようですが・・・」
バルカスとニックスは二人して頭を抱えた。
なんて最悪なタイミングなのだろう。大型爆弾のような人がいるときに、大爆発を起こすような劇物が転がり込んできたようなものだ。
今日がバルトファルト領の最後の日になるかもしれない。
そんな言葉が二人の脳裏によぎった。
ニックスきゅんについては、他でたくさん出番がまだありそうなので、控えめにしてます、はい