乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です 作:りーおー参式
リアタイで勇気爆発視聴してたら、なんか筆がものすごく進んだのは内緒w
☆前回までのあらすじ☆
二度に渡って僕の野望を打ち砕いたマリエを聖女と認定した神殿にカチコミをかけるべく、僕はアロガンツブロスを積んだ公爵家の飛行船で、神殿に乗り込もうとした。
だが、神殿に到着する直前に、アトリー家の飛行船艦隊に取り囲まれた上で、こちらに乗り込んできたバーナード大臣に鬼気迫った顔で説得され、武力行使を断念する形となり、僕は神殿を焼き尽くすことができなかった。
今にも再び暴れ始めそうな僕を後ろに下がらせながら、大臣は、神殿の上層部にハードネゴを仕掛け、多額の賠償金の即金払いさせて、僕を王都にある公爵家の屋敷に押し込んだのだった!
------------------------------------
さて、僕が王都に戻ってきてから数日が経っていた。
時間の経過とともに怒りが鎮火した僕の現在の心境は、虚無という他ない状況だ。
ああ、こんな心境になったことが前にもあったね、決闘騒動の末にアンジェの婚約が解消となったときだ。
何か別のことを考えていないと、過ぎてしまった過去ばかり思い出されてしまって、思い出しついでに歴代の元カノ達は元気にしてるだろうか、とか考え始めてしまっている。
え?仕事?カチコミから帰ってきたときに、僕の執務机の未決ボックスに積み上がっていた稟議書の類は全て既決ボックスに移動済みだよ。
はあ、国境沿いの貴族の監査に向けた潜入調査のために数ヶ月ほど、王都を留守にしている間に、急な事情ができたので実家に帰ります、という書き置きを残して、公爵家のメイドを退職した元カノは元気だろうか。
そうだ、王宮内でこっそり付き合ってたのに、数日間だけ領地での公務をこなしている間に、いきなり王都からだいぶ離れた王族の直轄領内の部隊に異動になってた王宮魔術師の元カノは、新しい恋人と上手くいっているだろうか。
思い出し始めたらキリがないな。
自室の執務机で頬杖をつきながら、外を眺めると、窓から見える木の葉っぱがラスト1枚となっている。
・・・あの葉っぱがなくなったら、木は丸禿げだな。
丸禿と言って思いつくのは、公国の黒騎士だが、リオン君の手によって、公国の第一王女もろとも捕縛され、ロストアイテムだという大剣も王国の手に落ちた。
戦力はがた落ちだろうから、普通に考えれば、この先数年間は仕掛けてくることはないだろう。
目下の敵は、ヘルトルーデ第一王女を取り込もうとしていると噂の敵対派閥であるフランプトン侯爵だが、こと政治の場面になると、父が派閥の再編に重心を置いており、表立っては動いていないため、僕としてはできることがあまりない。
バルトファルト領で、エルフの専属使用人を僕にけしかけた、バルトファルト男爵の正妻であるゾラについては、僕に対する暴力行為の命令を理由として指名手配申請中だ。
あとやるべきことと言えば、リオン君の取り込みであるが、オリヴィアさんが聖女になるというシナリオが崩されてしまったため、ゲーム上の必然性からリオン君とくっつける必要はなくなってしまった。
もちろん、あんな強大な力を持った騎士を他の派閥に渡すことはできないと思っているのだが、オリヴィアさんとくっつけようにも、
裏で進めていた、僕がかつて結婚の面倒を見た辺境の貴族の家とオリヴィアさんとの養子縁組の手続きが、どういうわけか止まっているようで、結局動くことができずにいる。要は、手詰まりというやつだ。
そこら辺の手続きを所管する枢要ポストがフランプトン派閥で占められるようになったことが関係しているのかもしれない。
以上のことから、できること、やることがなくボーっとしているのだが、そんなときに扉が数回ノックされ、どうぞと声をかける前にガチャリとドアノブを回す音が聞こえた。
普通に考えて、開けていいと言う前に、僕の部屋に乗り込んでくるか?父や妹は別として、いないよね。
・・・いや、待て。それが何故か許されるやつが1人だけいたな。
「失礼します。紅茶をお持ちしました、若様」
「失礼しますと言うタイミングが、ずいぶんと遅いような気がするのは気のせいかな?」
ティーポットが置かれたカートを押しながら、部屋に入ってきたのは、予想どおり、我が家の腹黒眼鏡メイドのコーデリアだ。
ちょっと前にアンジェとオリヴィアさんと一緒に領地に戻り、二人が百合百合イチャイチャしてるのを幸せそうに眺めつつ、その面倒を見ていたはずだが、いつの間にか王都に戻ってきたようだ。
「おかえりなさいませ」
「君もな。未決ボックスを空にしてあるから、後で追加のものを頼む。それと、既決の書類を持って行ってくれ」
「かしこまりました」
執務机に置かれたカップを手に取り、出された紅茶を口に流し込む。
僕はお茶というものに興味はないので、ジルクが出してくる激マズなお茶以外、違いがわからないのだが、コーデリアの淹れるお茶は、熱すぎず、ぬるくなく、温度調節は完璧だ。
彼女は、レッドグレイブ公爵家の上級メイドであり、性格に難があるけど、身持ちは固く、能力は高い。
しかも、公国による修学旅行の豪華客船襲撃事件を手引きしたのが、公爵家の寄子の家の女子生徒であったことが判明したことの余波で、
屋敷内の貴族出身の使用人や上級メイドがかなり数を減らした結果、屋敷内のコーデリアの影響力は強まっているらしい。もう10年もすれば立派なお局になるだろうね。
・・・ずいぶんと彼女にとって失礼なことを脳内で呟いたが、あれ?いつもなら、そろそろ、毒づいた一言くらい出てくる頃だと思うのに、何も言ってこないだと!?
「君にしては、今日はずいぶんと静かだね」
「とおっしゃいますと?」
「嫌味か皮肉どころか、小言やお説教すらないとは思わなかった」
神殿から慰謝料をぶんどって屋敷に戻ってきたときに、血の気の多い脳筋系騎士連中からは大喝采を浴びた一方で、年齢が上めな家令達からは結構な数の小言を言われた。
神殿側の非礼を含めて、事情を説明したのだが、年寄というのは、思っていたよりも神殿という宗教団体に対する信仰を持っていたようで、そんなおじいちゃん達からしたら、もっと穏便に済ませてほしかったようだ。
そんな中、公爵家の中でのアンジェガチ勢兼僕アンチ筆頭のコーデリアが何を言って僕の心を抉ろうとしてくるのか警戒していたのだが、何も言ってこないというのは、それはそれで不気味だ。
「あら、若様は私に叱って欲しかったのですね」
「悪いがそんな癖はない。ただ、君が何も言ってこないと、何を企んでいるのかが気になる」
「そんな・・・私のことが気になるだなんて・・・」
「頬を赤らめて変なことを言うんじゃない!」
わざとらしく頬に手を当てて、可愛い子ぶった仕草が微妙にムカつく。
「でしたら、思うところを申し上げてよろしいでしょうか」
「僕の心が傷付かないように頼む」
数秒ほど間を空けて、シリアスな表情を浮かべたコーデリアが、まっすぐ僕を見ると、息を深く吸い、血走った眼を大きく開いた。
「あの神殿に巣食った生臭坊主ども・・・よくもアンジェリカ様を傷付けた魔女を、よりにもよって聖女なんかに・・・!アトリー家の大臣が余計な真似をしなければ、神殿もろとも灰に帰してやれたものを!」
・・・しまった。我が家のアンジェガチ勢筆頭に火を点けてしまった。
怒りに震えながら、伝承で聞くような魔女よりも魔女っぽいことを、真顔で言ってのけたコーデリアは僕の両肩を掴むと、力任せに僕の上半身を前後にシェイクし始めた。
「若様!これは、あなた様が売られた喧嘩でもあるのと同時に、お嬢様に売られた喧嘩でもあるのですよ!!わかってるんですか!?」
「コ、コーデリア、少し落ち着くんだ」
「これが落ち着いていられますか!」
「これでも僕のやったことは世間的には、わりと過激な部類だと思うよ?神殿の騎士なんて何十人も病院送りにしたよ!?僕、少しは頑張ったよ!?」
「ぬるいです!バルトファルト子爵が、元王太子の馬鹿王子を公衆の面前で叩きのめしたように、若様が神殿を焼き払い、万象一切灰燼に帰してやるべきだったのですよ!」
ヤバい・・・レッドグレイブ公爵家の赤い通り魔とか、爆炎の顔玉潰しとか呼ばれる僕よりも、ずっと過激な奴が身近にいたよ・・・言ってる内容が、もはや護〇十三隊の総隊長レベルの過激さだよ。
もはや、アンジェガチ勢から、アンジェの厄介オタに進化し始めてるような気がするぞ!?
なんか、自分以外の人間がここまでキレてると、逆に僕が冷静になってくる。
怒りのあまり、普通に馬鹿王子って言っちゃってるし・・・というか、実行犯というか手を汚すのは全て僕という犯行計画って酷くない?
「お嬢様を傷付ける連中は若様がみんな焼いてしまえばよかったのに・・・」
少し涙声になりながら、我が家の腹黒眼鏡メイドが躊躇なく恐ろしいことを呟いた。
やっぱり彼女の中では、手を下すのは僕の役割ということになっているようだ。解せぬ・・・
ただ、怒りが収まってきたのは間違いない。速やかにコーデリアの感情を落ち着かせなければ・・・
「少し深呼吸してみようか。コーデリアから見たら物足りなかったのかもしれないけど・・・」
「わかってますよ、若様も本気でお怒りだったってことは・・・」
「コーデリアに僕の心情を理解してもらえる日が来るとはな。明日は槍か斧でも降るのだろうか。君のアンジェに対する忠誠にはいつも感謝しているよ」
「でしたら、お嬢様のために、もっと頑張っていただけますか」
「・・・努力しよう」
「結果で示してください。そうしたら褒めて差し上げます」
なんか、少し調子に乗って来た気がするな。いや、突っ込むな。我慢するんだ、僕。
ここで怒りを再燃させたら、爆発物処理が最初からやり直しになってしまう。
「それは光栄だね。今日はいつになく気前がいいじゃないか」
「頑張った殿方にご褒美を与えるのも淑女のたしなみです」
眼鏡をクイっと上げながら、コーデリアがドヤ顔を浮かべている。良かった、どうやら落ち着かせることに成功したらしい。
雇い主は僕の側のはずなのに、褒めるのはコーデリアの側というのが腑に落ちないが、とりあえずこの場を乗り切ることが先決だ。
「この前、君が読んでいた恋愛小説に、そう書いてあったのか?」
「そ、そういうことは口にしないのが紳士のたしなみではないのですか!?デリカシーがありませんよ」
「あいにく、そんなものはあの学園に投げ捨ててきた」
「不法投棄です、拾ってきてください」
まったく、いつものことだが、僕がああ言えば、こう言って反論してきやがって。
とはいえ、ようやくいつもの表情筋が職務放棄しているコーデリアの顔と口調が戻ってきたな。
ああ、なんかとんでもない爆発物の処理をしている間に、どんよりした気持ちが吹き飛んでしまった。
トータルとしては、コーデリアに元気付けられてしまった結果が悔しい。
「・・・どうやら落ち着いたみたいだね。なんか僕もすっきりしたよ。礼は言っておくとしよう」
「それは何よりです。あ、それと、ヴィンス様が後ほど、部屋に来るようにとのことでした」
ずいぶんと思い出したような感じで言ってきたな。
父の用件とは何なのだろう。急ぎの用事なら、部屋に入ってきてすぐに言ってくるだろうに。
神殿の件の顛末も既に報告済みだし、このタイミングで呼ばれた理由がわからない。
------------------------------------
コーデリアの怒りが再び爆発すると厄介なので、すぐに僕は父の部屋にやって来たのだが、僕を呼び出したはずの父は何やら不思議そうな顔をしている。
「ずいぶんと早かったな」
「え?」
「色々と気落ちしているようだったので、コーデリアを向かわせたのだが、こんなに早く来るとは思わなかった・・・」
「父上、おっしゃってる意味がよくわかりません」
「ギルバート、お前・・・まさかそんなに早撃ちだったのか」
パパ上は何を言っているのだろう。
気落ちしてるからコーデリアを?しかも、早撃ち?
もしかしてパパ上は、とんでもない誤解をしているんじゃないだろうか。
「僕の名誉にかけて言いますが、僕とコーデリアは、父上が考えているような関係ではないですからね。真顔で何をおっしゃってるんですか」
「もしかして、本当に違うのか?」
「断じて違います。というか、わかってて言ってますよね!?」
「・・・息子も娘も、次々と世を騒がすから、父としては大変なのだ。家族相手なら、たまには息抜きがてらに、ふざけてみるのも悪くないだろう」
そうだった。パパ上は、世の中を騒がせた出来事を愉快だと楽しむことがたまにある。
リオン君が馬鹿王子と不愉快な馬鹿4人をボコボコにしたときも愉快だと言っていたのを思い出す。
「楽しそうで何よりです」
「お前の腰の軽さなら、その手の間違いは起きても不思議じゃないと思うのでな」
・・・実の父親から向けられる、僕の下半身への信頼の無さが悲しいね。
「それで、本当にそういう関係ではないのだな?」
「あの学園に入学する前に、父上からいただいた忠告を守り、貴族と寝たことはありませんよ」
「だからといって、貴族以外であれば好き放題に手を出していいと言った覚えもないがな」
「偉大なる陛下の影響ですかね」
「あのロクデナシとつるみだす前・・・学園に通っていた頃から、屋敷内ではメイドに手を出していただろう」
「人聞きの悪い言い方をしないでください。身分に関係のない純粋な恋愛を楽しんでいただけです」
「ということは、本当にコーデリアに手を出していなかったのか・・・」
よかった、ようやく疑いは晴れたらしい。
「コーデリアからは、神殿を灰になるまで焼き尽くさないのは、手ぬるいと説教されましたよ」
「・・・先にそれを言われると、私から、やり過ぎだぞと説教しづらいんだが・・・私も立場上、お前を手放しに称賛することはできん」
「父としてではなく、ということですか。今回の一件で、派閥から抜けたい家でも出てきました?」
「規模は小さくとも古くから傘下にいた家がいくつか、神殿を敵に回したくないと言ってきた。あと、ほぼ同時に、バルトファルト子爵ほどでないにしても、勢いのある新興貴族が色よい反応を示している」
「ならば実質的にはトントンですね。辺境で血みどろの殴り合いをして正解でした」
「お前のことを叱ろうにも、叱れないという、行き場を失った父の感情をどうしてくれる」
それ、八つ当たりというのではないだろうか。
「では、理不尽に雷を落とされる前に、領地に戻るといたしましょう」
「それなんだがな。私が領地に戻るから、お前は、しばらく領地に戻らなくていい」
実に苦々しい表情を浮かべた父の話によると、どうやら公爵領内の神殿支持勢力が、神殿カチコミ事件の後、すぐに公爵家に対して抗議活動を開始したらしい。
それであれば速攻で武力鎮圧すればいいと僕は思ってしまったのだが、ことはそう簡単ではなかった。
なんと、公爵家を支持する領民達の一部が、マリエを聖女にした神殿にブチ切れて、神殿支持勢力と正面からぶつかったらしい。
公爵家支持派の中でも、特に過激なグループは、公爵領内にある神殿所有の教会を襲撃したのだという。
領民達は、有り体に言えば分断状態というか一触即発状態のため、神殿とのトラブルの当事者である僕が領地に戻ると、公爵家派と神殿支持派の衝突は不可避のようだ。
「まったく・・・我らの領地の民は、コーデリアみたいな過激な連中ばっかりですね」
「鏡を見てるといい。前代未聞となる神殿との乱闘事件の首謀者の顔がバッチリと映っているぞ」
「父上としては、神殿支持派も領民だから、どうにかして着地点を見出そうということですか」
「こんな時期だから、長い時間はかけないつもりだが、私が不在の間は、自分の手に負えない問題だけは起こすんじゃないぞ」
起こすんじゃないぞ」
・・・解決できる問題は自分で何とかしろということか。
ちょっと待てよ?問題を起こすこと前提で言われたように聞こえたのは気のせいだろうか。
「それと、もう一つ、私を悩ませる話がお前に来ている」
そう言いながら、父は引き出しから一枚の封筒を取り出して僕に渡してきた。公爵である父を悩ませるとは、いったい誰からの手紙だろう。
封筒を手に取り、裏側を見てみると、蝋による封印がされている。封印自体は別に構わない。問題なのは刻まれた紋様だ。
何せ、ホルファート王国の王族が使うものなのだから、父も困るはずだ。
うーん、このタイミングで、神殿と大激突した直後の僕と接触したい王族って誰だろう。
普通であれば、しばらくは僕と距離を置くのが定石だろうから、そんな中で接触しようとしてくるなんて、事と次第によってはとても面倒くさいことになるぞ。
「廃嫡された馬鹿王子の後釜を狙っていると公言して憚らない第二王子とかじゃないですよね?」
「誰からと言うことはできないが、お前が心配している類のものではないから安心しろ」
「ならば陛下ですか?」
「あいつなら、私を通さず、私にバレないようにお前に接触する」
「確かに、おっしゃるとおりですね」
仕方ないから、封を開けて中に入っている手紙を取り出すと、差出人の名前こそ書かれていないものの、明日、指定の時間に、王宮内の一室に来るように、と丁寧に書かれている。
とてもシンプルな呼び出し状だ。問題があるとすれば、その筆跡が女性のものだということだ。誰だろう・・・全く心当たりがない。
過去の因縁とアンジェの婚約破棄騒動の結果、事実上の冷戦状態にある王妃様からの果たし状というわけでもないだろう。
「何もかもわからないことだらけなのですが・・・」
「必ず王宮に出頭するように、とのことだ。私にはそれしか言えん」
パパ上が遠い目をしている。きっと、父には根回し済みで、呼び出しの要旨は把握しているのだろう。後は僕次第ということか。ただ、こんな渋い顔をパパ上がしている理由がわからない。
考えても仕方ないか、何が出てくるかは分からないが、僕に選択肢はないのだろうから、行ってみる他ないか。最近の僕はこんな行動ばっかりだな・・・
------------------------------------
というわけで、翌日、指示されたとおり、王宮内のとある一室の前に僕はやってきた。
何が出てきても、命を取られるものではないだろうから、後はケセラセラ、なるようになるさ。さあ、鬼が出るか蛇が出るか。
扉をノックすると、声はしないものの、部屋の中から誰かが扉のほうに近付いてくる足音が聞こえてくる。
そして、扉が開いた隙間から、緑色の髪をツーサイドアップにした、見覚えのある女の子が顔を覗かせた。
「お久しぶりでーす、ギルb」
僕の名前が呼ばれ切る前に、強引に扉を閉めて、僕の視界からその子の姿を隠していた。これは思考ではない、脊髄反射による無意識の行動だったと思う。
どうして王族から呼び出しを喰らった先に、あの子がいるのだろうか。
そう、ジルクの妹で、オフリー討伐作戦の直前に、一瞬だけ、お見合いというか側室候補にねじ込まれそうになったジル子ことジュリア嬢が僕を迎えたのだ。
・・・あの子に関わるとロクなことにならない気がする。よし、帰るとするか。呼び出された部屋には行ったんだから、最低限のノルマは達成したはずだ。
「酷いですよ、ギルバート様。貴方の未来の側室候補に向かってぇ」
扉の隙間から声が聞こえてくる。よく見ると、扉が閉まりきっていない。細腕ながら、なかなかの馬鹿力じゃないか。
「オフリー討伐作戦は無事に完了したし、君の大切なお兄ちゃんであるジルクが戦場でとても頑張ったから、その話はもうなくなっている。君は自由の身だ、安心するといい。だから僕はこれで失礼する!」
実際には、僕とジルクとブs・・・じゃなかった、ステファニーの3人で魔装から逃げ回ってるときに、あのクズ女と僕のほうに魔装を向かわせやがったりもしたが、まあ、それは置いておくか。
「待ってくださいよぉ、今日の私は顔つなぎなんですから、話だけでも聞いてもらわないと困るんです~」
顔つなぎ?王族からの呼び出しで、ジル子ちゃんが繋ぐということは、この子と同じくらいの年齢の王族ということか。
ただ、仮にも令嬢であるジル子ちゃんが、つなぎをするなら男が出てくる可能性は低いだろうから、やはり第二王子が出てくるということにはならないはずだ。
ジル子ちゃんと同い年くらい・・・まさか第一王女じゃないだろな!?
あの王妃の娘と接触したなんて日には、レパルトの腹黒姫から何を言われるかわかったもんじゃないぞ!
しかも、王妃の娘なのに、陛下が溺愛してるからな!つまらないことで陛下の逆鱗に触れるような事態は避けたいんだが・・・
ついでに言えば、第一王女は、ラーシェルと国境を挟んで睨み合っているフレーザー侯爵家の跡取りの婚約者なはずだから、フレーザー家から変な恨みも買いたくない。
嫌な未来予想図ばかりが脳内を駆け巡る中、ジル子ちゃんの足をどかして扉を閉めようとしていると、中から声が聞こえてきた。
「あまり邪険になさらないでください。私、ギルバート様とお話できる機会を楽しみにしていたのですよ」
ん?この声・・・第一王女じゃないぞ?
予想外の展開に力が緩んだ結果、扉を開こうとしていたジル子ちゃんが、扉を全開にしてしまう。
ジル子ちゃんが勢い余って仰向けに転んでしまうのをよそに、僕の視界に入ってきたのは、紺色のロングヘアーに、リボンのようなヘアバンドを付けている女子だ。
手足が長くてスレンダーなフォルムをしており、小顔で、背筋が伸びているため、実身長よりも背が高く見える気がする。
・・・今回、僕を呼び出したのはこの子だったのか・・・
直接話したことはほぼなかったはずだが、立場上、面識くらいはある。
この女子の名はユリシーズ。あの馬鹿王子と違い、王妃ではなく、陛下と側室の間に生まれた、馬鹿王子の腹違いの妹である王女様だ。
王女様は、ゆっくりと立ち上がって、目を輝かせながら僕との距離を詰めてくる。
何故かはわからないが、僕の中の何かが最大音量でアラート音を鳴らしている。
そして、スラリと伸びた手を僕の顎元に差し出して、口を開く。
「お父様がいつもお世話になっております。さっそくですが、ギルバート様。単刀直入に申しますが、私と共に串焼きの未来のために手を取ってもらえませんか?」
え?串焼き?この王女様、一体何を言っているんだ?状況がさっぱり理解できない。
いや、待て!そういえば、噂で聞いたことがある。
このユリシーズ殿下、普段はおっとりしているのに、串焼きのこととなると、人格が豹変するとか、しないとか。
そして、そんな彼女のことを、一部界隈では、こう呼んでいるらしい。
串焼きマスター、と。
悪役令嬢の兄に転生した僕が、一体全体なぜなにどうして、王女様から串焼きの未来について語り掛けられているのだろう。
予想外すぎる展開に、目の前がクラクラしてくる気がする。
これもきっと、あのマリエのせいだ。マリエのせいに違いない。
きっと、きっといつか、その化けの皮を剥いでやるからな、覚えてろおおおぉぉぉ!
きっと誰もが予想外だったジル子ちゃん再登場&串焼きマスター推参
投稿時点でブクマがなんと千人になってました、
この邪道なお話にお付き合いいただきいつもありがとうございます
ボケるネタが浮かばなかったり、仕事忙しかったりして他の作者様のようには書けませんが、
引き続きどうぞよろしくお願いします