乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です   作:りーおー参式

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遅くなりました、またしても一万字超えて分割すべきだったかもと少し後悔

相変わらず乙女ゲー世界になのに、色気がなく、血の気ばっかり。
どうしてこうなったw


第45話 潰える野望(2回目)

炎や雷の魔法がそこかしこを飛び交い、あちらこちらで爆発と煙を巻き上げる中で、僕withアトリー家の文官連中vs神殿の騎士達との乱闘が続いていたのだが、ようやく最初に襲い掛かってきた連中を叩きのめし、

自分の足で立っているのは、リオン君の父親であるバルトファルト男爵の正妻が連れてきたヒステリック女神官だけとなっていた。

さすがに多勢に無勢だったこともあり、僕も無傷ではなく、軽く四、五発は殴られて変装用のグラサンはとっくに吹き飛んでいるし、魔法によって起きた爆発の土煙のせいで埃まみれとなっている。

女神官は、怒りと悔しさで顔を真っ赤にしつつも、にじり寄る僕らから逃れようと少しずつ後退している。

怒りのほうが勝って、怯えて顔が青くなったりしないあたりからすると、僕らの素性を知らずに、こちらを見下しているのだろう。

さあ、そろそろ正体を明かしてタイラント系ジェネラルごっこでも始めてみようか。

余・・・いや、僕の顔、見覚えないか?と言ったとしても、初対面ではあるのだが、淑女の森の構成員のお友達なら、僕の顔をよく見れば、誰なのかはわかるかもしれない。

ちなみに、辺りを見回したところ、バルトファルト男爵の正妻の姿が忽然と消えている。

僕にけしかけたエルフの奴隷というか専属使用人どもは、血まみれだったり、大やけど状態のまま倒れて気を失ったままなので、役に立たなかった奴隷のことは見捨てたのだろう。

お友達がけしかけた騎士達も僕らにケンカを売って返り討ちに遭ったのを見て、トンズラこいたのだろう。小悪党ほど逃げ足が速いものだね。

仕方ないので、残った神官に落とし前を付けさせるか。

「さあ、気を取り直して、売られた喧嘩の精算をしましょうか」

首を左右に回して音を鳴らし、顔の埃を拭いながら神官に近付いていく。

これでこの場は勝ち確定だと思ったのだが、何か大きな質量が地面を揺らしながらこちらに近付いてくる音が聞こえてくる。

音がする方向に目をやると、バルトファルト男爵領の港のある方向から、数機の鎧が歩いてこちらに向かって来ていた。しかも、鎧と一緒に、数十人もの騎士もいる。どうやら神殿の連中の援軍のようだ。

「ど、どうするんですかギルバート様!」

増援を見て焦ったアトリー家の文官が僕の名前をあっさりと言ってしまった。女神官のほうを見ると、先ほど真っ赤だった顔が見る見るうちに青くなっていく。

ようやく、自分達が誰に何をしたのか理解したらしい。もうちょっとだけ、もったいぶって、煽ってから正体をばらしたかったのに、あっさりとネタバレしたらつまらないじゃないか。

こうなったら、アトリー家の文官連中を、よりガッツリとこの乱闘騒ぎに巻き込んでやろう。

「騎士団連中なら、乱闘をもう一ラウンド追加するだけですよ」

数百人が相手ならさすがに厳しいが、数十人程度なら、一人一人のノルマは十人ちょっとだ。エンドレス〇ルツの最終決戦に比べれば可愛いものさ。

「鎧まで出てきちゃったらおしまいですよ!」

「乱戦に持ち込めば、チキンな神殿騎士は味方の巻き添えを恐れてまともに打ってこないから、撃たれる前に距離を詰めれば何とかなるでしょう」

「そんなレッドグレイブ家のオラオラ系ストロングスタイルを基準にしないでください!」

こらこら、人の実家を過激派貴族みたいに言うんじゃない!

アトリー家の文官達も、敵の増援でだいぶテンパっているのか、ずいぶんと遠慮がなくなってきたね。

「そうだ!オフリー家討伐作戦のときみたいに、鎧が勝手に飛んできたりしないんですか!?」

どうやら、彼らもオフリー屋敷で、僕らが魔装に追い回されていた時に、アロガンツブロスがパイロット抜きで助けに来た光景を見ていたらしい。

だが、毎回そんな都合のいい展開になるわけないじゃないか。

確かにあの時は、自動操縦というか自立行動をしていたような気もするが、屋敷のすぐ外にアロガンツブロスを置いていたから、音声入力的な何かが働いたのかもしれない。

ロストアイテムなんだから、解析しきれていない機能がいくつかあったところで不思議ではない。

他方で、今回、アロガンツブロスは僕が乗ってきた公爵家の飛行船の中に格納されたままで、僕の声が届くはずもないから、助けに来るなんてのは願望だろうと思う。

そんな事情を知らないアトリー家の文官連中は慌てふためきながら、僕を取り囲んで懇願を始める。

「ギルバート様の鎧って、バルトファルト子爵の鎧とおんなじでロストアイテムなんですよね!?ちょっと呼んでみてくださいよ!!!」

必死になっているせいか、やけっぱち気味に僕の肩を掴んで訴えかける視線に、なんだか憐れみの感情が生まれるのと同時に、ほんの少しだけだが心が痛くなる。

「・・・やってみるだけですよ?」

繰り返しになるが僕はそんなに都合よくアロガンツブロスが飛んでくるとは思ってない。

だが・・・だがしかし、だ。

神殿の部隊が少しずつこちらに接近する緊急事態間近の中ではあるものの、ふと思ってしまった。

ロボットを呼んだら飛んで来るなんて、男のロマンじゃないか、と。

緊張感がないというなら、そのとおりだろう。でも、思い付いてしまったんだ。ならば、やってみるしかないじゃないか!

前世の記憶を手繰り寄せながら、愛機を呼ぶ場面がある作品をいくつかピックアップしてみる。

よし、まずはこれだ。

「出ろおぉ!アロガァァンツ!!」

機体の名前を呼びながら、指をパッチンと鳴らしてみた。

結果?そんなの、決まってるじゃないか。僕の声が、虚しく響き渡っただけだった。どうやら、流派東方不敗じゃないとダメらしい。

ならば・・・これならどうだ!

「アロガァァンツ、カァムヒアアァァ!!」

再び僕の絶叫だけが虚しく響いた。どうやら、日輪は我にないらしい。

アトリー家の文官連中が、全員そろってジト目を浮かべている。

言葉は発していないものの、何を言わんとしているのかはだいたい想像がつく。

いやいやいやいや、お前らがやれって言ったんじゃないか!?頼まれたから恥ずかしいのを我慢してやったのに、その反応は酷くないか!?

どうするんだよ、この空気!とんでもねえ赤っ恥じゃないか・・・レッドグレイブだけに。

「まだ他に何かないんですか!?」

「恥ずかしさがまだ捨てきれてませんよ!」

「あ・・・諦めないで!」

ええい!どさくさに紛れて、化粧品のCMに出てくる女優みたいな台詞を吐くな!

そして、他の何かと言われて、ある演出が思い浮かんでしまった。自分の前世の記憶力が恨めしい。もうこれ以上はやらないからな!

そう心に決めて、僕は内心ほぼヤケクソな心境になりつつも、手元の剣を両手で掴み、体の正面で剣先を大空に向けて構え、大きく息を吸って愛機の名前を呼ぶ。

「アロガンツブロスゥゥゥゥゥゥ!!!」

・・・ほら、やっぱりダメだったじゃないか。お前ら、よくもおちょくってくれたな!?

笑い声を出すのを必死にこらえているのか、文官連中の肩がプルプルと震えている。

すでに鉄火場ど真ん中だが、もうそんなの関係ねえ!神殿の騎士達がこっちに辿り着く前に、文官連中を一発ずつぶん殴ってやろうと、僕が拳を握ったそのときだった。

「はーーーーい!!」

「「「え・・・?」」」

若干テンションが高めで無邪気な返事が空から地上に響き、僕と文官連中の間抜けな声をハモらせると、上空で雲が裂けて、何かが一瞬だけ光る。

そして、僕らと神殿の増援部隊の中間くらいの位置に、巨大な黒い塊が降ってきた。地面に衝突する寸前に、背部のウイングが火を噴くと、大きく土煙をまき散らしながら、ゆっくりと1機の鎧が僕の前に姿を現した。

言うまでもない。リオン君から提供を受けた、試作型アロガンツの改修機、そして、僕の相棒である通称アロガンツブロスだ。

さすがの僕も、呼び出す方法の正解が、魔〇英雄伝だとは思わなかった。実は覇〇体系かもしれないと思っていたので、財布の中から、お高い夜の店の会員カードを出さなくてよかったと思ったのは内緒だ。

それにしても、何と言えばいいのだろうか。出てきてくれたことに助かったと思っているのと同時に、戦国時代のお館様とかグラサンにスキンヘッドの隼さんのような野太い声の返事が来なくてホッとしている自分もいる。

もしあの声で”はーーーい!”なんて聞こえた日には、システムのバグか故障を疑ってしまう。

とは言え、オフリー屋敷で魔装とかいうロストアイテムに追いかけ回されていたときもそうだったが、都合のいいタイミングで助けに来てくれるものだ。

どういう原理なのかは、本当はわからないが、すごいな、ロストアイテム。

さて、気を取り直して、相棒が”僕に乗るんだ、ギルバート!”とか言い出す前に、アロガンツブロスの元に走りよると、機体が膝をつき、手を差し出しながら操縦席のハッチが静かに開く。

中に乗り込んで、ハッチを閉じると、前方の鎧部隊が、慌ただしく武器を構えようとしているところだった。こちらにも鎧が現れたのを見て、舐めてかかっている場合じゃないと理解したのだろうね。

気を取り直して、神殿連中との武力衝突の第二ラウンドと行こうか!

最も近い距離にいた鎧が剣を手に取り、アロガンツブロスに斬りかかってくるが、この前に相手をした魔装とかいう化け物に比べれば恐怖感は皆無だ。

フットペダルを踏み込んで、背部のウイングが再び火を噴くと、その巨体に似つかわしくない速度でアロガンツブロスは、向かって来る鎧に肉薄する。

そのスピードに対応しきれなかった敵の鎧が攻撃を繰り出す前に、アロガンツブロスの拳が相手の頭部を粉々に砕いて、後方に吹き飛ばした。

一撃で吹き飛ばされた僚機の惨状を見た他の鎧は、接近戦を避けようとしたのか、携行していたライフルをこちらに向ける。

このまま敵の砲撃が始まっても、アロガンツブロスに対するダメージは無いようなものだろうが、後ろにいるアトリー家の文官連中やリオン君が流れ弾の被害を受けかねないね。

この世界の主人公であるオリヴィアさんの攻略対象であろうリオン君に何かがあってはマズい。

急いで機体を上昇させると、それを追って敵さんの武器の照準も上空のアロガンツブロスに向けられる。これで流れ弾の心配もなくなったね。

「ブロス!強引に突撃して一気に潰すぞ!」

「了解!迎撃用の武器は?」

「グレイブ一本で十分だ!」

こちらに向かってライフルを撃ってくる敵の鎧部隊に向けて、アロガンツブロスが一気に距離を縮めていく。

放たれた弾丸は、機体に命中する直前に魔力シールドで弾かれてダメージとなるものはない。たぶん、命中してもこちらの装甲に傷すら付けられないだろうけど。

そして、相手の鎧の懐に入り込み、そのまま上空からショルダータックルをぶち込むと、相手は地面に、背中から叩きつけられる格好で激突し、その衝撃で地表を抉りながら吹き飛ばされていく。

残りの鎧部隊は、改めてアロガンツブロスに銃口を向けるのだが、既にほとんどがグレイブの攻撃範囲内と言っても差し支えない範囲にいる。

あえて言うのであれば、必殺技を出すまでもなく、これでジ・エンドだ。

「グレイブをぶん回せ!」

アロガンツブロスが手にしているグレイブを力任せに何度も振り回し、周囲にいる鎧部隊は、その装甲を易々と切り裂かれて、ある鎧は腰のあたりから上半身と下半身に綺麗に分断され、別の鎧は首を跳ね飛ばされていた。

一応、空賊ではないから、コックピットのある胸元周辺はさすがに外してあげたけどね。

ひと通り残存する神殿の鎧が全て戦闘不能になったところで、港のほうから神殿の飛行船がこちらに向かってきた。

ほほぅ、また増援部隊が出てくるなら、飛行船ごと沈めるか・・・それとも、飛行船を浮かせている浮遊石を分捕ったほうがお得か。

・・・おっと、いかんいかん。これでは思考が空賊と大して変わらないじゃないか。

今さら飛行船の1つや2つ出てきたところで、状況を変えられるとしたら、リオン君のパルトナーのような戦闘力の高い飛行船や、

飛行船を大気圏内でバレルロールさせたり、戦略兵器をドリフトして避けるようなぶっ壊れ能力を持ったスーパーナチュラルな操舵手くらいだろう。

そんな世界のバグのような奴がいたら、ぜひとも公爵家にスカウトしたいものだ。世界のバグというなら、僕やあのマリエというクソ女もバグなのかもしれないが。

若干話は逸れたが、万が一、飛行船の大砲が領内で乱射されたりでもしたら、バルトファルト男爵領の被害がとんでもないことになってしまうから、神殿の飛行船の無力化はしておいたほうがいいだろう。

「ブロス、敵の飛行船に仕掛けるぞ」

「・・・」

あれ?いつもだったら、無邪気な声色の返事があるのに反応がない。突然の反抗期到来というわけでもないだろうに、どうしたことだろう。

そんなこと思っていたら、コックピット内にアラート音が鳴り、機体後方の画像がコックピット内に拡大して投影される。

映っていたのは、リオン君のようだ。こちらに向かってきているようだ。しかも、手元には拡声器のようなものを持っている。

「こちらは、リオン・フォウ・バルトファルト子爵だ。神殿の飛行船に告げま~す。お前らが相手にしてるのは公爵家の跡継ぎ様だぞ、わかってんのか!?肩のエンブレムが目に入らないのかぁぁぁぁぁ!!!」

しまった!リオン君に、王妃様が学園祭にお忍びで来てた時の、茨城の元バイスプレジデントのようなムーブを決められてしまった!

せっかくなら、一度は大勢の目が集まる中でド派手にやってみたかったのに。

そういえば、アロガンツブロスの肩には実家の家紋が書かれていたね。戦闘時には、とんでもない機動力で動き回るから認識することのほうが難しいのだろうけど、気付かれるのは時間の問題だったか。

そして、数分後、飛行船に白旗が揚げられて、着陸した飛行船から、今回、バルトファルト男爵領に派遣された部隊の指揮官と部下と思しき騎士達が、両手を上げながら降りてきた。

ようやくお話合いをする気になったようだね。

ならば、僕だって好きで暴力を振るっているわけじゃないんだから、話くらいは聞いてあげるとしよう。

おっと、その前に、今回の騒ぎの元凶となったヒステリック女神官も連れて行かないとね。せっかくだから、アロガンツブロスの腕で鷲掴みにしてお話合いの場に連れて行ってあげるとしよう。

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お話合いの会場となったバルトファルト男爵の屋敷の大広間に、僕、リオン君、そのパパであるバルトファルト男爵、アトリー家の文官連中に、

神殿騎士の一団の指揮官であるという将軍、お宝の真贋を判別する鑑定士に加えて、今回の騒動の元凶とも言える、ヒステリック丸眼鏡女神官だ。

指揮官と女神官は真っ青な顔をして下を向いているのに対して、鑑定士は女神官に対して、これでもかというほどの憎しみを込めた視線を向けて睨みつけている。

まぁ、鑑定士の立場としては、こいつらが馬鹿をやらかしてお宝が戻ってこなくなったら、専門家としては絶対に許せないだろうから、気持ちはわかるよね。

「さて・・・まずは、今回、神殿が大部隊を連れて、辺境の浮島までわざわざ押しかけたのかを説明してもらいましょうか」

これを当事者から説明を受けないと、話が始まらない。

一同の刺すような視線が集まった女神官は、うつむきながら、何かをボソボソと話すが、その内容は聞き取れない。

その状況に苛立ったのか、鑑定士が女神官の座った椅子の足に蹴りを入れ、女神官が小さく悲鳴を上げた。状況を見かねたのか、指揮官が彼を制すると、鑑定士は渋い顔をしながら大きくため息をつく。

しばしの沈黙の後、女神官もさすがに観念したのか、ポツリポツリと事情の説明を始めた。

リオン君の手によって捕縛された空賊ウイングシャークの首領に対する取調べの結果、行方不明となった神殿の宝、しかも初代聖女ゆかりの品がウイングシャークからリオン君の元に渡ったことが判明し、

神殿内で宝を取り戻すための対策を協議していたことを聞きつけた女神官が、リオン君の父であるバルトファルト男爵の正妻であるゾラに接触したのだという。

その上で、女神官は手柄と宝を取り戻した功績を、リオン君を逆恨みしていたゾラは神殿の力を背景に、彼の財産を奪おうとした、というなんともあさましい動機のようだ。

そして、神殿の上層部に、極悪非道の騎士が相手になるが、自分達なら上手く財宝を取り戻せると売り込みつつ、いざというときは武力で解決しようと、騎士団の大部隊に加えて鎧も持ち出したらしい。

なるほど、将来の聖女であるオリヴィアさんにも関係しそうなアイテムである初代聖女ゆかりの品を、リオン君が持っていた、というのはやはり運命というか、そういった関係になるべくしてなるよう定められているのか。

リオン君は、追加コンテンツの攻略対象なのだという推測が補強されたように感じるね。

ただ、そんな乙女ゲーの都合とは別に、現実の政治的な話として考えたときに、一つの疑問が残る。

現役の子爵本人、しかも、空賊討伐に加えて、黒騎士を含めて公国の艦隊を退けた実績を持つリオン君を相手に、そんな無体なことをしようとすることに異を唱える者はいなかったのだろか。

黒騎士周りだけは、アークライト家の剣聖ジュニアの功績ということに対外的にはなっているとはいえ、ずいぶんと傲慢な意思決定に思えるね。

これが組織の体質なのか、それともリオン君をネガティブな意味で特別視していることによるのかはわからないが、もしかしたら少し背後に何らかの事情があるのかもしれない。

まあ、女神官とかゾラといった当事者の思惑は、僕らの想像の域を出るものではなかったが、改めて当事者の口から聞くと辟易するものだね。

こいつらにとって誤算だったのは、リオン君の取り込みを図ろうとしていた公爵家と伯爵家が、男爵領に来ていたということだろう。

その結果、知らなかったとはいえ、公爵家と伯爵家の関係者を暴力で排除しようと試みただけでなく、ステゴロの大乱闘に加え、アロガンツブロスの大立ち回りの結果、

引き連れてきた神殿騎士のほとんどは重軽傷を負い、鎧も大破することになっている。もはや責任問題のレベルが現場でどうこうできるものではないのが笑えるね。

「さて、騒動をどう着地させるかだが・・・まずは、子爵はどのようにお考えですかな?」

公爵家とはいえ、僕はただのボンボンで個人として爵位を持っているわけではないので、形の上ではリオン君のことから優先的に処理するために、話を向ける。

リオン君は、てっきり自分が後回しになると思っていたのか、話題を振られたことに少し驚いていたが、しばし悩んだ後、相対する将軍に向けて、口を開いた。

「貴方が責任者ですか?」

「はい。この艦隊を率いています・・・ご、誤解しないでいただきたいのは、本当に我々は神殿の宝を受け取りに来ただけなのですが・・・」

おいおい、これだけあれだけの騎士やら鎧やらを準備してきて、受け取りに来ただけ、というのは理解に苦しむねぇ。もしかしたら、新手の冗談なのだろうか。

「その割にはずいぶんとしっかりした戦力を連れてきたようですねぇ」

「・・・申し訳ございませんでした」

僕が一言嫌味を挟むと、将軍は再び顔を青くして黙ってしまう。

そこで、リオン君が脇から、木箱を取り出して、将軍と鑑定士の前に差し出した。箱の中にはやわらかそうな布が敷き詰められ、その上には、年代物ではあるためか、どこか不思議な感じのする首飾りが置かれている。

「それで、この首飾りは本物なんですか?」

慎重に首飾りを確認した鑑定士は、激しく首を縦に振りながら、目を輝かせている。

「ま、間違いありません。伝承通りです!」

「こ、これが失われた宝!」

将軍が報告を聞いて震えている。”記録通り”ではなく、伝承云々言っているということは、所在をロストしてから少なくとも数十年は経過しているのかもしれない。

「大事な物なら、ちゃんと神殿で保管してください。それより、そこの人達を連れて帰ってよ、お目当ての宝以外にも財宝を出せとか言われたから困っているんだけど」

「もちろんです!本当にこの度は申し訳ございませんでした」

え・・・それだけ?お宝、返しちゃうの?女神官といい、ゾラとかいうババアといい、関係ない財宝まで集られたというのに、これで済ますのか?

あっけないにもほどがあるじゃないか。だとしたら、リオン君の狙いは何だ?

いや待てよ?ゲームの都合を考えるなら・・・リオン君が財宝を前向きに差し出せば、神殿とリオン君の関係が改善する。

関係が改善すれば、将来的に聖女となるオリヴィアさんの肉バイ・・・いや、パートナーとしてリオン君のことを認めるときに、物事が円滑に進むようになるだろう。

なるほど、これなら、ゲーム進行上の辻褄は合うということができるね。

ならば、僕としてもこの乙女ゲー世界のご都合主義に乗っかっておいて、解決する方向に持っていったほうがいいだろう。

「・・・子爵は非常に慈悲深いようですね。ただ、この度の非は、そこの神官、つまり神殿側にあると言わざるを得ない。相応に誠意は尽くすという理解でよろしいかな?」

「はい!このことは。上層部に伝えて必ず対応させていただきます!」

将軍が表情を明るくして即答した。さて、次は僕の番だ。アトリー家の文官連中も一緒ではあるが、とりあえず僕の問題ということでざっくり括っても問題は大きくないだろう。

「ではまず、今回暴れた連中は、現場で離反した暴徒であって、神殿には関係ないと主張なさいますか?」

「この場でそのような言い逃れは認められないと理解しているつもりです」

どうやら最低限・・・本当に最低限だが、きちんと部下の不始末は上司の不始末だという管理職としての認識は持っているようだ。

「よろしい。では、次は僕の番ですが・・・将軍にはこちらの書類にサインをもらえますか?」

そう言って、アトリー家の文官連中から渡された紙を受け取って、ペンと一緒に、将軍の前に書類を置く。

書いてある内容をざっくり要約すれば、

・神殿側に属する神官が騎士をけしかけて、レッドグレイブ公爵家の長男及びアトリー伯爵家の文官に危害を加えた

・さらに、神殿側は、現場で起こっている衝突現場に、鎧数機を持ち出して応戦した

・これらの事実を、間違いがないものとして認めるとともに、責任が全面的に神殿側にあることを認める。

という事実確認する書類だ。

「こ、これだけなのでしょうか・・・」

将軍がやや困惑しながら質問してくる。

「僕や彼らアトリー家の文官個人としての賠償を求めることも可能ですが、もう今回の一件は、公爵家に加えて、現役の大臣が当主の伯爵家にも関わる大問題に至っています」

「・・・ということは・・・」

「もはや将軍殿が負い切れる責任の範囲は超えていてお困りでしょう」

前世に比べてはるかに高い顔面偏差値で爽やかな笑顔を浮かべながら、将軍に語り掛けてやる。

だが、こちらの言っていることの意味がなかなか伝わっていなかったのか、将軍は若干ポカンとした表情を浮かべている。

それを見かねたのか、ここまで余計なことに巻き込まれないためなのかはわからないが、沈黙を続けていたアトリー家の文官連中が助け舟を出した。

「要するに、責任の根拠となる事実だけ認めれば、あとは責任の中身をどうするかという話になるので、そちらの上と私達の家が直接話を付ける、という趣旨ですよ」

「ギルバート様は筋さえ通せば下の者に無理を押し付けたりはしない方ですから」

「筋を通さなかったときの暴れ方が、常識で計りきれないくらい苛烈なだけです」

「将軍殿も、もう過去は変えられないんですから考えるのは止めて、お偉い方々に全部丸投げしてしまったほうが楽ですよ」

なんだろう・・・そこはかとなくディスられているように聞こえるのは気のせいだろうか。

とにかく、今回の一件は公爵家から神殿に対する大きな貸しになる。そして、貸しを今すぐに取り立てる必要はない。

オリヴィアさんが聖女になった暁には、リオン君ともども、公爵家が庇護というかケツ持ち役になるつもりだが、俗世だけでなく国教に対する影響力を、公爵家の当主となった僕が持つことが可能となるだろう。

王妃の実家という立場を得ることは叶わなくなってしまったが、次善の着地点としては悪くないはずだ。

災い転じて何とやらだね。それを考えれば、腹立たしく思うことも今回は多かったが、こいつら神殿に大しても優しくしてやれるってものさ。

「・・・ご配慮痛み入ります。この度の大乱闘のことはともかく、バルトファルト子爵も、ギルバート様も、聞いていた噂とはずいぶんと違いますね」

「「噂?」」

「傍若無人な方々だと聞いておりましたので、聖女様が怒るのも無理はないと思うのですが、話に聞くよりも落ち着いた方々で安心いたしました」

「は?聖女様?」

「あ・・・」

安堵から出た失言なのか、しまったという顔をした将軍がとんでもないことを口にした。どういうことだ?聖女はオリヴィアさんじゃなかったのか?あの子は今、うちの領地で妹とイチャイチャ百合百合してるはずだぞ!?

仲睦まじく馬上でベタベタしていた2人の様子を頭の中で思い出しながら思考を巡らせていると、先にリオン君が口を開いた。

「聖女・・・様が見つかったのか?」

「面識はおありかと思いますが、マリエ・フォウ・ラーファン様です。この首飾りと同様に、失われていた腕輪を持って神殿に現れまして」

「あ゙!?」

思考とか理性とか言われるものが仕事をする前に、声が出て、拳がテーブルを叩き割っていた。

二つに割れてテーブルがバランスを崩し、その上に置かれていた紅茶のカップが転がって白色のテーブルクロスが赤みがかった茶色に染まる光景を、思考がフリーズした状態で見ている。

数秒してから、自分がフリーズしていたことに気付くのだが、今度は怒りの感情が自分の中から猛烈な勢いで湧き上がってくるのがわかる。

・・・あの黄色い毛虫こと、マリエが聖女!?

僕と同じく転生者で、前世で夜のお店のトップ嬢をしていて、つい最近、王都地下のダンジョンで僕と殴り合いをしたあのクソ女が聖女?

この乙女ゲー世界の攻略対象全員を誑かし、妹が王太子と婚約解消することなった元凶がよりにもよって聖女?

「あんのクソアマがあぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁ!!!!!!!!」

つい大声を上げてしまったが、怒りがあふれる中で、辛うじて残った冷静な思考部分が、1つの事実を認識する。

マリエが聖女になったということは、この世界の主人公であるオリヴィアさんが聖女になれないということだ。

それはつまり、僕の将来の計画が、またしても、一度ならず、二度までも、マリエによって妨げられたことを意味している。

ナニソレ・・・あいつは僕への嫌がらせ特攻スキルでも持ってるの?

どうしよう、なんかおかしくてもう逆に笑えてくるんだけどぉ!?

くっそぉぉぉぉ!あのとき、ぶっ〇しておけばこんなことにはならなかったのにぃぃぃぃぃ!!!!!!

「おい、将軍!あの腐れ女が公爵家に何したかわかってんのか!?」

「ひぃぃぃぃぃ!」

「うちだけじゃねえ!あの女の肩持つってなら、こいつらアトリー家だって黙っちゃいねえぞ、あ゙!?」

傾いたテーブルに足をかけて、手元の剣を引き抜いたのだが、そこで後ろから一斉に羽交い絞めにされた。振り向くと、アトリー家の文官連中が必死に僕の両手、両足に纏わりついている。

「ギルバート様、落ち着いて!」

「さすがにこの場で殺したらマズいですって!」

「この人達を消したって神殿の連中はトカゲの尻尾切りできたくらいにしか思いませんよ!」

・・・そうだな。貸しはすぐに回収したっていいものな。

数分前には、神殿に対して優しくしてやることもできると心の中で呟いた気もするが、前言撤回だ。

「よし、では今から神殿に乗り込みましょう。怪我した神殿騎士達や壊れた鎧をちゃ~んと送り届けてあげる必要があるでしょうから」

「「「「「は?」」」」」

将軍、鑑定士、女神官にアトリー家の文官連中の声が綺麗にハモる。

ボコボコにされた騎士団を飛行船に括り付けて乗り込めば、先制攻撃をしてくるだろうから、反撃でボコボコにしてやるとしよう。

仮に神殿を物理的には焼けなかったとしても、社会的に大炎上させてやる。

------------------------------------

数日後、バルトファルト男爵領には、再びアトリー家の飛行船の姿があった。

リオンは、自分が所有する浮島の温泉につかりながら、その報告をルクシオンから受けていた。

「マスター。アトリー家が神殿から現金と財宝を持ってきました。マスターへの慰謝料に加えて、先日の戦闘で荒れた領内の原状回復の費用も含まれているようですが、一般的な相場に比べて相当高額です」

「・・・結局、ギルバートさんはどうなったんだ?」

「アトリー家が早々に当主である大臣に連絡を付けて、神殿到着前に、ギルバートを説得させて、神殿の焼き討ちだけは何とか阻止できたようです」

「めちゃくちゃ怒り狂ってたけど、さすがに大臣が出てきたら止まらざるを得なかったんだな」

「代わりに、神殿側に対しては、公爵家と伯爵家の両家から膨大な額の賠償を請求したようで、聖女のための予算が消し飛ぶどころか、神殿は平時の業務にも支障が出始めています」

「神殿のメンツは丸潰れだな」

この先のゲームのシナリオを知るリオンにとっても、マリエが聖女となったことは許せないものであったが、

一方で、公爵家と伯爵家の怒りを再び買って、マリエが金に苦しむ様を想像すると、いくばくか気分が晴れるのも事実だ。

「神殿は王宮に泣きついたようですが、王宮も公爵家への後ろめたさがあることから、大々的に支援することは難しいようですね」

「それにしても、結局、ギルバートさんとは転生者どうしの話はできずじまいだな。マリエはともかく、どこかで擦り合わせをしないと」

「今回はアトリー家が人を派遣していたことがネックになりましたね。ところでマスターはオリヴィアを受け入れるのですか?」

「・・・今はそんなことを考えてる状況じゃないだろ」

「オリヴィアが、マスターのいうゲームのシナリオの中での重要な人物であるならば、緊急性は高いと思いますが。ギルバートがお二人をくっつけるべく暗躍しているのですから、そこに乗っかったらいかがです?」

「そこのところ、うまく誤魔化せたりしないかな?」

「また首を絞められますよ」

ルクシオンの言葉に、公国との戦闘時に告白され、その場を誤魔化そうとしたらパイロットスーツ越しに首を絞められたことを思い出し、リオンは背筋に寒いものが走るのを感じる。

嫌いではないし、あの一件で、距離を置くことはやめよう、近くにいようと考えを改めたところであったが、それ以上に踏み込む選択肢はまだ生まれていない。

むしろ、マリエによって再びこの先のシナリオがグチャグチャにされたことを踏まえて、予測のできない展開が待ち受けることを思うと、悩ましいことだらけなリオンであった。




ようやく原作2巻まで終わりました、原作様でさらっと、流すところばかり長く書いてる気がするぜえ

某不審人物系勇者ロボネタを最小限にした理性を誉めてw
でも、あれだけはリアタイしないと金曜日に仕事できませんw
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