乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です   作:りーおー参式

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あれれ、おっかしいぞー
某所の空賊ルトアートきゅんよりもバイオレントになっちゃったかも


第44話 R&Bと書いて、レッドグレイブand暴力と読む

リオン君が発見したという温泉に行く前に領内をこっそり散策していると、なんだか領内が騒がしい。

港のほうにはバルトファルト家のものではなさそうな飛行船が数隻ほど集まっている。船体に描かれているのは・・・神殿だと?

神殿は、この国の事実上の国教であり、建国の英雄達と行動を共にした聖女を信仰の象徴としている宗教団体だ。もちろん建国の聖女が生存しているわけでもなく、

一定の条件を満たした者を適宜、新たな聖女と認定するらしいが、それがこの世界の主人公であるオリヴィアさんのはずだ。

認定の条件は、現在調査中なのだが、問題は現在の神殿というのは、なかなかに俗物な団体だということだ。

貴族からは高額な寄付金をもらい、自前で武装して鎧や飛行船などの武力を確保している。

前世の歴史でも古くから、世界中の宗教勢力が独自の武力を持っていたし、ドンパチもしていたが、この乙女ゲー世界でもそんな宗教像は健在らしい。

主人公である女の子が攻略対象の男子と結ばれてハイ、ハッピーエンド!という世界なのに、妙なリアリティを持って宗教が存在しているのはどうしてなのか。

その理由はわからないが、要はそれなりの規模で武力まで持ち合わせている組織であり、一大勢力だということだ。

そんな神殿の部隊が辺境のバルトファルト領に、飛行船数隻まで持ち出して乗り込んできているというのは穏やかな話ではないだろう。

案の定、僕とアトリー家の文官連中がバルトファルト家の屋敷まで急いで戻ると、付近には神殿お抱えの騎士団十数人が展開しており、屋敷のそばではリオン君と貴族らしき中年の女、丸々と太った女神官に、専属使用人であろうエルフ数名が対峙している。

特にその中でもギャアギャア喚いている中年の女の顔は見覚えがある、というか、ついさっき、後ろにいるアトリー家の文官連中が持ってきた調査報告の対象、つまり、バルトファルト男爵の正妻だ。

わざわざ、ここまで出向いてきてくれたのはラッキーだ。探す手間が省けたね。

さて、どういう理屈で身柄を押さえようか考えたところで、下品な女がギャアギャア騒ぐシチュエーションが最近もあったことを思い出す。

ケモナー学園の学園祭に王妃様がお忍びで来ていたときのことだ。

あの時は、オフリー家のクソ女が、相手を王妃様だと知らずに悪態をついていた。

よし、そのときのシチュエーションを参考にするとしよう。

懐から変装用の黒いサングラスを取り出して顔を隠し、シャツのボタンの上2つを外す。

「ギルバート様、また厳ついチンピラみたいな格好の変装なんかして、今度は何を企んでるんですか?」

僕の行動を訝しんだアトリー家の文官連中の1人から、ある意味、当然の質問が飛んできた。

「なあに、正体を隠したほうが相手の尻尾を掴みやすいと思いましてね」

「うわあ・・・性格、悪ぅ・・・」

「悪いついでに、誰か1人、うちの飛行船呼んできてもらえます?」

「え?まさか神殿と戦争するつもりですか!?」

「いやいや、向こうが神殿という権威を使うようなら、こっちも公爵家の権威を使おうと思っただけです」

「・・・やっぱり性格悪い・・・」

失礼な。相手に尾行を悟らせないストーキングで相手を追い詰めるアトリー家に比べれば、正面から堂々と立ち向かうだけさっぱりしているじゃないか。

さて、ちょっとした寸劇を始めるとしよう。

「これはこれはバルトファルト子爵。ずいぶんと騒がしいようですねぇ」

ポケットに両手を突っ込み、肩で空気を切りながら僕はリオン君達の方に近付いていく。

「あ、ギルb・・・」

「いやいやいやいや、ずいぶんと穏やじゃあなさそうですけど、トラブルでもありましたか?」

大げさに手を振り、勢いでリオン君に名前を言われるのを遮りながら、神殿の騎士まで押しかけてきている状況の詳細を尋ねてみた。

リオン君は、僕のわざとらしい振る舞いに何かを察したようで、口元に笑みを浮かべた。

「実は、空賊を退治したときの財宝の中に、神殿の宝があったから寄越せ、ついでに俺の財産を寄付しろって言われて困ってたんですよ」

「ええぇぇ!つまり、子爵の財産に目を付けたここにいる連中からタカられている、ということですか」

「し、失礼な!」

何やら金切り声を上げながら、僕とリオン君の会話にバルトファルト男爵の正妻が割り込んでくる。

ほんの少し煽っただけなのに、百点満点のリアクションだね。面白そうだから、もう少し遊んでみるとしよう。

「神殿関係者でもなさそうなのにしゃしゃり出てきた、こちらの品のないご婦人はお知り合いですか?」

「親父の正妻ですよ」

「あぁ、ムダ金使うしか脳のないと評判の!」

「な、なんですってぇぇぇぇ!!!!」

バルトファルト男爵の正妻の怒りのボルテージがさらに上がったところで、傍に控えていたエルフ3人が僕の前に出てきて、そのうち1人が僕の顔面に拳を繰り出してきた。

男爵の正妻の護衛兼愛人なのだろう。主への無礼を咎めるつもりか。

だが、実戦慣れした殴り方ではないね。これでも、この国の悪妻やクズ女どもお抱えの亜人やゴロツキどもとの乱闘の場数を踏んだ僕にとっては、腰も入っていないパンチくらいなら止めるのは簡単だ。

エルフの拳を掌で受け止めると、掴んだ拳ごとエルフを懐に引きずり込んで、勢いそのままに、エルフの顔面に膝蹴りを叩き込んだ。

僕の膝に、軟骨が折れるような感触が伝わってくると同時に、足元にボトボトと血が流れ落ちる。

「うっわ、エグぅ・・・」

「いつもあんな感じですよ」

「むしろ今日はまだファイヤーボールがないだけ控えめですね」

後ろから、リオン君とアトリー家の文官連中の会話が聞こえてくる。

おい、ド突き合いが始まったのに暢気におしゃべりしてるんじゃない!しかも、僕が暴れるパターンを分析してるし!というか、君達、微妙に仲良くないか!?

気を取り直して、膝蹴りをもう一発、エルフの整った顔面に見舞うと、折れた歯が何本か地面に落ちたところで、突然始まった苛烈な暴力を目の当たりにして、呆気にとられていた残りのエルフ2人が僕に向かってきた。

先程、ファイヤーボールがないという声があったので、僕の心の中で、少しサービスしてやろうかという悪戯心が芽生えてくる。

顔面を潰したエルフを、残り2人に向かってぶん投げて、エルフ3人が勢いよくぶつかったところ目がけて、ファイヤーボールを投げつけた。

エルフに命中して火球が爆発したところで追い打ちをかけるべく、もくもくと上がる煙の向こうで倒れている3人の顔面を一人ずつ踵で踏み潰すと、脳が揺れたのだろうか、体をピクピクと動かしながら、寝そべったままとなった。

本当は全員の顔面に5、6発ずつ拳骨もくれてやろうと思っていたのだが、予想していたよりもエルフは軟弱だったね。どうやら、亜人の中でもエルフは獣人よりも耐久性の面で劣るらしい。

男爵の正妻は、瞬く間に自分の使用人達が潰されて、怯えながらも、怒りの籠った視線を僕に向けてきている。

おいおい、リオン君がロストアイテムを見つけるまで散々好き放題やってたんだ。買った恨みは2つ、3つじゃ済まないのもわからないのかな?

エルフの顔面に足を乗せたまま、グリグリと地面に押し付けていると、ここまで動かなかった神殿所属の騎士数名がこちらにやってきて抜剣すると、剣先を僕のほうに向けてきた。

「そこまでだ!やりすぎじゃないのか」

どこまで考えた上での発言かはわからないが、1人の騎士としては、既に勝負のついた戦いをこれ以上続ける必要はないとでも思ったのだろうか。

さて、神殿連中にどう対応したものか。

先々、神殿には、オリヴィアさんを聖女に祭り上げさせることを考えると、考えなしに揉めるは悪手だろう。

一方で、実家が他の貴族と同じように神殿に寄付をしている、という以上のコネもない。

「先に仕掛けてきたのはこいつら亜人だったのをご覧でない?」

「貴族の使用人にここまでするのは正気とは思えないぞ」

「貴族というなら、現役の子爵に敬意を払わない無礼を働いたのは、そこの神官殿だったようですけどねぇ。子爵の財産を、いきなり押しかけて寄越せというのは、神殿とはいえ傲慢では?」

神殿は、国が認める団体でありつつも、宗教団体という立場から、僕ら俗世の階級に無条件で従う義務はない。

とはいえ、それでも国の定めた階級をむやみに蔑ろにしていいわけではない。

権威を持ってこそいるものの、本気で貴族に喧嘩を売るなら、王宮の上層部に対する根回しは必須だ。

ただ、そんな動きがあるなら、どこかから情報が洩れて、うちの耳にも入るはずだが、そんな話は聞いたことがない。

そうだとすれば、神殿内でほどほどの権力を持ってる奴が、手柄欲しさに、バルトファルト男爵の正妻と手を組んだ、というところだろう。

「神殿の宝を渡すのは常識です!」

まるまる太った女神官が鼻息を荒くしながら吠えた。

「そんな法律も規則も聞いたことがないんですけどねぇ。そもそも、冒険者が空賊を討伐して手に入れた財宝を、尽くすべき礼を尽くさずに・・・いや、そんなに肥え太って信仰を失った似非聖職者には、礼儀を自覚するのも難しかったかもしれませんね」

「無礼者!」

身体を震わせながら神官が僕を睨みつけてくる。どうやら、自分のことを省みるつもりはないらしい。

手柄欲しさの暴走なのだろうが、一方で神殿の艦隊を出撃させるくらいには影響力を持っているというのも事実だ。単なる下っ端というわけではないのだろう。

あれ?これって、異世界モノでよくある、中間管理職的な地位を持つ輩が、バックにいる宗教権力をチラつかせながら、横暴な振る舞いをかましてくるシーンなのではないだろうか。

主人公達が権威的な圧力に屈しかける、とかそんなやつだ。

だいたいは、主人公の味方となる権力者が裏で動いて、組織的な圧力は取り除いてくれて、暴走した権力者は主人公達が倒す、というのが主なパターンだろう。

ただ、こんなイベントがどうして僕なんていう、ネームドのモブのところで発生したのか・・・いや、ここには、主人公であるオリヴィアさんの獲物もとい攻略対象のリオン君がいる。

ということは、主人公がいないのに、攻略対象に発生してしまったイベントなのかもしれないね。

くそ!主人公様が不在な場面でリオン君に何かあってはマズいかもしれない。

こんなとき、主人公や攻略対象ならどう動くだろうか。

青い馬鹿王子、クズ緑、ナルシスト紫、水色メガネ、そして、赤い勇者王・・・オリジナルの攻略対象5人を思い浮かべたとき、ふと、勇者王ことグレッグと同じ声で、

全く別のキャラクターの台詞が、某はぐれ純情系小隊長の台詞が脳内で再生された。

守ったら負ける、攻めろ!

こっちだって公爵家だ、俗世の基準なら大権力者といってもいい。ならば、この場面でも攻め切ってやるさ。

いっそのこと、逆に考えて、神殿とのコネがないなら作ればいい。

理想の終着点としては、今回の神殿側の無作法を足掛かりに。付け入る隙を作る、というところだろう。

できれば、血祭りにしたエルフどものように、明確に公爵家に対する落ち度がほしいところだ。よし、少しこいつらも煽ってみるか。

「子爵に対するそちらの態度も、まさに無礼そのものだと思いますが?いきなり押しかけてきて財宝を献上しろだなんて、まるで空賊そのものですなぁ!!」

「く、空賊ですってええぇぇ!!お前達、こいつらを黙らせなさい!!!」

気に喰わない相手を力でねじ伏せようとするなんて、やはり聖職者とは思えないね。

だが、女神官の指示に従って、10人以上の神殿騎士が僕らを取り囲んで、こちらに迫ってくる。

先頭に立つのは、さきほど僕に剣を向けてきた神殿騎士だ。

「醜い豚に顎でこき使われる気分はいかがかな?」

「口の減らないチンピラだな」

「公国を撃退した英雄である子爵にずいぶんな態度ですねぇ、色々な意味で感心しますよ」

「ふん!たまたま強力なロストアイテムを運良く見つけただけの成り上がりだろうが」

おやおや、上司だけでなく、部下の騎士らもリオン君に対して敵意むき出しのようだ。

「横暴な上司に振り回される可哀そうな部下かと思ったが、同情の必要はなさそうだね」

「はぁ?何を言ってる?」

「似非貴族の騎士モドキの嫉妬を見るのは、なかなか愉快だなと言ってるんですよ」

「き、貴様あぁぁぁぁ!!!」

僕の煽りに神殿騎士は激昂しながら剣を振り上げる。

神殿の騎士というのは、文字通り神殿に所属する実力部隊であるが、そこを構成する面々の出自は複雑だ。

神殿で生まれたり、拾われた者が成長して騎士になる者もいるが、貴族の家に生まれたものの、事情があって自分の家や国に仕える騎士とならなかった者が相当数いると言われている。

その事情というのが、ケモナー学園在学中に結婚できずに、卒業後の行き先がなかったために、神殿所属の騎士となるというものだ。

しかも、王国では異常なまでの女性優位な価値観が蔓延っており、そんな状況下では、王宮が彼らを正式な騎士と認めることは少ない。

つまり、結婚もできずに俗世から逃げたという意味で似非貴族であり、国からは騎士と認められていないという意味で騎士モドキという意味である。

そんな彼らにとっては、辺境貴族の三男坊に生まれたのに、ロストアイテムを発見して冒険者としての実績を上げただけでなく、空賊や公国を討伐して子爵に任じられたリオン君は妬ましくてしかたない存在なのだろう。

どうやら、神殿内でも、リオン君を妬ましく思う神殿騎士と、リオン君の財産を巻き上げようとした神官の利害が一致していたらしい。

怒りに任せた神殿騎士の剣を、とっさに抜いた自分の剣で受け止めるが、興奮した騎士は目を血走らせて、剣に力を込めて、そのまま押し切ろうとしている。

煽った効果は期待以上だったようだ。なにせ、これで神殿の騎士が、公爵家のボンボンに斬りかかったという既成事実が生まれたんだからね。

じゃあそろそろ、ネタばらしでもしてやろうか。

剣を交差させて押し合いになっているところで、僕は神殿騎士に向かって小声で囁いてやった。

「僕の剣の鍔を見てごらん?」

相手に見やすいように交差している剣の位置を上げてやると、訝しそうな顔をした騎士が、僕の剣の鍔を見ると表情が一変する。

そこに刻まれているものを見たのであれば、それも当然のことなんだけどね。なにせ、僕の家、レッドグレイブ公爵家の家紋が彫られているんだもの。

さすがに貴族の生まれであれば、公爵家の家紋くらいは知っているのだろう。そんなものが彫られた剣を持っているのは公爵家の縁者だということはすぐにわかるはずだ。

「神殿の意向はよ~くわかったよ?」

「え・・・?」

意識が上の方に向いている騎士の股間を力任せに蹴り上げて、その力が抜けたところで、僕は相手の剣を弾くと、もはや十八番とも言われるファイヤーボールを胴体目がけてぶっ放す。

「ちょ、ちょっとギルバート様、何しちゃってるんですかぁぁぁ!」

「神殿と戦争するつもりはないって言ってましたよね!?」

神殿騎士に放ったファイヤーボールが弾けて爆発するのを背景に、アトリー家の文官連中が喰いついてきた。

「状況の変化を踏まえて総合的に判断して臨機応変に対応した結果かな?」

「いやいやいや、今はそんな役人答弁してる場合じゃないでしょ!」

「そうですよ、しかも後半はさんざん煽り倒してましたよね!?」

「向こうが先に手を出したという既成事実は僕が体を張って作ったから、あとは残った連中をある程度痛め付けて、僕が身分を明かしてから手打ちにするさ。それにリオン君に対する非礼を咎めておかないと、連中、またやってくるかもしれませんよ?」

「ある程度とか言ってますけど、神殿の連中、もはやこっちのタマ取りに来る勢いですよ!!」

文官の一人が指さす方向では、神殿騎士達十数名がみんな剣を抜いてこちらに突撃してこようとしている。

「「「「「あのチンピラどもをぶっ〇せえぇぇぇぇ!!!」」」」」

怒号をあげながら向かってきている神殿騎士の連中は、どうやらお仲間がやられたことでプライドが傷ついたらしい。

「・・・仕方ない、久しぶりにみんなで降りかかる火の粉を払おうじゃないか」

「あ~あ、大臣にどう報告すればいいんだ・・・」

「こうなるってわかって首を突っ込むなんて鬼!」

「ひどいですよ、アトリー家まで巻き込んで!大臣が僕らを切り捨てたらどうすればいいんですか」

文官連中が口々にクレームや不満を口にする。

うーむ、彼らがアトリー家からリストラされたらレッドグレイブ家で雇うのもありだな。能力があって、ケンカ慣れもしてる文官はいくらいてもいい。

とはいえ、今はこの場を乗り切るために頑張ってもらう必要がある。

「じゃあリオン君を見捨てて逃げるかい?大臣としても、クラリス嬢としても、リオン君からのポイントを稼いておきたいんじゃないのかな?」

「うわ、この金持ちのボンボン、最低だ・・・」

「神殿とトラブル起こしたって家族にどう説明すればいいんだ・・・」

「大臣がレッドグレイブ家を巻き込もうとしたら、結果的に別のトラブルに巻き込まれた件・・・」

口々に不満を述べてはいる文官連中だが、各々、剣を抜いたり、魔法を放つ準備をしているあたりは、さすが僕と一緒に辺境の監査をして、時には妨害や暗殺を実力行使で返り討ちにしてきただけはある。

そういった意味でもアトリー家の文官は優秀だ。

「さあ、腹を括ろう。うちの飛行船や鎧部隊が来るまでの辛抱だ」

にこやかに話す僕も、両手それぞれにファイヤーボールを準備し終えており、火球2つを神殿騎士の一団に向かって放つ。

火球の爆発で数名が吹き飛ばされるのが見えたが、敵さんを煽りすぎたせいか、味方が数名やられたくらいでは戦意が落ちないらしい。

向って来る神殿騎士の剣を自分の剣で受け止めつつ、魔力で強化した拳で相手の顔面をぶん殴ると、肉が潰れ、骨にぶつかるような感触が伝わってきて、相手の鼻か口から数滴の血しぶきが舞う。

悪役令嬢の兄に転生したとはいえ、どうして超大物貴族の跡継ぎに生まれた僕が、辺境で、しかも宗教勢力お抱えの騎士とバトルしているのだろうか。

本当にこの世界が乙女ゲー世界なのかと、疑わしく思えたことは何度もあるが、今回もそうだ。

妹の婚約破棄が避けられなかったのだとしても、追加コンテンツの攻略対象と主人公様をくっつけようというムーブは、きっとゲームのシナリオから大きく逸れるものではないはずなのに。

本来あったのであろうシナリオをぶち壊して、オリジナルの攻略対象5人を丸ごと篭絡したあのクソ女マリエの仕業の影響の余波なのかもしれない。

おのれ、あのクソ女め。

僕の計画をぶち壊したもう一人の転生者マリエへの怒りを力に変えて、八つ当たりじみた拳を神殿騎士達にぶつけながら、僕は土煙と怒号の中で暴力を振るい続けるのだった。

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「おい、ニックス。どうしてこんな辺境の浮島で、神殿騎士と公爵家・伯爵家が殴り合いを始めるんだ・・・?」

「そりゃあ、ゾラがお仲間を引き連れてきて、リオンの財宝を奪おうとしてきたからだろ」

「しかも、ゾラの使用人が、公爵家の長男を殴ろうとしたぞ・・・」

「ああ、なんで変装しているのかはわからないが、あのサングラスの人はギルバート様だな」

「俺、きっと領主を没収されるから、どこか遠くでリュースと仲良くゆっくり過ごそうと思うんだ・・・」

「おいぃぃぃぃ!現実から目を背けるな、親父!」

いくら当主との関係が悪いからといって、外から見れば。正妻の使用人は、バルトファルト男爵家の使用人に他ならない。

そして、自分の家の使用人が、素性を知らなかったとはいえ、レッドグレイブ家の跡継ぎを殴ろうとした場面は、多くの人間が目にしている。

その光景を目の当たりにしたバルカスは、この先に待っているであろうお咎めのことを考えて頭を抱えていた。

しかも、自分の息子であるリオンが空賊退治で発見した財宝をめぐって、自分の正妻が連れてきた神殿の一団と、レッドグレイブ家・アトリー家の関係者が、大乱闘を始めて、あちこちで大小さまざまな爆発が起きている。

思えば、リオンの周りで色々なことが起き始めてからまだ一年ちょっとしか経っていない間に、発生した出来事が多すぎて、バルカスとしては、そろそろキャパシティが限界に近付きつつあった。

そんな苦悩する父を、横目で見ていたリオンの心境も複雑なものであったが、そこにルクシオンがリオン以外に聞こえないような形で耳打ちをする。

「マスターの話だと、あの首飾りはオリヴィアが聖女として認定されるためのアイテムとのことですが、それが原因でこんな騒動になっています。これでは、まるで呪いのアイテムですね」

「他人事みたいに言うな!見ろ、親父の目から生気が抜け落ちて、メンタルのライフがもうゼロで見てらんないよ!どうにかできないのか!?」

「私の本体を使って丸ごと排除するという手段以外でしたら、神殿勢力の本隊に首飾りを渡してこの場を収めるしかありませんね」

「それでギルバートさんが止まると思うか?」

「こちらに接近中の神殿側増援部隊の制圧には、同じく接近中のレッドグレイブの鎧部隊が必要でしょうから、約1時間ほどあれば止まるかと」

「・・・それじゃあせっかく発展してきた領内が、焼け野原になる。もっと早く終わらせろ」

「それでは、プロトタイプアロガンツをこちらに呼んで一気にカタを付けさせましょう」

「転生者だとしても、神殿とドンパチやるって戦国武将かよ・・・」

リオンの的外れな呟きをよそに、聖女のアイテムを巡る暴力の応酬は次のステージに進もうとしていた・・・




あけおめです
乱闘シーンが膨らんでマリエたんにブチ切れる場面まで進まなかっただと!?
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