乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です   作:りーおー参式

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本編よりおまけの量が多いってどういうこっちゃ


第51話 フラグはしっかり回収しろ&おまけ・マリエのレッドグレイブ屋敷での日々~ほぼパンイチ若様とメガネ先輩

学園で不意に遭遇したマリエとの乱闘事件からしばらくして、僕は王都の屋敷で、父の代理としての仕事を大人しくこなしていた。

たまに誤解している人間がいるのだが、僕は書類仕事が嫌いじゃない。血と女と暴力をこよなく愛する荒くれ者のように思われるのは心外なんだ。

だが、この国の貴族は冒険者の末裔という背景があることから、そんな野蛮の極みみたいな属性を持っていると思われがちになってしまう。

そんな偏見に負けじと、机の脇に置かれた未決の決裁ボックスに積まれた書類と格闘していると、扉がノックされて、書類の束を持ったコーデリアが部屋に入ってきた。

相変わらず、この我が家の上級メイドは、入室時にノックをするものの、入室を承諾する前に乗り込んでくる。

僕が、昔みたいに屋敷内のメイドの誰かとこっそりつき合っていて、この部屋に連れ込んで、密会中だったらどうしてくれるんだ。

「前にもお伝えしましたが、私は若様の意思に反しても部屋に踏み入る許可を公爵様からいただいております」

執務机の前に背筋をピンと伸ばし、眼鏡をくいっと上げて、レンズに反射する光を僕に向けながら、コーデリアは、僕が言おうとしていたことを先読みしてきた。

「君にデリカシーとか心遣いというものを求めること自体が間違いだからね」

「プライバシーを保護し過ぎた結果、メイドとの不適切な逢瀬を防げなかったことが間違いだったと公爵様は仰せでしたが?」

「独身で、婚約者もいない男と女が、お互いを求めてイチャイチャしていただけさ。不適切な関係などではなく、自由恋愛じゃないか」

別に不倫や浮気の類をしていたわけではない。

・・・若干、手を出していた時期が、ほんのちょっとだけ、先っぽだけ被ってた事例が少しだけあったくらいだ。うん、これは浮気じゃないよな。

「若様の年齢で婚約者がいないということ自体が、不適切ということです」

「別に法律や規則に違反してるわけじゃない。ただ、陰口言ってる奴がいたら、しかるべく対処するから知らせてくれ」

「それは御自身でなさってください。それに、世間の貴族の多くは、若様のように、お顔の皮膚に厚みがございません」

おい、腹黒陰険眼鏡メイド。僕の面の皮が厚いって、すごく丁寧に言いやがったな。

「数日前に、あの黄色い毛虫と殴り合って、あいつの背中を強打しただけでなく、両手に大火傷を負わせてやった僕を、労うこともせず、罵倒する君の顔面はどうなんだい?」

「あら、まさか若様・・・私に褒めてほしいのですか?」

ドヤ顔をして口角を上げる腹黒メイドに苛立ちを覚えるのだが、このままレスバをしていても仕事の邪魔になるので、話を本題に戻すとするか。

「わざわざ、僕に直接伝えたい話があるんだろう?用件を言ってくれ」

「かしこまりました。こちらをご覧ください」

コーデリアが一枚の書類を手渡してきたので、そこに目を通す。

内容は、先日のバルトファルト領で起こった乱闘事件の中で、僕に暴行を働いて顔面と股間を焼かれたエルフの奴隷というか専属使用人の沙汰が決まり、王都から追放となった、というものだ。

基本的にこの国では女尊男卑の風習が強く、貴族の女が囲ってる亜人の専属使用人が、貴族階級の男性に暴力を振るっても、余程のことがない限り重い処分にはならない。

ただ、殴った相手が公爵家の長男であれば、さすがに実家の政治的な影響力が低下しつつあったとしても、余程のことであると言わざるを得ないのだろう。

まあ、僕はあちこちで、ああいった亜人の専属使用人達とたびたび暴力沙汰を起こして、顔と股間を焼いてるので、数で言うと、余程のことの件数は、きっと増えつつあるのかもしれない。

ちなみに、死刑になっていないのは、既に僕の手で重傷を負わされて、専属使用人としての整った顔面も、生物としての生殖機能も潰されて、ロクでもない末路が待っていることが明白であるがゆえなのかもしれないね。

「噂では、コーデリアも、リオン君の父であるバルトファルト男爵の正妻・・・ゾラとかいうクソ女と揉めたことがあると聞いたが、少しは気分が晴れたかい?」

「あの愚かな女は、知らなかったとはいえ、お嬢様にも無礼な口を聞きました。浮島から叩き落すくらいしてもよかったのではないでしょうか」

「僕にエルフどもをけしかけた後に、いつの間にか姿をくらましたから、指名手配してやったのに、まだ捕まらないらしい。公安部署の怠慢か、それとも辺境の男爵の正妻ごときを庇うために、捜査に圧をかけてる奴でもいるのかな」

少しすっとぼけたように言ってみると、コーデリアは数秒ほど思案した後に口を開く。

「その辺りの部署は、既にフランプトン派が枢要ポストを押さえていましたね。それで、実は、このような依頼が内々に届いております」

コーデリアが、持っていた書類の束の中から、1枚の文書を取り出して、僕に見せてきた。

依頼主として名前が書かれていたのは、バーナード大臣の下で辺境の監査をやっていたときに交流があって、割と親しくしていた役人だ。

所属は、どうやら、治安維持関係の部署のようだ。それで、依頼の内容というのが、王都を追放になったエルフどもを、出身の浮島まで送り届けてほしい、というものだ。

「うちに頼むのはお門違いだが、わざわざ頼んでくるくらいだから、うちに利益があるという判断なのかねぇ・・・」

普通なら、王宮の中にある部署がやるべき話だ。

だが、所管する部署が敵対派閥に牛耳られているから、レッドグレイブ家と揉めた亜人を、素直に追放せずに、裏でこっそり釈放して、小さい嫌がらせをしてくる可能性もある。

それに、現場の下っ端役人達が対処に困っているから、わざわざ僕に頼みごとをしてきたということも想像がつく。

よくよく考えてみれば、ここで手を貸しておいて、部署内とのつながりを作っておくことも悪くはないかな。非主流派であっても、情報は入ってきやすくなるし。

ただ、それだけでは、向こうが公爵家に頼みごとをしてくる理由としては、少し弱い気もする。

「あれ?待てよ?エルフの浮島って、最近、どっかで話題に上がっていたような・・・」

「はい。お嬢様が今度、バルトファルト子爵の飛行船で冒険に出掛ける目的地です。そこには、あの忌まわしき黄色い汚物のみならず、お嬢様を人質にしようとした愚劣な公国の王女も同行するようです」

さすがアンジェガチ勢筆頭のコーデリアだ。他国の王族であっても、アンジェに害をなす相手に対しては一切の容赦がない。

なにせ、アンジェの元婚約者である馬鹿王子のことも、屋敷内では愚物と呼ぶくらいだからね。直接危害を加えようとした公国相手なら、もっと口汚くなっても不思議じゃない。

さて、なるほどなるほど。コーデリアが、今のタイミングで報告と、依頼の話を僕に上げてきた理由というか謎が解けた。

アンジェの安否にも絡みかねない話という形に整理して伝えれば、僕なら動くだろうということか。

コーデリアも、なかなかどうして、僕の行動原理をうまく把握している。

性格や忠誠の向いている方向はともかくとして、さすが上級メイド。能力は高い。

能力は高いのに、あんまり味方という感じがしない・・・まるで、家庭内のジルクのようなやつだな。

とはいえ、コーデリアの人となりは置いておくとしても、ここまで聞いて、何もしない僕ではない。内部的にも対外的にも、大義名分は既に揃ったと言っていいだろう。

「そうか・・・それは大変だね。なぁ、僕は思うんだ、この前の公国戦の時のようなことは、万が一にもあってはならないと。どうだろうコーデリア?」

「はい。おっしゃるとおりでございます」

「公国の王女の周辺には、息のかかった奴がいるかもしれない。あの五股聖女こと黄色い毛虫の周りには、名家出身なのに色恋に狂ったボンクラ男子どもが5人もいる。いずれも、うちのアンジェに良からぬことをしたりしないだろうか。ああ、心配だ!」

「私もお嬢様の安否が気がかりでなりません!」

「いつもリオン君に頼ってばかりいては、我が家の沽券にもかかわる。我が家の大切なお姫様は、我々の手で守るのが筋ではないだろうか」

「既に、王都内の騎士団幹部数名に、若様から声がかかる可能性を仄めかしておきました」

さすがコーデリアだ。アンジェが絡むと、とにかく仕事が早い。

「ならば、早速準備に取り掛からせろ。僕が焼いたエルフどもの身柄を受け取りしだい、アンジェを追いかけるぞ」

「かしこまりました。それと、現地ではこちらをお使いください」

そう言ってコーデリアが差し出してきたのは、導火線の付いた、人差し指サイズの小さい爆弾だった。

いや、表面のマークをよく見てみると、爆弾に使われるものとは別のマークが付いている。これは・・・催涙弾の一種か。メイドから催涙弾を渡されるって、なんだかすごく違和感があるな。

「なんで君がこんなものを持っているんだ?」

「私もあの学園を卒業していますので、ダンジョン実習やそれに必要な知識の習得も済ませております」

「いや、なんでわざわざこんなものを?」

「どうぜ若様のことですから、亜人と接触したら、トラブルの1つ、2つには見舞われるでしょう。殴り合いをする前に、それを使って相手を弱体化させてください」

「僕が奴らに後れを取ると?」

「いいですか?若様は次期公爵なのですよ!?毎回、毎回、殴り合いをされると、負けなかったとしても周囲は冷や冷やするのです」

「僕は謙虚だから、基本的に勝てる相手としかケンカしないよ」

「謙虚な人間は、殴られても滅多なことでは殴り返しません。それに、今回の目的地には、亜人、敵対する公国関係者、黄色い汚物と、若様を荒ぶらせる要素が勢ぞろいしております。何か起きないほうが不思議です」

言われてみると、厄災ネタというか、乱闘材料が雁首揃えて大集合していると思えてきて、笑えるね。

フラグが・・・フラグが乱立して、騒動の予感しかしない。

 

「笑いごとではありません!周りは何かあったらと心配してるのです!わかってますか!?」

近い、顔が近いよ!表情筋はいつものように職務放棄してるのに、鼻息の荒さと目つきの鋭さで、圧をかけてきやがる。これ以上、顔が近付くと、眼鏡のフレームが僕の顔面に刺さるから離れてくれ。

「皆に心配をかけたことについては・・・すまないと思っている」

・・・我ながら、某24の捜査官のようなセリフで、その場を濁すしかなかった僕の語彙力の乏しさが恨めしい。

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またまた変な電波を受信したので、執筆が進まない本編の穴埋めに、第二弾・・・「マリエのレッドグレイブ屋敷での日々~若様とメガネ先輩」

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私のクソみたいな日常は、どういう因果かはわからないが、この乙女ゲー世界での悪役令嬢の兄の手によって大きく変わることになった。

手によって、というのが比喩的な表現ではなく、手(物理)によって、というか、握られた拳によって、という意味なのが笑えるようで笑えない。

そして、あれよ、あれよという間に話が進んで、私は悪役令嬢の実家で、見習のメイドとして働くことになって、今に至っている。

あと、端的に言ってQOLは爆上がりした。

ご飯はちゃんと準備された美味しいものが出てくるし、仕事に必要な服も新品を支給してくれる。もう新品の古着を買わなくていいだけで、幸せだ。前世でいうところの福利厚生がしっかりしている、という感じだ。

見習いのメイドとなる私の教育係になったのは、屋敷の中で上級メイドをしている地味メガネ先輩ことコーデリアぱいせんだ。

本来は悪役令嬢のお付きをしているらしいのだが、聞くところによると、悪役令嬢は、王妃教育と行儀見習いをしなければならないことから、王宮に滞在しており、たまにしか屋敷に戻らないらしい。

そのため、手元の仕事に余裕があり、しばらくは私の教育係をすることになったようだ。

日中は仕事を教えてもらいながら、夜はたまに勉強を教えてもらっている。

ちなみに、屋敷の中でも、悪役令嬢アンジェリカ派の筆頭で、ことあるごとにアンジェリカの良さをプレゼンしてくる。

なんかこう・・・私の主はこんなに尊いんだから!と鼻息を荒くして語る様子は、前世の平安時代にいた作家を思い出させる。

そして、この地味メガネ先輩から、悪役令嬢アンジェリカの萌えポイント以外で、最初に教えてもらったのは、若様と呼ばれる、あの悪役令嬢の兄がやはり恐ろしい人だということだ。

実際に私の父や母、兄を血の海に沈めた苛烈な暴力を目の当たりにしたが、怒らせた相手をボコボコにすることは珍しくもないらしい。

前世でお水の仕事をしていた際に、反社と言われる属性の人を見たことだってあるが、あそこまで露骨におっかない人は見たことがない。

ここで私は、気付いた。この乙女ゲー世界の貴族と、マフィアとかマル暴みたいな反社との違いは、存在が合法か非合法化の違いがあるだけだということを。

領地運営や商売というシノギで金を稼ぎ、メンツを大事にして、時に敵対派閥や外国と武力でドンパチする。

ここは乙女ゲー世界なのに、どうして、妙に前世と似通った設定というか仕組みになっているのだろうか。

あの乙女ゲー世界を開発したのが男性向けシミュレーションゲームの製作を得意としていたメーカーだからだろうか。

さらに、地味メガネ先輩の話によると、あの若様は、監査という名目で、辺境の貴族の領地のガサ入れを行い、財政を食いつぶす領主の妻たちを”駆除”してきたらしい。

その結果、辺境の浮島の領主達が、若様に感謝するとともに、王国、ひいては若様の妹が治める将来の王家にも忠誠を誓うように促されているとのことだ。

(ただ、それって駆除される側からしたら、恐怖以外の何物でもないわ!?ある日、突然ガサ入れしにきて、駆除される・・・まるで通り魔ね・・・レッドグレイブだから赤い通り魔・・・あれ、前世で聞いたことがあるわね)

とにかく、乙女ゲーの中で高圧的な態度を取ってきたり、ユリウスに近付くな等と威嚇してくる悪役令嬢アンジェリカなんてかわいいものだと思えてくるくらいには、若様は恐ろしい。

悪役令嬢といっても、威嚇、恫喝してきたり、主人公を貶めようとすることはあったが、何というか、あんなに直接的なバイオレンスは無かったと思う。

(顔面偏差値が攻略対象級に高いからこそ、凶暴さが際立っているのかもしれないわね)

思い返してみれば、”2作目”にはヤンデレな攻略対象もいて、監禁バッドエンドなんてルートもあったが、暴力的な面はもっと隠されていた。

そういった意味では、あの若様のキャラが立っていると言えなくもない。もしかしたら、隠しキャラかDLC、リメイクされたときの攻略対象なのかもしれない、という考えも浮かんでくる。

(いや、あの凶暴さは、乙女ゲーというよりも、水曜日に発売する講〇社系ヤンキー漫画か、実話系の893漫画に近いわ・・・本当に、私は無事にあの学園に入学できるのかしら・・・)

そして、そんな暴力と恐怖の権化の庇護下に入ったからこそ、今世で最高の待遇になっているのは、皮肉なものだとも思う。

ちなみに、若様に対して、あの地味メガネ先輩は、けっこう頻繁に辛辣なことを言っていたりもする。

最初は、何て命知らずなことを、と震えながらその様を見ていたし、若様のことを嫌いなのかと思っていた。

ただ、しょっちゅう屋敷内で繰り広げられる光景というかレスバを見ていて、ある時、ふと既視感が蘇った。

(そうだ、地味メガネ先輩の行動・・・兄貴の激怒ラインギリギリを見極めて、兄妹喧嘩をしていた私みたいじゃないの)

もしかして、あの地味メガネ先輩は若様の愛人か何かなのかと思ったが、手を出している気配はない。

愛人ではないし、愛嬌のあるタイプでもない。実務的な能力のみをもって、あの暴力の化身みたいな若様と、激怒させないギリギリのラインを攻めながらレスバすることが許されているのは、正直に言ってすごいと思う。

そして、妙に距離感が近いように感じる。そうか、愛人にはなっていないだけなのかもしれない。

何と言っても、この世界は乙女ゲーの世界だ。女性向けの漫画のように、若き次期当主が、使用人に実はぞっこんだったりするんじゃないだろうか。

「本当に僕が愛しているのは君だけだ」

「い、いけません、若様・・・」

みたいな王道な展開がそのうち来るんじゃないだろうか。色恋に発展するかは、きっかけ次第なのかもしれない。

ふふ、私はそういうのに詳しいんだから!これからのラブロマンスが楽しみね!

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そう思ってた時期が、私にもありましたよ、と・・・

ある日、メガネ先輩から聞かされたのは、若様は屋敷内の使用人を含め、貴族の家の出身者には一切手を出さず、騎士家や平民出身のメイドを口説いたり、イチャイチャしているらしい、ということだ。

まず、どうやら、この国の貴族どうしの場合、寝たら婚約しなければならないという風習というか暗黙の掟があるらしい。

「マリエ、貴女も子爵家出身なのですから、先々、手を出される心配はないと思いますが、もし実家が取り潰されでもしたら、気を付けるのですよ?」

「は、はぁ・・・」

あれ?もしかして私の貞操の心配してくれてるの?

メガネ先輩って、表情のバリエーションは少ないけど、割といい人なのかもしれない。

ただ、女性側からしたら、なんて都合がいい掟だろうか。前世の元カレ達の無責任さに苦しめられた私にとっては、素晴らしいものに思える。

一方、男性の側からすると、受け止め方はそれぞれのようだが、レッドグレイブ家の場合は、さらに特殊らしい。

屋敷内の使用人の中でも貴族出身の女子は、ワンチャンの玉の輿を狙って、媚び媚びなアプローチを若様に向ける者が絶えなかったそうだ。

うん、ここまでは少女漫画の世界よね!そこで、イケメンの心を射止めるのがマンガの主人公、というのは王道っていうやつよ!

ただ、そうは問屋が卸さなかった。媚び媚な貴族女子のアプローチを嫌った若様は、逆に、実家の身分が高くない女子と・・・という悪循環。

ちなみに、若様と仲のいい、低い身分のメイドに対して、貴族出身のメイドは、当然のことながら、嫉妬し、陰に陽に嫌がらせをしたらしい。

女性が多い職場、歴然と存在する身分制度の中ではおかしいことではないだろう。

だが、嫌がらせを受けたメイド達の様子がおかしいと、不思議に思った若様が、大好きな下っ端メイド達のために、おとなしくしているわけがなかった。

監査の仕事で鍛えた調査能力を遺憾なく発揮し、原因を突き止めると、当然のことながら激怒し、証拠を突き付けて徹底的に糾弾。

・・・それって、家庭内の断罪劇じゃない。この辺はしっかり乙女ゲーの世界ね。

ただ、その後は、嫌がらせをしたメイド達の実家を巻き込んで、小さからぬ騒動になったこともあったそうだ。

その結果、表面上は公爵派閥内にはとどまったものの、実態としては、距離が開いている家もあるらしい。

なるほど、あの乙女ゲーで、アンジェリカが断罪されてから、あれよ、あれよと、瞬く間に公爵家が落ちぶれていくという流れがあったけど、背景にはこういうことがあったのか。

・・・あれ?それってこのままだと私の安定した生活も危ないんじゃないだろうか。

もしかしたら、世界の真実の一端に触れようとしたのかも、と思考をトリップさせていたのだが、メガネ先輩の注意が、さらに続いたため、意識が現実に戻る。

「それと、若様の部屋に入る時は、慎重に。部屋の中から怪しげな音とかが聞こえたら、すぐに私か、公爵様に言うように」

「・・・私、子供だから怪しい音って言われてもわかりません」

つい、前世の探偵推理マンガに出てくる、見た目は子供、頭脳は大人な死神小僧のようなことを言ってしまったわ!

だって、私って前世の基準で言えば、まだ中学生になるかならないかくらいだもん!

まさに、見た目は子供、中身は大人・・・

ちくしょう、年齢的には中学生になるかくらいなのに、発育が子供レベルってあんまりよ・・・!

「怪しい音ってどんな音ですか?」

ちょっと腹いせにかまととぶって聞いてみる。

「・・・そ、その・・・とにかく、おかしいと思ったら、すぐに言うんですよ!?後は大人が対応しますから!」

メガネ先輩は顔を真っ赤にして去って行ってしまった。あの先輩、たぶんいいとこの出身で、恋愛経験とかもなく、あの学園を卒業したんだろうな・・・

アンジェリカという推しに青春を捧げて、学園生活の中でも恋愛もせずに、就職した公爵家で真面目に仕事に取り組んで、婚期を逃しつつあるのかもしれないメガネ先輩。

冷たい感じがするけど、私に対しては、時に厳しく、時に思いやりのあることを言ってくれる。

いいとこ出身のお嬢様なのに、感情表現が不器用で無愛想なだけで、根はいい人なのであろう先輩の将来に対して、私は、幸あれとささやかに願うのだった。

でも、この人、アンジェリカという推しのためなら、一生結婚しなくても後悔しなそうね・・・

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仕事にも慣れてきたある日、私はメガネ先輩の注意をすっかり忘れてしまっており、とんでもないやらかしをしてしまった。

恵まれた職場環境すぎて油断していた、というのもあるかもしれない。

若様に渡すように、屋敷内の事務方の同僚から頼まれた書類を持って、私は、若様の執務室の扉をノックして、ほぼノータイムでドアを開いてしまった。

開いた扉の中から、私の視界に飛び込んできたのは、屋敷内の使用人の中でも、若様と仲が良く、たしか没落した外国の貴族に使えていた家の出身の先輩メイドと若様の2人の姿だ。

ただ、間の悪いことに、先輩メイドは真っ裸、若様は上半身裸で、パンツ一丁・・・

いや、パンツと片方だけ靴下を履いているものの、若様は、先輩メイドを執務室の机の上に押し倒して、片方の腕で先輩メイドの乳を鷲掴みにしながら、濃厚な口づけをしている最中だった。

「ま、マリエ!?」

「ま、ま、ま、マリエちゃん!?」

若様と先輩メイドが、とてもあたふたしておられる。

・・・アンタら、執務室で一体何してんのよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!いや、してることといえば、ナニなわけなんでしょうけど!

というか、先輩メイドの乳、でっけえな、おい!!

とっさに手と腕で隠そうとしてるけど、ほとんどこぼれ落ちてるじゃないの!これが、世に言う、きょういの格差社会というやつなの!?

一方の若様は、何かを思い立ったようで、机の引き出しから何かを取り出して掴むと、まっすぐ私のほうに向かってきた。

もう一度言おう。

若様はパンツと靴下片っぽだけしか身に付けていない。ほぼパンイチだ。

そして、とんでもない顔面偏差値の金髪のイケメンが、顔をほんのりと紅潮させながら、真剣な表情で、ほぼパンイチの状態で私の方にまっすぐに迫ってくる。

あまりの情報の多さと絵面のギャップに、私の頭はフリーズ状態だ。

一方でフリーズ状態の頭と対照的に、私の視覚は、しっかりと筋肉の付いた腕や腹部、そして、しっかり立体的になっている黒いトランクスに釘付けとなってしまっている。

なおも若様はこちらに近付いてくる中で、一つの可能性が浮かぶ。

え、まさか若様、私を交えて3人・・・いや、私は形の上ではまだラーファン家に籍が残ってるらしいから、メガネ先輩の話が確かなら、性的に襲われることはないはずだ。

いや、待てよ!?性的じゃない意味で襲われるかもしれないじゃないか!

今の私は、可愛い下っ端メイドとのイチャイチャタイムを邪魔した、貴族の女だ。形の上では、若様を激怒させた、貴族出身の女と同じだということも不可能ではない。

せっかく、まともな人間らしい生活が手に入ったと思ったのに、しっかりと許可を得てから部屋に入らなかっただけで、若様の怒りに触れるなんて!やばい、消される!

恐怖のあまり、若様と初めて会ったときのように目をつぶると、握った手に、人肌のぬくもりを感じた。

・・・あれ?殴られてない?でも、人肌ってことは、まさか若様の股間の若様?

この人、一体どんな趣味してんのよ!

不穏な思考が、一瞬だけ頭をよぎるが、私の握った手を、若様は、ゆっくりと開かせる。

そして、手に、何やら紙と金属らしきものを握らされた。目を開くと、数枚の紙幣と金貨がある。

え?どういうこと?やっぱり何かプレイをさせられるの?

目を何回も高速でまばたきさせていると、若様は私の頭をなでながら、満面の笑みを浮かべ、ウインクしながら口を開いた。

「マリエ、君にしかできない重大なミッションだ。僕らはたまに、部屋の中で誰にも聞かせられない大事な話をしてるんだが、今度から、部屋の近くで待機していてほしい。そして、コーデリアとか父上が近付いてきたら、そっと知らせてほしい。マリエはいい子だからできるよね?」

セエェェェェェェフ!

助かった・・・命と貞操は助かった・・・

前提というか、そもそもの話として突っ込みどころはたくさんあるのだが、私の身の安全だけは脅かされずにすみそうだ。

どうやら、若様にとっては、私が状況を理解できていない子供だという認識らしい。

大まかな年齢は知ってるのかもしれないが、容姿が幼い・・・否。平均よりも、ほんのちょびっと、わずかだけ幼いせいで、何もわからない子供だと錯覚したのだろう。

小さい子供に、男女でイチャイチャするのを邪魔されないように、金で買収して見張らせたり、婚約者も作らずに愛人と恋愛を楽しんで、責任を取ろうとしない・・・

いわゆる前世というものの記憶が残る私からしたら、いかがなものかと思うが、私が今、この場で取るべき選択肢は・・・

「はぁい!よくわからないけど、私、頑張りま~す!」

「偉いぞ~マリエ。また今度お小遣いあげるからな~」

仕方ないじゃないの!今の私は悪役令嬢の兄に飼われてる小娘なわけじゃない!?

決して、私はお金がだぁい好きだから、この暴力の権化の提案に乗った、というわけではないのよ!

ほら、私って、若様に助けられたんだから、その恩返しはしないといけないわよね、うん。

そうよ、今の私は暴力の権化の眷属の女なんだから・・・だから、許してね、地味メガネぱいせん(はぁと)

なお、とんでもなく高い顔面偏差値から繰り出される満面の笑みを、私に浴びせる若様だが、一方の私は、ちっとも心がときめかない。

その事実が悔しい・・・こんなにイケメンなのに、スーパーバイオレントだったり、今の姿が残念でしかたない。

だって・・・やっぱり下半身が、パンイチと靴下片方なんだもの!上半身と下半身のギャップがありすぎて風邪ひくわ!

「わ~い、ありがとうございます、若様~」

飴玉とかお菓子をもらって、ていよく事件現場から追い出されるときの、見た目は子供、中身は高校生な死神小僧のようなセリフを口にしながら、私は、若様の部屋の扉を閉めた。

 

・・・しばらくは、葛飾?練馬?荒川?あたりの死神小僧のようなムーブでお小遣い稼ぎができそうだ。

あ、でも、ちゃんと避妊はすんのよ!できちゃったら困るのは女のほうだから!

 

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たぶん、続きの電波を受信したときは、アンジェとの遭遇の話になる。




というわけでレッドグレイブ家に拾われると、小遣い稼ぎをするようになるマリエタソでした
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