乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です   作:りーおー参式

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そろそろ3月末
原作様完結と勇気爆発ロスのダブルショックが心配


第47話 前世(ジャパン)ではそれをKATSUAGEという

神殿との乱闘事件に一応の決着が付きつつも、僕の実家である公爵家の王宮における影響力は大きく低下したままである一方、敵対派閥であるフランプトン派の勢いは増すばかりという状況下で、

王宮に呼び出された僕を待っていたのは、オリジナルの攻略対象であるジルクの妹であるジュリア嬢、通称ジル子ちゃんと、陛下の側室が生んだ王女であるユリシーズ殿下だった。

そして、僕の顔の前に手を差し出しながら、串焼きの未来のために、その手を取るよう言われている。

この王族は一体何を言っているのだろうか。僕が、状況の理解に苦しむ一方で、王女殿下はニコニコしながら僕に微笑みを浴びせかけてきている。

僕の妹の元婚約者だった元王太子が廃嫡された今、野心を隠さない第二王子と違って、この王女様が権力に意欲を持っているという話は聞いたことがない。

噂レベルでは、串焼きのこと以外には興味を示さないなどと言われて、串焼きマスターという仇名すらある。

いや、もしかしたら、串焼きというのは何かの隠語なのかもしれない。何せ相手は、側室腹とはいえ王族だ。

普通の貴族ですら、プリンを献上しろと言われて、そのまま前世のコンビニでも買えるような甘味を寄越せという意味に、素直に解釈する者はいないだろう。

王族が公爵家の跡取りを呼び出したのであれば、裏に意図があると考えるのが自然だ。

まず、ここは、すっとぼけて出方を探りながら、確認していくのが無難だろうな。

「殿下のおっしゃる串焼きというのは、もしかして市中の屋台等で売られている、主に肉類を鋭利な棒で刺し貫いて、味付けをしながら焼き上げていく、市中の者達が好んでいる食べ物のことでしょうか」

「はい。その串焼きです」

その串焼きかよおぉぉぉぉ!!っていうか、”はい”じゃねえよおぉぉぉぉ!!!

そもそも、なんで王族が串焼きの未来語ろうとしてるんだ!?しかも、なんで僕と語ろうとしてるんだよ!

即答しながら笑顔で首を横に傾けて可愛いアピールすんなよ、逆に不気味だよ!

「で、殿下が市中の食べ物に興味がおありという噂は本当だったようですね」

「あら♪私のこと、少しは知っていただいているようですね」

礼を言われても、ちっとも嬉しい気分にならないよ!最初からバッドコミュニケーションがクライマックスだよ!!笑顔の裏に何があるかわからなくて情緒が安定しねえ!!

ローズブレイド家の首輪令嬢とのお見合いとはまた違った意味で、どう会話していけばいいのかがわからない。

こうなったら直接聞いてしまった方がまだダメージコントロールできるかもしれないな。

「ところで、殿下が私をお呼びになったのはどのような理由なのでしょうか」

「ギルバート様が、物事を早く進めたがるせっかちさんだという噂は本当だったようですね」

ワンフレーズ遅れで、言い方をミラーリングしてきただと!?

前世の社畜時代に受講させられたコミュニケーション研修では、胡散臭い講師が、ミラーリングには、相手を良い関係を築きたい意思を伝える効果があるとか言っていた気がする。

合理的に考えれば、公爵家と距離を縮めたいということなのだろうが、やはり目的は不明なままだ。

「ギルバート様は、嫌な予感がすると話をすぐに終わらそうとなさいます」

だが、そんな僕の内心の逡巡をよそに、ジル子ちゃんが口を挟んできた。ええい、逃げ道を塞ごうとするんじゃないよ!

「あらあら。私のこともお嫌いなのですか?」

おっとりした感じを出しつつも、悲しげな言い方が僕の心にかすかな罪悪感を生み出した。

年齢差を前世基準で考えれば、社会人になって何年も経つ人間が、中学生くらいの子を傷付けたようなものだ。

内心はどうあれ、何か害を加えてきたわけでもないのだから、前世由来の道徳というか倫理観が足枷になっている気がする。

というか、私のことも、っていうのは、私以外が誰を指すんだよ!レパルトの腹黒姫こと僕の宿敵ともいうべき王妃様か、それともジル子ちゃんのことなのか。

さすが王族というべきなのか、一言一言を意味深に繰り出してきて、会話のイニシアティブを取ろうとしてきやがる。上手く流さないと、マズいことになりかねないね。

「大切な妹が深く傷付いた件のケジメがまだついていない状況下では、距離感も大切なのではないかと・・・」

「おーっとギルバート様が妹を盾にしつつ、話題を王家と実家の話にすり替えようとしているぞぉ!」

・・・ジル子ちゃんが会話の実況を始めやがった。ちょっと王女様に不敬じゃないのか!?

そんな僕の内心のツッコミは届かず、ジル子ちゃんをスルーしてユリシーズ殿下の追撃が続く。

「確かにあの件はお兄様が大変ご迷惑をおかけしました。ご心痛、お察しします。ですが・・・それは王妃様の派閥がケジメを付けるべきものですので、こうしてお話しすることまで妨げられてしまうのでしょうか・・・」

この王女様、またしても悲しげな雰囲気を醸し出して、距離を取らせまいとしてきやがる。

こういうところは、なかなか強かだな。自分は側室腹だから、アンジェの婚約解消騒動の話はスルーするつもりか。派閥の話がチラつくと、今の公爵派閥の微妙な立ち位置まで考えたら、無碍にもし難くなってくるぞ。

「おぉっとユリシーズ様は、王家ではなく、話を派閥単位に落とし込んで追撃していくぅぅ!これは、大胆な開き直りにも見えるが、さぁ、ギルバート様の退路が狭まって来たぞぉ!!」

・・・またもジル子ちゃんの解説が入る。これではまるで、格闘技の試合の実況中継じゃないか。一体どこでこんなスキルを身に付けたんだ!?

「ちょっとジル子ちゃん、何がしたいのかわからないが、不敬になりかねないからやめなさい」

「ジュリアさんには私がお願いしたんですよ。ギルバート様とのお話しを少しでも面白いものにしたいと思いまして」

王女様の指図かよおぉぉぉ!面白いのはアンタ達だけで、僕は全然笑えないんだけど!!

「殿下がこんなにユーモアにあふれた方だったとは、存じておりませんでした」

「とてもお仕事熱心で、身分の高くない官吏の方々とも壁を作らず広くお付き合いされていたり、仕事で長く辺境に出向かれることとも多かったですものね」

・・・おいおい、ちょっと待て。ずいぶんと僕の振る舞いに詳しくないか?

別に隠してたわけじゃないし、いろいろと噂されるような派手な振る舞いもしたかもしれないが、ほとんど接することもない相手のことを、そんなに知っているものだろうか。

「あの頃は、未来の王妃となって王国を動かすはずだった大切な妹を、兄として全力で支えるための基盤を作ろうと躍起になっておりましたので」

「そうだったとしても、私達王族と接していた、というお話しはほとんど聞こえてこなかったのはどうしてでしょう」

・・・言外に、王族と接するのを避けてたんじゃないかと問われているようだ。

そりゃそうだよ!いくら王族の親戚みたいな上級国民だからって、メンタルは前世パンピーの社畜だよ!

ボロが出ないように、触らぬ何とやらに祟りなしという基本方針だった上に、辺境・国境出身の貴族連中の結婚の面倒を見てたら王妃様を怒らせちゃったんだ。

これ以上、見えない地雷を踏み抜くリスクなんて取るはずがない。

おまけに、陛下と夜遊びするのは欠かさなかったから、必要な情報は入ってきていたし!

某国民的嫁姑戦争ドラマに出てくるイガグリ頭の俳優風に言うなら、王族と極力接しないようにするのは、しょうがないじゃないかぁ!ってやつだよ!

まあ、角が立たないように、恐れ多くて無理ですパターンで押し通すか。

「父や家が立派なだけで、私は単なるボンボン息子にすぎません。己の身の程を弁えていたとご理解いただけると助かります」

「さあ、ギルバート様、平静を装いつつも、押されているのを隠せなくなってきたぁぁぁ!自分だって王族の分家のような立ち位置なんだから、苦しい言い訳になっているぞぉぉぉぉ!」

ある意味すごいな、ジル子ちゃん。僕の苦しい心境を適切に解説しすぎていて、笑えてくるぞ!

「なるほど。それでは身の程を弁えるためにも、私のお願いも辞退なさるのでしょうか」

「残念ながら、市中で普及している食べ物に深い見識がございませんので・・・それに、王族の方に進言するというのは責任が大きくてたじろいでしまいます」

一言で言えば、市中のことに詳しくないから無理です、ということだ。ここまで言えば諦めてくれるだろう。

言うべきことは言い切ったと思う僕だったが、相対するユリシーズ殿下の口角がほんのわずかであるが、上がったのが見えた。

笑った・・・?いや、見間違いだろうか・・・

「ふふ、ギルバート様。嘘はいけませんよ」

「・・・と、おっしゃいますと?」

「父上とたびたび城を抜け出しては、良からぬ遊びを繰り返してきたギルバート様なら、市中のことはとてもよくご存じでしょう」

おいぃぃぃぃぃ!!!!この王女様、とんっでもねえ切り返しをしてきやがったぞ!?

未成年の王族にこんなことを吹き込んだ奴はどこのどいつだ!

まさか未成年の王女様の口から、僕と陛下のYOASOBI事情が語られるとは全く予想外だった。驚き過ぎて体に電流が走ったかのようなBiri-Biri感を味わった気分だよ!

「・・・で、殿下、それは一体・・・」

「とうとうギルバート様が言葉を失ったぁぁぁぁぁ!これまで好き放題に王都内外で暴れ回っていた公爵家の怪物に与えられていた祝福もとうとう失われたのか!?」

再びジル子ちゃんの実況が挟まり、僕の窮地を囃し立て続けている。

王女様の許可を得ているとはいえ、この子はマイクを持つとなんでこんなに生き生きするんだ!令嬢なんてやめてアイドルでもやった方がいいんじゃないか!?

そして、心の中でだけツッコミが絶好調な僕だが、返しの言葉が浮かぶ前に、王女様がここから追い討ちをかけてきた。

「私も王族に生まれた身ですもの、お父様の果たすべき使命だって、頭では理解できます・・・できますけど・・・」

一気に悲劇のヒロインかのような口ぶりで、ユリシーズ殿下が父親であるこの国の国王による、市中での夜遊びを嘆き始める。

・・・いやいや、使命とか役割とか、そんなしっかりとしたものじゃないです、あの陛下がやってることは。

むしろ、貴女の父親は、血脈を残す役割という免罪符を片手に、好みの女性を見つけては口説いて種をまき散らしてるだけですから!股間の種マシンガンを使って、市中で乱射事件起こしまくってるだけですから!

「ですが・・・王族であると同時に、一人の子供としては寂しくもあるんですよ?誰彼かまわず愛をばらまく時間があるなら、娘としてもう少し構っていただきたいと思うのはわがままでしょうか・・・・」

やめてくれ!その正論は僕に効く!

・・・王族ならそんなもんだ、と思う人も貴族社会なら多いだろうけど、前世由来の価値観が残っている僕には、子供が親の愛情を求める姿を見ると、後ろめたくて仕方ないよ。

一緒になって夜遊びを楽しんでいたことも事実だけど、親から十分な愛情を受けられない理由の何割かが、自分のせいだと言われると、さすがに良心が痛む。

まだ中学生くらいの年齢の女の子に、こんなことを言わせる、我が心の師である陛下の業は深いね。

「それなのに、執務は王妃様に押し付けて、空いた時間で市中を遊び回るお父様、いえ陛下の手助けをギルバート様はなさるのですもの・・・そんなギルバート様は、少しは私に罪滅ぼしをしてもいいと思いませんか?」

この王女様、最初から、この展開に持って行くつもりだったのか。やってくれるじゃないか。

・・・とはいえ、王女様の中で、父の愛が得られないのは、父親の女遊びを幇助している僕のせいだ、と感じるのは、まあ無理からぬところだろう。

ホント、言われてみると罪の意識がどんどん大きくなってくるから困る。仕方ない、今回は僕の負けか。

「・・・私にできることであれば微力ながら力を尽くしましょう」

「落ちたあぁ!ギルバート様がとうとう落ちたぞぉぉぉ!権力と親子の情を巧みに組み合わせたユリシーズ様が、歯向かうものは専属使用人だろうが、貴族の女性だろうが、伯爵だろうが躊躇なく焼き滅ぼしてきたギルバート様を屈服させた、これは歴史的瞬間だあぁぁぁ!」

空耳だろうけど、ノックアウトを告げるゴングが聞こえるようだ。

項垂れる僕の両手を、ガッツリと掴み、若干荒い鼻息をあげながらユリシーズ殿下が目を輝かす。

「まあ、ありがとうございます!これから串焼きの未来を一緒に切り開いてまいりましょう!」

「ただ・・・市中で遊び回っている人間としては、串焼きは既に十分なくらい国内に広がっていると思うのですが・・・」

現に、この世界では前世でもあったような、焼き鳥のようなものを提供する露店も、酒場のような店も存在している。

日本の会社が作った乙女ゲー世界だから、という理由なんだろうと深く考えないようにはしていたが、少なくとも市井で生きる多くの人達の中には当然あるものとして定着していると言っても過言ではない。

「では、どうすれば、人々が、より広く、より強く串焼きを求めるようになるでしょうか」

「素人考えですが、大衆向けであれば低価格化やバリエーションの豊富化でしょう。一方で、貴族をはじめ、金持ちは、串焼きイコール庶民の食べ物という認識ですから、それを覆すメニュー開発と言ったところですかね」

「さすが、お父様と一緒に、貴族社会も、市井の中も股にかけるギルバート様ですね」

微妙に嫌味を添えられた気もするが、僕の言ったことくらいは、相応の教育を受けて知識を持っている人間なら、少し考えれば出てくるはずだ。

さっき、僕を追い込んだように、この王女様は、ちょいちょい悪ふざけをしながらも、しっかりと落とし込むところを考えた上でシナリオどおりに話を進めているようだから、おそらくまだ続きがあるのだろう。

「それに、大衆向けに低価格化をするために流通量を増やしたり、低コストで出荷できる品種の開発が必要です。金持ち向けのメニュー開発にしたって、その費用やそれを広めるためのプロモーション・・・要はそれなりの小金が必要です」

王族や公爵家レベルの経済規模だと小金というだけで、前世基準だったら当然ながら大金だ。

もちろん今の価格に至っている理由や既存の既得権もあるだろうから、そこを調整するためにも金はかかるだろう。

「・・・まあ、小金と言っても、予算化もしていない事柄ですので、公爵家から出すことは難しいのですが」

「ギルバート様なら難しくない金額だと思うのですが・・・」

やっぱり僕に金を出させるつもりか!だが、そうはいかないぞ。

さすがにいくら王女様の我が儘だとしても、当主ではない僕が動かせる公爵家の金なんてたかが知れている。

「領民達が汗水流して納めた金です。好き勝手に使うような真似はできかねます」

前世でも、会社のお偉いさんが、役所に陳情に行くのに同行したことがあった。内容はそのときによってさまざまだが、こっちの言い分のほうがタカリというか勝手なときもあった。

そんなときに、出てきた役人は、本心からそう思っているのかは知らないが、このように、国民が納めた税金だから、というフレーズを使って、こちらからの要求を受け流していた。

まさか、こんな場面で、お偉いさんのカバン持ちをさせられた経験が役に立つとは思わなかったね。それなりに上手く切り返せただろう。

だが、ユリシーズ殿下の表情は、まだ笑顔のままだ。くそ!まだ、シナリオの範疇を出ていないのか。

「私は『ギルバート様』なら、と言ったのですよ」

「公爵家ではないと?」

「ふふ、聞きましたよ。最近、個人的な臨時収入があった、と」

個人的な臨時収入・・・まさか、バルトファルト男爵領での衝突を理由に、神殿から巻き上げた僕個人に対する賠償金か!?

だが、その額がどのくらいかなんて、知ってるのはパパ上やバーナード大臣くらいのはずだが・・・

王女様は笑みを浮かべたまま、懐から書状を取り出し、僕に手渡してくる。

なんだか最近、このパターンが多いな。はっきり言って嫌な予感しかしない。こういった場面で、いいことが起こった試しがない。

書類に目を向けると、見覚えのある筆跡と、文末のサインが視界に入ってきた。

『あぶく銭なら、怪しまれる前にさっさと吐き出してしまえby真面目で妥協を許さない王様』

ちぃっくしょおぉぉぉぉぉ!!!

やってくれたな!結局・・結局、ここまでの茶番、全部があの陛下の差し金かぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!

それに、何が真面目で妥協を許さない、だよ!

真面目でもないし、妥協だらけじゃねえか、あのマダオ陛下め!

しかも、あぶく銭を吐き出せじゃなくて、金があるとわかってるから金出せやっていうのは、カツアゲ以外の何物でもねえよ!!!

ちなみに、荒れ狂う僕の心中とは対照的に、ユリシーズ殿下は、相変わらずニコニコしながらこちらを見ている。

「ここまでは、陛下の書いたシナリオ通りでしたか?」

「はい♪ちょうど先日、お父様に串焼きのことをご相談したら、今回の筋書きを用意してくださいました」

「親の愛情が得られなかったというのは?」

「ギルバート様なら、こう言えば、きっと力になってくれるとお父様が」

・・・なんやかんやで、あの陛下は、娘には愛情を注いでいるらしい。

でも、それならあの馬鹿王子にもしっかり教育しておいてくれよ!

「あの金は、神殿への嫌がらせに使おうと思っていたんですけどねえ」

「あの~それなら、ユリシーズ様への協力を、神殿のメンツを潰せるような形にするのはどうです?」

先程まで、リングアナウンサーとしての才能を発揮させて僕を煽っていたジル子ちゃんが会話に入ってきた。

「ほう、話を聞こうか」

「例えば、串焼きの材料になる肉の生産量を増やすなら、新しい設備とそれを作る工事が必要ですよね。工事には人手が必要になります」

「・・・そうか、工事の人手を、神殿が慈善事業で保護しているような貧民からも調達して、手に職と金を配って自立させてしまう、ということか」

「はい。工事の効率は下がるでしょうが、そこは王国かユリシーズ様と公爵家の慈善事業という名目でやれば、民の心が買えますよ」

神殿は、宗教団体という性質から、大衆に救い、救済の類を説いて信心を集めたがる。

だが、大衆は現金なもので、口先で綺麗ごとを言っているだけじゃそっぽを向かれるから、炊き出しや支援物資配付のような貧民救済活動にも手を出している。

そのような動きを見た大衆は、国家や領主ではない組織に対して、目には見えない権威を感じるようになる。

その権威の源泉となる貧民を、横から金の力で救済してしまうということか。まぁ公爵家だけではなく、王家への支持も生み出してしまうというのは、若干腑に落ちないところはあるけどね。

「くっくっく・・・面白い。神殿連中が、僕やアトリー家に対する賠償金の支払いで金欠になって、安易にバラマキができないうちに、その支持の基盤を僕にかっ攫われるわけか」

さすが、あの腹黒ジルクの妹というだけのことはある。人が嫌がることを考えさせたら、並ぶ者は数少ないね。

「どうです?僕のこと、側室にする気になりました?」

「それはないから安心しなさい」

「チッ」

とはいえ、ジル子ちゃんが有能だということはわかったから、有望株がいたら紹介するくらいは考えてもいいかもね。

「それでは、方向性が決まったところで、串焼きの未来を語り合うといたしましょう」

「陛下には高くつきますよ、と伝えておいてください」

あぶく銭だったとはいえ、小さくない金額をカツアゲされたから、あんまり気分が乗らないんだけどなぁ・・・

ん?カツアゲ・・・かつあげ・・・カツ揚げ!そうだ、前世の関西地方にあった、ソース二度漬け禁止の料理があったな!あれなら、肉以外に野菜とかも串にぶっ刺して、バリエーションが増やせるぞ。

「串を焼くのもいいのですが、バリエーションとして、串に刺した具材に衣を付けて、高温の油で揚げるってのはどうです?」

「は・・・?」

あれ?ユリシーズ殿下の様子が急に変わったぞ。

辺りを見回すと、ジル子ちゃんが視線を背けながら、物音を立てずにこの場から距離を取り始めたのはなぜだ?

「この・・・盆暗がぁぁぁ!!!」

「!?」

ユリシーズ殿下が急に大声を上げ、手元のテーブルを左手で殴りつけ、右手で僕の首元を掴むと、白目を剝くかのような勢いで、睨みつけてきた。

「串は焼くからこそ串焼きなのです。それを、油で揚げる?衣で覆われて、舌で触れる素材の触感も大きく変わってしまいます。そんなものを串焼きマスターの私に食べさせるつもりですか?恥を知りなさい!」

「え・・・あ・・・す、すいませんでした・・・」

勢いに呑まれて背筋を伸ばして謝罪してしまった。

いや、そもそも串焼きマスターって何なのさ!?というか、人格が豹変したんだけど!?怖っ!!

「そこに座りなさい、ギルバート様。この私が本物の串焼きというものを教えて差し上げましょう。あと、ジュリアさん、そんなところに突っ立ってないで、私の調理道具を持ってきてくださるかしら?」

「は、はい~!!」

ユリシーズ殿下に一喝されて、ジル子ちゃんが部屋の奥の方に走って行ってしまった。

まさか、ユリシーズ殿下が、ふんわりおっとりした雰囲気から、僕をビビらせるほどの阿修羅顔に豹変するとは思わなかった。

結局、その日はマイ調理道具を片手に、調理場を占拠して次々と作り出される串焼きを延々と食べさせられる羽目になったあげく、翌日は朝から胃もたれが酷くてほとんど固形物を食べられなくなってしまった。

くそ!やっぱりこの国の王族に関わるとロクなことがない!




書こうと思ってた、聖女親衛隊選任会議まで辿り着かなかった、だと!?
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