乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です 作:りーおー参式
勝手に50話記念でおまけをつけました
リオン君に、あのマリエのために結成された聖女親衛隊の隊長に任命されることが決まったと教えてあげるべく、母校であるケモナー学園に来たところ、
そのマリエ本人が後ろから蹴りを入れてきたので、やり返して殴り合いになり、バリアを張られたので、その上にゴミ箱の中身をぶちまけたら、ジルク他3人、合計4人のボンボン、
つまり、あの乙女ゲーの攻略対象のうち、馬鹿王子以外の全員が集まって来てしまい、僕との睨み合いが始まっている。
う~ん、こいつら4人が相手となると、不意打ち、金的、大規模攻撃魔法等が何でもアリな戦い方が許されるならともかく、魔法とステゴロだけだと分が悪い。
校門の外で待機させていた護衛数人が到着すれば話は別だろうが、どうしたものか。
ジルクは何かを考え込んでいるが、何かを言いたげにしている残りの3人は僕への敵意を剥き出しにしている。
まぁ、愛しのマリエちゃんが傷付けられたから、などという乙女チックな理由なことは明白なわけだが。
「ジルク、お前が何を考えているのかはわからないが、単純な話だ。マリエが傷付けられた、何もせずにはいられないだろう」
口火を切ったのは水色の髪をしている、眼鏡をかけている男子生徒だ。あの乙女ゲーの攻略対象で、剣を得意としている、クリス・フィア・アークライトである。
こいつの父親は王国の中で最も強い剣士、剣聖であり、このメガネ男自身も剣豪という称号を持っているらしいい。
「そうだぜ!今、マリエを守らないでどうするんだよ!」
「脳筋2人と同じなのは複雑だけど、僕らを癒してくれる白魚のように美しい手があんなにも酷く火傷している。許せないよね」
クリスに同調するのは、グレッグとブラッド、2人ともあの乙女ゲーの攻略対象であり、まとめてマリエに誑かされて、妹と決闘騒動を起こした奴らでもある。
何ならもう、僕とマリエの殴り合いに今すぐ物理的に参加してきそうなくらいやる気に満ちている。
う~ん、戦力の話もそうだが、こいつら4人の実家を同時に敵に回すとさすがにレッドグレイブ家もただではすまない、いや、パパ上の権力を使わないと落としどころにならないかもしれない。
パパ上からは、”自分で始末できない”問題は起こすなと厳命されている。
4人の実家と抗争しながら神殿やフランプトン派の相手もしなければならないというのは、さすがに過労死しかねない。
・・・とはいえ、リオン君由来のロストアイテム、アロガンツやパルトナーも使えれば、武力抗争だけなら何とかなるかもしれない。
ある意味、政治的な揉め事だけなら、最後は武力でゴリ押しすることも不可能ではない。
裏で、やはり暴力・・・暴力は全てを解決する・・・!とか言われるかもしれないけど、国体や統治機構を変えるつもりも、掌握するつもりもないんだ。単なる国内問題に落とし込んでしまえばいい。
国外の問題を考えたとしても、公国の第一王女を人質にしているし、黒騎士は、実際にはリオン君に倒され、王国内で捕虜の身だ。
第二王女は健在だが、象徴と最強戦力を失った公国が積極的に何かしてくる可能性が高いとは思えない。
僕個人が最も危惧しているのは、そんな大所高所のことではない。
ジルクと正面切って敵対した結果、マーモリア家の本家が再びジル子ちゃんを僕に押し付けようとすることだ。
ん?待てよ?個人間の問題にとどまらない、家と家の問題なら、こっちだって嫌なんだから、向こうだって望むところではないだろう。
腐っても乙女ゲーの攻略対象様達だ、ジルクを除けば、性根の部分では善人であるはずだ・・・そうであってほしい、という願望込みだけど。
いっそのこと、こいつらまとめて神殿側になってしまえば、その後は問題を公爵家VS神殿という図式の中で押し切れるはずだ。
よし、この辺りから揺さぶってみるか。
「はっはっは!素晴らしい!いやぁ、なんて勇ましいんだ」
わざとらしく大声を出し、わざとらしく大きな拍手も付けてやる。4人は困惑の表情を浮かべるが、気を更に悪くした様子のブラッド、クリスが順番に口を挟んできた。
「いくら蛮勇で名高いギルバートさんでも、僕達4人を相手にするというのは驕りが過ぎるのでは?」
「なあに、これだけ騒ぎが大きくなれば、校門の脇で待たせてある護衛がやってくるさ。むしろ、君達は愛した女一人を守るために、君らの家族や家の家臣みんな巻き込んで僕と戦う覚悟があるんだろう?光栄だよ、ホルファート王国の中でも名家と名高い4家をまとめて相手にできるなんてね」
「実家は関係ないでしょう。我々それぞれがマリエを守りたいだけです」
「おやおや、黒騎士を倒したことになっている剣聖ジュニア殿は、不思議なことを言うんだねぇ」
「!待ってください、クリス君!この方の口車に乗ってはいけません!」
僕の狙いに気付いたらしいジルクが止めようとするが一度吐いた唾をもう一度飲み込ませてやるほど、僕はおめえらが守ろうとしている黄色い毛虫に優しくはないぞ。
「関係なくはないさ、空賊討伐や公国撃退の功績で、君達は実家からの勘当が解かれている。その君らが、僕と戦うのであれば、問題が家と家の話になることは必然だろう?」
「で、ですがここは学園のはずです」
慌てて軌道修正しようとジルクが、話を学園内の問題に帰着させようとしてきた。だが、お前ら4人とやり合うなら、お前らの土俵にわざわざ乗っかってやるほどお人よしではないぞ。
「おい、ジルク。お前も、わかっていながらすっとぼけるのは滑稽を通り越して見苦しいぞ」
「はて・・・ギルバートさんは一体何を言いたいんですか?」
「学園の生徒のうちに収まる問題なら、親兄弟が口出しするのは情けない話だと思う奴もいるだろう。だが、今、この状況が、アンジェのときとは訳が違うってわからないお前じゃないよな?」
要するに、学園外の僕が、学園の暗黙のルールに従う必要がどこにある?っていうことだ、
「決闘なんて生ぬるい子供の遊びじゃなく、僕と戦うなら、一族郎党巻き添えにしてルール無用の殲滅戦をやる覚悟をしているんだろうね?」
「き、汚ねぇ・・・!」
「君らとあっちの黄色い毛虫が、寄ってたかってアンジェを貶めようとしたことに比べれば、可愛いものだと思うけどね」
悔しさを前面に出すグレッグであったが、こちらだってあの決闘騒動で残してる遺恨はまだまだある。
うちの妹は悪役令嬢なのかもしれないが、実はレベルがカンストしちゃってるような裏ボスじゃないだぞ。ちょっとだけ嫉妬深くて、怒りっぽくて、たまに相手に飛び掛かって殴り付けたりしちゃうだけだ!
「家族を巻き込みたくないのなら、今度発足される聖女親衛隊に入ってからにするんだな。あの生臭坊主どもは、アトリー家と僕に多額の慰謝料をふんだくられて、金がすっからかんになったから、王宮予算を使って、あの黄色い毛虫の肉盾になってくれる志願者を募集しているらしいぞ」
要は、雌雄を決する日が来るまでに、状況を準備しておけ、ということだ。
僕の言いたいことを理解したのか、ブラッドが口を開く。
「今日は手を引くけど、僕達から逃げるつもりはない、ということですか?」
「そうだよ、フィールド家のお坊ちゃん。そこの女が、今までと同じように振る舞うなら、公爵家と神殿で決着を付ける日がいずれ来るはずさ」
だが、納得いかない奴もいたようで、クリスが話に割り込んできた。
「しかし、それでは我々が日和っているようではないか」
「クリス君。腹立たしい気持ちはわかります。ですが、オフリーのことを思い出してください」
「王国の合同部隊がオフリー家を討伐した件か?」
「あの一件は、そもそも、オフリー家の専属使用人が、ギルバートさんとトラブルを起こしたのが発端です。この方は、殴られたら相手を殴り返して、それと同じくらいの攻撃を、その身内も躊躇なく仕掛ける恐ろしい方なのですよ」
おい、ジルク。僕のことを、倒した相手の攻撃力分のダメージを相手プレイヤーにも与える、Eなヒーロー炎風男みたいに言うんじゃない。
「これ以上、戦闘を続けて、さらにマリエさんを危険に晒し続けるよりも、この場はマリエさんを確実に助けるほうを選ぶべきでしょう」
「しかし・・・!」
「ギルバートさんの誘いに乗って神殿の騎士として、お相手するということにすれば、この場は切り抜けられますし、実家に迷惑はかからないということです。策も大義もなく無闇に戦うのは控えたほうがいい」
「おい、お前ら。僕の相手をするのはいいが、あっちで魔力が切れ次第、ゴミまみれになって読んで字のごとくゴミ女となるあいつを助けなくていいのか?」
「そ、そうでした。3人はマリエさんをお願いします、私はギルバートさんを目的のバルトファルトのところまで案内しておきますので」
ジルクに言われて、クリス、グレッグ、ブラッドの3人はマリエのほうに向かっていった。
他方で、残ったジルクは、手先を校舎の方に向けて、僕の向かうべき方向を指し示している。
「こんな簡単に誘いに乗ってくれていいのかな?」
「ギルバートさんなら、ここで戦って負けても、後日、バルトファルトのものと同型の黒い鎧単機で実家に突撃してきそうですからね」
僕に対する理解度が無駄に高くて、気持ちが悪いな。
ジルクに案内されて校舎内に入り、誘導されながら、他愛のない話が続いている。
「僕は優しいから無駄な犠牲を出したくないんだよ」
「残った戦力を接収したい、の間違いでしょう?」
「限りある資源を有効に活用しようとする、と言ってくれ」
「見解の相違ですね。私個人としては、王族の権力を使うか暗殺以外で貴男と戦いたくはありません」
さすがジルクだ。取ろうとしている手段が、僕よりはるかにマトモではない。というか、本人を目の前にして、よく暗殺とか言えたな!?
「僕を倒して、その勢いでフランプトン派閥も潰すのかい?」
「私達はマリエさんさえいてくれば、多くは望みません。王宮の勢力争いと関わらずに済むのであればそれに越したことはないです」
「将来は新国王の右腕になるはずだった男の台詞とは思えないね」
「その地位を放棄してもいいと思えるくらいの女性に出会えたことは幸運ですね」
・・・お前の言う女は、男の金と欲望を吸い上げることに長けた、前世と合わせたらお前の倍以上の年齢な化け物なんだと言ってやりたくて仕方ないね。
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「・・・と、いうことでバルトファルトは、そこの角を曲がった突き当りの部屋にいるので、私はここで失礼しますよ」
「妙に距離が離れている気がするが・・・まさか一緒にいるのはアトリーか!?」
「・・・知りませんね。では、私は巻き込まれたくないので失礼します!」
そう言って、ジルクは足早に去っていった。
まあ、捨てた側とはいえ、別れた婚約者が別の男に迫る場面に出くわすのは、さすがに気まずく思うくらいの人間性は残っているようだ。
というか、二人っきりにするのはまずい!襲われて既成事実でも作られた日には一瞬で詰んでしまう。
慌てて僕は角を曲がり、学生達がお茶会に使っている部屋の前に辿り着く。
そこには、女子生徒の集団と、見覚えのある男子生徒の集団が、それぞれ部屋の前に待機していた。
後者は言うまでもなく、クラリス嬢の取り巻き連中というか、親衛隊のような連中だ。
前者は、部屋に入ろうとする僕を見て顔色を変えながらヒソヒソと何やら相談しているが、女子生徒達が下を向き、消極的ながらパラパラと扉の前に立ちふさがる。
「も、申し訳ございません・・・こ、ここをお通しするわけには・・・」
女子生徒は、声を震わせて、涙目になりながら、部屋に入ろうとする僕を阻もうとしている。両腕を体の前で強く組み、斜めに逸らしてしまいそうな体の向きを頑張って正面に向けている。
本能的な防御行動が出ているというやつだろう。
いや、わかるよ?きっと僕に関する根も葉もない噂を色々と聞いているんだろう?
でも、顔を見るなり泣くっていうのも、ちょっと酷くない?
確かに、昔は、辺境のゴミ女を監査の名目で駆除してオラついていたかもしれないけど、最近は大人しいもんだと思うんだ。
せいぜい、ケンカ売ってきた伯爵家を滅ぼしたり、
ケンカ売ってきた神殿の騎士団をアロガンツ・ブロスで蹂躙したり、
ケンカ売ってきた聖女様とステゴロの殴り合いをしてファイヤーボールをぶつけたくらいなのに。
ケンカ売られなければ、基本的に怒らないし、実家でも、使用人(貴族の家出身者以外)と突き合ったり、口説いたりしたことはあるけど、パワハラなんてしたことないよ?
むしろ、怖がりながらも主人の利益を守ろうとする君の姿勢にはほんのりと好印象持ってるよ?実家が準男爵以下だったらデート誘ってもいいくらいには好感度上がってるよ?
どうしたら、ぶるぶる震える女子生徒に泣き止ませて、部屋に入れてもらおうかと考えていると、クラリス嬢の取り巻きというか親衛隊というか、アトリー家の子分衆の青年部会の連中が会話に割り込んできた。
「つまらない意地張ってないでさっさとどいて、ギルバート様をお通ししろ!」
「お前らローズブレイドの巻き添えでアトリー家まで敵認定されたらどうするんだ!?」
「このお方は、魔法、金的、鎧戦、何でもござれでルール無用な次期公爵様だぞ!」
「すみませんギルバート様!今すぐこの女達をどかしますんで!俺達はオフリーや神殿とは違いますんで!!」
君達も、僕のこと何だと思ってるんだ。まるで僕が悪魔超人か何かみたいじゃないか。
というか、基本スタンスが女尊男卑のこのケモナー学園で、いくらクラリス教の信者だからといって、女子にそんなに強く当たって大丈夫?
というか、この女子達はローズブレイド、要はディアドリー嬢の取り巻きなのね。そんな強く言っちゃって、アトリー家とローズブレイド家で揉めたりしない?
そんな心配をしていると、扉が中から開けられて、1人の女子生徒が顔を出してきた。
「あなた達、一体何を騒いでおりますの?」
金髪縦ロールの女子生徒、ローズブレイド家の二女であるディアドリー嬢が呆れ顔をしながら出てきた。
僕と、僕を遮ろうとする取り巻き、その取り巻きをどかそうとしているアトリー家の取り巻きを見て、黙ったまま大きく頷いた。
「あなた達、ここはいいですから、ギルバート様を通しなさい。男爵家以上は焼かれて、他は剝かれてしまいますわよ」
剥くって何!?僕は同意を得ずに、相手を押し倒したことなんてないぞ・・・君も僕のことを何だと思ってるんだと言いたくなったが、それを突き詰めるとまた裸エプロン要求事件を蒸し返されそうだからやめとくか。
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さて、通っていいと言われたので、中に入ると、案の定、リオン君とクラリス嬢がお茶会をしていた。
カップがもう一つあるということは、ディアドリー嬢を合わせた3者で優雅なひと時を過ごしていたようだ。
「やあ、リオン君。神殿の一件では、あの程度の金しか分捕れなくてすまなかったね」
「いや、あんな大金が送られてくるとは思わなかったんですけど!?」
「君が公爵家に献上してくれた公国の飛行船や鎧に比べれば安いものさ。おかげで、うちの戦力を増強できた」
僕は、その近くの空いてる椅子に座って、テーブルに置かれた高級菓子を一つ摘まんで口に入れる。
そんな様子がお気に召さなかったのか、邪魔をされたのが気に喰わないのか、リオン君の隣に座っていたクラリス嬢がジト目でこちらを見てくる。
「下品ですよ」
「公的な場でもあるまいし、美味しいものを、美味しいと感じる食べ方でいただくのが僕の流儀なものでね」
「ところで、学園まで公爵家の跡取り様がやってきて何の用ですか」
「リオン君に大事な話があって、それを伝えようと思ったんだけど・・・」
僕がそこまで言ったところで、リオン君、クラリス嬢、ディアドリー嬢が気まずそうな顔を浮かべた。
「リオン君・・・もしかして、マリエの親衛隊の話、聞いちゃった?」
僕の問いに、リオン君は引き攣った笑みを浮かべながら首を縦に振った。
なんだ、クラリス嬢が教えちゃったのか。まあ、アトリー家からしたら、本当は僕に押し付けたかった役割だから、早めにリオン君に伝えた上で、マリエに対して警戒してほしかったのだろう。
婚約者がマリエに寝取られたという立場では、レッドグレイブ家もアトリー家も同じだから、気持ちはわからなくもない。
そんな思考を知る由もなく、ディアドリー嬢が僕のほうをじっと見ている。
「それよりも、その傷、どうなさいましたの?」
ああ、マリエとの戦闘で腕には生傷があるし、服は泥とか土で汚れてしまったから、その辺りが気になったのか。
「あの聖女様と殴り合いをしてきた」
「ぬわんですってぇぇぇ!?」
目玉をひん剥いてディアドリー嬢がいいリアクションを浮かべてくれた。
大貴族の家のお嬢様で、公国戦という命の取り合いをする戦いも潜り抜けたという意味では実戦経験もある人間にとっても、神殿の聖女様との殴り合いというのは、平常心を吹き飛ばすインパクトがあったようだね。
黙っていても、あんなに派手にドンパチをやったのなら、目撃者も多いだろうから、噂はあっという間に広がるだろうし、経緯を教えてやるとするか。
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「神殿の襲撃もそうですけど、女子と殴り合いしたなんてドン引きなんですけど」
ことの経緯を丁寧に説明してあげたというのに、クラリス嬢の顔は呆れた様子で、マリエとの殴り合いを咎めるようにも聞こえる口ぶりだ。
「ひとつ言っておきますが、あの女。下手な男子なんかよりも、はるかに強いですから。実家では使用人以下の奴隷のような扱いを受けていたらしくて、生きる日銭稼ぎのために雪山で熊と殴り合いをしたこともあるらしい」
「・・・それ、本当に女子ですの?」
ディアドリー嬢が確認を入れてきた。
「魔力込みとはいえ、膂力に優れ、ガッツというかハングリー精神に溢れていて、ケンカ慣れもしていて回復魔法まで使える。男とか女以前に、あいつは戦士ですよ」
「ギルバート様の場合、回復魔法以外は、近親憎悪のように聞こえますわ」
「酷い言い草ですね」
「ほほほ、でも、いい冒険者にはなれそうですわよ」
なるほど、マリエの被害を受けていないローズブレイド家としては、マリエに対してそこまで敵対心はないようだ。いや、逆にマリエを中心とした騒動で、その周辺が弱体化すれば、相対的に有利にすらなる。
イレギュラーな駒は、好きに暴れさせておいて、機を見つけて一気に躍進を図るというのは悪くない戦略だろう。
最近はマリエきっかけの諸々のせいで慌ただしくしていたから、無関係な家の目線というものに意識を向けられていなかったな。
「女子というだけでなく、神殿とか聖女様とかの権威的なものに対する配慮がないですよね」
クラリス嬢が呟いた。
なるほど、中身というか前世が社畜なパンピーな僕には、宗教観なんてクリスマスと除夜の鐘を季節行事としかとらえていないくらいのチャンポンだ。
そんな僕には、この国の多くの国民、特に貴族連中がありがたがる聖女様だって、ゲームの主人公が将来的に就任するポジションで、俗世にも大きな影響力を持っている、という程度の意味しかない。
ましてや、あのマリエが就任したような地位に、権威を感じたり、敬意なんてものを寄せることは難しいね。
「それは誤解ですよ。僕は陛下の権威にベッタリで、こんなにもペコペコしてるというのに」
「ギルバート様がうちを巻き込んで神殿と揉めたせいで、アトリー家が取れる立ち位置が少し狭くなったんですけど」
「あの黄色い毛虫を相手にするなら、ご一緒したほうがいいんじゃないかという、一般的な心遣いですよ」
「一般的な男は、女子、しかも聖女様に対して、どんな理由でも反撃すらしないと思いますよ」
「人のことをあの女の親衛隊長に充てようとしたのは貴女のパパですが?しかも、僕が教えようと思ったのに、リオン君にばらしちゃってるし。これじゃあ僕は殴られ損ですよ」
「いや、ギルバートさんも殴り返したって言ってましたよね!?」
クラリス嬢とのレスバの中で、リオン君がツッコミを入れてきた。だが、状況はもうそんなに悠長なものでもなくなってきていることはきちんと伝えなければね。
「リオン君。今回の親衛隊の動きは、うちの敵対派閥が大きく動いている。親衛隊長としての働きしだいで、連中は君を陥れようと動いてくるはずだから注意してくれ」
「そうよ、リオン君。レッドグレイブ家を押しのけて台頭しているフランプトン侯爵の派閥は、強力よ。困ったら、アトリー家を頼ってね」
「むしろ、レッドグレイブ家やアトリー家と近付いたら、警戒されますわよ。いっそのことローズブレイド家の庇護下に入らない?」
僕、クラリス嬢、ディアドリー嬢がリオン君を囲んで距離を詰めていく。
・・・なんだか、3人でリオンきゅんを守るのはうちだ!合戦が始まってしまったようだ。
リオン君が子爵になった結果、この二人とは形式的には階級的な釣合いが取れてしまっている。かすめとられないように、これまで以上に気を付けなければ・・・・
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おまけ
マリエたんとは、妹を傷付け、自身の将来設計を2度も破壊された恨みから、激しいバトル(拳)を繰り広げる関係になってしまったこの世界線ですが、
この兄上様が暴れ回る世界にマリエルートは存在しうるのか。その可能性を検証するべく、我々は、ア〇ゾンの奥地へと向かった。
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元カノとの別れ話がこじれて、刺されて死亡した僕は、なぜか、妹がやっていたアルトリーベという乙女ゲー世界に転生してしまった。
しかも、その転生先が、将来は断罪される悪役令嬢の兄だったのだ。実家も、妹である悪役令嬢の断罪をきっかけに没落していくらしいというのがシナリオらしい。
そんなお先真っ暗な運命をぶち壊すべく、特殊なスキルなどが無い中で、僕はこの乙女ゲー世界で生きていくことになった。
そして、誰かが言っていた。人生というのは選択の連続だ、と。
その日、僕はバーナード大臣直下の領主貴族の監査所管部署の執務室内で、山積みとなっている未処理案件の中でも、誰も事前にわかっている厄介さから手を出そうとしない、事実上の対応保留、ほぼ凍結扱いな案件を手に取っていた。
どうして面倒臭いとわかっているのに、そんな案件を引き受けようと思ったのか、はっきりはわからない。
自分が今の仕事にだいぶ慣れてきて余裕が出てきたというのもあるし、普段の僕の仕事が、貴族というよりも役人根性丸だしになっているという噂をどこからか聞きつけた父が、
朝食の際に、とても珍しいことに、貴族たるものは・・・的な話をしてきたから、言うことを聞いて行動を改めましたよ、的なものが伝わったフリくらいしておくか、とか考えたのも事実だ。
最初からやっかいな案件だということはわかっていた。
やっかいだ、というのは難易度が高いということを意味しているわけではない。
ガサを入れれば、かなり高い確率で取り潰しになる、ということが予想されたので、
潰した後にどうするかという下案までを作らなければならない、そんなガッツリと手間のかかる仕事をやるくらいなら他の浮島の2つ、3つにガサ入れしたほうが効率的だからだ。
本来は、将来的に王の配偶者となる妹が、王妃になった後に苦労しないように、より多くの国境、辺境の領主の家に巣食うクソ女どもを排除しなければならないので、そういった意味では、この案件は僕にとって旨味がない。
そして、実際にガサ入れに入って判明したのは、大筋の予想をはるかに超える劣悪な統治状況だった。
領主は私腹を肥やしているのに、その財源はほとんどが借金であり、筋の悪い相手との取引があったり、当然ながら領内の発展も不十分だ。
領主一家は、即日、王都に任意同行という名の強制連行になったのだが、一家のリストに書いてある末の娘の姿が屋敷やその周辺のどこにもいない。
その娘の父であり、領主であるラーファン子爵に詳しく聞くと、使用人を雇う人数を減らすために、その末娘に雑用諸々を押し付けて、まるで奴隷のように扱っているのだと、平然と自白しやがった。
年齢からすると、まだ小学生か中学生くらいの年齢の子どもじゃないか。
自分の子に対するあまりにぞんざいな態度に、前世でたまに新聞で見聞きした搾取子とかネグレクト等の言葉が浮かぶ。
「まったく・・・こんなときにまで私に迷惑をかけおって」
親子の情なんて微塵も感じさせない、しかもそれをまったく恥じる気配すら感じられないセリフに、価値観に前世の影響が残っている僕は、瞬間的にラーファン子爵の顔面に、魔力を込めた全力の拳を叩き込んでいた。
普段、僕はキレやすいとか言われているが、実際は、意図的に無礼な振る舞いを誘発させて、それに対して過剰気味な報復をすることが多い。
だが、このときは、自分の子供、家族をあまりにぞんざいに扱う態度に、感情がぶっちぎりで先行してブチギレしていた。
「それでも親かこの野郎ぉぉぉぉ!!!!自分の子供を何だと思っていやがる!てめえの血は一体何色だぁぁぁぁ!!!!」
つい、どこかの南〇水鳥拳の使い手のようなセリフを言っていたような記憶がぼんやりと残っている。
怒りのままに拳を振るい、子爵やその妻、息子らを顔面が血だらけになるまで殴り続け、浴びる返り血は赤いんだなと、どこか冷静になりながらも、さらに殴り続けていた。
普段と違って大義名分をかざすわけじゃない。ただ、明らかに自分で身の振り方を決められない子供を苦しめる振舞いに、素朴な正義感、倫理観が僕を突き動かしたのだと思う。
「ギルバート様、ストップ!ストップです!!」
「これ以上やったら死んじゃいます!」
「殺すよりも苦しい目に合わせればいいじゃないですか!」
同僚であるアトリー家の文官連中が、僕の両肩を掴んで、動きを止めてくる。
僕の足元で顔面血だらけになって、ゴミのように転がっている子爵らを、肩で息をしながら見下ろしていると、後ろに人の気配を感じた。
気配のする方向に目を向けると、厚手のコートに身を包み、この状況が理解できないのか、口を小さく開きながら、茫然と立ち尽くす小さい女の子の姿がある。
「は、早く私達を助けろ・・・!」
血まみれのラーファン子爵が、叱責するように命令した。
こんな小さい子に何を言っていやがるんだ。さらに腹が立って、ラーファン子爵の顔面に拳を叩き込んだ。
再び返り血が飛び散って、髪や顔面から地面にその血がしたたり落ちている。
この領地をどうするか、こいつらの親戚を探して押し付けるにしても・・・それに、こんな小さい子を、そんな縁の薄い親戚に預けても、また同じように虐待しかねない・・・
グルグルと思考が巡るが、何回考えても、一番マシで確実な策は同じだった。
「お嬢ちゃん、君を奴隷のように扱ったクズどもとはここでお別れなんだけど、どこかに行くあてはあるかい?」
呆然と立ち尽くす女の子に尋ねると、体を震わせながら首を横に振っている。
あんな親でも、この子から親を奪ったのは僕だ。このまま放置するわけにはいかないか。
「そうか・・・それなら、うちで働くといい。美味しいご飯と温かい寝床と悪くない給料は保証するよ?」
勧誘がてらに手を伸ばすと、女の子は数秒ほど目を泳がせ、震えながら手を伸ばしてくる。
きっとまだ状況を理解しきれずに戸惑っているのだろう。少しでも安心させてあげようと、震える彼女の手を両手で挟み込むように掴んでやった。
「よし、交渉成立だ。君の名前は?」
「・・・マリエ」
なんだか前世ではやった映画のタイトルみたいだな、とか思いつつも、気を取り直して、僕のほうも名乗る。
「そうか、マリエというのか。僕は、ギルバート・ラファ・レッドグレイブ。これから、よろしくな、マリエ」
僕のSSRクラスな顔面偏差値から、キラキラした笑みを繰り出すのだが、相手の女の子、マリエは僕の名前を聞いて、さらに酷く震えだしている・・・・何故だ!?
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私には、前世の記憶がある。
兄に乙女ゲーの攻略を押し付けたのがきっかけで実家を追い出され、大学を中退して、夜職の世界に入り、その店のトップにまで上り詰めた。
でも、子供ができたのに、当時のカレシは姿をくらまし、産んだ娘は実家の両親に引き取られてしまい、その後に付き合い出した男からのDVで死んだ、という記憶だ。
ロクでもなかった人生だと言う他ない。
だが、生まれ変わった今世は、なんと兄に攻略を押し付けた乙女ゲー世界だった!しかも、転生先は、子爵家、つまりお貴族様だ。
それなら一発逆転を狙って、乙女ゲーの舞台である学園入学を果たして、王子様達を攻略してやる。
そう思っていた。だが、転生先の親は、元カレ並みのロクデナシで、奴隷のような扱いをされる日々が続いていた。
それでもなんとか歯を食いしばって、苦しい日々を、学園に入学するまでを耐えようと思っていた。
だが、日々が過ぎる中で、ふとした疑問が頭をよぎるようになってもいた。
私は、乙女ゲーの舞台になる学園に通うことができるのだろうかと。しばらくは、そんな将来の先行きへの不安を感じる日々が続いた。
・・・だが、そんな日々は、突然やってきた一人の赤い・・・いや真っ赤な男によって、簡単に終わりを迎えた。
なお、赤いというのは、服や髪、思想の色ではない。今世の父や母、兄らを容赦なく殴りつけ、血の海に沈めたときの返り血の色だ。
そして、金髪で、とんでもないイケメンが、おびただしい返り血を顔面から垂らしながら、とんでもなくキラキラした笑顔とともに、手を差し伸べてきたのだ。
正直に言おう。私は、その金髪の男が、躊躇なく暴力を振るう様に恐怖していた・・・
私はイケメンが大好きだし、前世の知識と技術をフルに活かして王子様を落とすことを目標に生きてきた。
目の前のイケメンは、暴れたせいで衣服は乱れているが、着用している服や装飾品は高級そうであり、きっといいとこ出身の貴族なのだろう。顔面偏差値の高さもあって、王子様レベルの外見だ。
なのに、私はこの男に対する異性としての興味を持てずにいた。辛い日々を、王子様のようなルックスの男性が助けてくれた、そんなシンデレラストーリーが自分に起きているにも関わらず、だ。
前世の死因がDVだったことから、男性から振るわれる壮絶な暴力がトラウマになっていたのかもしれない。
目の当たりにした苛烈な暴力で、体が竦んでいたと言ってもいい。
理屈では、きっとこの男は私に暴力を振るったりしないとわかっている。だが、体が自然に震えて、まともに口が動かなかった。
そして、一緒に来るかと尋ねられた私は、なんとか理屈で考えて体を動かそうとした。
体の震えを必死に抑えて、目の前の男に庇護してもらわなければならない。今の日々から抜けださないと、あの学園に通って、攻略対象達と出会うことができなくなってしまう。
たとえそれが暴力の悪魔からの誘いだったとしても、転生後の人生を逆転するなら、この機会に乗るしかない、と自分を鼓舞し、必死に差し出された手を伸ばした。
そして、その男は、私の名前を聞くと、今度は自分の名前を名乗る。再び恐怖で体が震えた。
「僕は、ギルバート・ラファ・レッドグレイブ。これから、よろしくな、マリエ」
(え・・・レッドグレイブ?そ、それって、もしかして悪役令嬢の実家じゃないのぉぉぉぉぉ!!)
先々、自分が王子様を攻略して、その王子様との既存の婚約を解消させようと目論んでいた女の実家が、私を助けるってどういうことよ!
マリエは恐怖に震えながら差し出そうとしていた手をギルバートが力強く掴んでいた。
(私、この先、一体どうなっちゃうのよぉぉぉぉ!!!!)
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きっとこの世界線のマリエちゃんは、成長期に栄養を取れるので、回復魔法習得に厳しい訓練をしたとしても、まな板にはならないと思うw
おまけのほうが長いじゃねーか疑惑