乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です 作:りーおー参式
遠方で起こった大きな爆発音がした場所にやってきた僕達だったが、そこにいたのは、エルフの男数名を縛り上げたリオン君とマリエだった。
他のみんなの話によると、どうやらここにあった遺跡を含む集落を統括していた村長とその部下らしい。
顔面その他体の各所に痣だったり、内出血している様子があるので、何発かはぶん殴った末に捕縛となったようだ。なんてスマートなんだろう、リオン君。僕だったら邪魔が入らなかったら一人か二人は確実に焼いてるZO☆
感心している間に、リオン君のところにはアンジェとオリヴィアさんが、マリエのところにはグレッグとジルクが駆け寄っていく。
遺跡の地下に落下したというのに、ピンピンしている様子なリオン君のところに僕も挨拶がてら向かっていくと、僕に気付いたリオン君は、驚いた様子もなく会釈してくる。
僕がこのエルフの浮島に来ることは知らなかったはずなら、驚いてくれてもおかしくないだろうに、全くサプライズにはならなかったのだろうか。
「やあ、地下に落下したと聞いたときは驚いたけど、なかなかの大捕り物になったようだね」
「ははは、地下にあった施設で変な化け物に襲撃されまして、その黒幕がこいつらだったようで」
リオン君の話を要約すると、この村長らは地下にあった生物の培養施設のような設備を使って、僕らが交戦した化け物を生産しており、
エルフから人間に対する反乱を起こすときに使う計画だったらしい。
だが、タイミング悪くリオン君やマリエ、聖女親衛隊が浮島にやってきただけでなく、僕らがボコボコにしたエルフを連行して浮島の中を歩いていたものだから、
その連行中のエルフ経由で僕らに地下の施設の存在を知られてしまったものと勘違いして、地下施設に落下したリオン君もろとも消してしまおうと考えたそうだ。
ってことは、地下施設の道中ではマリエと二人っきりだったということか!?
「リオン君、そこの五股婚約破棄聖女にいやらしいことをされたりしなかったかい?」
僕のセリフを聞いて、アンジェとオリヴィアさん、ジルクにグレッグの4人がリオン君に鋭い視線を向ける。
特にアンジェとオリヴィアさんは刺し殺さんばかりの視線をリオン君に付きつけている。
それに気付いたリオン君は、必死に首を左右に振って、首がもげそうな勢いで否定しているが、逆にここまで必死だと疑わしく思えてしまうんじゃなかろうか。
「ふざけんじゃないわよ!私はこんなモブ面に興味ないわ!」
そこに、自分の怪我した足に治癒魔法をかけていたマリエが反論をしてくる。
「いやあ、傾国の聖女様はその体つきからは想像できないほどの輝かしい実績があるものだからね」
もはや聖女と言いう肩書の「聖」の文字は別のもの、「性」とかでもいいんじゃないかと思っている。前世の日本語というか漢字って奥が深いね。
「あ゙!?女の魅力は胸だけだって思ってんの?」
「そんなことは一言も言ってないだろう?ただ、奇しくも君には、邪を引き付ける、僕には理解が及ばない魔性の魅力があるのかもしれないとは思っているよ。そこの二人を始めとして、身に覚えがないとは言わせないよ?」
僕は目を大きく開いてニヤリとした顔を浮かべながらジルクとグレッグを指さした。
「ふぅん、アンタはどてっ腹にくらったボディブローの味を忘れたみたいね。もう2、3発喰らってみる?」
「そっちこそ、この前は邪魔がはいったが、今度こそゴミまみれにした上で、じっくり焼いてあげようか」
睨み合いが始まり、僕とマリエの双方が拳に魔力を込め始めた。それぞれの拳から光が迸り、互いに一歩ずつ近付いていく。
まさに戦闘開始直前と言わんばかりの空気になったところで、そんな剣吞とした状況に危機感を覚えたジルクが割り込んできた。
「ちょ、ちょっと待ってください、ギルバートさん!」
「出たな、邪の者」
「誰が邪ですか」
「お前は邪の者の筆頭みたいなものだろうが。それよりも、やっぱりお前らは僕の邪魔をするつもりかい?」
「・・・マリエさんは足の治療が終わったばかりで十分に回復していません」
「お前らしくないセリフだな。相手の弱り目に付け込むのは貴族にとって基本のキだろう」
「貴族に限らず、戦術全般がそうだと思いますが、少なくとも今は公国の前で私達が争っているのを見せるのはいかがなものかと」
そう言いながら、ジルクはリオン君のもとに近付いてくるヘルトルーデ王女のほうを指さした。
護衛の騎士が、歩いているヘルトルーデ王女に何やらこそこそと吹き込んでおり、大方、僕とマリエたちの衝突に関連する情報、具体的に言えば、マリエがアンジェの婚約解消騒動の発端になったことや、
学園の中でも盛大に殴り合ったりしたことなどを伝えているのだろう。
今や、国内最大派閥のフランプトン派からしたら、僕とマリエ、公爵家と神殿の衝突なんて楽しみで仕方ないだろう。
自分達を脅かしかねない勢力それぞれが潰し合ってくれれば、相対的に自分達がさらに有利になるだけという寸法だ。しかも衝突の原因が原因だけに、手を組んでフランプトン派に向かってくるとは考え難い。
コソコソ話を終えたヘルトルーデ王女はリオン君のところまでやってくると、なかなかトンデモないことを言い始めた。
「貴方、私にこのロストアイテムを譲らない?何なら相応しい地位を用意すると約束するから公国に亡命してもいいわよ、王国にこだわる理由もないでしょう?」
おいぃぃぃぃぃ!この絶壁女、トンでもないこと言い出しやがったな!?
どこまで本気なのかはわからないが、黒騎士が負かされて、突出した戦力がなくなった公国が、今の王国の戦力の中でもジョーカーと言ってもいいリオン君を手中に収めようなんて話は、笑い話にもならないじゃあないか。
アンジェの婚約が解消となった次善の策として、この世界の主人公であるオリヴィアさんと、DLCの攻略対象であると思われるリオン君をくっつけて、
彼の持つロストアイテムの物理的な力と公爵家の政治的な力を背景とした盤石な権力を確保するために、僕がどれだけの苦労をしてきたと思っていやがる。
人の妹を誘拐しようとしやがったこの絶望的絶壁女の好きにさせてたまるか。
「おやおや、うちの若いのに変な粉をかけるの、やめてもらっていいですか」
「あら。貴方って、王国の領主貴族達に対する扱いがマズいと思ったから色々と動いてたのでしょう?被害者がそこから救済されるのを邪魔するって矛盾してるんじゃない?」
「どこぞの色恋に狂った馬鹿どもや、国境を侵犯してきた馬鹿どものせいで迷惑を被った妹を助けてくれたリオン君は、うちの恩人なのでね」
わかりやすいように、ジルク、グレッグ、マリエに視線を送った後に、ヘルトルーデ王女を指さす。
「彼の待遇は、うちがしっかりと面倒を見ますから、まずは自分の国を心配することをお勧めしますよ」
「別にレッドグレイブ家の寄子ってわけじゃないでしょ」
「遅くとも僕が公爵家を継ぐまでには組み込みますよ」
「古参の寄子に嫉妬されて嫌がらせされるのが目に浮かぶようだわ。それで、貴方が気付いたときには時すでに遅しで排除されてるって結末ね」
「自分達をボコボコにして、黒騎士もろともプライドをへし折ったリオン君を、亡命先の公国の貴族連中が受け入れるとは到底思えませんがねぇ。あ!後々に罠に嵌めて陥れるまでがセットという腹積もりですかぁぁぁ?」
「私達をアンタのところの陰湿な連中と同列にしないでほしいわね!」
僕とヘルトルーデ王女の口論が続く。なんだか脇にいるリオン君が若干引いているように見えるのは気のせいだろうか。
「と、とりあえずギルバートさんも、ヘルトルーデさんも、いつまでもこんなところにいるのもなんですし、一度、村に戻りません?」
ちっ、今回の口論はここまでか。マリエと殴り合いになるかと思ったら、それ以上に優先しなきゃならない話が出てきてしまった。
「・・・ジルク。あんた、あの顔だけボンボンの矛先を上手く逸らしたわね」
「フッ、ギルバートさんは、あれでも大局的な目線を持ってケンカ相手を選んでくれる人ですから」
------------------------------------
僕らがエルフの集落に戻ると、村にいるエルフ連中は大騒ぎ、というか半ばパニック状態であった。
「魔王様、どうかお許しください」
「もうこれ以上、大切な森を焼き払わないでください」
「我々の島を見逃してください」
「村長たちが遺跡を荒らしたりしたからこんなことになったんだ」
多くのエルフ達が家の外に出て、地面に膝をついて大空に向かい許しを請う、という異様な光景が広がっている。
リオン君の話によると、遺跡で起きた大きな爆発は、エルフの村長どもが、地下の施設を証拠隠滅のために自爆させたものらしい。
そうなると、知らぬこととはいえ、自分達でやらかしたことを魔王の仕業だと思い込んでいるということか。
しかも、森を焼き払ったのも、いつのまにか魔王のやったことになっている。
一応、正当化する理由はあるのだが、僕のせいにされていないにこしたことはない。
ちょっとラッキーだと僕が内心で思っていると、背中が大きく丸まった老婆のエルフとお付きの者だと思われる若い女のエルフが近付いてくると、その若い方のエルフがリオン君や僕に話しかけてきた。
「その者達の扱いについて、里長が話をしたいそうです。代表者である貴方がたには、里長の屋敷に来ていただきたいのですが・・・」
捕縛して簀巻きにされているエルフの村長らを指さして、若いエルフは僕らを集落の奥にある質素な屋敷に視線を向けた。
「それなら、僕とバルトファルト子爵でうかがえばよろしいかな、お嬢さん?」
「あちらの聖女様、それから黒髪の女性、そちらのお二人もご一緒におこしください」
エルフの女が指名したのは、マリエ、ヘルトルーデ王女、そして、アンジェとオリヴィアさんの4人だ。
仮にも聖女親衛隊だなんていう部隊であるからマリエを呼ぶのはそこまで不思議じゃない。
ヘルトルーデ王女だって、仮にも一国の王女、しかも公国の王の座が空いている今、彼女は事実上の公国のトップである。
だが、かつては王太子の婚約者だったアンジェはともかく、平民出身のオリヴィアさんまでご指名となった理由は、外形的には浮かんでこない。
「ずいぶんと手広くご指名のようですが、どういった趣旨なのかお聞かせいただけるかな?」
「里長には、未来を占う不思議な力があります。近頃はずいぶんと衰えてしまいましたが、皆さんのことを占っていたそうです。私達からのお礼とお詫びのようなものだとお考えください」
占いか。
個人的には、そういった類のものは信じたい人間だけが信じればいいと思っている。
しかし、この世界が乙女ゲーの世界であることを踏まえて考えるのであれば、何かしらの重要なイベントに関連するものである可能性が高まる。
別に客観的なデータに基づくものではないのだが、占いというものについて、好意的に思っている割合は男性よりも女性のほうが高いだろう。
この世界は、そんな女性をターゲットに作られたゲームであり、アンジェとオリヴィアさんを呼ぼうとしたのも納得だ。
何と言っても、オリヴィアさんはこの世界の主人公様だし、アンジェはそのライバルである悪役令嬢だ。この世界を巡る運命のようなものがあるとすれば、この2人はこの世界における重要人物というほかない。
マリエのせいで、この世界の運命というものは、大きく歪んでしまったので、占いにどこまでの信憑性があるかは未知数だ。
とはいえ、わざわざイベントの発生を潰すこともないか。
「わかった。せっかくのご招待だ。お邪魔するとしよう」
------------------------------------
里長の屋敷・・・と言っても、内部がいくらか装飾された大型のテントと言ったほうが近いのかもしれないが、里長である老婆のすまいに案内されると、
まずは改めて里長のお付きの女性からお礼と迷惑をかけたお詫びが伝えられた。
「化け物ごと焼き払った森を弁償しろと言われるかと思いましたよ」
「森は大切ですが・・・業火の金鬼様の怒りに触れてあの程度で済んだのは幸運だと思うようにいたします」
なにそのくっそダサい異名!?まさか僕のことじゃないよね?赤い通り魔を筆頭に色々な異名が付いていることは知っているが、微妙に振り切ってない中二病感のある二つ名ってマジな恥かしさがあるんですけど!?
「家族の勘というものなのでしょうが、焼き払うという占いのフレーズが出たときに私は兄上が浮かびましたよ」
後ろにいたアンジェを見てみると、わずかに引き攣り笑いを浮かべている。妹がそんな物騒な単語から兄を連想するって軽くショックなんだが!?
「僕はケンカを売ってきた亜人や神殿や敵対派閥しか焼いてないんだけどなぁ」
「私を助けてくれようとしてくださったとはわかっていますが、兄上の行動は目立つのだということをいい加減自覚してください」
「ほぼ単機で黒騎士付きの公国の艦隊を制圧したリオン君を前にしたら、僕なんて霞んでしまうよ」
「俺の場合は明確な敵勢力でしたけど、微妙な関係にある神殿の部隊と躊躇なく殴り合った上にカチコミかけたギルバートさんも相当だと思うんですけど」
「どうせ大義名分があったから、後は実家の権力をチラつかせて落としどころを見つけられると思ってた、というところだろう。真似するなよ、リオン」
「子爵の俺にそんなことできないよ!?」
「お前にはアロガンツやパルトナーがあるからな。その気になれば・・・」
「いや、だからしないって!?」
妹がねっとりとした視線をリオン君に向けている。
ボケとツッコミというわけではないのだが、暴走役とストッパー役のような分担ができあがりつつあるようにも見える。これは良くないな。
リオン君の脇にはオリヴィアさんが納まってくれないと、主人公様がハッピーエンドを迎えられないし、オリヴィアさんを経由してリオン君を将来的に僕の勢力下に加えるというのも難しくなる。
「それではお待たせいたしました。里長の占いの結果をお伝えいたします」
せっかくあの馬鹿王子を巡って主人公様と争わずに済んだ妹を案じる僕の心の逡巡をよそに、里長の付き人が話を始める。付き人さんがまず目を向けたのは、僕の宿敵であるマリエだ。
「まずは聖女様です」
「ふふん、聞いてあげるわ!良い結果でしょうね?」
おいおい、良い結果ありきで聞くってずいぶんとデカい態度を取っていやがるな。
ここまで好き勝手やってきたんだから、どうせならトンデモなく不吉な大凶クラスの結果が出ればいいのに。
「不思議な運命の下にいるそうです。そして、運命の相手とは巡り合うもすれ違っています」
「運命の相手って誰よ!」
「それはわかりませんが、既に出会っているそうです。その方とは袂を分かたれ。もう一緒にはなれないとのことでした。それから・・・」
「何よ?」
「背負ったものからは逃げられません。貴女に待つのは過酷な人生だそうです。全てを手に入れるか、全てを失うか、その2つの道しか貴女にはないそうです」
マリエは占いの結果がたいそう気に喰わないようで、口をパクパクさせて言葉を失っていたが、やがて顔を真っ赤にして怒り始めた。
「やり直し!やり直しを要求するわ!」
「占いが当たるなら、もう一回やったって同じ結果が出るだけだろう。そんなことも分からないなんて、お馬鹿さんにも困ったものだ」
「ぬわんですってぇぇぇ!」
「なんだい?本当のことを言っただけだろう?」
「さて次は黒髪の貴女です」
僕とマリエが睨み合っている緊迫した空気を全く読まずに、村長の付き添いさんは淡々と占いの続きを話すらしい。この人もけっこう腹が据わっているね。
話を振られたヘルトルーデ王女は、興味なさそうな顔をしつつも、目はしっかりと付き添いさんに向いている。
「いずれ貴女には、人生の転機が大きな困難とともに訪れるそうです。そして、困難と同時に貴女は運命の相手と出会います。その方と歩むことができれば、貴女の困難な道は光に照らされ、頼もしい支えになってくれるそうです」
「そ、そう。まぁ少しは気にかけておくわ」
口元に笑みが生まれ、少し嬉しそうにしている。運命の相手とくっつける可能性があると聞いたからなのか。
「公国の親玉が、運命の相手と巡り合えるってだけで乙女ヅラ浮かべるとは思わなかったね」
「悪い!?別にいいじゃないの!」
運命の相手とくっつくために、他人に迷惑をかけるならいっそ邪魔してやろうかと思ってしまうね。うちの実家としては既に迷惑をかけられてるから、邪魔したってバチは当たるまい。
「次は貴女と・・・そちらの方なのですが・・・」
里長の付き人さんが戸惑いながら、アンジェとオリヴィアさんの二人を交互に見る。
「な、なんだ?早く言ってくれ。気になるじゃないか」
占いの内容を気にして乙女モードに入ってしまった妹が可愛い・・・いや、今はそうじゃない。もったいぶった言い方をされたせいか、妹が付き人さんを急かすように言う。
「里長によると、貴女方2人には、古の魔王すら従える勇者が守っているように見えるそうです。既に現れているのか、これから出会うのかは分からないようですが・・・」
「「勇者?」」
アンジェもオリヴィアさんも、首をかしげている。二人で相談しているが、当然ながら勇者らしき知り合いはいないらしい。
それにしても意味深だな。勇者ってだけでも、重要なイベントの匂わせ感がハンパないのに、魔王を従わせるってどういうことだよ。
勇者と魔王って敵対するものじゃないのかい?ってか、勇者が魔王を従わせたら、もうその時点で世界征服達成寸前じゃないか。
そんな勇者がいるなら、うちの傘下に入ってほしいもんだ。お金ならたくさんあるし、可愛い女の子だっていっぱい紹介するよ。
「勇者が誰かは占っていないのかい?」
「はい、あくまで私は、里長が占った結果を代弁しているだけですので・・・そして、この続きはお二人一緒になります」
え?主人公様と悪役令嬢が一緒ってどういうことだよ。正反対になるとかじゃなく一緒なの?
「貴女たち2人の運命は複雑に絡み合い、本来あるべき道から大きく外れているようです。そして、貴女たちは本来背負うべき重荷を他者が代わりに背負ってくれています」
「え、えっと助けてもらったんですかね?」
「はい。二人とも既に助けられています」
オリヴィアさんの質問に付き人さんが即答すると、アンジェとオリヴィアさんが2人そろってリオン君に目線を向けている。
学園に入学してしばらくは、上級クラスに平民でありながら1人放り込まれたせいで、オリヴィアさんは完全にぼっち状態だったらしいし、それからも何度も彼女を助けたのがリオン君だ。
そして、アンジェにいたっては言うまでもなく、婚約解消騒動と公国の艦隊との戦闘という非常に目立つ場面で立て続けにリオン君に助けられている。
いずれも僕が手を回してどうこうすることはできなかった問題だ。兄としても、公爵家としては感謝してもしきれない。
「里長も複雑すぎてよく見えないそうですが、お二人の近くには勇者の加護が見えるそうです」
再びアンジェとオリヴィアさんがリオン君に視線を向けるが、リオン君は少し恥ずかしそうにしながらも首を横に振って否定する。
「いや、俺じゃないよ。絶対違うって!」
「当たり前じゃない。自信過剰ね」
「モブが調子乗ってんじゃないわよ」
リオン君が否定したそばからヘルトルーデ王女とマリエが間髪置かずに否定にかかっていた。リオン君に煮え湯を飲まされたこいつらにとっては、彼が勇者だなんてことは認められないのだろう。
だが、言いっぱなしにさせとくのも面白くないよね。
「君達、自分達がいいこと言われなかったからって、妬むのはお門違いだろう。自分の行動を省みるんだね」
「さんざん公爵家で好き勝手やってきた貴男がそれを言う!?」
「金持ちで顔が良くても、性格ドブ男だから勇者になれなかった負け惜しみかしら?」
「君達みたいな性格ドブスが吠えたところで響かないなぁ」
何度目かの睨み合いが始まり、お互いの視線がぶつかる。きっとマンガで表現されたら火花がバチバチと散っているだろう。
そんな中で、エルフの里長が先程からしゃべることもせず、うつむいていることに気付いたリオン君が問いかけた。
「里長、疲れているのなら休んだほうがいいんじゃないですか。あとは俺とギルバートさんですけど、ギルバートさんは占いって信じるほうですか?」
「いや、運命なんてものがあるなら実家のコネと権力と金で何とかするさ」
「ちょっと、暴力を加え忘れてんじゃないの?」
「あ”!?」
僕とマリエが、お互いに嫌悪感を剥き出しにした表情を浮かべていると、そんなことはスルーするかのように、エルフの里長がリオン君の前で姿勢を正すと、声をしわがらせながら口を開いた。
「この”ファンの里”を救っていただきありがとうございます。貴方様はとても優しい方のようですね。ですが・・・私の占いでも貴方様の未来は見通せません。ただ、貴方様はいずれ・・・大事なものを失い・・・過酷な・・・せん・・・」
いきなりしゃべり出したと思ったら、マリエ以上に最悪な部類の占いが出てきやがった!?
「さ、里長?あの・・・もう少しちゃんと占って欲しいんですけど・・・」
「その・・・お疲れのようで、眠ってしまわれました」
「待って!お願いだからちゃんと教えてよ!不穏なことを言ったまま眠らないで!」
軽く半泣きになったリオン君が里長の両肩を掴んで揺らすが、アンジェとオリビアさんによってリオン君は里長から引き離されてしまう。
「リオン、いい加減にしないか!」
「お年寄りは大事にしないと『めっ!』ですよ!」
何だろう、妹とオリヴィアさんからだんだんと”ママみ”が出てきたような気がする。
「こんなの嫌だぁぁぁぁ!やり直しを要求する!!」
リオン君が絶叫を上げて猛抗議しているが、脇で聞いていた僕としては、変な占い結果が出てこなかっただけで少しホッとしたというのが正直な心境だ。
結局のところ、アンジェとオリヴィアさん以外は、幸せにならないルートの存在が明確に示されていたし、特にリオン君のように、聞かないほうがマシだったとすら思えることを聞かずに済んだとも言える。
「そういえば、そこのボンボンの占い結果はないの?」
「そうね。今日はさんざんな嫌なことを言われたから、今以上に酷い占い結果を聞きたいわ」
マリエとヘルトルーデ王女が最低なことを言い始めた。
「内容はともかく、たしかに兄上だけ呼ばれたのに、何も聞かないというのは少し気の毒だな」
「ギルバートさんの占いは本当にないんですか?」
「出てますよ。流れで読みませんでしたが、里長から聞き取ったものをメモしてます」
え、あるの?
まぁ、確かにマリエから始まり、ヘルトルーデ王女、アンジェとオリヴィアさんと続いてリオン君という流れの中で、やや部外者な僕に言及するのは会話の流れとして良くはなかっただろう。
「それではお伝えします。長きに渡って血を流し、策を弄して相手を騙し、戦い抜いた貴方は、本当に欲したものを手に入れるそうです。しかし、そこまでに紡いだ因果と縁に縛られた貴方は、ついにその翼をもがれ、自身の生を奪われることでしょう」
「ちょっと待って!リオン君よりもはっきり死亡フラグを立てられてるんだけど、どういうこと!?本当にそんな風に書いてるの!?」
なんてこった!欲しかったものを手に入れてぬか喜びしてたら生を奪われるって、これでは道化だよ!
「いい気味ね。心が洗われるようだわ」
「本当ね。そんなに哀れな末路を辿るなんて、可哀そうすぎて同情しちゃう♪」
息をぴったり合わせて、心から嬉しそうな顔をしながら、僕をあざ笑っていやがる。この性悪女どもめえぇぇ!
クソっ!やっぱり占いなんて聞くんじゃなかったあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
俺・・・胸派だけど、嘆きの亡霊のアニメで尻と太ももの良さがわかったんだ!